1/Round ZERO〜BLADE BRAVE


 冬……この場所は突き刺すような寒さが有名な冬木市…
橋を挟んで対照的な町並みが見えるこの街に、ある姉弟が乗った長距離バスが向かっていた。
 姉弟共々サングラスを付け、弟は窓の外を眺め、姉は足を組んでジッとしていた。
 橋を越え、新都の駅前に長距離バスが到着すると中に乗っていた人は降り、姉弟もそれにあわせてバスを降りる。

「帰ってきたな姉さん……」

「ああ、懐かしいか優希?」

「少し……見慣れない建物ばかりで…」

「私もだ……さっきも言ったがこれからは一般の暮らしをしながらお前の訓練をする」

「心得ている…。家はあの時の?」

「ああ、昔住んでいた家だ。そのほうが馴染みやすいだろ?」

 少年の名は如月・優希(キサラギ・ユキ)、ある事情によりこの地を離れ、姉とともに行動をしていた高校生。
 姉の如月・遥(キサラギ・ハルカ)は魔力を持っている魔術使い…。
イギリスの魔術協会に属さず、フリーを気取っている彼女はピシッとスーツを着こなし、何事にも優雅さを醸し出すどこか不思議な感じのする女性である。
彼女の魔術は攻撃属性が主で、魔術によって隠してある愛銃ワルサーP5を忍ばせている。
 ワルサーP5、9mmパラベラム弾使用の8+1発、ワルサー社で有名なワルサーP38の発展改良型の拳銃で、バレルの短縮やスライドの安全装置等を排除する等の細かい修正が加えられている。
しかし射撃時の安定性が今一つな為、一般には人気が無くなった銃である。
 しかし彼女はワルサー製の拳銃、自動小銃などが気に入っており、ある特注のワルサー製拳銃もこの町へ持って来ている。
 二人は荷物を持つと、近くにいたタクシーを捕まえ家へと向かった……。




「早くしろよ姉ちゃん、遅れるぞ!」

 どこにでもある日常の風景…。
 ここ水沢家でもそれはあった。

「待って〜今行く!」

 少し急いで階段を降り、靴を履くと彼女の両親に言ってきますと聞こえるように言う。
 水沢実理、穂群原学園に通う二年生。
 弟の実流と常に一緒にいる彼女はどこにでもいる普通の生活を送っていた。
 しかし彼女には一つだけ特別なことがあった。
 それは………

「あっ……」

「またなんか見えたのか?」

「うん、あの電柱のところに小さな女の子がこっちを見ていた……」

 そう、彼女には普通の人には見えない「モノ」が見えるのだ。
 これは実理にはあって実流には無い能力である。
 逆に実流はいたって普通であり、あると言えば運動能力が人より優れていることだけである。
 二人は少し駆け足で学校へ向かうと、いつもの交差点へと出た。
 ここから学校までいつものように徒歩へ向かうが、今日はいつもと違うような空気を実理は感じていた。




 タクシーがなつかしの家の前に到着し、中に入って二人は洋間に荷物を置く。
 優希は荷物からある服を取り出す。
 穂群原学園の制服だ。
 彼は今日から穂群原学園に通うのだ。
 カッターシャツを中に着ると、ブラウンのジャケットを着て筆記用具を揃える。
そしてかばんを背中に背負い、サングラスを持つ。

「行って来ます…」

「気をつけてな、ここの荷物は私が揃えておく」

 サングラスをはめ、靴を履いて外へ出ると冷たい空気がツンと体を刺す。
 優希を見送った後、遥は荷物の中からある箱を出す。
厳重に密封された箱は南京錠でロックされおり、遥は南京錠の鍵を開けるとフタをゆっくりと開ける。
中にはワルサー社の「ワルサーP99」が入っていた。
スライドには十字架の刻印が刻まれており、特注使用になっている。
9mmパラベラム弾使用の15+1発、あえて左手操作をメインにして設計しており扱いやすさを重視して作られている。
ポリマーフレームを使用し軽量化を図っており、グリップも使う人の手によって大きさを変えることが出来る。
 遥はワルサーP99のチェックをするとトリガーの上部にあるパーツを下にスライドさせ、マガジンを取り出し、スライドを簡単に外す。
パーツを一つ一つ丁寧に置いていき、入念にチェックしていく。
 そしてすべてのパーツをチェックしていくと、再び組み立て始めもとのワルサーP99の形に戻していく。

「何処も異常はないな…」

 この銃は優希の為に特別に改良されている銃である。
 スタンダードなP99のスライドに特殊パーツをつけ、打ち出す弾丸の威力を増すという教会が開発した特殊なパーツである。
 今後関わることになるだろうある戦争から自分を守る為に教会に頼んだのだ。
 そのP99を箱に戻してふたをすると、遥は部屋の準備に取り掛かった。
テーブル、ソファーなど一つ一つ的確にセットしていった………。




 その頃、優希は部活の朝練習でにぎわっている穂群原学園へと到着した。
 本来ならば優希は一年前からここに通っていいることになっていた。
だが都合でこの地を離れ、優希は学問を遥に受けつつ訓練の日々を送っていた。
 自分の犯されている「病」と戦うために…。
 今の優希の経歴はすべて教会側が流しているダミーを使用している。
 もちろん幼き日の経歴を使用して、怪しまれないようにしている。
 優希は方の力を抜き、軽く息を吸って学園内に入ろうとした。

「ゆ、優希君?」

「っ!」

 優希が振り向くと、そこには優希にとって忘られることのない顔があった。
 水沢実理である。
 幼き日に共に遊び、共に学んだ大切な人…。

「み……のりか?」

「優希君だよね?」

「どうしたんだ姉ちゃん? はやく……っ!」

 そして、優希をライバル視している実理の弟の実流もそこにいた。

「久しぶり、元気だった?」

 満面の笑顔で話す実理。
 しかし優希はいつものとおりのクールな答え方だった。

「ああ、久しぶり……実流もな」

「どうも久しぶりですね優希さん」

 実流は優希に対して、何だか不満そうな顔をしている。
 優希はそれを気にせずに二人に職員室はどこかと聞くと、実流が職員室まで案内すると言う。
 実理にまたなと言ってその場を離れると、実理は優希が帰ってきた事で心の中がウキウキした。
 二人は校舎内に入ると、上履きに変えて職員室へと向かう。

「今まで何処に言っていたんですか?」

「ちょっとな、姉さんの都合でこの街を離れていた」

「そうですか…どうですか、かなり変わったこの街は?」

「正直いろいろと驚いている。今度、この街を案内してくれないか?」

「構いませんよ、ほら、ここが職員室です。じゃ、俺はここで失礼しますね」

 実流は少し足音を荒くして自分の教室へと向かうと、優希は扉をノックして中に入る。
 自分の名前を言って転校生という事を言うと一人の女性の先生が優希に近づいた。

「ようこそ穂群原学園へ、あなたの担任になる藤村大河です。よろしくね♪」

「如月優希です。これからよろしくお願いいたします」

「うむ、わからないことがあったら何でも私に聞きなさいっ。さて、もう少しでチャイムが鳴るし、少しここで待っていてね」

「はい、わかりました」

 藤村大河、穂群原学園の英語教師で生徒からは藤ねえの愛称で親しまれている。
 トラじまのシャツに緑のワンピースの服を着ている明るいお姉さん的存在。
 藤ねえは名簿などを持ち、優希と共に職員室を出ると教室へと向かう。
 階段を上がって、しばらく廊下を進むと藤ねえの受け持つ教室へと付く。
 
「如月君、ここでちょっと待っていてね。呼んだら教室へ入ってきて」

「はい、わかりました」

 教室へ入ると普段どおりな号令がかかり、優希の事を話し出す。
 転校生の事を話し出すとざわざわと騒ぎ出す。
 藤ねえが優希を呼ぶと、静かに扉を開け中に入る。

「如月君、自己紹介をして」

「はい、先生。初めまして、如月優希です。これからもよろしく」

「じゃあ、水沢さんの隣の席に座ってくれるかな?」

「はい」

 優希は実理を見つけ、目線が合うと実理は小さく手を振る。
 スッスッと席に着くと藤ねえは出欠確認をする。
 しばらくして出欠確認を済ませると授業を開始しようとする。

「え〜、今日は如月君の転校の為、授業はせずに如月君にこの学校の事、彼に質問する時間とします。如月君、こっちへ来て」
 
 賛成と言う声の中、優希は席を立ち教壇の前に立つ。
 そして藤ねえから質問が始まった。

「優希くんはご兄弟はいるのかな?」

「姉が一人、父さんと母さんは何年か前に亡くなりました」

「おっと、失礼な事を聞いちゃったね。ごめんね〜、さて他のみんなは質問あるかな?」

「は〜い、好きな食べ物は何ですか?」

 女子からの質問に優希は洋食、特にイタリア系が好きと答える。
 次の質問は特技は何かと来た。

「特技は射撃です。姉がクレー射撃をしていて俺もそれを習っています。もちろんモデルガンなどでも得意です」

 クラスのみんなはイラスト、音楽鑑賞などが得意と来ると思っていたが予想外の答えにおぉ〜っと驚いていた。
 次々と質問を淡々と答え、授業が終わるギリギリで最後の質問に好きな人はいるのかと来た。
 この質問には少し考え込む優希。

「好きな人はいます。いつも笑顔を見せてくれて僕の心を癒してくれました」

 さらりとクールに言うと女子からはキャーッという黄色い声援ごとく大騒ぎになった。
 それを見ていた実理は心の中で変わっていないなと感じていた。
 その横から肘でつつく人がいた。
 美綴綾子だった。
 彼女はこの学園の弓道部部長で、実理とはよく話すよき友人だ。

「あれがさっき言っていたご友人か……なかなかカッコいいじゃないか」

「でも性格は昔から変わっていないよ、あまり喋らないところは特にね」

「お前、あの如月が好きなのか?」

 衝突な質問に実理は一気に赤くなる。

一時間をフルに使って優希に質問し終わり、放課になると優希は教室を出た。
 それを見ていた実理は追いかける用に優希の後をついて行く。
 階段を上がり、屋上の扉を開けると冷たい風が優希の体を刺す。

「優希くん」

 優希が振り返ると、階段を上がってきた実理がいた。

「屋上で何かするの?」

「いや、風に当たりたくなっただけだ。実理は?」

「優希くんが教室を出たから……一緒に話しちゃダメ?」

「構わない」

 外へ出て、フェンスの向こうに見える新都、そして私たちが住んでいる街が見える。
 実理は時間が出来るとよくここへ来て街を眺めるのだ。

「帰ってきたんだね」

「何も言わずにいなくなってすまなかった、時間が無くてな」

「ううん、気にしてないからいいよ。これからもここにいるの?」

「ああ、そうだ。姉さんも一緒に帰って来ているぞ」

「じゃあ、後で挨拶に行こうかな?」

 その時、放課の終わりを告げるチャイムが鳴った。
二人は教室に戻り、授業の準備をした。



 その頃、遥は部屋の模様替えを終わり、自室にいた。
銃器が入っているボックスをあけ、中から武器を取り出す。
 ワルサーP5、ワルサーP99の他にヘッケラー&コックUSP、ヘッケラー&コックMk23ソーコムピストル、グロッグ26アドバンスが二丁入っていた。
すべて教会使用の拳銃で、銃本体には十字架の刻印が刻まれ、打ち出す弾丸は特注の9mmパラベラム弾に45mmACP弾、40mmS&W弾を持ってきている。
 これらの弾丸は、人間にはパラライズ(麻酔)弾、つまり人体に当たればその人物は死なずに気絶するだけである。
しかし魔力を持っている人間や吸血鬼など人間でないものに関しては違い、弾丸が当たれば一般的な弾丸と同じように負傷する。
 遥はUSPのスライドロックスイッチを外し、スライドを外すと部品を丁寧に一つずつ外す。
異常が無いかチェックし、グリスを歯車やスプリングに塗ってすべりをよくする。
USPのオプションパーツのフラッシュライト&レーザーポインターを取り出し、ライト、レーザーが付くかをチェックする。
そして最後にサイレンサーを取り出し、これも異常が無いかを調べ、すべてのパーツをボックスにしまう。

「以上はなし……」

 遥はボックスを元の場所に戻し、窓の外を眺める。
サイレンがなり、どこかで事件が起きたんだなと知る。
 さきほどテレビをつけたときにはガス漏れ事件、殺人事件が起きたと言っていた。
 遥はこれが普通の事件ではないとすぐに察した。
 そしてこれが10年前の事件に関連しているのではないかと遥は考えていた。
 10年前………新都で起きた大火事である。
 生存者は一人、世間ではそう言われている。
 だが事実は違っていた。
 生存者は3人なのだ。
 それは如月姉弟……。
 そしてもう一人はある少年…。
 だが、遥はこの火事が起きてから、途中から記憶が無い……。
 ある黒い影を見てから、保護された病院で目を覚ました間の記憶がまったく無いのだ。
 おそらく優希も無いと遥は考えている。

「今夜は外に出て辺りを調べてみるか……その前にっと…」

 コートを手に取り、部屋を出て一階に下りると遥はある扉を開る。
 そこには地下へと繋がる階段があり、遥は一段一段、ゆっくりと降りてく。
 階段を降りると、そこは長い廊下と扉が左右に四つあるだけのシンプルなところだった。
 遥は手前にある扉を開けると、そこは車庫だった。
遥は外車が好みで、三台所持している。
 手前にはアストン・マーティンV12ヴァンギッシュ、真ん中にBMW Z8、そして同じBMWの4WDタイプのX5がある。
 遥は特にヴァンキッシュが好みで、よく出かける時はヴァンキッシュを使用する。
 それぞれのチェックをし、すぐに動かせるようにしておく。
 空気圧、オイル、ガソリンなど一般的など彼女にできる事はすべて終わると、一階に戻って寛ぐ。
 テレビをつけ、ニュースを見ると新都での連続ガス漏れ事件、冬木町の連続殺人事件などが報道されていた。
コーヒーを入れながら一つ一つのニュースに目を通す。
 気になるニュースは多く、新聞で更なる情報収集をすることが必要だな遥は感じていた。
 居間でくつろいでいると、優希が帰ってきた。
 遥は玄関に行くと、そこには実流と実理が一緒にいた。

「ただいま」

「お帰り優希、いらっしゃい実理、実流」

「お久しぶりです遥さん」

「どもっ遥さん♪」

 何年ぶりの再会だろうと遥は感じていた。
 遥は手招きし、三人を居間へ入れる。
 居間へ入ると、実理は再び挨拶しなおす。

「お帰りなさい遥さん、また会えて嬉しいです♪」

「成長したな実理、実流もかっこよくなったな」

「遥さんもさらにかっこよくなったじゃないすか」

「変わっていないな実流、まっ、くつろいでくれ」

「二階に行っている、後でまた来るから…」

 優希はさっさと居間を出て二階の自室へ行く。
 遥はキッチンでお湯を沸かし、コーヒーを入れる。
 クッキーをさらに並べ、テーブルに置くとコーヒーを二人の前に置く。

「元気していたか?」

「はい、私達はもう元気です」

「そうか……今はあの高校に行っているみたいだな」

「はい、今日の朝、学校の正門で優希くんと会いました。元気そうでホッとしました」

「でも相変わらず物静かだからあまり喋らなかったけどな、少しは変わったかと思ったのにな」

「まあ仕方ないさ、アイツはああいう風に育ててしまったからな」

「遥さんは今までどちらへ?」

「イギリスだ、ちょっと向こうにいる知人に保護されてな。挨拶しようと思ったが時間が無くて出来なかったんだ。すまなかったな」

「仕方ないですよ、理由はそれぞれありますしね」

「そうそう、気にすんなって遥さん」

「そういえば優希くんは?」

「自分の部屋だろうな……実理、呼んできてくれないか?」

「はい、分かりました」

 今で三人が話している頃、優希は一人自室で瞑想していた。
鞄をベットに無造作に置き、椅子に座って目を瞑っている。
 ここしばらく、いやな夢を見続け手いる為少し寝不足なのだ。
 ふと引き出しを開け、ある写真を出す。
無くなった両親が映っている家族写真だ。
優希はこの写真を大切にしている。
 親戚に預けられた時に、そこの家族から貰った写真で優希の宝物となっている。
つらくなった時や寂しくなった時はよくこれを見ている。


「優希くん、入るよ?」

「あ、ああ…」

 優希は写真を引き出しにしまうと扉を開ける。

「あの、遥さんが呼んでいるんだけど」

「ああ、分かったすぐに行く」

 上着をハンガーにかけ、部屋を出て実理と一緒に居間へと行く。
扉を開けると遥はキッチンでコーヒーを作っていて、実流は部屋を見渡していた。

「一人で部屋にいるなよ、辛気臭いな優希」

「人がどうしようと構わないだろ?」

「まあまあ二人とも、ほら優希くん座って」

「ああ」

 実流の隣に座り、実理は遥の作ったコーヒーとクッキーを置く。
優希の前に実理が座るとその隣に張るかが座る。
 ふと実理は優希の周りに見える色に気づいた。
そして遥も見てみると色が見える。

「青と………オレンジ……」

「何か言ったか実理?」

「あっ、いえっ、なんでもありませんっ遥さん」

 誤魔化すようにコーヒーを飲み、クッキーを食べる。
 実理が見たのは魔力の色である。
魔力を所持しているものはそれぞれオーラが出ており、優希と遥はそれが出ているのだ。
そして優希の魔力の色は青、遥が出ているのはオレンジなのだ。

「そういえば優希くん、部活は何に入るの?」

「まだ考えてない、でも出来れば趣味の部類に当てはまる部活がいい」

「趣味?」

 実流が聞くと、実理が今日の授業で聞いた事を説明した。
そして顎に手を沿え、考えるとある部活を思い出す。

「じゃあ弓道部はどうかな?」

「弓道部?」

「うん、だってあれも結構優希くんの趣味に当てはまるかなと思うんだけど……」

「射撃と弓は違うが、精神を鍛えるのにはもってこいの部活かもな」

「フム……考えておく」

 ふと遥は時間を見ると6時半を指していた。

「おっと、もうこんな時間か…私が二人を送っていこうか?」

「いいんすか遥さん?」

「ああ、最近物騒だしな。コートを持ってくるから準備しておいてくれ」

「ういっす」

「は〜い♪」

 遥が部屋を出ると二人は帰る準備をし始める。

「また時間があるときに来てくれ、気をつけてな」

「うん、また明日ね優希くん」

「じゃな優希」

「ああ」

 居間を出ると玄関で遥がコートを着て待っていた。
黒のブーツにグレーのコート、黒のズボンに白のシャツにオメガシーマスターの時計を付け、サングラスをかけて待っていた。
 その姿に二人はちょっと見とれてしまい、足が止まってしまった。

「どうした?」

「い、いや、遥さん、マジでかっこよくって……」

「う、うん……ほんとに」

「ありがとう、ほら行くぞ」

 遥は地下室へ続く扉を開け、階段を下りていく。
二人は靴をはいて一緒についていくと遥の車がある車庫へと入る。
 ここでも二人は度肝を抜かされた。
普段お目にかかれない外車が三台もあるのだ。
 BMW X5を選び、ロックを解除して運転席に乗ると車庫のガレージを開ける。
 二人は少し慌てて後ろの席に座ると、遥はアクセルを踏んで車を発進させる。
 車の中はほのかに新車の匂いが残っており、実流は子供みたいにウキウキして落ち着きがなくなっている。

「実流、落ち着きなさいよ」

「だって、カッコいいじゃんかよ遥の車」

「ふむ、お前にはいろいろとレクチャーしてやるぞ」

「マジッ! 頼むぜ遥さん」

 交差点に差し掛かり、左右を確認してアクセルを踏む。
徐々に和風建築から洋風建築に変わっていくと、遥はスピードを落とし始める。
そして交差点を曲がると、水沢家へと到着した。
 ブレーキを踏み、ハンドブレーキをかけてエンジンを切り、二人は車から降りる。

「今日はありがとうございました遥さん」

「また姉ちゃんと一緒に家に寄るな〜」

「ああ、いつでも来い、さてお母さんはいるかな? 挨拶しておくよ」

「は〜い」

 扉をあけ、ただいまっと言うと実理のお母さんが出てくる。
 お母さんは遥の顔を見て、パッと明るくなった。

「あら遥ちゃん、いつ帰ってきたの?」

「今日です、突然ご挨拶もせずに離れてしまって申し訳ありません」

「気にしないで、という事は優希君も?」

「はい、これからもよろしくお願いいたしますお母さん、では優希が待っているので失礼しますね」

「また遊びにきて頂戴遥ちゃん、気をつけてね」

「はい、実理、実流、また明日な」

「はい、では♪」

「またな〜遥さん」

 遥は一礼し、家を出ると車に乗る。
 エンジンをかけ、車を発進させる。
 交差点まで戻り真っ直ぐ以降とした時ふと遥は殺気を感じ、車を道路脇に止めた。
そして周りから死角になるように手のひらにワルサーP5を出し、周りを見渡す。
 だが回りに人は見当たらず、遥はワルサーP5を消して再び車を発進させた。
しかし彼女の感覚は間違っていなかった。
 ある一人の女性が彼女を見ていたのだ。
 月明かりに照らされている女性はフードをかぶり奥深くかぶり、フードの隙間から見える口元は美しく見える。

「魅力的な魔力を持っているわね……興味深いわね」

 彼女はスッと姿を消し、いずこへと消えた。
 優希、遥、実理、実流はこのとき知らなかった。
 自分達がここで繰り広げられる壮絶な「戦争」に身を投じていく事……そして、優希の秘密が明かされる事も……。

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