クリスマスの思い出 木登りブタさん




ある春の夜。
男性陣には知らされず、このようなメールが交わされていた。


date:10、03、20×× (THU)
object:お願い
from:和久寺 一美 (private)
添付ファイル:1482.JPG
本文
咲十子ちゃんへ

突然のメールでごめんね。
実は、昨日、話したいことがあったんだけど風茉がいたから話せなかったんだよね。
クリスマス以来、風茉のガードが固くて困っちゃう。
咲十子ちゃん、あれから大丈夫だった?
いじめられたりしてない?
もし、無理やり嫌なことされそうになったら思いっきり、噛み付いてやるか盛大に嘘泣きするんだよ。
(それでも無理強いするだけの根性は風茉にはないからね!)

ところで、近々風茉、3日間の出張あるよね?
そこでさっちゃんの都合が悪くなければ、作り方を教えて欲しいものがあるの。
作りたいものというのは、添付した画像のものなんだけど…。
難しいかなぁ?
(もうすぐ)新妻のプライドがかかっているので、ぜひぜひ、御教授願います。

                                             
                           一美より


数分後。





date:10、03.20×× (THU)
object:私でよければ…
from:咲十子
添付ファイル:なし
本文
一美ちゃんへ

お料理のコーチの件、私でよければお受けします。
新妻のプライドはなんとしても、守らないとね0(^‐^)0。
クリスマスのメニューでかなり上達してたから、きっとすぐに作れるようになると思います。
明日は、風茉君たちもいないし、ママも仕事で留守だから何をしようかなぁって思っていたところなので、
ちょうど良いタイミングでした。
材料をそろえて待ってるね。

昨日は、なんだか風茉君の機嫌が悪かったみたいで、気を使わせちゃってごめんね。
普段はいつもどおり優しいから大丈夫だよ。
それに、一美ちゃんや九鉄さんが家に、来てくれるのも本当は嬉しいみたいだよ。
私が言わなくても、一美ちゃんたちは分かってそうだけど、怒っちゃうのは照れ隠しみたい。
なので、また2人で遊びに来てね。

とりあえず、明日はビシバシ!スパルタでいくので覚悟してきてね(笑)!


                          咲十子より


□ □ □

私は、風茉の家の玄関の階段の影に隠れていた。
少しの時間ももったいなくて、風茉が出かけたらすぐに咲十子ちゃんに料理を教えてもらおうと思ったから。
それにしても、何で、車を真正面に停めてないのかしら。
鋼十郎さまが玄関から少し離れた場所で待っているのが見える。
ドアのほうから少しずつ、声が聞こえてきた。
「おい、咲十子、俺の出張中に何か困ったことがあったらすぐに携帯に連絡するんだぞ!」
咲十子ちゃんが持つ上着に腕を通しながら風茉が繰り返した。
「本当に変な遠慮はいらないからな。特に今日は1人だし。」
咲十子ちゃんだって大人なんだから、そう、何度も同じこといわなくても分かるって!!
私だったら頭をはたいちゃうかもしれないな。
そう思って咲十子ちゃんを見てみると、すごく嬉しそうにニコニコしてる。
「風茉君、ちょっと待って、ネクタイ。」
白いエプロンをかけて、風茉の身支度を整えてあげている姿は新婚さんそのもの。
ちょっと、耳かせ。というような風茉の手の動きに咲十子ちゃんが耳を寄せると、風茉が何かをささやいた。
アイツ、何を言ったんだろう。
ここからでも分かるほど咲十子ちゃんの顔が真っ赤になってる。
咲十子ちゃんはキョロキョロと周りを見渡したあと、背伸びをして風茉の頬っぺたにキスをした。
風茉は、すっごく幸せそうな顔をした後でおまけに咲十子ちゃんのほっぺにチュっとキスをして少し離れたところに停めてある車に駆け出した。

なるほど、この車の距離は鋼十郎さまの気配りだったのね。
毎朝こんな調子なのかしら。
これまで風茉と咲十子ちゃんの恋人らしい(というか、新婚さんみたいな)所を見たことがなかったから、妙に照れくさくなっちゃった。
自分達もはたからみたらそうなのかしら…?
もっとも、私達のほうが(もうすぐ)本当の新婚さんになるんだけれど…。
私達の場合は、一緒に出勤するだろうから行ってきますのキスはどうすればいいのかしら?
今度、鉄と相談しなきゃ。
それよりも、今日は料理をマスターしなきゃね。
見栄っ張りだといわれようと、鉄の友人(元彼女含む)達の前で鉄に恥はかかせられないもの。
クリスマスと同じ失敗はしないように鉄とも話し合ったし、がんばろう。

□ □ □

風茉くんが出かけてから、5分も立たないうちにチャイムがなった。
どうしたんだろう、風茉くん、忘れ物でもしたのかな?
身長の3倍はあろうかという大きな扉を開けると、少し頬を紅潮させた一美ちゃんが立っていた。
「おはよう、ごめんね、朝早くに来て。でも邪魔者がいなくなったみたいだし…少しでも早く…その、教えてもらいたくて…。」
ひょっとして、さっきのお見送り、見られちゃったの…?恥ずかしい。頬っぺたが熱くなる。
「あっ、あの、は、はやく着きすぎたかなぁって思ってたらそこの、その、交差点で風茉の車とね、すれ違ったから、だから、もう大丈夫かなぁって思って。」
「そそ、そうなんだ。そうなの、風茉くんさっき出かけたところなの。…あっ、だからまだ、キッチンが片付いてないの。ちょっと待っててね。」
一美ちゃんの言葉に少しほっとしながら気持ちを落ち着かせようと、静かに深呼吸をしてキッチンに向った。
「咲十子様、何か特別にご入用のものがおありでしたらお申し付けくださいね。」
すれ違ったチーフメイドの青井さんが、声をかけてくれた。
「すみません!今、応接室のほうに一美ちゃんが来ているので、お茶をお願いできますか?ちょっとキッチンを片付けてきます。」
「かしこまりました。手伝いを呼びましょうか?」
「あ、大丈夫です。すぐに終わりますから。」
以前から、風茉君の誕生日にはキッチンを独占させて欲しいとお願いしてたから、心配してくれたみたい。
確かに、ちょっと大変だけど今日は一美ちゃんもいるし大丈夫。
でも、よかった。一美ちゃんの作りたいものと私の予定してたものがそっくりで。
朝食のお皿やグラスを洗いながら、スケジュールを確認した。
これからスポンジを焼いてデコレーションしておいてクリームとムースをなじませなくちゃ。
その間に一美ちゃんの方は、材料を切っておいてもらって、下茹でして、…。
よーし、道具類を準備して。っと。
一美ちゃんを呼びに行こう!

「ごめんね。お待たせしました!」

□ □ □

ウィーーーーーン。
咲十子ちゃんが湯煎にかけたボールの中身をハンドミキサーで泡立ててる。
すっかり忘れていたけど、今日は風茉の誕生日だった。
それにしても、さっちゃん。
本当に絵に描いたような新妻ぶりかも。
主人の誕生日に朝から手作りケーキと手料理を支度するなんて。
「あ、もう具材は切れた?大体のものは味付けしてから刻むから
ニンジンとかだけしっかり切ってあれば大丈夫。」
咲十子ちゃんの流れるような手つきに見とれていると、すぐに次の指示がとぶ。
今日は、本当にスパルタなのかも。
なんと言っても、風茉の誕生日ディナーもかねてるし。
向かいの咲十子ちゃんの手つきには似ても似つかないおっかなびっくりの私の手つきで何とか、
咲十子ちゃんの指示に答えていった。
「そういえば、クリスマスのご馳走はどうだった?九鉄さん、驚いたでしょ?」
小麦粉をゴムベラでさっくりと混ぜながら咲十子ちゃんが話しかけてきた。
ふんわりバニラの甘い香りが漂ってきた。バニラオイルを入れたみたい。
「咲十子ちゃんのおかげですごく上手に作れたよ。もちろん、鉄もすごく喜んでくれたし。
…ただ、ね。ディナーじゃなくてブランチになっちゃったんだよね。」
「あっ、そうかぁ、私が風茉君と話している間にどこかに行っちゃってたよね。
確か?ご飯とか食べに行ったんだ?」
ほんとに、すごいな。こっちをみながら出来上がった生地を型に流し込んでる。
動作全てが身体に染み付いているみたい。

「そうなの。鉄のヤツ、私に何の相談もなく予定を決めてたみたいで結局私の予定は全部オジャン。
危うく、大喧嘩するところだったよ。」
「そんなこと、言って。本当はすごく嬉しかったんでしょ?九鉄さんが帰ってきてくれて。」
咲十子ちゃんがクスクス笑いながら言った。
私も、今更、咲十子ちゃんの前で取り繕っても仕方ない。っていう気分になってきたので
思い切りのろけることにした。
「はーい、正直に言うと咲十子ちゃんの言った通りです。
傍にいてくれるだけですごく嬉しい。追いかけて追いかけてようやく胸の中に飛び込めた気がしてる。」
「ごちそう様です。あ!おなべの中身、煮汁が少ないから時々ひっくり返して焦げ付いていないか確認してね。」
いけない。ちょっと油断してた。
それにしても咲十子ちゃん、
中学校でもこの調子で教えてたのかな?少し厳しすぎかも…。
「弱火にしたら次は、薄焼き卵とエビのすり身入りの卵焼きを作ってね。
そのあとでご飯と寿司酢をあわせて酢飯をつくるから。」
余計なことを考えていると、次々と用事が飛び込んできた。
「新妻のプライドがかかった、手毬寿司に茶巾寿司にいなり寿司に海苔巻、
ついでに押し寿司もしようか?基本さえ分かれば簡単だから、頑張ろうね!!」
咲十子ちゃんがこともなげに言い放った内容は、とても私には簡単とは思えなかった。

□ □ □

一美ちゃんがお寿司の具やご飯を準備してくれているから、ずいぶん助かっちゃった。
イチゴをピュレ状につぶしてスポンジの間に挟むムースを作ることにした。
それにしても、九鉄さん、愛されてるんだなぁ。
一美ちゃんは私の言ったことをきちんとメモにとりながら一生懸命、調理している。
あのクリスマスの時だって、本当に頑張ってたもの。
婚約したって聞いたときは、本当に自分の事みたいに嬉しかったな。
「ねぇ、一美ちゃん。少し気が早いんだけど結婚のお祝い、何かリクエストある?」
何気なく聞いた言葉に、思いがけない答えが返ってきた。
「…えーっとぉ、さっちゃんがこの前作ってたふわふわの色違い…とか、だめ?どうも、鉄って背中が開いてるデザインが好きみたいなんだよね。」
泡だて器を握り締めていた手が止まってしまった。
確かに、クリスマスに手編みのニットのワンピースと、もう一つオーガンジーのリボンやレースのリボンをたくさん使って
シースルーの生地を何枚も重ねてスカートをフワフワにさせたドレスがある…。
というか、あった…のだけど…。
今は、二つともバラバラになっていたりする。
私の反応にピンときたのか、一美ちゃんがニヤリと笑った。
「咲十子ちゃん、顔。赤いよ。…そんなに効果あったんだ。それで、感想は?」
泡だて器をマイクに見立てて差し出した。
「…すごく、喜んでくれた…。」
「どっちが好きだって言ってた?私の予想ではニットかなぁ?絶対、アイツ全部ほどいたでしょ?途中で脱がしたりしないで。」
そんなこと言われても、その、確かに恥ずかしいって言っても全部解けるまで許してくれなかったけど、でも、着たままでもしちゃったし…。
フワフワの方は…もっといじわるで秘密にしてたお仕置きって言われてリボンで目隠しされちゃってたから
気持ちよかったことは分かるんだけど、何がなんだかわからないほうが強いのよね。
ちょっと怖かったけど,あんなに激しかったのは初めてだし。
いつのまにか、その時のことを思い出していた。

□ □ □

せっかくだから、もう一つも着て見せてっていうから、素直にベッドの側まで見せに行くと腕をとられてベッドに押し倒されてて、しかも、目隠しされてた。
「咲十子の身体ってすごく女っぽいよな。実は胸も結構あるし、なんといってもすごく感じやすいし。」
うっすらと透けたリボンの目隠しのせいで、風茉君の姿はおぼろげだった。
シャワーを浴びて毛糸の名残と一緒に甘い痺れも流したと思っていたのに、また、身体の芯が痺れ初めているのを感じていた。
「そんなことない。」
足首から太ももまで、すぅっと撫でられただけで身体が反応して潤み始めているのが分かった。
「ほんの数ヶ月前まではただのキスでも恥ずかしがってたのに。」
いきなり、風茉君の指がうっすらと濡れた部分をなぞった。
「俺のためにこんなに可愛いことしてくれるんだから。」
くちゅん。
「…やぁ!そんな…ん、いきな…り。」
「おかしいなぁ?俺、風呂で洗ってやったはずなんだけど?…というか、まだ俺が足りなかったの?欲しがってるよ。ここ。」
いじわるな風茉君の声が聞こえてきた。
「風茉君…なんだからね…。私をこんなに欲張りにしたの。…責任とってね。」
「喜んで。…さっきの言葉、取り消しさせないから覚悟しろよ。」
目隠しのせいで肌の感覚が研ぎ澄まされてるみたい。
肌を擦るチュールレースのザラッとした感触と風茉君のバスローブのタオル地の感触。
風茉くんが動くたびに香るいつもと違うシャンプーの匂い。
お風呂でふざけあったせいで風茉君も私と同じフルーティな匂い。
その匂いに誘われて、すっと首筋に指を這わせて髪の中に指を潜り込ませると、頭を抱き寄せた。

―――いつも自分がしてもらってることをそのままお返しすればいいんだよ。
一美ちゃんの言葉を思い出す。
手探りで耳たぶを探し出して、唇を押し付けた。
軽くくわえて、舌先でチロチロと舐める。
くすぐったいんだけど、相手の吐息が感じられていつもドキドキしてた。
ローブの胸元から手を差し入れて体中を撫でる。
いつも風茉くんが私にしてくれてることなのに、
「いつの間に、こんなこと覚えたんだ。」
って少し色っぽい声で言ってた。
次の瞬間、ローブの中から手を引き抜かれて頭の上でまとめられた。
「お仕置きなんだから、もうさせてやらない。」
胸元に布のすれる感触を感じた。
そしてゆるく手首に何かが巻かれる感触。
「プレゼントは一人でゆっくり楽しみたいタイプなんだ。咲十子にも邪魔させてやんねーよ。」
そこからはいつも以上に、されるがままになってしまって気持ちよすぎて何がなんだか分からなくなってた。



……………。


「おーい、咲十子ちゃん?聞こえてる?…そんなに良かったんだ。」
「え?あ、…うん。…結局、私、余裕なくなっちゃって。気が付いたらお昼だったの。」
「そっかぁ。風茉、まだ手加減できないんだね。咲十子ちゃんも大変だね。」
きっと、最後のほうは窓の外が白み始めてた、っていうのは言わないほうがいい気がする…。
「…お祝い。任せといて!でも、風茉君には内緒ね。」
ちょっと恥ずかしかったので、しばらく作業に集中するフリをしてなにも話さなかった。

□ □ □

ようやく下準備は終了して、いよいよ仕上げというときになって気が付いた。
あれ?そういえば、風茉は今日から3日間、出張じゃなかったっけ?
いくら、おっちょこちょいなところがあるとはいっても咲十子ちゃんも知らないはずないよね…。
目の前にある大量の酢飯と具材、そして、咲十子ちゃんの顔を交互に眺めた。
鼻歌を口ずさみながら、手早く巻きすを使っている。
私は真中に巻き込むだけで精一杯だけど、咲十子ちゃんの巻き寿司は、具が花模様になっていた。
咲十子ちゃんの方のお重は私がメールで送った写真のように綺麗だった。
それに比べて、私のほうは…。
まだまだ、練習が必要みたい。
咲十子ちゃんは続いて、押し寿司に取り掛かるらしい。
抜き型を準備する、咲十子ちゃんに一応確認してみた。
「ね。咲十子ちゃん。風茉って今日から出張だよね?こんなに作って大丈夫?」
型に酢をつけながら、咲十子ちゃんは幸せそうに答えた。
「うん。実はね。今夜だけヘリで帰ってきてくれるんだって。」
「…。えぇ!!?風茉がヘリで帰ってくるの!?」
聞き間違いかと思った。
でも、少し頬を紅潮させて微笑む咲十子ちゃんを見る限り、冗談ではないらしい。
「そうなの。無理しないでっていったんだけど、誕生日だけじゃなくて2人の記念日だからって。」
なるほど、そういえばそうだった。
昨年、おばあさまを焚きつけて2人の仲を進展させたのは私と鉄だった。
そういうことか…。風茉と一緒に出張に行ってるお父様に電話してちょっとからかってやろうかしら。
4月からは東京本社勤務の鉄だけど、今はまだ、NY。
相変わらず幸せそうな2人に、ちょっと嫉妬した。
「それにね、全部私たちだけで食べるんじゃなくて、押し寿司はメイドさんたちに差し入れ?なの。日ごろの感謝をこめてね。」
自分の幸せにだけ溺れてないで、周りの人のことも考えてるんだ。
やっぱり、すごいな。咲十子ちゃん。


□ □ □


押し寿司を準備しておいた箱につめる。
一美ちゃんが作っておいてくれた錦糸玉子と桜でんぶ。絹さやと木の芽で飾り付けていく。
私ができることはこれくらいしかないけど、いつももお礼の気持ちをこめて丁寧に作った。
風茉君が、「やっぱり咲十子は皆のことを考えずにはいられないんだな!」って笑う顔が眼に浮かんだ。
もちろん、一番喜んで欲しいのは風茉君だけど、その喜びを周りの人と共有できれば最高だと思う。
でも本当は、自分だけが幸せで怖いのかもしれない。
風茉くんが16で、私が23。
年齢の差は変わらないけど、以前に比べれば外見の釣り合いが取れてきた。
自分で言うのも少し悲しいけど、私はかなり童顔なのでよく高校生に間違われちゃう。
だけど、2人の距離もどんどん近づいているみたいで嬉しい。
一日、一日過ぎるごとに2人の距離が縮まっているようで毎日が本当に怖いくらい幸せ。
ただ、傍にいるということがこんなに幸せな人なんて、風茉君以外には現れないと思う。
飾り付けを終え、メッセージカードを書くためにキッチンカウンターに座った。
すると、長くて綺麗な黒髪がほほにかかってくるのもかまわずに、
巻きすと奮闘している一美ちゃんが見えた。
表情は真剣そのもの。手つきも最初に比べてずいぶん慣れてきたみたい。
お父さんにあげるセーターを作っているときから思っていたけど、
一美ちゃんって本当に好きな人のために一生懸命になれる子だと思う。
じっと見ていると、いつの間についたのか、顎の辺りにご飯粒がついてた。
うーん。美少女ってすごい。
ご飯粒をつけてても、可愛らしい。
九鉄さんも、幸せモノだなぁ。これだけ積極的に思ってくれるんだもん。
―鉄はね…。背中が開いたデザインが好きみたいなの…―
ぼんやり、色々考えていると、突然、ついさっきの一美ちゃんの発言が浮かんできた。
…そうよね。好きな人の好みに合わせようとするのは普通よね。
…でも、…なんだか、自分好みの女性に育てているようで、イケナイことのような気がしてしまった。
自分の何でもすぐに表情に出てしまう顔が憎らしい。きっと、顔が真っ赤になってる。
ふと、顔をあげた一美ちゃんと目があって、ますます慌ててしまった。
「さっちゃん?どうしたの?…もしかして、また風茉とのこと考えてた?フフフ。顔が真っ赤だよ?」
にっこり微笑む一美ちゃんは、間違いなく可愛かった。

そして、その分私は後ろめたくなってしまった。

□ □ □

それにしても咲十子ちゃんのあのポヤーンとした顔。
一体、風茉のヤツどれだけ無茶したんだろう。
去年までまるでそーゆーことに興味がなかった(と思われる。)咲十子ちゃんをその気にさせたばかりか、
思い出すだけで、赤面しちゃうくらい印象に残ることをしちゃってるんだよね〜。
…いけない。我ながら、ちょっと欲求不満なのかしら。
人さまのそーゆーことを心配しちゃうなんて。
それもこれも、お父様が鉄を早く帰してくれないのがいけないんだから。
あ、あと、鉄のせい。
だって、私がこんな思いをするほど、鉄を恋しくさせたのは、鉄本人なんだから。
まきすに海苔をおいて、酢飯を載せて、具を載せて…。機械作業で手を動かしていると、
鉄の声が聞こえてきた気がした。

「かなり腕を上げたな。奥さん。」って。

嫌だ、なんだか私まで、あのクリスマスの日を思い出してるみたい。
思わず顔を上げて、咲十子ちゃんがこっちを見ていないことを確認した。
いけないいけないと思いながらも、頭の中ではあのクリスマスの日が再生され始めていた。

□ □ □

あのあと、確かに九鉄は、こう言葉を続けた。
「一美は俺の喜ぶことを全部知ってるもんな。飯の好みも、セックスの好みも。」
「んやぁ。そんなこと、言わないで…。」
そのときはもう、頭の先から足の先まで、痺れきっていた。
でも、もっともっと欲しくて、鉄を感じたくて、自分が壊れちゃったみたいだった。
「俺、初めての時に、お前が俺のことを全部教えてくれって言うから、本当に全部教えてきたんだぞ。」
私の髪を撫でていた掌に力が入って、また鉄の胸に抱き寄せられた。
安心する、鉄の匂い、鉄のぬくもり。
大きくがっしりした胸板に、本当に小さく私のモノっていう印をつけた。
「どうしてお前って、そんなに俺の気にいることばかりするんだ…?ほんと、一美には敵わないな…。
実は、初めての時から思ってたんだ。」
首を上に向けると、鉄の喉仏が見えた。
視線をずらしていくと、私が付けた痕が真っ赤になって残っていた。
「…鉄だけ、覚えてるなんて、ズルイ…。私、初めてのときなにがなんだかわからなかったのに…。」
「くくく。そうなんだ?そりゃあ、可愛かったぜ。あの時のお前。怖くて震えてるくせに強がったりして…。」
鉄の胸の上に載っていた、身体を、コロンと転がされた。
私に覆い被さるように重なった鉄の顔は、なんだか悪戯っ子みたいに楽しそうだった。
「もう一回、あの時と同じように抱いてやるよ。そうすりゃきっと、思い出すだろ?」
唇を重ねて、深いキスをする。
すっかり馴染んだ、鉄のキス。
頬を片手で包まれて、舌を絡め獲られるともう鉄以外は目に入らなくなった。

―つづく ―

 

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