『クリスマス2』by木登りブタさん





九鉄の野郎、相変わらずふざけてる。
面倒くさい入国手続きを終えると年末で混み合っている手荷物受取所を横目に進む。
ベルトコンベア―を回るみやげ物の袋も、クリスマス用だ。
サンタクロースも顔負けなほど、どの袋もパンパンだ。
これで不況だっていうんだから、不思議だよな。
一瞬、グループの業績が頭をかする。
一美のとこの小売リ部門の純粋利益は、何とか増益だったよな…?
いつの間にかブツブツと口に出していたようだ。
九鉄が肘で俺を小突く。
「おいおい、仕事熱心なのはいいけど、ちゃんと今日の仕度してんのか?なんといっても今日はクリスマス・イブだぜ。咲十子ちゃん、楽しみにしてるんじゃないの?俺も今回は、気合いれてんだ。」
いい気なもんだ。いい歳した男が、クリスマスソングをハミングしてる。
「俺の心配よりも、しっかり一美にフォローしろよ。今晩駆け込んでこられるのはごめんだぜ。」
「知ってるか?かつて日本には恋人がサンタクロースという素晴らしい歌があったのを!」
だめだ、完全に浮かれてやがる。
ロビーのガラス越しに、咲十子と一美が並んでいるのが見える。
まっすぐ向かおうとすると肩を掴まれて、柱の影に一緒に引き込まれる。
何度か、携帯で電話をかけている。
何が、したいんだ?
文句を言おうと振り向くと、咲十子達のほうを指差し、笑っている。
キョロキョロしている、一美。
そういうことか、付き合ってらんねーな。思わずため息が漏れる。
俺が呆れているのを感じたのか、肩を叩くと、『行っていいよ。』と口と手を動かす。
スーツケースを引きずる人波に乗って、俺は咲十子のところへ向かう。
咲十子と目があると、咲十子が走り寄ってくる。
思い描いていた、一ミリも嘘のない笑顔で。

□ □ □

風茉君たちは夕方の便で帰ってきたので、お屋敷への帰り道はもう薄暗くなっていた。
高速道路を走る車のヘッドライトさえ、今日のためのイルミネーションに思えてしまう。
後部座席に、手を繋いで並んで座る。
九鉄さんと一美ちゃんがどこかに行っちゃったおかげで、数日振りの風茉君を独り占めできる。
風茉君に寄りかかって頭を肩に乗せると、風茉君も私の頭に顔をよせる。
「おかえり、風茉くん。」
もう、何度目かの言葉が自然に出てくる。
「ただいま。」
風茉君も、優しい声で答えてくれる。
一緒にいられなかった時間をお互いに、補いあってる。
空港からのかえる途中、ディズニーランドが見えた。
「寿千代君とさよちゃん、楽しんでるかな?きっとママも一緒にはしゃいじゃうから
鋼十郎さん大変だね。そうそう、さよちゃんもね、いつかの一美ちゃんみたいに一泊なのにスーツケース何個も持って来てたよ。
結局、ママに小さなバッグに詰め替えられてたけど。」
「遊園地かぁ、作ったことはあるけどわざわざ遊びに行ったことはないな。」
「楽しいんだよ!夢の世界みたいで。今度一緒に行こうよ。」
言った後ではっと気づく。
「…乗り物も、高いところに上るものばかりじゃないし…。」
コツンと軽く小突かれる。
「安全性が確認されてるんだから、怖くなんかねーよ。ただ、どうしても仕事の面から見ちまうから、
一緒に行っても興ざめするぞ。楽しかったら自分も作りたくなるんだ。
きっと、寿千代も明後日あたり、企画書を持ってくるな。」
風茉君、ほっぺがちょっと赤い。強がってるんだ。
いいよ、気づかないフリしてあげる。
「さよちゃんと寿千代君、可愛いんだよ。さよちゃんは寿千代君が好きな色を教えて、って来て、
寿千代くんは女の子ってどんなものが好きなの?だって。」
「知らないのはお互いだけか、なんかもどかしいな。」
「でも、それが楽しいんだよ。もどかしいほど好きになるの。
両思いだって分かるまで本当にドキドキするんだよ。」
窓の外の景色が市街地になってきた。
街路樹のイルミネーションが綺麗で、それだけでも楽しい気持ちになる。
「俺、今でもどんどん咲十子のこと好きになってるけどなぁ…。昔以上に。」
ポツリとつぶやいた一言にすごく胸がきゅうぅと掴まれたみたい。
「私も。両思いになったら、色々な面が見えるたびにどんどん、好きになってるの。」
すごく嬉しかったから、繋いだ手を強く握り締めた。

□ □ □

空港で電話を受けた後、私は空港のバスターミナルからでているホテルのバスに乗り込んだ。
早くあいたい気持ちと、切り出される話が不安な気持ち。
ロビーに着いて、コーヒーを頼んだもののとても喉を通らない。
何を話そう、何を聞こう。鉄は何を話すつもりなんだろう。
答えなんて出ないのに、考えることを止められない。
「和久寺さま、和久寺一美さまでいらっしゃいますね?お連れ様がエントランスにてお待ちでございます。」
「ありがとう。」
待つ間に、不安な気持ちに支配されそうになっていた。
気持ちを奮い立たせ、エントランスに向かう。
そこには見慣れた、鉄のポルシェが止まっていた。
震える手を悟られないように助手席のドアを開ける。
「よぉ!久しぶりだな。」
眩暈がしそう。
久しぶりに鉄の顔を見るとなんだか、さっきまで考えていたことが消えて、ただただ安心した。
自然に、涙が溢れ出た。
鉄は左手でハンドルを操りながら、右手で私の頭をくしゃくしゃとみだす。
「なに、泣いてるんだよ。そんなに俺に会いたかったのか?」
久々に感じる鉄の大きな手。
その瞬間、あの女の人の言葉が頭をよぎった。
この手で、あの人の髪も撫でたの?
幸せで暖かかった気持ちがまた、疑惑に満たされる。
「なぁ、メシ食いに行こう。俺はらぺこなんだ。この車を持って来てくれた悪友がお勧めの店教えてくれたんだ。
予約しといた。きっと一美も気にいると思う。」
マンションに、夕食の支度をしているんだけど折角、予約してくれたんだし、今、気まずくなりたくない。
「でも、愛車の鍵を渡すなんてそんなに信頼してる人いたのね。知らなかった。」
「あー、信頼というか、アイツは悪友だな。今度、会わせるよ。アイツもお前を見せろってうるさいんだ。」
私の知らない鉄の顔。私はどれだけ鉄のことを知っていて、どれだけ知らないんだろう。
これまでの私は、どうして鉄のことを全部、わかっている気でいられたんだろう。
夕暮れの車内は暗くて、鉄の横顔ははっきり見えなかった。
まるで、今の私の気持ちと同じように。

□ □ □

食事に行く前に、一美の好きなブランドに寄る。
自社系列なので新作のコレクションも確認していた。
そのとき、一美に似合いそうなドレスがあった。
柔らかいシルク素材でカシュクールタイプのデザイン。
特にアシンメトリーな裾が気に入っていた。
店員に指示して、ドレスと細身のヒールのロングブーツを出させた。
いつものきちんとしたお嬢様っぽい服装もいいけど、こういう格好もさせてみたかった。
素材の大人っぽさとデザインの大胆さ。このアンバランスな感じは、今の一美にぴったりだと思った。
大人でも、子どもでもない。少女でも女でもない。もっとも一美が着るなら何でも満足している気もする。
胸元に出来ているドレープに髪がかかる。大きく開いた背中も髪が覆う。イメージ通り。
照れる一美にコートを着せてエスコートする。
時間もちょうどいい。イルミネーションが綺麗な道をとおり、目的の店にたどり着いた。
この後の計画をもう一度、頭で確認しながらやっぱり最後のことを考えると緊張しているのを感じた。
隠れ家みたいなレストラン。会員だけが通される夜景の楽しめる個室へ。
BGMはさりげないボリュームで、一美が好きだといっていた映画のサントラから。
飾り付けの花も一美の好きな白いマーガレットを使って、しかし、可愛らしくなりすぎないように。
料理も、評判どおり申し分なし。
一美も夜景に目を奪われ、BGMに気づき、マーガレットに気づき、本当に喜んでいるように見えた。
いよいよ、次が勝負だ。断られることはないと思うが…。
もう一度、タバコを出すフリをしてポケットの小箱を確認する。
そろそろ、本日のメイン会場へ移動しようかと考えていた。
「ね、鉄、そろそろ帰らない?鉄の部屋、掃除しておいたのよ。」
なんだかさっきまでとは違う雰囲気だ。
「それとも、鉄のすることに何も口を出さないほうがいいの?」
それから、一美は部屋に着くまで黙り込んでしまった。
もちろん、小箱をだす予定も見送るしかなかった。

□ □ □

久しぶりの我が家は、いつになく静かだった。
いつも騒がしい奴らは、出かけている。
あからさまなお膳立てだが、正直なところありがたい。
車の中で感じた咲十子のぬくもりと匂い。
疲れた体がすでに、火照っている。
それでも、部屋に2人きりになったとたん、がっつくような真似はしたくない。
軽くシャワーを浴びて、気持ちを紛らわせる。
「もう、だめだよぉ、髪の毛乾かさないと。」
「気にするなよ、それより腹減ったんだ。咲十子のメシ楽しみにしてたんだからな。」
テーブルには咲十子作の料理が並ぶ。
どんなに高価な料理を食べても、予約がなかなか取れない有名店の料理を食べても、
咲十子の料理を食べたときのように、気持ちまであたたまることはない。
暖かい家庭の雰囲気。ただ、今日は少し違う。
最初に飲んだシャンパンのせいか、咲十子の頬はほんのり赤く色づき、瞳は潤んでいる。
ただ、食べ物を口に運ぶだけなのに、妙に色っぽい。
唇についたソースをぺろっと舐める、可愛い唇が艶々光る。
折角の咲十子の料理なのに、どこに入ったのか分からなかった。
「デザート、準備するね?」
キッチンに向かう咲十子を後ろから抱きすくめる。
「俺、先に咲十子がいい。」
息を吹きかけながら、ささやく。
知ってるんだ。咲十子は耳が弱いって。
「…風茉君のH。」
「しょうがないだろ、咲十子が可愛いのがいけないんだ。」
初めてのときみたいに、咲十子を抱えて有無を言わさず寝室に連れて行く。
ベッドにおろし、キスをしようとした、その時。
「待って、シャワー…使わせて。」
気にせずに、唇を合わせると、無理やり引き離される。
「本当に、ダメ。もう少し待って。」
そこまで言われると、無理強いは出来ない。
「咲十子の匂い、好きなんだけどな。」
顔を赤くしながら、バスルームに向かう咲十子が妙なことを質問してきた。
「風茉君、クリスマスプレゼント、ニットとフワフワどっちが好き?」
「なんとなく、ニット?かな。」
咲十子は背中を向けたまま、頷いた。
「わかった、…ね、灯り、暗くしておいてね。」
シャワーの音を聞きながら、今までのクリスマスを振り返っていた。
去年までは、無邪気なパーティだった。
でも、もう知ってしまった。無邪気なままではいられない。
咲十子を抱かずにいられたのがなぜなのか、不思議に思えるほどだ。
水音が止まり、衣擦れの音がする。
ドアを開けて出てきた咲十子を見て、思わず息を飲んだ。

□ □ □

薄暗い照明の下でも、風茉君の驚く顔がわかった。
すごく恥ずかしくて、顔から火が出そう。
一美ちゃんにアイデアを出してもらったんだけど、本当に喜んでくれるのかな?
一歩一歩、ベッドに近づくと、不意に風茉君がなるほどね、という表情。
「ニットとフワフワってラッピングの種類だったんだ?…で、プレゼントをもらった俺がとっても良いんだよな?」
あんなに、今日は自分から動くんだって覚悟してたのに言葉を発することも出来ない。
ただ、深く頷いて立てひざの状態でベッドにのる。
素肌に着けているせいで毛糸が少しチクチクしちゃう。
白いスラブの太い毛糸を緩めに編んで作った、ホルターネックのワンピース。
スカートの丈も、いつもだったら絶対はけないくらい、短め。
私の髪を書き上げ、髪のリボンをほどき、さらに首の後ろのリボンを解こうとする風茉君の手を制する。
「ダメなの…そこをほどいちゃ。……ここ、引っ張ってみて?」
そう、スカートの裾に出た一本の毛糸。
編みかけの状態にしてたので、引っ張るとどこまででもほどけちゃう。
引っ張った毛糸がほどけながら一周して帰ってくるのを見て、風茉君が困ったような顔をしている。
「イヤだった?こういうの?なら、リボンをほどいてもいいの。」
困った顔をしながらも、風茉君の手はずっと毛糸を引っ張ってる。
だんだんスカートがなくなっていく。
「咲十子が自分から準備してくれてたのは嬉しいんだけど、突然で驚いてる。
しかも、かなり色っぽいから、ますます、なんでこんなこと思いついたのか気になってる。」
言いながらも、覆うもののなくなっていく太ももに手を這わせてる。
冷たい指先が全身を粟立たせる。
「しかも、このニット微妙に透けてる気がするんだけど…。誰かの前で着たわけじゃないよな?」
糸を引く手とはちがう手が、ニットの中に浸入してくる。
胸を触られると、自然と力が抜けてきて座り込みそうになる。
「ダメだよ、ちゃんと立ってなきゃ、座るとほどけなくなるだろ。」
1人で立っていられなくなった私は、風茉君にかぶさるように抱きついてどうにか膝立ちを続けられる状態。
「俺以外に、こんな咲十子見たやつはいないんだろうな!?」
乳房を掴まれたまま、先端を指で刺激される。自然と鼻にかかった甘い声が出る。
「見せたことない…よ。着たのも、、今日、が、初めて。」
風茉君の手と、毛糸のほどけるかすかな感触が一度に感じられてなんだかいつもより変な感じ。
いつも私が去れるように風茉君の耳をパクっとくわえる。
「なんか、今日の咲十子変だ。妙に、積極的。」
「今まで、…してもらってばかり、だった、から、お返し。…一美ちゃんも…薦めて、くれたし…。今日は私が、するの…。」
表情は見えないけど、風茉君が少し、笑ったのが分かった。
そして、背中に回った手が、首のリボンをほどく。
首筋を暖かな、舌が伝い、その一瞬後でひんやりした感覚が襲う。
「ん、やぁ。…私が、するの…。」
「じゃあ、2回目はそうしよう。今は、俺、咲十子が動けないくらいトロットロに蕩けた顔してるのが見たいんだ。」
気づけば、すでに押し倒されてる。
結局、いつものように流されちゃう。
そう思うのに、かろうじて隠れている部分の近くに風茉君の手があると思うだけで、次の快感を期待してしまう。
すでに、濡れているのを確信している瞳はいつも悪戯っ子みたい。
優しく開かれて、溢れ出ている所に触れられると余裕は全くなくなってしまう。
内側を優しく刺激されながら、敏感な芽をこすられるとそれまでなんとなく現実感のなかった感覚が急に鋭くなったように感じる。
私に出来るのは、ただただ、風茉君の名前を呼ぶことだけ。
それに答えて、風茉君は深いキスを返してくれる。
酸欠のためか、快感のためかもう何も考えられなくなるまで高められた瞬間、風茉君が離れる。
ギリギリまで高められていた体は、開放されないまま蠢いている。
「ラッピング、ほどく途中だけど、先に中身食べてもいいか?あとでちゃんとするから。」
もう、そんなこと聞かないで!いつもそうなの、先に我慢できなくなっちゃう。
「…お願い、、風茉君。」
風茉君こそ蕩けそうだよ、て言いたくなるほど優しい顔でおでこにキスをくれた後、風茉君が入ってくる。
初めての時はあんなに痛かったのに、自分でも怖くなるくらい感じてる。
そして、あの瞬間を待ち望んでいる。
高められて一瞬、全身が快感に支配され浮き上がるような感覚に襲われるのを…。

そして、いつものように気づくと風茉君の腕の中にいた。
いつもなら、風茉君が主導権を持ったままだけど、今日は違う。
ニヤリと笑って余裕の表情を見せる風茉君に、覆い被さって私から深くキスをする。
いつも自分がされているように…………。

□ □ □

こんな風にするつもりじゃなかったのに。
鉄が色々、準備していてくれたのが嬉しい反面、寂しく感じた。
ただ、ニコニコ笑って、喜んでいればよかったのかもしれない。
でも、そんなのお人形と同じじゃない。
鉄にすれば私は頼りない所だらけかもしれないけれど…。
このまま、いつまでも鉄の隣に並べないんじゃないかって不安になる。
鉄のことが大好きで、私には余裕なんてないもの。
きっといつかあの女の人みたいに素敵な人が鉄を奪っていくような気がして、怖くてしかたない。

自分から帰りたいなんて我侭を言い出したのに、鉄の後ろをついていく。
こんなに悲しい気持ちなのに、初めてこの部屋にきたときのことを思い出した。
あの時は、春だった。今と同じように鉄の後ろを歩いて…。
すぐに鉄がNYに行っちゃって離れ離れになるのは分かってたけど、
合鍵をもらったり暗証番号を教えてもらったり、そんなことが嬉しくて、1年なんて我慢できる。
2人の気持ちは絶対変わらない。って思ってた。
これからは毎日一緒にいられるのに、気持ちは強くなるばかりなのに、なんだかかみあっていない気がしてる。

鉄がドアを開けて、部屋に入る。
1週間前から少しずつ、仕事の合間に立ち寄っては掃除と、飾り付けをした部屋。
暖房も入っていないただ明るいだけの部屋は、なんだか惨めに感じられる。
「…一美、お前が、準備してくれてたのか…?」
リビングも、ダイニングも、ベッドルームも、バスルームやトイレまで自分でもやり過ぎかなって思うくらい飾り付けをしてた。
鉄が私を喜ばせようと、私の好きな花を使ってくれたように、私は鉄の好きな色をアクセントに使った。
全体的に白とシルバー、所々に黒という配色の部屋に浮かないように、目立ちすぎないように、
でも、細部までこだわって飾りつけた。
テーブルセッティングも、ベッドメイクも、タオルの色も、…今日着ていた、服も。
ただ、私だけがはしゃいでいて鉄を驚かせようとして、鉄の気持ちを聞いていなかった。
きっと鉄も喜んでくれる、そういう子どもっぽい思い込み。
リビングの入り口で立ちつくす私のところに、部屋中をみて戻ってきた鉄がやってきた。
ぎゅっと抱きしめてくれた。
「ごめんな、俺が予定を狂わしちまったな。大変だったろ?こんなに綺麗にするの。それに料理まで。」
ただ、首を横に振るだけ。
声を出すと、涙か嫌な言葉が出てきそうだから。
「俺、一美に会えるのが嬉しくて突っ走っちまったんだな。あーぁ、驚かせることだけ考えてたからなぁ。
本当に、悪かった。去年は異動を控えてたから凝ったこと出来なかったから、今年は気合入れようと思ったんだ。」
鉄の腕の中で、2人で過ごしてきた今までを思い出す。
ずっと一緒だったけど、恋人同士になってから一緒にいた時間は半年くらい。
それ以外の時間は、メールや電話だけ、不安になるのもあたりまえなのかもしれない。
鉄のぬくもりを感じたおかげで、少しずつ落ち着いてきた。
そうしたら、素直に言葉が出てきた。
「…私こそ、ごめんなさい。わがまま、言っちゃって。」
「じゃあ、仲直りだな。…俺、はじめてかも。なんとなくじゃなくてちゃんと仲直りしたのって。
一美だから変に強がらずに謝れるんだぜ。世界中で一番、大切なのはお前だから。」
ずっと、言って欲しかった言葉。嬉しさのあまり、ついに涙が落ちる。
「これから、もっと喧嘩したりして、もっともっと鉄のことが知りたいの。鉄のことなら私が世界で一番って言える位に。」

こぼれる涙を唇で受け止めると、鉄が目の前に小さな箱を取り出した。
「本当は海の上で言うつもりだったんだけど、…俺と一緒に歩いてください。」
箱の中には細い2連のプラチナリング。真中には、ダイヤが綺麗に輝いていた。
折角、左手の薬指にはめてくれたのに、涙でかすんではっきりとは見えない。
ただ、呆然としている、私に心配そうな鉄が聞いた。
「…返事は?」
そんなの、もちろんOKに決まってる。
「はい。」返事をしてにっこり笑うと、いっそう強く抱きしめられた

□ □ □

きっと世界中で今の俺ほど、幸せな男はそういないだろう。
プロポーズの後、俺達は2人で一美の焼いておいたケーキを食べた。
その間、一美が今までどんなに不安だったか、なんで急に帰りたがっていたかを聞いた。
2人とも、気が張っていたせいか、暖房を入れるのを忘れていてくしゃみをするまで気づかないほど、舞い上がっていた。
「寒いし、風呂でも入ってあったまろうか?一緒に入ろうぜ。」
「でも、食器片付けなきゃ…、お先にどうぞ。……きゃっ?!」
有無を言わさず、抱きかかえてバスルームへ向かう。
口では、ダメだって言うくせに全然抵抗してこない。
「全身綺麗に洗ってあげるよ、奥さん。」
一美の顔が一気に赤くなった。

湯船に湯を張りながら、脱衣所でドレスを脱がせる。
とはいっても、このデザインは肩をはずすとストンと落ちてしまうのだけど。
時々、手が肌に当たると、一美がびくつく。
俺のシャツのボタンをはずしながら、キスをねだってくる。
俺が教えたんではあるが、なんてエッチで可愛らしいんだろう。
キスはさっきまで食べていた、チョコクリームの味。
手を動かしながらも、お互いに舌を絡めあう。
胸に手を伸ばし、先端に触れると、寒さも手伝ったすっかり硬くなっていた。
クリクリと弄ってやると、一美の口から甘い声が漏れ始める。
小さな白い手が、俺のベルトをはずす。
一糸まとわぬ姿になって、絡まるようにくっついたままで浴室に向かう。
シャワーをだして、全身をぬらす。
もうもうと立ち上る湯気の中、スポンジにボディーソープをつけ体の隅々まであらう。
久しぶりなせいもあって、体は敏感に反応している。
大事なところを特に念入りに洗うと、蜜はどんどん溢れ出てきてもうとろとろになっている。
すぐに、立ていられなくなった一美の体と自分の泡を流し、湯船の中に一緒に入る。
湯船には一美の黒髪が揺らめき、ひどく煽情的だ。
さっき、綺麗にした大事なところに指を沿わせると、すでにぬるぬるになっていた。
「どうする?ここでいきたい?」
「んぅ。や、お湯、入ってきちゃ…うぅん!」
いいながら、入り口に指を挿しいれる。絡みつく感触を楽しみながら徐々に出し入れをはじめる。
俺の足の間に、挟むように一美をだきかかえているので、一美は逃れられない。
「ふあ、…あぁん、あ、ひぅ…ん。」
指をもう一本増やし、中の一点を目指して動かすと、一美の体もより強い快楽を求めて動き始めた。
「ふぅあぁん、、も、だめ。いっちゃ…。」
敏感な蕾を擦り上げると、一気に締め付けがきつくなり一美の背中が弓なりになった。
ぐったりとして、荒い息の一美を抱きかかえると、バスタオルに包み寝室に向かう。

とろんとした目の一美をベッドに横たえ、脱力したままの脚の間に顔を埋める。
蜜をたたえた泉をすすり、わざと音を立てて高ぶらせていく。
我に返った一美がギリギリまで高まったのを確かめて、となりに横たわる。
「欲しいなら、自分で入れてみな。今日、俺がすると壊しそうだから。」
騎乗位は初めてじゃないが、自分で入れるのは初めてなので戸惑っているようだ。
俺、この一美の色っぽい困った顔が好きだ。
恐る恐る、俺の分身に手を添えて、ゆっくり下に降りてきている。
ゆっくり、ゆっくり少しずつ内側に飲まれていく感覚は気持ちよさのあまり耐えられなくなりそうだった。
全部、埋まったところまで待つと、息をつかさずに下から突き上げた。
火をつけたあと、動きを止めると我慢できなくなった一美が動き始めた。
手を伸ばし、胸をまさぐる。
響き渡る粘着質な水音を聞きながら、俺の名を呼ぶ愛しい少女の中に、全部、ぶちまけた。

一美は、キョトントした顔をしたあと、深くキスをしながら、俺の分身を愛撫し始めた。
ここまで積極的なのは、初めてだ。
「まだまだ、足りないの。」
俺の上で、切なそうな表情を見せる恋人のおかげで、今夜は眠れなさそうだ。


□ □ □    エピローグ

「はぁー。疲れたわー。冬休みも初日だし、人多いんだもの。ねぇ、咲十子、お茶を入れてくれない?」
何をそんなに買ったんだか知らないが、ねずみの耳をつけた一行がドヤドヤと大荷物で帰ってきた。
なるほど、昨日、帰りに咲十子が言っていたのはこれのことだな。
「寿千代、どうしたんだ?そのキャップ。誰かのクリスマスプレゼントか?」
まあね、なんて言ってる寿千代の横で、さよ嬢が赤面している。
そして、さよ嬢の頭には真新しい、髪飾り。
「2人とも、良かったな。似合ってるじゃないか。」
ちょっと、つついてやると、反撃された。
「兄ちゃんこそ、咲十子お姉ちゃんから、何もらったんだよ?聞くだけなんてずるいぞ!」
「しかたねーな。俺は、今着てる手編みのセーターと、…。」
「風茉君!!ストップ!!」
お茶をもって部屋に入ってきた咲十子が、声をあげる。
バカだな、正直に言ったりはしねーよ。あんなに可愛い咲十子を誰に教えてやるもんか。
「だとよ、どうしても知りたかったら咲十子お姉ちゃんに聞いてみな?」
欠伸をしながら、答える。まだ夕方なのに。と怪訝そうな顔のお子様と、やれやれといった表情の大人。
仕方ないだろ、気が付いたら朝になってたくらい夢中だったんだから。

きっと九鉄たちも、そんなところだろう。なんせ、久々に会ったんだしな。
来期からの帰国の挨拶がてら、みやげ物をもってくるといっていたのに、何の音沙汰もない。
ことしのクリスマスは、なんだか振り回されているうちに過ぎてしまった実感が湧かない。
一美が咲十子に何を吹き込むのかと、気が気じゃなかったが、今回は良しとしよう。
しかし、九鉄のヤツ。一体、一美にどんなことさせてるんだ?
昨晩の咲十子の、あれで初歩だなんて…。まぁ、俺には関係ないが。
ただ、咲十子を汚染するのだけは止めるように、一美に釘をさしておこう。
咲十子は、俺が! 色々、教え込むんだから。

大きなクリスマスツリーの下、久々に戻ってきた喧騒の中で人知れず、心に決めた。

― the end ―



 

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