戻る時はブラウザの【戻る】で戻ってください。『モナリザ』by木登りブタさん
「おに〜ちゃ〜ん!!ミカのお願い聞いてぇぇぇ!」
飛び込んだのは、勝手知ったるお兄ちゃんの仕事場。
画廊 苑。…の奥の契約の部屋。
薄暗い照明に、いまどきありえない羽根つきペンとインク壷。
アンティークの蜀台には、いつまでも消えない青白い炎。
いつもながら、どうしてこういう重苦しい雰囲気にするのかしら。
だから、お客さん怖がっちゃうのよ。
ほら、この契約者だって、ビクビクしてるじゃない。
でも、今はそんなことを気にしている場合じゃないわ。
「あのね、お兄ちゃん。ミカどうしても自分じゃ解決できない、願い事があるの!!!」
「……………。少し、黙ってろ。」
お兄ちゃんがパチンと、指を鳴らす。
それと同時に、私は長ったるいテーブルクロスのかかったテーブルの下に押し込まれる。
「ゴホン。…それでは、契約書にサインを。」
「……。えっ?ごめんなさい、さっきまでボォっとしていたみたいで…。」
もう、こうやって記憶を消せるなら、久しぶりのミカのお願いを優先させてくれればいいのに。
「分かりますよ。皆さん誰でも、緊張されていますからね。」
「これで主人は、必ず主人は助かるんですよね!」
もう、さっさと契約しちゃえばいいのに、お兄ちゃんどんな難題をけしかけたのよぉ!
「えぇ。あなたの子宮と寿命20年分いただければね。」
うわぉ!またすごい契約だったのかも。
頭上でペンの走る音がする。
「…それでは、そこに血判をつけてください。」
目の前にある依頼者の足は、震えている。
「それでは、契約完了です。成立次第、代価を受け取りに参ります。」
また、お兄ちゃんの指がパチンとなる。
依頼者の足が消え。部屋には私とお兄ちゃんのみ。
これで、やっとミカのお願いが聞いてもらえる。
テーブルクロスをめくって飛び出すと、
ゲンコツに息を吹きかけながらお兄ちゃんが待っていた。
ひりひりする頭を氷嚢で冷やしながら、お兄ちゃんの入れてくれたココアを飲む。
「もう、ミカは高校生だよ。大人なの。ほんとにいつまでたっても子ども扱いなんだからぁ。」
ぷぅっと膨れてお兄ちゃんを見る。
「おまえなぁ、さっきのが大人ってヤツの行動かよ。それに、結局最後は俺を頼るのか?」
なによ、怒ってても少し、うれしそうなの分かるんだから!
なんだかんだいってお兄ちゃんは私に甘いんだもん。
ここ2年。
安永君にお似合いの人になれるように、お兄ちゃんの力を借りないように頑張ってるときも、
何かといえばすぐに、手伝いたがってたもん。
ずぇったい、本当は嬉しいに決まってるのよ。
「それで、その自分じゃ解決できないお願いってなんだよ?内容によっては却下だからな。
特に、安永絡みのことは、自分で解決しなきゃイヤなんだろ?」
うっ。いけない。
安永君に関係してないともいいけれないのよね。
というか、関係してないから悲しいというか。
でも、でも、付き合出だして1年半もたつのに…。
しかたないわよ。これは遺伝だもん。
私の努力ではどうしようもないもん。
よしっ!覚悟を決めてお願いしてみよう!
「あの…。思いどうりの肉体。って代償はどれくらいなの?」
あっ、お兄ちゃんコーヒー入れてるんだ。
キッチンからリビングに香ばしい香りが漂ってくる。
顔を見せずに、声だけが返ってくる?
「そうだなぁ、場所にもよるな。子宮とか、脳みそみたいに能力が必要なところ。
顔とか、肌の色とか外見のみに関係するところか…。それがどうした?」
い、いうのよ、ミカ。
2人の仲を進展させるんだから!
「あのね…。…ねを……して欲しいの。」
コーヒーカップをもったお兄ちゃんがキッチンから出てきた。
「なんだって?いつもの無駄な大声はどうしたんだ?」
恥ずかしい。だから、勢いがあるうちに言っちゃいたかったのに。
もう、思いつく方法はこれしかないもの、頑張るのよ、ミカ!
「ミカの胸を大きくして欲しいの!!!!!」
ゴトン。
「………なんだって?!!!」
「きゃぁあ、おにーちゃん、コーヒー、コーヒー。足にかかってるよぉ!」
「うわっ、熱ぃ!それより、ミカ!なんでそんなこと言い出したんだ。…もしや、、安永に…。
安永とは、そ。そういう、関係なのか?」
「えーっとぉ…。」
うわ、舌噛みそう。
肩をつかまれて前後に振られる。
「答えなさい。ミカ!おまえ、いつ、いつ、処女を安永に…。」
ちょっと、くるしいよぉ。
それに、早とちりしすぎだよ。
そうだったらこんな、お願いするもんか!
「まだ!!まだなの。1年以上付き合ってるのに、安永君キスしかしてくれないんだもん!!!!」
大きな声で口に出すと、急に実感わいて悲しくなってきた。
「きっと、ミカが貧乳だから嫌いになっちゃったんだぁぁぁあ!!うぇええぇぇ〜んん!」
もうそれから中居家は、大パニックだった。
□ □ □昨日の騒ぎは収まらないまま朝を迎えてしまった。
なによ。お兄ちゃんがケチなのよ。
今朝もミカが、朝ご飯をわざわざ!作って仲直りしてあげようと思ってたのに、
呼んでも起きてこないんだもん。
もう、知らない!
一人でご飯食べちゃうもん!
ピンポーン♪
あ、いけない、安永君がお迎えに来てくれたんだ。急がなきゃ。
ドタドタバタバタ、、ドタン!!!!
「ミカ!!今来たのは、安永か!!?俺が一言釘をさしてやる。呼んで来い!」
なにを言ってるんだか。
昨日でもう懲りたよ。お兄ちゃんに相談したのは失敗だった。
それに、階段でこけたのか足を痛そうにプラプラさせながら言ったって説得力ないのよ。
「イヤよ。どうせ、ミカに手を出したら命はないと思え!とかいって脅すんでしょう。」
「あたりまえだ!!どこに、どうか妹を襲ってくださいなんて頼む兄がいるんだ!」
あー、もう、めんどくさい。
玄関の扉を開ければ、愛しの安永君がいるっていうのに…。
「どこまでついてくるつもりかは知らないけど。
…靴下は左右ばらばらだし、シャツのボタン段違いだよ。
あと、顔。絵の具がついてる。それじゃ、なにを言われても説得力ないなぁ。」
これだけ言えば、時間が稼げるでしょう。
お兄ちゃんがあちこち確かめている間に、学校行っちゃおう。
「ミカ、どこに絵の具がついてるんだ!ウソついたな。ちょっと待て!
おい、まっすぐ帰ってくるんだぞ!安永の家には近寄るなよ!!」
何かわめいているけど、しーらない。
「いってきまーす!!」□ □ □
今日も安永君は、かっこよかった。
成績もトップクラス。
サッカー部でもMFとして大活躍。
そして何より、彼女一筋。
クラスの女の子達からは、どうしてミカなの?!
って羨ましがられてる。
確かに、自分でもそう思うことは時々あった。
安永君に告白されたときも、本当に夢みたいで信じられなかったもん。
頑張れば、思いは伝わるんだってすごく嬉しかった。
だけど…。
最近、ますます不安になる。
本当は安永君、私のこと好きじゃないんじゃないかって。
女の子たちにキャーキャー言われるのがめんどくさいから、
私を隠れ蓑にしているのかも知れないって。
やさしいし、2人きりのときはそれなりにふざけたりするんだけど、
どんなにいい雰囲気になっても、キスしかしてくれない。
本当は、不安で爆発しそうなんだよ。
安永君の家はいつも、人がいない。
お父さんは社長さんでいつもあちこちを飛び回っているから。
お母さんは、小さいときに亡くなっているから。
ほとんど毎日、遊びに行っても嫌がらないし、むしろ喜んでくれる。
それなのに、何にもしてくれないのはなんで?!
やっぱり、私のことそんなに好きじゃなのかなぁ…。□ □ □
いつものように帰り道。
安永君がクラブをしている間は、私の勉強時間。
安永君と同じ学校に通いたい一心で入ったこの高校は、成績別のクラス。
つまり、勉強を怠ると、すぐに離れ離れになっちゃうの。
我ながら、すごい執念。
こんなに好きになる人は彼以外にいない気がする。
だから、全部見せて欲しいし、全部知って欲しいのに…。
「ねぇ、今日もおうちに遊びに行っていい?」
そうよ、今日こそ、安永君の本心を確かめるのよ!
「俺は嬉しいけど、いいの?中居。ココのところ毎日じゃん。苑生さん、心配しない?」
「いいのよ、お兄ちゃんも妹離れしなきゃいけないんだから!ね、それより、晩御飯なにが食べたい?」
「そうだなぁ、ミカの料理なら何でも、いいよ。」
周りを確かめてから、繋いだ手をポケットに入れる。
相変わらず、人前では名前呼んでくれないんだから。
さっきまで冷たかった指先が、安永君の体温でぬくもっていく。
こんな風に優しくされちゃうから、期待するんだよ。
やっぱり、私がわがままなのかなぁ。
「じゃあ、一緒にスーパー行って決めようか?」
「なんか、いいなぁ。ミカといると落ち着く。夫婦みたい。」
「もう!」
顔で笑って、心で泣いて。
夫婦だっていうなら、もっと積極的になってよぉ。
こうして、今日もまた、一日が終わってしまった。□ □ □
いつものように夕ご飯を食べた後、安永君は家まで送ってくれた。
笑顔で彼の背中を見送ったあと、玄関に入るまでに涙がポロポロ出てしまった。
安永君と2人でいると、楽しくて幸せで、暖かい。
でも、でも、ミカはそれじゃ足りないんだよ。
いつまでたっても安永君より私の気持ちの方が大きいんだろうな。
切ないなぁ。
静かに玄関を開け、部屋に入った。
こんな顔、お兄ちゃんに見せられない。絶対、安永君のことを誤解するもん。
カバンを投げ出し、ベッドに倒れこむ。
枕に顔を押し付けて、とまらない涙を流す。
あれから、どれくらいたったのだろう。
私は疲れて眠ってしまったみたい。
ベッドの端に人の気配。
優しく私の髪を撫でている。
分かっている、お兄ちゃんだ。
「なんでミカを泣かせるんだよ。俺が困るじゃないか。」
放っておいてくれていいのに。
思わず、可愛くない事を考えてしまう。
お兄ちゃんは悪魔だもん。
私の考えていることなんてお見通しだよね。
「大丈夫、ミカに魅力が無い訳ないじゃないか。なんてったって、
新進気鋭の芸術家 中居 苑生の唯一のモデルだぞ。」
そういうのを、兄バカって言うのよ。
そう思ったんだけど、なんだかすごく心が落ち着いて、また深い眠りに入っていった。
お兄ちゃんが、あんな小細工をしているとも知らないで。□ □ □
泣き疲れ、寝てしまった翌朝。
すごく照れくさかったけど、お兄ちゃんにお礼をいった。
お兄ちゃんも私の気持ちをわかってくれたみたい。
「ミカの覚悟は分かった。文句は言わないから、もう一度、安永と話をさせてくれ。」
どういう心境の変化かと、一瞬疑ってしまったけど、また喧嘩するのはいやだもん、
小さくうなづいた。
「最近、一緒に晩飯食ってなかったもんな。たまにはうちで一緒に晩飯食おう。」
その点については、私にも罪悪感がある。
本当にココのところ、安永君の家に入り浸ってたから。
「分かった。じゃあ。今日の帰りに誘ってみるよ。」
ちょうどそのとき、お迎えのチャイムが鳴った。
□ □ □
なにか気になることのある日って、時間の進み方がおかしい。
イライラしてなかなか進まないと思っていても、気づけばすでに引き返せなくなっている。
長くて短い一日が終わり、夕方がやってきた。
お昼休み、安永君を晩御飯に誘った。
そしたら、彼。妙に緊張してお土産買って行くとかいってた。
だから、私は先に家に帰って、ご飯の支度をしてる。
お兄ちゃんもお兄ちゃんで、用も無いのにキッチンをうろついてる。
「あの、家庭科が1だったミカがこれほど料理できるようになったのも、安永の為なんだよなぁ。」
なんて言って、ため息をついてる。
本当にこんな調子で今日の晩御飯どうなるんだろう…。
一抹の不安がよぎる。
携帯がなった。安永君からだ。
お兄ちゃんに聞かれたらまためんどくさそう。
料理も終わったし、部屋で話そうっと。
「あっ、ミカ?ちょっと聞きたいんだけど、苑生さんって、ワインと日本酒どっちが好き?」
電話ごしでわかるほど、緊張してるみたい。
「うーん。どちらかといえばワインかなぁ?…うん。赤。
、、ねぇ、いいんだよ、ほんとにそんな気を使わなくて。」
「そんなわけにはいかないよ。ミカの家族に好印象もってもらいたいし。」
本当に、まじめなんだから。
そんなところも、好きなんだけど…。
「大丈夫だよ、お兄ちゃんも安永君のこと気に入ってるもん。」
「ほんと?ならいいんだけど。もう少ししたら着くから。じゃ、あとで。」
いいなぁ、このあとでっていうの。なんだか新鮮かも。
少し、沈んでいた気分がウキウキしてきた。
さぁ、安永君がくるまでにテーブルセッティングしようっと!
このときの私たちは、あんなことが起こるなんて信じていなかった。□ □ □
3人そろって、食卓を囲んでみると、意外にもお兄ちゃんが友好的だった。
安永君のお土産のワインをすごく喜んでた。
しかも、いつもなら私にはお酒を飲ましてくれないのに、
「もう、大人だから少しくらいいいだろ。」
とか言っちゃって、自分でグラスを準備してくる始末。
なにかたくらんでるのかなぁ、とも思ったんだけど表情に裏はなさそう。
安永君も少しずつ緊張が解けてきたみたい。
なんだか本当にほっとしたら、ワインも手伝ってすごく楽しくなってきた。
それに安永君のワイン、甘くて飲みやすいからあっという間に開けてしまった。
料理もなくなって、安永君が席を立とうとした。
その時。
ガタン!!!
「あれ、変だな?…力入らない。酔っちゃったのかな?」
もう、安永君ともあろう人が、調子に乗るなんて…。
本当に緊張してたんだ。
「お水、持ってくるね。」
ん!!?
私も立ち上がろうと思うんだけど、力が入らない。
「ヤダ、どうしたんだろう?私も酔っちゃったのかな?」
2人で微笑みあった瞬間。
視界の端に、ニヤリと笑うお兄ちゃんの顔が見えた。
まさか!!?
「2人とも迂闊だな。俺はただの優しいお兄ちゃんじゃないんだぜ。」
なに、この人、本当にお兄ちゃんなの?
ヤダ、何をする気なんだろう。
身動きが取れないでいる私のところまでくると、
安永君の方を向いて顔を歪めて舌なめずりをした。□ □ □
「なぁ、知ってるか?ミカのヤツ。おまえが抱いてくれないからヤキモキしてるんだぜ。」
なんてこと言うの!恥ずかしさのあまり全身が熱くなる。
「それも、俺が大事に楽しみに取っておいた処女をおまえなんかにやるって言うんだよ。」
もう、何がなんだかわからない。
とにかく恥ずかしくて、怖くて、逃げ出したいのに体が言うことを聞かない。
安永君に顔を見られたくなくて、必至にそむけようとするんだけどそれすら出来ない。
「なぁ、いいだろ?1回目だけ俺に譲ってくれよ。これまでの養育費だよ。」
「…ふざけるのもいいかげんにしてください!!僕が気に入らないなら、はっきりそう言えばいい!!」
安永君、本当に怒ってる。
「ふざけてなんかないさー、昨日も可愛がってやろうと思ったのに最後までするのはヤダってミカが泣くからさぁ。なら、安永君の了承をとればいいのかなぁと思ってな。」
うそ、うそ、うそ!!!
何でそんな事いうの。
安永君、すごくショックを受けてる。
「そんな、ウソ信じられねーよ!ミカはそんなヤツじゃない!」
冷たい手が、首筋を這った。
「うぅぅん!!」思わず、息をのむ。
「仕方ないな、ミカって実はすごく淫乱なんだぜ。そりゃあもう、悪魔好みの。…昨日の証拠を見せてやるよ。」
ヤダ、何?そんな証拠なんてあるわけないのに?!叫びたいのに声が出ない。
キャンバスナイフを持ち出すと、カットソーを引き裂く。
「…ミカ、本当なのか…?」
なんで、そんなことあるわけないのに…。
私の体には艶かしい痣が無数についている。なんなの、これ?!
「えらいんだぜぇ、ミカ。あんなに感じてるのに、最後だけはどうしても安永君がいいんだって我慢するんだ。」
騙されないで、これはウソ。ウソなの。
「…でも、俺が我慢の限界。お前が煮え切らないのが悪いんだからな。…それじゃ、いただきまぁす。」
お兄ちゃんの指が、まとめていた髪を解く。
キャンバスナイフが、ブラを切り裂いた。□ □ □
今、目の前にいる人とは似ても似つかない昨日までのお兄ちゃんを走馬灯のように思い出す。
心の中は、恐怖と、悲しさと、恥ずかしさと、怒りでグシャグシャ。
冷たい手に触られると、嫌悪感が全身に走る。
決壊が壊れたかのように涙があふれつづける。
安永君、助けて!助けて!助けて!!!
「ミカを放せ!!!変態!!!」
目の前には安永君。お兄ちゃんを殴り飛ばしていた。
「お前それでも兄貴かよ!いくら血が繋がってなくても…お前、兄貴なんだろぉ!ミカの自慢の!」
お兄ちゃんにのしかかって、殴りつけてる。
不意を突かれてお兄ちゃんは反撃できないみたい。
「よぉし!!合格!」
このど修羅場に響き渡るほどの大声で、お兄ちゃんが叫んだ。
安永君の手も、私の涙も突然のことに止まってしまった。
ぽかんとする2人をよそに、お兄ちゃんは説明をはじめる。
「最初に言っておくけど、安永。ミカが悩んでいたのは本当だ。」
「お兄ちゃん!!!!」
「まぁ、チョビッとやりすぎたかもしれんがミカは俺の大事な妹だからな。なにがあっても守れるような男じゃないと、任せられん。」
いけしゃあしゃあと、何をえらそうに言ってるのよ!
「それと、安永がモタモタしてたら、他のヤツに盗られるぞと、教えてやろうと思ってな。
なんと言っても、ミカの子悪魔的魅力は絶大だ。」
それが、こんなにひどいことをされた理由?
「あと、よく言うだろ、娘を嫁に出す前に一発殴らせろって。お前らのこと、認めてやる代わりの嫌がらせだ。やりすぎた分のおつりは、さっきの安永のパンチだな。」
なによ!一体、どうなってるの?
「じゃ、俺は今日から週明けまで、里帰りしてくるから、お二人さんはごゆっくり。」□ □ □
嵐のようにまくしたて、お兄ちゃんは部屋から出て行った。
クチュンっ!!
どれくらいたったのか、わからない。
上半身ほとんど裸の私は、自分のクシャミで我に返った。
安永君も、おんなじみたい。
目が合ったとたん、安永君の顔が染まる。
「ごめん!!」
自分の姿を思い出して、一気に頭に血が上る。
破かれたカットソーをあわせようとしても、まだ力が入らない。
「…あのぉ。安永君。すごく、頼みにくいんだけど…。上着、着せて欲しいの。あの、力、入んなくて…。」
本当はこんなこと、頼みたくない。
お兄ちゃんにつけられた痣なんか…痣なんか…?………消えてる。
こちらを見ないように近づいてきた安永君は、そっと自分のジャケットをかけてくれた。
「ありがと。」
上目遣いに見上げると、
ぎゅうぅぅっと抱きしめてくれた。
「何で、悩んでること俺に言わないんだよ!そりゃあ、お兄さんよりは頼りないかもしれないけど…。
俺の我慢は水の泡じゃん。必死で耐えてたのに。」
「呆れないの?Hなヤツって。ミカのこと、本当はそんなに好きじゃないんじゃないの?」
不思議。
頭をイイコイイコされるなんて何度も、お兄ちゃんにされてたのに、
安永君の手だと、すごく気持ちいい。
「世界で一番大切だよ。壊しそうで、怖くて、毎日我慢するの大変だったんだからな。」
信じられない。そんな素振りぜんぜん見せなかったのに…。
「たしか、お兄さん。週明けまで帰ってこないって言ったよな?」
「そうだけど…。どうするの?」
「かなり無理矢理だけど、こんなにお膳立てされてて我慢できると思う?」
それって、つまり…。
考えがまとまる前に、私はソファに運ばれちゃった。□ □ □
「ねぇ、ミカ。さっきの苑生さんの言ってたことウソだよね?」
これ以上振れませんっていうくらい、首を縦に振る。
「ただ…思い余って、相談しちゃっただけ…。ミカが貧乳だから、その気になれないの?って。」
「そんな訳、ないじゃないか!」
「ほんとに?」
なんだか、すごくほっとした。
「まだ、体動かないの?俺、薬切れるまで待てないんだけど…。」
言うが早いか、首筋にキスされる。
「あん!ね、優しくしてね。」
答える代わりに、唇をふさがれちゃった。
今までしたことないような、荒々しいキス。
「ミカずるいよ。可愛すぎ。」
花びらを一枚ずつはがすように上半身の衣類がとられてく。
全部、取り除かれるとくっつきそうなくらい、顔を近づけて眺めてる。
「ねぇ、ミカ。さっきのキスマークなんだったの?」
ツンツンしながら、どこにも痣がないのを確かめてる。
やだ、恥ずかしいよ。
声、出ちゃいそう。
「ほんとに一つも無いや。あれ?なんだったの?」
「…わかんないよぉ。そんなの。…そんなに、見ないでぇ。」
さっきまで見られていたところを、安永君の手が触ってる。
「じゃ、俺がはじめてキスマークつけるのかなぁ?」
小さな胸の間に、バラの花びらみたいに大きな痣。
「これでミカは俺の。」
キスマークをつける間に、安永君の髪が膨らみに触れる。
たったそれだけの刺激で、すごく気持ちいい。
「可愛いなぁ。ミカの胸。すごく感度いいみたい。」
「ヤ…。ソン、な。わかん…な…。」
胸への刺激で、意識が遠くに行っちゃいそう。
なのに、安永君の手がショーツの上からスリットをなで上げた。
強い快感で、引き戻されちゃう。
胸を舌と手のひらでいじられ、さらに直にスリットをなで上げられる。
やだ、私だけ気持ちいいの。
安永君も気持ちよくしてあげたい。
「も、、、来て。大…じょぅ・・ぶ…ふぁぁん。」
ゆっくり頷くと、安永君がショーツに手をかける。
足を開かれて、恥ずかしいところを見られてると思うと、すごく恥ずかしい。
でも、きれいだよ。って言ってくれたから、何をされても許せるって思っちゃった。
熱いものが入り口に当たる。
クチュリ。
何かがすべる感触。
それが何かわかると、もっとあそこが濡れてきた気がする。
もう一回、熱いものが当たる。
今度はゆっくり、入り口を少しずつ押し広げていく。
痛い。熱い。怖い。
「安永…君!…キス…キ…スしてぇ。」
不安を紛らわせるように叫ぶと、快感をこらえながらミカに答えてくれる。
唇をはずすと、小さなふくらみを刺激しながら、前後に動く。
重苦しい痛みと、ジンジンする快感。
やっと、安永君の全てを感じられた喜びが全身を駆け抜ける。
意識を投げ出した瞬間。
体の中で、安永君が弾けるのを感じた。□ □ □
エピローグ
休日が終わり、お兄ちゃんが帰ってきた。
さすがのミカも今回顔を合わせるのは、照れくさい。
だって、保護者公認でHしちゃったんだもん。
でも、私のことを思ってしてくれたんだよね。
アトリエまでその、一応、報告にいくとキャンバスの準備をしてた。
「ほら、記念に絵を書いてやるよ。幸せいっぱいの顔。モナリザが引きつって逃げ出すくらい綺麗に。」
やっぱり、お兄ちゃんは兄バカだよ。
どこにいても、誰と結婚しても、きっとミカはブラコン脱却できないよ。
育てて貰った代償に、ずぅっと付きまとってあげるね、お兄ちゃん。
―the end―