『鋼十郎×三津子(咲十子ママ)2』by木登りブタさん


□ □ □

「さすが、三津子さん。クククっ。本当はヤラれそうで怖いのに、強がるんだもんな。」
今の事態がまるで飲み込めない。
「いっくら本性を知られたからって、犯罪はしないよ。からかっただけ。」
相変わらず、涙は止まらない。
「さっきの仕返しだよ。あぁ、三津子さんがキレて俺に、いろいろ言ったことじゃないよ。まぁ、多少はそれもあるんだけど。実は俺、さっきの酔っ払ったふり見抜けなかったんだよね。それで、軽くプライドが傷ついちゃってさ。」
彼の言葉を必死に噛み砕いて理解しようとする。
それでも恐怖に縛られた思考は上手く働かない。
「これで、おあいこだろ?お互いに騙された、ってことで。」
彼が私の自由を奪っていたネクタイを解く。
それと同時に、私の思考も恐怖から解かれていく。
恐怖の次に現れた感情は安堵。
イヤだ、こんなヤツの前で泣きたくない。
そう思うのに、自然と嗚咽が漏れ始める。
クッションで殴りつける。
何度も、何度も。
「なに?今度は被害者のフリ?経験が多いと演技にも幅があるね。」
悔しい。自分が手玉に取るつもりだったのに。
「いくら、私でも、こんなことされたことないわ!本当に怖かったのよ。…怖かった。」
泣きじゃくりながらも、クッションを振りおろしつづける。
しばらく、無言のまま彼はクッションを受け止めていた。
「もう、気分はすんだ?」
そういうと、私の手首を掴み、そして抱き寄せた。
泣きすぎて頭がクラクラしている私はバランスを崩し、彼の胸に倒れこんだ。
押し戻そうとするまもなく、きつく抱きしめられる。
朦朧としている頭が、あの日と同じ匂いを思い出す。
抱きしめられている、背中が、あの日のぬくもりを思い出す。
鋼十郎は小さい子をあやすように、背中をたたく。
「あーぁ、こんなに泣きつづけたの、この家にきた日以来だろ?
これじゃ明日の朝顔がはれるぞ。ほんとに、涙腺壊れてんじゃないの?」
誰のせいだと思ってるの。そう思っても言葉にできない。
涙は今も鋼十郎のシャツに新しい染みを作っている。
「これじゃ「夢」にならね―よ。あんたが言ってた、ワインの見せた夢。」
乱暴な言葉とは裏腹に、優しい手。
「絶対の自信を打ち砕かれた俺と、本気で怖い思いをしたあんたっていう悪夢。」
私の嗚咽も徐々に収まろうとしている。
「対等のダメージだと思ったんだけどなぁ…。あんた、俺が思ってたより、ずっと弱いんだもん。」
「……………。」
「……悪かった。やりすぎたよ。」
なんてひどい男。
私から逃げ道まで奪ってしまうのね。
最後まで嫌なヤツでいてくれたら良かったのに。
最後まで自分勝手で利己的な男でいてくれたら良かったのに。
もう、憎むことも出来ない。
ぼんやりした頭で考える。
開けてはいけない、パンドラの箱に最後に残ったのは希望だった。
私が開けた箱には、ぶっきらぼうな優しさが入っていたのかもしれない。と。
「な、三津子さん、これで懲りただろう?人って全部知ってるつもりでも、ほんの一部しか分かってないんだ。あんたが周りのヤツを信じてるって言うなら、全部見せてやらねぇと。」
それを知っていながらどうして、誰とも分かり合えないなんて言うの?
本当は、あなたも私も同じ。
誰かに本当の自分を見せたかったんじゃないの?

□ □ □

「……あなたは、本性を見せる人いるの?」
彼は一つ、ため息をついて続けた。
「俺は、人を信じていないからな。九鉄も知らないんじゃないかな?もう、ガキのころからあんな感じだったし。三津子さんくらいじゃないかな?」
「…そうなの。」
そんなに長い間、自分のことを偽っていたの。
きっと彼のさっきの行動も私と同じだったんだ。
自分の心を触れられるのが怖くて、必死で相手を傷つけようとしていた。
彼の腕が緩んで出来た隙間から、腕を伸ばし、彼がしてくれたように背中をたたく。
彼が私のつむじにあたるように、顔を乗せる。
「きっと俺、共犯者を探してたんだろうな。偽りの俺に気づく位、切れ者の。ねぇ、三津子さん。」
「…なに?」
優しく頬を包まれ、上を向かされる。
そこにあるのは、はじめてみる寂しそうな微笑。
「共犯者になってよ。ワインの見せる夢を見る。…俺、そろそろ息継ぎしないと、溺れそうなんだ。」
「…反則よ。そんなの。」
まぶたの上に、キス。
頭の片隅で、いけないことだと警鐘がなる。
優しく降り続くキスの雨。
頭の中では必死にブレーキをかけようとしている。
でも、体は、私の手は、彼の頬へと引き寄せられる。
孤独で乾ききっていた、私の心が、彼のキスでよみがえる。
でも、いけない。流されては。
分かっているのに、とまれない。
彼の唇を私のそれで受け止めたとき。
ワインとタバコの香りを感じた。
頭がしびれる。
さっきまでの酔いが戻ってくる。理性がかき消される。
深いキスを交わして、大きく息を吸う。
―まるで、水中から出てきたときのように。
知っていた。本当は私にも息継ぎが必要だということを。
だからこそ、その苦しさに耐えようと思っていた。
愛すべき人たちを、自分は騙しているのだから…。
どうしても、彼らには本当の自分を見せられないのだから…。

□ □ □

「…一緒に、夢をみようよ。」
私の肩に額を乗せ、ささやく彼。
言葉の代わりにつむじにキスをする。
「でも、いいの?私はあなたの守備範囲からかなり外れてると思うんだけど。」
ベッドに倒れこみながらお互いの服を脱がせる。
「人って、完璧な人間だと疑うから…。作ってるんじゃないかってね。だから、わざとだよ。」
「どうだか?フェイクには見えなかったけど…。」
二人の間には、もう共犯者の空気が流れ始める。
「三津子さんこそ、いいの?付き合ってるヤツいるんじゃないの?」
ほら、バンザイして、なんて言ってる。
「そんなこと、人の服を脱がせながら聞くことかしら?」
セーターとスリップを一緒に脱がされ、肌が現れる。
「本音を見せるに値する男がいなかったのよ。」
彼のシャツのボタンをはずし、アンダーウェアをめくる。
「こんなにきれいなのに、もったいない。」
彼の手がスカートを引き抜く。
私はベルトをはずす。
あぁ、もうだめ。作業に集中できない。
「キスしてよ。もう、…溺れそうよ。」
肌に当たりそうで当たらなかった彼の手の感触を思い描いて、
私の体には、火がついてしまった。
もう、何もかもがもどかしい。
お互いをむさぼるように口付けすると、
世界は私たち2人だけになった。
そう、ワインの見せる夢に堕ちていった。
 

□ □ □
さっきまでとはまるで違う優しい彼の手。
背中を這う彼の手は、暖かい。
いつのまにか、下着を脱がされてる。
まだ足りない、もっと欲しい。
私の手は彼の頭を掴んで放さない。
手首をつかまれ、それを唇に運ばれる。
「赤くなってる。俺のせいだな。」
優しくキス。
指先に向かってまた、キスの雨が降る。
もどかしい快感に、かえって体の熱が上がる。
「んっ。」
恥ずかしい。もう、こんなに感じてるなんて、、。
「三津子、かわいい。」
彼は、私の人差し指をくわえて軽く噛んだり舐めたりを繰り返す。
「やばいな、ゆっくり楽しむつもりなのに。色気出しすぎだよ。」
彼の手が、私の胸に触れる。
強弱をつけて揉みしだかれるうちに、快感の波が襲ってくる。
首筋にキスを受けると、声にならないため息が漏れる。
「ぁあ…・。だめよ…。痕ついちゃ…う…ぅん。」
どこにも証拠を残してはいけない。
一度の夢で終わらせなければ。
「だめだよ、契約には印鑑押さないと。」
必死で彼の顔を引き離す。
「しょうがないな。じゃあ、三津子からも見えないところならいいだろ?」
彼の手が、私の腰に走る。
くるり。
気づくと私はうつぶせにされていた。
触れるか触れないかのところで撫でていく暖かな手。
さっき自分の想像していた感触がよみがえる。
顔の見える体制に戻ろうとするが、
彼が私の両足をまたいで座っているので、必死に首をねじるしかない。
なにをしようとしているのか確かめようと、覗き込むと、、
いたづらっぽい上目遣いの彼と目が合った。
「ねぇ、知ってた?三津子ってこんなところに黒子あるんだよ。」
わざと見えないところにキスをする。
そのまま舌を這わしだす。
さっきまでの暖かだった手の感触とは明らかに違う、湿った感触。
体がビクンとこわばる。
「ねぇ、こっち見てよ。どこなら印つけていいの?」
さっきと同じように振り向く。
目の前に広がるのは、悪戯をする子供のように笑顔を浮かべ、
私の背中を舐める、鋼十郎。
その光景に羞恥心が刺激され、頭がクラクラしそう。
「ふぅぅあ……ん。あん、…あぁ…ん。」
振り返るためにできたベッドとの隙間から彼の手が浸入していた。
「隙あり。…こっちも中途半端で欲しかったでしょ?」
先ほどあまり触られなかったせいか、先端の蕾を重点的に攻められると、
痛みにも近いくらいの快感が背中に走る。
その快感を追うように、這い回る鋼十郎の舌。
もう、後ろを振り向くなんて出来ない。
体の奥が熱い。
「返事がもらえないんじゃ、ここにはつけられないな。じゃあ、こっちは?」
彼の手がおしりにのびる。
徐々に、太もも、ひざ、ふくらはぎ、踵、と撫でていく。
舌で足とおしりの境界線を重点的に刺激してくる。
それでも、肝心のところは触ってくれない。
濡れているのが、 自分でもわかる。
「それにしても、三津子のおしり、おいしそうだな。…よし、ココにしよう。」
カリリと、硬いものが当たる感触。
続いてキスの感覚。
「よし。いい出来。ねぇ?捨て印はどこにする?」
嫌なヤツ。
我慢できなくなりそうなのに。
「ココにしようか?」
膝の裏から、太ももの内側に舌が這う。
まだ、触ってくれない。
近くまでくるだけで、焦らして楽しんでる。
「ねぇ、印つけづらいからさ、ちょっと上げてくれない?」
なんてこというの?そんなことできない。
本当はもっと刺激が、快感が欲しいのに羞恥心がブレーキをかける。
戸惑っていると、また、触りそうで触らないという愛撫を繰り返す
きっと与えられるであろう快感を予感して私の秘所は蠢いている。
もうダメ、我慢できない。
ゆっくりと腰を上げていく。
「お願い…。焦らさないで…。」
焦らされて溢れ出した蜜が足を伝う。
それを舐めとる感覚。
そして、入り口の近くにキスの感覚。
それだけで意識を飛ばしてしまいそうになる。
「じゃあ、契約成立ということで。」
彼の少し上ずった声が聞こえる。
熱いものが入り口に当たる。
ゆっくり浸入してくる。
息が詰まる。
苦しいような圧迫感。
「すごっ。三津子、絞めすぎ…。」
全部、入ったと思うとすぐに彼が動き出す。
さっきまでとは比べ物にならない快感。
部屋に響く水音。
自分の出している声。
彼の動きでぶれる風景。
全てが頭の中で渦巻いている。
渦のスピードが徐々に上がる。
「こ、鋼十郎ぉ。…もぉ、…イっっちゃうぅ。」
「俺も、…ヤバイ。」
一番奥に、彼の分身を感じた瞬間。
目の前の風景は、白いフラッシュとともに消えた。

□ □ □

少し時間がたち、視界が戻ってきた。
まだ2人とも息は弾んでいる。
一度、快感に支配された体は重く感じられる。
それでも、また2人は唇を重ねた。
快感が過ぎ去ってしまうと、一気に罪悪感に囚われそうだから。
少し、茶化して彼の胸に体を乗せる。
「今度は、私が調印する番ね。」
ついばむように軽くキス。
「どうぞ、お好きなところへ。」
ワインの効能はまだまだ途切れそうになかった。

□ □ □

一夜だけの夢だと思っていた。
それまでと変わらない役割を演じつづけていた。
ただ、あの夜、無数に付け合った印が薄れていくと、
寂しさと息苦しさで胸がいっぱいになった。
何度、スーツの背中に抱きつこうとしただろうか。
何度、あの手を思い出しただろうか。
何度、あのワインとタバコの香りを思い浮かべただろうか。
ついに、最後の痣が消えてしまった。
その日。
あの夜と同じワインを飲めば、ワインがあの夜のことを見せてくれるかも知れない。
そんな小さな思い出しかあの夜をつなぐものはなかった。
それなのに、地下にある広いワインセラーの中、それは待っていた。
同じ銘柄のワインのビンの下に挟まれていた、小さな紙。
『こちらの不手際で、契約書を紛失してしまいました。この失態をお許しいただき、
また、共同作業をしていただけるなら、10日にコンチネンタルホテル、3250号室にいらしてください。
お許しがいただけるまでいつまでも待っています。』
こうして、私と彼の新たな関係が始まった。
―the end―
 


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