健三×晴海2 671さん




「…奥君と…」
「才蔵?」
心臓の音でうるさい中、静寂と緊張を破ったのは、あまりに突飛な名前だった。
何故そこで才蔵が?
まさか晴海、才蔵が…?
聞き返すと、くすっと笑って、言い直す。
「しの姫が、でもいいのだけど。
あの二人、仲がいいわよね?」
「そ、そうだね」
よかった、違った。
もし晴海が才蔵を好きだったとしたら、ぼくも悲しいけど、晴海も悲しい。
どうあっても、才蔵はしの姫以外を好きになることは出来ない、そんな気がして。
報われぬ想いの苦しさは、ここ数年味わってきたぼくにとって、想像するに容易いから。
この人が、そんな思いをすることがなくてよかったと思ってから、「ぼくもよかった」と呟いた。
「何がよかったの?」
「あ、いや、なんでもないなんでもない」
「………。ちょっと前だけど…しの姫と奥君が、長く休んでいたでしょう?
あの間に…憶測だけど、二人に何かしらの転機があったんじゃないかって思ったの。
だってしの姫が、あんなに優しく笑うの、初めて見たから…」
最後の辺りが、独り言のようになっていて、晴海もそれに気がついたようで。
はっとぼくを見て、付け加えた。
「…登校してきた日に、どこか空気が違うと感じたわ。
それまでの、透明な、居るのが当たり前のような関係から、暖かい光のような関係に見えた。
不思議に思って、どうしたかって聞いたの。そしたらしの姫、何て言ったと思う?」
「…わかんない」
「微笑みながら…「水の泡ですって」って言ったの。
くすくす笑いながら、何度も呟いてた。
よく意味が分からなかったけど、その笑顔で…あぁ、人に、心から安らげる場所というものがあるとするのなら、
しの姫はそれを見つけたんだろうなって。
そして、多分それはきっと、奥君なんだろうって」
思ったのよ、と微笑んだ。
だけど、その笑顔は…彼女が話している、「安らかな」ものとは全く違っていて。
悲しみを堪えた、儚いもので。
「ここ最近、ずっとそれについて考えてた。
ガラにもないかも、しれないけど…私にも、そんな相手が居るだろうか。
安心して、全てを任せられる人が、いるだろうか。
考えたら寂しくなった。言い切れないから。
だけど誰に言うことも出来ないし、外には出さないようにしていたのだけど…」
「限界に達したのが、昨日だったってわけだ…」
小さく頷く。
ガラにもなく、とか、言い切れない、とか、ぼくからしたらとんでもない台詞だ。
まさか晴海がそんなことを考えていただなんて。
目頭が熱くなった。
気付けなくてごめん。
頼りにならなくて、ごめん。
「健三が心配してくれたのは分かった。
それなのに、言葉にはできなかった。
もし、健三が困ってしまったら?
あなたは優しいから、笑い飛ばしたりはしないだろうけれど、
考えても仕方がないことを相談して、悩ませたら…。
それが怖くて、言えなかったの。
それが悲しくて、気付いたら、涙が出てた…」
ぼくの手を握っている指に、力が入る。
「でも、それはすぐに止まったの。
今じゃなくても、いつか私にも、そんな人が現れてくれるかもしれないし。
問題は、その時、あなたには?…って思ってしまったことだった。
健三には、そんな誰か、が居るんだろうか。
考えた途端、何故だか、本当にわからないけど、引いてた涙が、また溢れてきて…今度は、止まらなかった」
小さく、震えているのが分かる。
安心させるように、ぼくも柔らかく握り返した。
どうして?と尋ねたかったけれど、続いた言葉がそれを遮る。
「…朝になって、何とか気持ちが落ち着いて、さて学校へ行こうかって時に、今度はあなたが落ち込んでるじゃない。
あなたに元気がないと、私もなんだか元気が出なくて。
それで、授業中に考えた。
もしあなたに、何か悲しいことがあった時に、それを打ち明けたり心を安んじたりすることが出来る人が、まだいないのだとしたら。
私がそうあれたら…そんな存在になれたら、って思ったのね。
だから帰り、あんなに食い下がっちゃって…話してくれないことに、正直苛立った。
だけど、別に何か特別な関係でもないのに、ただの姉弟なのに、干渉しすぎだったわよね。
言われて気付いたの。
あなたが怒ったところなんて、はじめて見たから…」
今は反省してるの、と笑う。
ごめんね、と言う。
…違う、そうじゃない。
伝えなければならない言葉が、どうしても出てこない。
晴海の顔がぼやける。涙が出そう。
でもだめだ、今は、ぼくは泣いちゃいけない。
いつまでも、涙をぬぐってもらう弟のままじゃ、いけない。
声にならない言葉の代わりに、ベッドから立ち上がって。
指をほどいて、背に手を回して、抱きしめた。
肩に額を押し付けて、ふるふると首を振る。
「け、健三っ?」
すぐそばから聞こえる声が、耳をくすぐる。
好きなのに、こんなに好きなのに、どうして隠していられると思ったろう。
ぽんぽん、と頭を撫でられて、心と声を縛っていた紐がほどけていく。
もう大丈夫だ。
かがんだままでは辛いので、名残惜しくも身体を離す。少し赤い顔で見上げてくる目を、すっと見据えて、深呼吸。
「おれは…」
同じ理由で悩んでた。
互いに遠慮して、相手の領域に踏み込めずに居たから。
ぼくが、一歩でもいい、足を踏み入れることが出来たら。
「…ぼくは。晴海がそう言う存在になってくれたら良いと思う。
それに…。
ぼくも、晴海にとってそんな存在になりたい」
なれたら、じゃなくて、なりたい。
「それって…?」
「…ぼく、晴海が好きなんだ」
―――言ってしまった、とは思わなかった。
伝えたくて、言葉にしたから。
もう一度、謝った時と同じように、手を引きよせた。
温かかった指先が、今はとても熱い。
そのことに、喜んでもいいだろうか。
例えぼくのこの気持ちが、晴海を困らせてしまったとしても。
「…健三…」
ごめんなさい、と続くかな。
もしかしたら、詰られるかもしれない。
心なしか震えていたような気がする、そんな声に続く二の句を、祈るような気持ちで待つ。
「――――…隣…に……、行きましょう」
予想していた言葉とは、どれとも違っていた。
隣?
…隣の部屋ってことは…もしかして…?
「…それって…」
思わず立ち上がってしまう。
てのひらが熱い。いや、もう身体中が熱い気がする。
「何もないとは、言い切れないよ…?」
忠告はしたんだ、だってぼくだって年頃なんだ。
好きな人と一緒に寝て、何もしないと約束することは、どれほど難しいか計り知れない。
やましい気持ちと理性がせめぎあって、熱を生じている。
燃えるように熱いぼくの指を、晴海が両手で握り返した。
「…何があっても、大丈夫だと思える気持ちを――――――あなたに預けてもいいかしら」
向けられた笑顔に。
ついに堰をきった涙が、溢れてとまらなかった。

+ + + +

二つ並べて敷いた布団の上で、向かい合って、互いの服を脱がせることに。
まずは晴海から。ぼくの首元に、細い指が伸びる。
小さい頃は、ボタン掛けもボタン外しもうまくできなくて、べそをかいては晴海にやってもらっていた。
「いい加減一人で出来るようになりなさいよ」と言いながら、
ぼくの胸元を軽やかに行き来する晴海の指先を、なんだか不思議な気持ちで見ていたものだった。
今は、震える指が、服がはだけるたびにぴくりと動くことに、胸が熱くなる。
ノドの奥から何かが出かけて、でも静かに見守っていたくもあって、口は開いたり閉じたり忙しかった。
「…なにか、言いたいの?」
そんなぼくの様子に気付いたか、丁度全てのボタンを外したところで晴海がぼくの顔を覗き込む。
相変わらず眉は吊りあがって、しかめ面でぼくを見てる。
いつも見ている顔なのに、とても可愛く感じてしまって、閉じかけた口を開いてにこりと笑った。
「や…、なんだか、ドキドキするね」
言うんじゃなかった。
口に出してしまってから、ぼくの顔も晴海の顔も仲良く真っ赤になってしまった。
晴海はいいにしても、ぼくなんか自分で言った言葉に自分で赤面している。
恥ずかしい。
あはは、と照れ隠しに苦笑いするぼくのあたまを、晴海は照れ隠しで小突いた。
「一々言わないでよろしい」
ちょっと声が上ずってた気がする。晴海はそのまま、はぁ、とため息をついてうつむいてしまった。
まだ上はボタンが外れただけで、完全に脱げてはいないのだけれど。
無理強いはよくないよね、と諦め、今度はぼくが、薄ピンクのパジャマに手を伸ばす。
「…!」
小さな肩がびくっと揺れた。
可愛い。
白い小さなボタンに指をかけると、ぼくもまた震えているのが分かった。
ありゃ、と苦笑しながら、一つ一つ外していく。
だんだん見えてくる白い肌が、何故だろう、見たことがないわけでもないのに初めて目にしたような気持ちになる。
隙間からのぞくふくらみを確認した瞬間、ぱっと顔に火がついた。
本当、本当、初めて見るわけじゃ全然ないのに。
顔が燃えそうに熱くて、思わず目をそらした。
今からこんなに興奮してどうするんだ!一生懸命自分に言い聞かせる。
落ち着かない指は、ぼくも同じだ。
ならば晴海は、ぼくのこんな姿を見て、何を感じているだろう。
晴海も、ぼくと同じように、苦しいくらい胸のうちを震わせているだろうか…。
ふと目線をずらすと、わずかに口の端の上がっているのがわかった。
「…上手になったわね」
「な、何年前の話…」
空気中に、ぴんと張っていた一本の糸がぷつりと切れた。
思わず脱力して、どちらともなく笑い声が出始めた。
くすくすと二人で無邪気に笑って、また、どちらともなくちゅっと口付けた。
「ん…」
目を閉じている晴海がとっても可愛くて、なんだか焦ってしまう。
前から可愛いと思っていたのに、わかっていたのに、こんなに可愛い女の子になってるだなんて、と今更ながらに気恥ずかしくなる。
軽くついばむだけのキスを何度も繰り返して、その間にボタンを全て外すことには成功した。
手元に目をやれないために、時折ぼくの指が晴海のお腹に触れたりして、その度にはねる身体がとても愛しかった。
「…外し終わったよ」
口付けをやめて、ボタンにかけていた手を離すと、ぱち、と晴海は目を開く。
そしてぼくの目を見るやいなや、それこそボンッと音がしそうな勢いで赤面して、
前を隠そうと慌てたせいかバランスを崩してぼくに倒れ掛かってきた。
ぼくが胸に感じた柔らかい感触に言葉を失っているうちに、「ゴ、ゴメン」とさっきよりも遠く後ずさってしまった。
「…ねぇ、晴海」
「なな、何よ」
布団だけを見つめて、あくまでぼくと目を合わせようとせず、上ずった声でそれでも強気に答えるこの人が、
ぼくはどうしても好きで好きでたまらないみたいだ。
ずっとそばにいて、長いこと一緒に過ごしてきたからだろうか。
普段は空気のようにかんじていたこの愛しさが、今この瞬間に溢れて過呼吸になってしまっている。
思わずほころんでしまう口元に、それはさらに感じられた。
「これ、忘れてた」
身体を傾けて、綺麗に結んである頭の後ろに手を伸ばした。
白いリボンが、先程目にしたこの可愛い人の肌のようで、一瞬触れるのをためらってしまったけれど。
ひとりで小さくうなずいて、片端を持って引っ張ると、いともたやすくする、とほどけた。
ぱさり。
うつむく晴海の頬を、やわらかい茶色の髪が覆い隠す。
それがうっとうしいのか、晴海はすっと顔を上げた。
髪を解くと、いつものポニーテールからがらりと印象が変わるのは前からだったけど、
今はこの状況もあってか、柔らかなウェーブがとても淫らに見られた。
「健三…?」
両手がリボンを解いたままで固まっていることを不思議に思った晴海が、上目遣いにぼくの表情をうかがってきた。
なんてことを、今ぼくはとても淫猥な思考に頭がとらわれてるっていうのに。
性的なことに興味が無さそう、とかいつまでも純粋そう、とかよく言われて。
確かに、そこまでがっついた気持ちを抱くことはなかったけれど、今は違う。
とても好きな人だから、心に抑制がきかない。
もうきっと、晴海が怒っても泣いても、止めることは出来ないだろう。
「どうかしたの、ねぇ、けんぞ…、ん…っ」
宙で固まっていた手を、華奢な肩へとおろす。
ぼくの名前を呼ぼうと言うのか、開きかけた口に、自らの唇を近づけて…。
今度は、深く口付けた。


傾いだままでは辛いので、そのままゆっくりと身体を倒す。
いわゆる、ディープキスなんて、したことないけど。
ぼくの名前を呼んでくれたその唇が、あんまりに可愛らしかったので、ぺろっと舐めてから口の中へ舌を差し入れる。
驚いたのだろう、閉じられた歯列を割って、その奥にある舌を見つける。
逃げるのを、追いかけて、自らのを絡め、吸う。
棒付キャンディを舐めるみたいにして、生まれてはじめてのキスを、思う存分堪能する。
「ふぁ、ん…ッ」
ピチャピチャという小さな水音と、どちらともなく口の端から漏れる吐息が、しんとした部屋の中で響いている。
(…なんっか…スゴイ気持ちイイ…)
入り込んだ口腔はとても熱くて、心地よい。
ぱ、と瞼を開いてみると、あちらはぎゅっとかたく目を瞑っている。
だけど、はじめがちがちに硬直していた身体からは、少しずつ力が抜けてきているようで、ぼくの服の裾を握り締めていたのが、だんだんほどけていくのが分かった。
「ん、は…っ」
キスを終え、口を離すと、鼻にかかった、甘ったるい声が聞こえた。
それを間近で聞いて、おまけに舌と舌とを二人の唾液がつないでるなんて、そんなものを直視したら晴海だけじゃなく、ぼくまで真っ赤になってしまう。
ぷつりと切れた糸が、そのまま唇の端から顎にかけてはりつく。慌ててこすろうとした腕を取り、口を近づけて舐め上げれば、小さく高い声があがる。
その、いつもは聞かない甘い声を、もっと聞きたくなって。
「好きなとこ、触っていい?」
返事は、返してくれなかったけど、拒絶はされなかったんだから、いいってことにしてしまおう。
都合よく解釈したぼくは、どうやったら晴海が、またあんな声を出してくれるんだろうなんて考えながら、まずは先程目にしてユデダコになった、胸のふくらみに手を伸ばす。
「ぁっ」
声が上がったのは、中心にある飾りに指が触れた時だった。
それを確認して、ふくらみを柔らかく包みながら人差し指でこね回すと、だんだんかたく、とがってくるのがわかった。
声と一緒に、身体もきちんと反応を返してくれることが嬉しい。
そしてどんどん貪欲になる。
もっと、もっと、今まで見たこともない、聴いたこともない晴海の姿が見たくて。
身体をずらして、もう片方の手も胸元におろし、両手で両胸を刺激すると、晴海の息が上がってくるのが分かる。
どんな顔をしてるのかな、と見上げると、頬を赤くして眉をひそませ、快楽の波に流されまいと堪えている表情が見えた。
「ここが、好き…?」
問うた声に、驚いた。
晴海だけじゃなく、ぼく自身もびっくりした。
こんな静かな、かすれた声を、ぼくは多分出したことがない。
別の人になったみたいな、不思議な気持ちに戸惑っていると、さっきより更に顔を赤らめた晴海が、消え入るような声で肯定を示した。
「…ぼくも好きだよ…」
ぴんと張り詰めているそれに唇を寄せる。柔らかくはさんだり、舌で包み、舐めたりすると、指より心地いいのか、身体の震える回数が増えた。
「ぁ…やっ」
口は胸元から動かさずに、すっと下腹部へと手を忍ばせる。
なめらかなお腹を撫でながら下へさがっていくと、下着に爪先が引っかかった。
そのまま、中へと手を滑り込ませ、柔らかな叢をかき分けた奥には…湿った感触が。
「晴海…ここ、なんか湿ってるよ…?」
割れ目付近を指でなぞると、さらに水が染み出してくる。
晴海も気持ちよくなってくれてるんだ、って思うと、とても嬉しくて。
間を割って、潤っている箇所に指を一本、差し入れる。
「ひぁ…っ!」
びくっと身体が跳ね、一際高い声が上がった。
頭をガツンと打つような、ひどく官能的な声。
「やっ…、な…かっ、ヘン…ッ」
抜いたり挿したりする度に、声とともに熱い蜜が溢れてくる。
指を追加し、その蜜を一滴たりとも残すまいとかきだすけれど、際限なく溢れる液体は秘所から零れ落ち、下着にシミを作るだけ。
そして晴海は、そこをそんなにも乱れさせておきながら、声を堪えようと口を手で覆ってしまっていた。
「ふぅ…ッんっ、んっ…」
「声、もっと出していいのに…」
胸への愛撫をやめ、手をはがそうとすると、片方の手ではしっかり口元を抑えながら、もう片方の手で弱弱しくぼくの手を握る。
けれど、力が入らないのか、細い指は簡単にずり落ちていく。
なのに…。
「晴海…」
その指は、何度も何度もぼくの手首にまとわりつく。
ずり落ちても、ずり落ちても。
まるで最後の砦を守るように。
(…………ちぇっ)
そうなると、何故だか無理矢理にでも声を上げさせたくなる。
ぼくですら、周りが全く見えないくらい、晴海にとらわれているのだから、晴海にも、恥じらいも何もかなぐり捨てて、ぼくを全身で感じてほしい…。
「ぁ…っ?」
指を抜いて、濡れた爪をぺろっとなめる。
それと同時に、自分の両手を自由にするために、絡んでいる指を振りほどき、足を大きく開かせてから、間に顔を埋めた。
「…!!」
慌てて起き上がった晴海の吐息を後頭部に感じながら、蜜を吸っているパンティーをずらすと、ピンクに熟れた秘部が露わとなる。
それを堪能するためにもと、片足から抜いて足首までずり下げた。
そして、開けた秘所の中心でぷっくり膨れている突起をつまみ、口に含む。
「え…っ!?」
時折触れる指先に、一番敏感になっていたのを知っている。
現に今も、舌を絡めただけで、電流が流れたかのように身体が大きく跳ねたのだから。
「んっ!」
三本に増えた指を一時に挿し入れ、先ほどはゆっくりとしていた抽送もはやく激しいものに切り替える。
水音もだんだん大きくなり、そしてついに、晴海の手が口元を離れ、ぼくの髪の毛をきゅっと握った。
途端、頑なだった晴海の口からは甘い声が次から次へと零れ落ちていく。
「や、めて…、んっ、けんぞ…あぁっ」
イヤ、だね。ぼくは、これが聞きたかったんだ。
ともすれば、耳にするだけで頭の中が沸騰して、欲望が彼女を傷つけてしまうほどに我を失ってしまいそうな。
「…ホンッ、ト、や……ッ!」
言葉にすることは今は出来ないけれど、指を止めないことでぼくがその申し出を拒否したことは伝わったのだろう。
呼吸も荒く、これ以上の快楽を拒む晴海を無視して、口の中の芽を強く吸う。
「ひぁぁっ…っ、ん、く…っ」
ビショビショになった指から甲へと蜜が垂れ、それでも指を休ませることないぼくの髪に、熱い雫が滴り落ちたのが分かった。
痛くなるほど強く引っ張られていた髪。
そこから、急に痛みが消え、気付けば手は添えられているだけ。
「晴海…?」
頭を上げて、俯いて隠れている頬に手を寄せ、そっと上向かせる。
「はるみっ?」
瞳が、うるうるしてる。
目尻には、小さな涙の粒が浮かんでいる。
…泣いてる。
「ご、ごめんっ、ぼく思わず…ッ」
謝りながら。
なんと、そんな泣き顔が可愛いなんて、思ってしまってるぼくがいる。
矛盾した気持ちで混乱した頭に、上ずった、震えた声が響く。
「…恥ずかしい…健三の前で、あんな声たくさん…だして…」
「え?」
小粒の涙がどんどん大粒になっていく。
「…何か私、おかしいのよ……健三の触ったところ、全部おかしいの」
だけど、それでも我慢してるんだろうって言うのは、流れ落ちることのない雫から見てもよく分かった。
当人が、いかほどに心を痛めているのか、ぼくには図る術もないけど。
その言葉は、ぼくの身には有り余るほどの嬉しいもので。
むしろぼくこそ、想いの程度をはかろうと意固地になっていたことが、恥ずかしい。
恥ずかしがっても何でもいい。それがぼくのものならば。
「…ぼくは、うれしいよ」
「…?」
「晴海が、あんなに可愛い声を出したり、こんなに可愛く泣いたりするのも、ぼくのせいなんだって思ったらさ」
「健三…」
ゆれて、零れ落ちそうになっている雫を、舌ですくう。
「晴海は、うれしい?」
いつもの笑顔で、にこっと笑って見せる。
すると、もう片方のまだ潤んでいる瞳が、ぼくの舌を待たずに涙をこぼした。
「…うれしい」
そしてまた、ぼくの目の前で、いまだ見たことのない、綺麗な笑顔が花開いた。



-つづく-

 

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