バレンタイン うたかたさん
「いい才蔵! 絶・対、ぜぇったい台所に入ってきちゃ駄目よ!!!」
「しっしのぶ様ぁ!!ちょっと待っ・・・」
ぴしゃん!
才蔵の願いも空しくあっさりと扉は閉められてしまった。
仕方なくいつものエプロンを着け、掃除機を片手に部屋の掃除を始める。
殿と佐助は今日は用事があるらしく明日まで帰ってこない。
二人が戻ってくるまでには部屋の中をキレイにしなくては。
ウィイーンと小気味よく掃除機の音が鳴る中、才蔵はふと今までの事を思い返していた。
全てを捨て紫信を守ろうと決めたあの日。
まさかまたこうして再び傍にいられるなんて思わなかった。
・・・もちろん全てが元通りという訳ではない。
ここにたどり着くまでには本当に色々なことがあった。
辛い事も 悲しい事も すれ違いも ・・・・別れも。
紫信の事を思い離れたこともあったが、それでも心はいつも傍にあった。
ずっと しのぶさまの そばに。
「きゃあああああぁぁぁぁっ!!!」
「しのぶさまっ!」
反射的にドアを開けると、どこかほろ苦いような香りがあたりに充満していた。
「さっ・才蔵!絶対入っちゃダメって言ったじゃない!!」
「しのぶさまっ!まさかお怪我でも・・・」
慌てて紫信の元へ駆け寄る。
「ケガなんてしてないってば!こっちにきちゃダメ・・・・きゃあっ!」
半ば強引に確かめると、確かにどこも怪我はないようだった。
思わずほっと胸を撫で下ろした瞬間、紫信の背後にとんでもない物があった。
「し・・・しのぶさま? これは・・・・」
おそらくチョコレートを溶かそうとしたのだろう。
本来なら湯煎にかけて溶かすはずのチョコレートは、紫信によって鍋で直火にかけられ
鍋の底で見るも無残な姿へと変わっていた。
「チョコよ!」
それ以外にないと言わんばかりに紫信がきっぱりと言い放つ。
え・えーと・・・・
「しのぶさま・・・ チョコレートは湯煎にかけないと・・・」
・・・・・駄目なんですよ?
「あぁもう! だから絶対入ってきちゃダメって言ったじゃないの!!」
耳まで真っ赤にしながらぷいっとそっぽをむかれてしまった。
・・・どうやら僕はすっかりしのぶさまのご機嫌を損ねてしまったようだ。
それにしてもどうしてしのぶさまは急に料理を作る気になったのだろう?
いつもは僕がしのぶさまの食べたい物は何でも作ってるのに・・・。
「しのだって・・・たまには女の子らしい事をしようと思うわ」
思わずぽつりと紫信が洩らしたその言葉にハッと気がつく。
そういえば今日は2月14日・・・・・・バレンタインデーだ。
ずっと忍びの里にいたからそういう世間の行事にはすっかり疎くなってしまった。
ということはまさか・・・・。
「・・・才蔵の為にこんなに一生懸命になって下さったんですか?」
「そうよ悪いっ!? どうせしのは不器用よ!!!」
少し涙目になりながら拗ねる紫信が・・・・何よりも愛しい。
かけている眼鏡を外し胸のポケットに仕舞うと、僕はしのぶさまをそっと抱き寄せた。
「・・・これじゃもう一度作り直しですね。才蔵もお手伝いしますから一緒に作りましょう」
「いいけど買い物に行かないと作れないわよ。失敗してもう材料がないのだもの」
「買い物には行かなくてもいいんですよ。だって材料はもう・・・」
――――――― ここにあるんですから
「? それってどういう意味・・・・・んんっ!!!」
片手で紫信の顎を軽く引き寄せると少し強引に唇を重ねた。
そのまま二度三度と続けて口付けを交わす。
突然のキスにされるがままになっていた紫信が、はっと思い出したかのように慌てて体を離した。
「ちょ・ちょっと待って頂戴! お前の言う材料ってまさか・・・」
「・・・駄目ですか? 才蔵が今一番食べたい物なんですが」
その言葉で全てを理解したのだろう。紫信の顔がかぁっと朱に染まっていく。
「だっ・・・ダメじゃないけど・・・・その・・・・此処で?」
「いけませんか? だって料理は台所でするものでしょう?」
我ながら無茶苦茶な理屈だと思いながらも、柔らかな首筋へ顔を埋める。
そして首筋から耳朶へとゆっくり舌を這わせると、そのたびに紫信の躯がぴくりと震え、
艶やかな吐息が小さな唇から漏れていった。
「はぁっ・・・しっ・・・・しのは食べられないわよ・・・っ!・・・・・・あぁんっ!!」
「そうですか・・・? だってほら・・・こんなに甘いのに・・・」
そう言うとまた再び唇を引き寄せ、紫信自身を味わうかのように舌を絡ませる。
「んんっ!・・・・はぁっ・・・待って・・・才蔵・・・・んっ・・此処じゃだめ・・・
だめよ・・・・・」
口付けの間に紡がれる抵抗の言葉は徐々に効力を失っていく・・・。
二人きりの空間の中、お互いの吐息と舌を絡ませる水音だけが響いていた。
力が抜けていく紫信の躯をそっと自分の体で支えながら、エプロンの隙間から片手を滑り込ませると、
服の隙間へ手を差し入れ柔らかな胸に手を伸ばす。
「んっ・・・・・・んんっ・・・・・・・っはぁ・・・」
ゆっくりと撫でていく度に紫信の吐息に艶が混じり、滑らかな頬が桜色に染まっていく。
おもわず堪えきれなくなり、ブラジャーを上にずらし直にその柔らかさを確かめる。
「あっ!・・・・・んっ・・・ふぅっ・・・・んぁあっ!」
もうすでに張り詰めた芽を軽く摘みこりこりと刺激すると、それだけで紫信の躯は自らの意思に反し、
快楽の波へと攫われてしまう。
「しのぶさま・・・ すごく可愛いですよ・・・・」
柔らかく微笑むと、そのまま再び唇を塞ぐ。
紫信の声、潤んだ瞳、柔らかな髪、温かい躯・・・・その全てに酔いしれながら空いている手を
そっと下の方へと滑らせていった。
お尻から太腿の感触をゆっくりと味わいながら、そっとスカートの中へと手を伸ばす。
ショーツ越しにそこに触れ、軽く指を動かすとくちゅくちゅと水音が部屋に響く。
・・・そこはもう充分すぎるほど紫信の蜜で満たされていた。
「・・・これじゃもうコレは使えないですね」
紫信の体を支えている腕を解くと、そっとシンクの方へ寄りかからせ紫信の背後へ回る。
そして床に膝をつくと、もうその役目を果たさなくなったショーツをゆっくりと脱がせていった。
「やぁっ・・・!」
恥ずかしさで耳まで赤く染めながら、紫信が体を逸らすと、溢れ出した蜜がつぅと紫信の太腿を伝い、
滴り落ちていく・・・。
「こんなになってしまって・・・・才蔵がキレイにしてさしあげますね・・・」
太腿へ滴り落ちた蜜を舌で拭いながら、指で秘所を割り広げ唇を寄せる。
くちゅりと音を立てて割り広げられたそこは僕を誘うように濡れ光っていた。
「すごいですよしのぶさま・・・・こんなに溢れさせたらいくら才蔵がキレイにしても追いつきません」
「んんっ!・・・・ぁ・・・・だめぇ・・・・そんな所・・・しないでっ・・・っあぁぁん!」
かまわずそのままクレパスを舌でなぞり、敏感になっている芽を唇に含み吸い上げる。
「はぁんっ! あっ・・・くぅっ・・・・んぁぁあっ!!」
紫信の滑らかな下肢が舌の動きにあわせて震えている。
その様子を満足げに眺めながら、快楽に翻弄されている紫信をさらに追い込むかの様に指を差し入れる。
一本から二本へと指の数を増やし、紫信の中を解きほぐしながら徐々に高みへと導いてい
く。
そして奥の尤も敏感な部分と芽を同時に擦りあげた瞬間・・・・
「ふぁっ・・・・あぁあああぁぁああんっ!!!」
一際高い嬌声を上げて紫信は快楽の海へと沈んでいった。
「・・・っ・・・はぁっ・・・はぁ・・・はぁっ・・・!」
頬を上気させ荒く息をつきながら、紫信は崩れ落ちる躯を懸命に支えているかの様にぐったりと
シンクにもたれかかっている。
「しのぶさま・・・・ 大丈夫ですか?」
紫信をそうさせたのは他ならぬ自分の所為だと判ってはいても、思わず尋ねずにはいられなかった。
「・・・卑怯だわ どうしてお前だけそんなに余裕なのよ・・・」
荒く息をつきながらしのぶさまがじっと僕を見上げている。
・・・本当は僕にも余裕なんてないのだけれど
「・・・しのぶさまが可愛いのがいけないんですよ」
「何よそれ 答えになってなっ・・・・・!」
それを悟られたくなくて、強引に唇を塞いだ。
唇を甘噛みし、舌を絡ませながら深く永い口付けを交わす。
唇の隙間からどちらともなく吐息が漏れ、それがさらに・・・行為を加速していく。
「んむっ・・・ふっ・・・んんっ!・・・・・はぁっ・・・」
いつしかそれに艶が混じった頃、ようやく僕はしのぶさまの唇を開放した。
「・・・っはぁ・・・・・才・・・蔵っ・・・!」
・・・二人を繋ぐ銀の糸がつぅと引いて落ちていく。
僕を求める甘い声 柔らかな唇 切なげに喘ぐ紫信の姿・・・。
愛しかった。唯ひたすら愛しかった。
「しのぶさま・・・ いいですか・・・・?」
両手で優しく頬を包み込みながら訊ねると、紫信は恥ずかしそうに小さくこくりと頷いた。
床に座り込んでいる紫信の躯を抱き寄せ、調理台の上に座らせる。
いつもと違う体勢に不安そうに見つめる紫信に大丈夫ですよと優しく声をかけると、軽く口付けた。
そして僕自身を取り出すと、紫信の片足を割り広げゆっくりと紫信の泉にゆっくりと自身を埋めていった。
「はぁっ・・・!」
紫信が切なげな吐息を洩らしながら、僕の首に絡ませたしなやかな腕にぎゅっと力を込める。
しのぶさまの小さな柔らかな海は、僕の全てを包み込むように暖かく・・・優しかった。
「しのぶ・・・さま・・・・・っ!」
狂おしいほどの快楽に飲まれそうになりながら、浅く・・・深く・・・ゆっくりと抽送を繰り返す。
「あぁっ! ふぁ・・・・・はぁあんっ・・・!」
一度達した所為か紫信はかなり敏感な反応を示している。
とろとろに蕩けきったそこは容赦なく僕に絡みつき、柔らかく締め上げていく。
・・・気を抜くとすぐに達してしまいそうだ。
「くっ・・・あぁんっ! さい・・・ぞ・・・・離さ・・・ないで・・ぎゅっと・・・・
して・・・っ!!」
僕の動きに呼応するかの様にしのぶさまが腕に力を込めていく。
必死になってしがみついてくる紫信がどうしようもなく可愛くて、腰を引き寄せるように抱きしめると、
紫信の蜜で溢れかえっている泉の奥へと自身を滑り込ませていく・・・。
「はあぁぁあぁんっ!! さぃ・・・・ぞう・・・っ・・・・才蔵っ!!!」
鼻先を掠める甘い香り・・・ 官能にしなる躯・・・ 切なく悩ましげに見つめる瞳・・・。
しのぶさまの全てが・・・・僕を狂わせていく・・・・・。
ああもう
いっそこのまま
あなたも一緒に狂わせてしまおうか
僕の事しか考えられない様に
「しのぶさまっ・・・! しの・・ぶ・・・・・しのぶ・・・っ!!」
誰よりも愛しい人の名を呼びながら、深く・・・激しく・・・想いの全てをぶつけるかの様に
貫いていく。
「んはぁぁあんっ!・・・・やっ・・・才・・・蔵・・・! だ・・・めっ・・・・駄目ぇっ!
へん・・・に・・なっ・・・ふぁあぁん!!!」
快楽に翻弄され、がくがくと躯を震わせながら懇願する紫信の目からぽろぽろと涙が溢れる。
紫信の涙を拭うように優しく瞳に口付け、さらに唇にも何度も何度もキスを交わす。
ぴちゃ・・・ くちゅくちゅっ・・・ ぴちゅっ・・・・
上からも下からも響く水音が、更なる高みへと二人を後押しする。
白濁する意識の中、唯そこにあるものは互いに伝播していく圧倒的な快楽と狂おしい程に
高まりあった思慕だけ。
・・・それだけが今此処にある真実だった。
「あぁあああぁぁあっ!!!さいぞ・・ぉ・・・・才蔵っ! す・・・き・・・・すき・・・好きぃっっ!!!」
僕もですしのぶさま・・・。 愛しています 愛しています 愛していますっ・・・!
心の中で思ったのか、それとも現実に言ったのか・・・・もうそれすらもわからない。
二人の躯が繋がりあい・・・・絡まり・・・溶け合って一つになっていく・・・。
そして一際深く穿ったその瞬間・・・
「はぁあああぁああぁあ―――――――っっっ!!!」
紫信のしなやかな肢体が快楽の波に飲み込まれていく。
「・・・っ! くぅっ・・・・!!」
しのぶさまが達した瞬間、僕も自分の全てを解き放ち、意識が真っ白な世界へと沈んでいった・・・。
〜 epilogue 〜
互いに荒い息を吐きながら、僕達は互いに慈しむかの様に甘い余韻の中を微睡んでいた。
不規則な呼吸は徐々に緩やかになり、熱に浮かされた様に火照った体がゆっくりと冷えていく。
このまま穏やかな時間が永遠に続けばいい・・・。
そう思いながら腕の中の紫信の柔らかな髪を梳いていると、不意に腕の中の紫信が沈黙を
破った。
「・・・ねぇ才蔵 日本ではバレンタインは女の子の為の日だけれど、外国では男も女も関係なく
カードや贈り物をあげたりする日なのよ」
そう言うとしのぶさまは僕の胸ポケットに手を伸ばした。
「・・・だから今度は」
すっとポケットから眼鏡を取り出すと、ちゃっと僕にかけさせる。
――――――― しのがお前を食べてもいい?
しのぶさまが 子悪魔的な 笑みを 浮かべながら 僕に 近づいて
ちろりと 舌を出すと 僕の 唇の端を ぺろっと 子猫の様に 舐めていく
あぁ 今は 眼鏡が あるから しのぶさまの 姿が はっきりと 見える
は っ き り
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!!!
「はっ・・・はははははははいっっっ!!!」
顔中真っ赤にしながら、なんとか返事を返す。
全身真っ赤になって固まっている僕を見ながら、しのぶさまはくっくっと笑いを堪えている。
そしてどちらともなくゆっくりと近づくと、僕達は今日一番の甘いキスを交わした。
――― fin ―――
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