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模写・トレスの実態研究 〜はじめに〜

絵を描く者として、非常に興味深い人物がいらっしゃいます。
公開日に沿って作品を見ると、短期間に不自然さを感じるほど画力を上げています。
その理由は簡単です。
Web上で公開されている写真のトレスを、自作のオリジナル作品として公開していたのです。
髪型や眼鏡、髭などは、自分のキャラクタのものにすげかえています。
始めは、写真を見ながらの模写を。
次は写真を下敷きに線を引き、今では陰影までそっくりです。
線の重なり具合を見ると、素晴らしいトレス技術がわかります。
しかし、それは「オリジナル作品」と呼べるのでしょうか。

「参考写真を見ながら、努力をして寸分たがわず模写をしているのではないか」とおっしゃる方もあるでしょう。
古典絵画についての少しの知識をお持ちの方ならお分かりだと思います。
高い水準の評価を受けている模作でも、決して線が重なることはありません。
線が重なる時は、同じ型紙を使って、下書きをトレスして描いてるのです。
2005年春に開催されたラ=トゥール展をご覧になった方は、このことが良く分かると思います。

自らの作品世界を表現するために、トレスの技術を使うことはあります。
古典絵画の中にも、慎重に対象を配置し、光源を調整し、そこに作り出されたイメージを、鏡やレンズを使ってキャンバスに映して描かれたとされるものが名画として残されています。
前述の人物の作品は、このような名画と同じ作法で描かれているといえるでしょうか。
その違いは、頭の中にある作品世界をどのような手法で表現したのか、という点に現れます。
自らの手で構築した作品世界の映像を更に絵画に移して表現するのか、他のアーチストの作品世界を描いた写真を下敷きにするのか。
絵における「オリジナリティ」とは、髪型や髪の色を変え、髭や眼鏡を描きこむだけで十分なのでしょうか。

他にも考えるべき点があります。
絵を描く人間には、むしろこちらの方が重要な問題かもしれません。
このような模写やトレスで本当に画力が向上するのでしょうか。
日記などを読む限りにおいて、件の人物は画力が向上していると信じているようです。
構図を真似るだけ、線をなぞるだけの模写やトレスでは、人体構造を理解する助けにはなりません。
その一方で、人体構造を理解せずとも、模写やトレスでは簡単に、実力以上に上手く描けるので、却って基本的な観察力を減退させてしまいます。
特にトレスに依存すると、「何の絵を描くか」という創作意欲は失われ、「どの写真にするか」という安易な感覚に陥りやすくなるようです。

上記のように、絵を描くために不可欠な観察力のみならず、本来あるはずの「自らの作品世界を表現する」という創作意欲を奪う模写やトレスは、絵の上達には全く寄与しません。
逆に画力そのものを衰えさせてしまいます。

絵を描く方には、反面教師にしていただければ幸いです。
対象を良く観察すること。理解すること。
これを積み重ねずに、画力を向上させることはできません。
模写・トレスは技術の一つかもしれません。
しかし、本当の画力とは「自らの作品世界を自らの力で構成し、表現する力」だと思います。

そして絵を鑑賞する方には、模写・トレス絵というものがいかなるものか、ぜひ知って欲しいと思います。
このサイトでは、「写真にない部分は描けない」「写真にない部分をアレンジしようとすると下手になる」(上手く描けている部分とそうでない部分との差が明白)など、模写・トレス絵の特徴も説明していますので、絵については門外漢であるという方の参考になると思います。


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