『 契り 』

1
「姫君!ご無事でよろしゅうございました!」
イズミル王子に伴われて西宮殿の自室に入ったキャロルを出迎えたムーラは涙を流さんばかりに喜んで、キャロルの白い手を押し頂いた。
この忠義者の王子の乳母を少し煙たく思っていたキャロルはムーラの涙とやつれように驚かされた。
「心配かけてごめんなさい、ムーラ。でももう大丈夫なの」
優しいキャロルの声音にムーラはとうとう堪えきれずに声をあげて泣き出した。
「あなた様をどうしてお一人にしたのか、どうしてお守りできなかったのかと・・・王子が大切にされておいでのあなた様に何かあったら、私は王子に申しわけがたたぬところでした。本当によくご無事で・・・」
「もう済んだことだ、ムーラ。さぁ、姫の面倒を見てやってくれ。一刻ほどしたらまた来る」
「は、はい!かしこまりました。早速に!」
育て子の言葉で有能な乳母の頭は完全に切り替わった。いつもの調子で配下の侍女たちに指示を出し、キャロルに有無を言わせぬ調子であれこれ世話を焼く。
キャロルは香料を贅沢に溶かし込んだ湯に入れられ、入念に身体を洗われた。
自分でできるからといくら言っても誰も聞いてはくれない。
「王子のご命令でございます。お逆らいになることはお許し出来ませぬ。
さぁさぁ、こちらをお向き下さいませ。高貴の御方は全て人任せにするものですのに・・・」
入浴が終わるとキャロルは薄く、でも入念に化粧を施され、美しい衣装を着せられた。それはやはり未婚の少女が着るものでキャロルは我知らず顔が赤らんだ。


「支度はできたか?」
キャロルが背中に流した髪の毛を覆うような薄手のヴェールを着けられたのと、王子が部屋を訪れたのは殆ど同時だった。
「はい、王子。いかがでございます?」
旅の疲れを癒す間もなくキャロルは、どこに行くのかというような豪華な衣装を着せられてしまった。
白い絹の寛衣の上にはゆったりとした薄黄色のガウン。ガウンには様々な花が刺繍されている。ヴェールを額に留める額輪は銀に金の象眼を施したもの。
王女のような装いである。
「ふむ、よくできたではないか。何とも愛らしいことぞ・・・」
上機嫌で王子は言い、手の中に持ってきたラピスラズリと金の耳飾りを桜貝の耳朶に着けてやった。
「そなたに・・・。そなたと同じ色をしているのだ」
敏感な耳朶に留め金を留める王子の指先が触れ、吐息がかかる。キャロルは真っ赤になった。
(何と初々しい方だこと・・・)
ムーラは今更ながら自分の育て子が選んだ娘の美しさに見とれるのだった。
(この御方ならば私の王子を託するに相応しい。本当にご無事で良かった。
姫君はお気づきでは無いようだけれど・・・王子のお心はすっかりあなた様のものですのよ。お行方が知れぬ時の王子のお苦しみは見ておれなかった・・)
「ねえ、王子。これからどこかに行くの?」
手を取って歩き出した王子に、キャロルは伸び上がるようにして尋ねた。
「王宮の中にある聖所だ。我がヒッタイトを守護したもう神々のおわす神殿の中の神殿だ」
王子は笑った。
「順番が少々狂ったようだが、私はそなたを神々の御前で娶る。つまりは婚儀だな」


王子に伴われてキャロルは王宮の地下に設けられた神殿に入った。
暗い室内は松明の明かりに照らされ、香の煙が白くたなびいている。
「おお、王子。お待ち申し上げておりました」
神官が手を差し伸べた。
「さぁ、こちらへ・・・」
老神官は感情を押し殺し、穏やかな笑みを浮かべた顔の下で考えた。
ヒッタイトの世継ぎともあろう男性が、庶人のように「婚儀」の真似事をしてから女を抱くとは一体どうしたことか、と。
王子の伴っている金髪の異国の神の娘は、駆け落ち同然でヒッタイトにやって来たともっぱらの噂だが、その幼い少女めいた魅力が冷静沈着な王子を恋狂いにさせたのか、と。

王子はキャロルの手を引いて祭壇の前に立った。二人を見守るのは、王子の腹心ルカ、将軍、官房長官、それにラバルナ師、ムーラ。
キャロルは知らないが、王子の非公式の「婚儀」を見守るのは皆、王子を支持する一派として次代の王国を担うであろうと目されている名家名流の人々だった。
征服された王国の王族だったルカ、王家の縁戚でもある将軍とその一族のムーラ。官房長官は王子に実地の政治を教えた師であり、不思議の力にも通じた博識のラバルナ老は王子のもっとも信頼する人間だった。
彼らは王子と共にキャロルを守り、支持する一派となるのだった。それはヒッタイトで王子より他に拠り所を持たぬ異国の娘に対するイズミルの心遣いだった。


神官が香炉を振り、跪く若い二人に祝福を与えた。どこからか巫女達の歌声が聞こえてくる。キャロルは敬虔な気持ちで異国の神々に頭を下げた。心細い我が身を守り賜え、と。
その不安を察したかのように王子の声がした。
「神よ、御前に共に罷り出でし我らに祝福を。我らの未来を守り賜え。共に末永く御前に仕える我らに祝福を与えたまえ。共に過ごす我らの長き生涯に豊饒と喜びを与えたまえ」
キャロルは、はっと王子の顔を見た。
(今のは、今のは結婚の誓いの言葉?末永く・・・一緒に過ごそうと言ってくれた?)
キャロルの視線に気付いた王子は暖かく目だけで笑うと、キャロルを促して深々と頭を下げた。神官が祝祷を唱える。
(王子の心遣いだ・・・。私を「妻」にしたいと言ってくれた王子の・・・)
キャロルは身体が打ち震えるほどの感動を覚え、涙を零した。
(私・・・私、王子を信じてよいのね?ずっとずっと、ただ王子だけを愛していればよいのね?)

「さぁ、姫。儀式は終わった。そなたは神の御前でただ一人の我が妻となった。もうこれで、そなたは私から離れられぬ・・・」
頬に流れるキャロルの涙を指先で拭ってやりながら王子は言った。黙って幾度も頷くキャロル。
「さぁ、これを」
王子は神官が差し出した盆の中から指輪を取りだし、キャロルに手を出せと目顔で促した。
キャロルが差し出した左手の薬指に王子は指輪をはめてやる。細い金線と銀線を捩った輪に
そんな二人を居合わせた人々は神話の中の一場面を見るような気持ちで見守るのだった。


人々に恭しく頭を下げられ、雲を踏むような心持ちでキャロルは神殿から下がっていった。
大切に傅かれ、守られて王宮の長い廊下を行くキャロルを透き見する後宮の女達の目。
だが、どんな悪意に満ちた視線もキャロルを傷つけることは出来ない。愛されているという自信と喜びがキャロルを強くし、いやが上にも輝かせた。

キャロルは伴われるままに自室ではなく、王子の部屋に足を踏み入れた。
(どうして・・・?)
甘い期待と羞じらいを覚えて頬を赤らめるキャロル。未婚の乙女の衣装を着てはいるけれどすでに王子によって乙女ではない身体にされたキャロルである。
「姫君。お喜びを申し上げます。さぁ、こちらへ・・・」
先回りして待っていたムーラが背もたれのない椅子をキャロルに示した。
「これより成年の儀を行う」
王子が優しく言った。
「婚儀を終え、夫を持つ身となったそなたはもはや子供の衣装は似つかわしくない」
「姫君、もう御身はヒッタイトの人となられたのですからヒッタイトの風儀に従いましてお身の形をお改めあそばせ・・・。まずは御髪から・・・」
ムーラは浅い盆に入った調髪の道具を王子に差し出した。
「我がヒッタイトでは夫を持つ女人は髪を巻き、結う。調髪は親がするものだが、そなたの故郷は遠い。故に私がそなたの親がわりに髪を整えてやる」
王子は慎重に短い髪の毛を梳き、香料入りの整髪料と髪留めを使って頭にぴったりと沿うようにまとめてやった。
ムーラは潤んだ瞳で育て子の優しい仕草を見守り、続いて衣装の入った浅櫃を用意した。
「姫君、お衣装をお改めあそばして。もうご夫君をお持ちなのですから。御母君にかわりムーラがお手伝いいたします」
「・・・ムーラ。衣装も私が改めてやろうと思う。そなたは下がっておれ」

6 Ψ(`▼´)Ψ
真っ赤に頬を染めて立ちつくしたきりのキャロルの子供っぽい初々しさを好ましく思いながら王子は細身の佳人を側近く引き寄せた。
キャロルは倒れかかるように王子の腕の中に捉えられてしまった。
「お、王子。離してっ!着替えくらい自分で出来るから。お願い、向こうに行って。ムーラや皆がどう思うかしら?嫌だったら!」
王子はくすくす笑いながら、小憎たらしく抗う娘の動きを封じ、あっという間にガウンを脱ぎ滑らせ、寛衣だけの姿にしてしまった。
未婚の女性の衣装はゆったりとした着こなしのもの。帯などで細い腰を強調するのは既婚の女性の風俗だった。キャロルも子供っぽい線の衣装だ。
「ふふ・・・。子供子供した衣装の何と似合うことか」
王子はキャロルの唇を奪い、そのまま彼女の身体が柔らかく従順になるまでじっくりと貪り味わった。
「乙女の衣装を身につけて楚々とした顔で神前に進む・・・誰が見ても美しい無垢の花嫁だ。でも本当は私がとうに乙女ではない身体にしてしまった・・」
恥ずかしい言葉でキャロルを煽りながら王子は細い身体をまさぐった。
言葉と王子の淫らな息づかいだけでキャロルはすっかり惑乱してのぼせ上がっていた。甘やかに苦しげに吐息する様子が王子を喜ばせる。
胸の双丘の突起は生々しく布地を持ち上げ、きめ細かな白い肌は紅潮して男を誘うように匂いたった。
「惜しいな・・・。まことこの衣装はよく似合う故、もう少し乙女のままにしておくのだった。もう脱がさねばならぬとは」
心にもないことを耳朶に囁きかけながら王子はキャロルを引き剥いていく。

7 Ψ(`▼´)Ψ
「ああ・・・っ」
寛衣を脱がせて、脚の間を守るように巻かれていた絹帯を取ってしまえばキャロルはもう生まれたままの姿だった。
うすく汗ばんだ肌はしっとりと艶めかしく、胸の紅玉と脚の間の淡い金のくさむらが淫靡な彩りを添え、肌の白さを際だたせている。
自分が贈った耳飾りと指輪だけは取らずに、王子はキャロルを寝台に横たえた。キャロルはぎゅっと目を瞑り、小さく震えさえしている。
「ああ・・・何やら奪ってきた乙女を無理矢理抱くような心地がするな、そのように恐れられては。私を知らぬそなたではあるまいに・・・」
王子は自分も衣装を脱ぎ捨て、キャロルの白い手を自身に導いた。
「覚えているか・・・?これがそなたの中に入るのだ・・・。あのときと同じように」
羞恥に震えるキャロルは王子の固く熱い大きな強ばりの感触に「あのとき」の痛みを思い出した。思わず腰を捻り逃れようとするキャロル。
「大丈夫だ・・・。この慶びの日に愛しい娘を痛めつけるような真似はせぬ・・・」
王子はゆっくりと全身に口づけていった。じっくりと丹念に、入念に味わうように。
執拗でなぶるような口づけにやがてキャロルも燃え上がり、切ない吐息を漏らし始めた。
「そなたが愛しい・・・」
王子はそう言って、女を焦らすことをやめ、悦びを与えてやる仕草を始めた。

8 Ψ(`▼´)Ψ
固くしこった胸の紅玉を王子は指先で、舌で弄んだ。勃ちあがったそこを白い膨らみの中に押し戻すようにするとキャロルから王子を誘うような甘い香りが立ち上った。
「さぁ・・・脚を拡げてみよ。どうするか分からぬのか?・・・こうだ」
王子は膝が胸につくくらいキャロルの身体を深く曲げさせると、甘い蜜を滴るばかりに湧き出させた秘所を愛でた。
昼間の光の中でふるふると震える花はたとえようもなく美しい。
花芯を舌先で舐めれば女は甘い声を上げ、蜜をもっともっと湧き出させた。歯で花びらをしごくように引っ張れば、白い身体は信じられぬほど撓った。
王子は癒されぬ喉の渇きを鎮めようとでもするように泉の中までも舌で探り、締め付けてくるそこの強さに嬉しい悦びを感じた。
「おう・・・じ・・・!私、もう・・・!」
キャロルは呆気なく達してしまった。イズミル王子はその呆気なさに好色な驚きを感じながら、キャロルに囁いた。
「まだまだ・・・終わりではないぞ。男が何をするか知らぬとは言わせぬ」
王子は痛いほどにいきり立った自身を、花びらの中にゆっくりと沈めていった。
一度は達してすっかり脱力した身体ではあったが、王子自身の圧倒的な存在感と熱感に戦くように緊張する。王子はわざとゆっくりと沈んでいった。
「あ・・・ああ・・・・イタっ・・・・うん・・・・!」
のけぞって苦痛と圧迫感に耐えるキャロルを見ながら王子は我慢しきれずに男の動作を激しく繰り返した。
そして男の荒い淫らな息づかいと女のか細い声は一つに溶け合っていく・・・

9 Ψ(`▼´)Ψ
二度目でありながらなお、うっすらと血を滲ませた秘所を優しく清め上げてやり、王子は胸の中に細い身体をしっかりと抱きしめた。
キャロルはうっすらと涙ぐみ、疲れ切った顔をしていた。だが男の目には痛々しいまでのその疲れ方まで好ましく見える。
「すまぬな、姫・・・。ついそなたを気遣うことを忘れた。辛くはないか?
全く・・・女相手に自制が効かぬとは。こんなことそなたが初めてだ」
「大丈夫・・・」
キャロルは微笑んだ。激しく抱かれた衝撃や疲れも、自分がどれほど愛されているかを思い知らせてくれる甘い証拠だ。
「王子が大好き・・・。ずっとずっと一緒に居たい」
キャロルは初めて自分からキスした。その初な媚態が女に慣れた王子をこの上なく喜ばせた。
「嬉しいことを・・・。もう一度最初からそなたを愛したいが、成年の儀をいつまでも中断させるわけにもいくまい。さぁ・・・」
王子は寝台から起きあがると素早く衣装を着け、一糸纏わぬ姿のキャロルを敷物の上に導いた。
「これが夫を持ちたる女人の衣装ぞ。私が着せてやろうほどに」
寛衣もその上に着る葡萄色のガウンも、先ほど王子に脱がされたものより遙かに豪華だった。
王子に促されるままに動くとキャロルから先ほどの行為の残り香が立ち上る。
王子はガウンの上から美しく刺繍された帯を巻いてやった。それがヒッタイトの既婚婦人の印だった。
「私の妻は美しいな・・・」
王子の賞賛の言葉にキャロルは真っ赤になって俯いてしまった。
「私の妻はそなただけだ。忘れるでないぞ。そなただけが私と共に未来へと歩んでいけるのだ」

翌日。後宮の女達は、目の下にうすく艶めかしいくまを浮かべたキャロルが成人女性の衣装でいるのを見た。庭をそぞろ歩くキャロルの横には忠実な従者のように大柄なイズミル王子が添うている。
後宮の女達は自分の野心が潰えさったことを悟らされるのである。

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