『 宴の夜 』 ヒッタイト王宮はナイルの姫君を連れて凱旋したイズミル王子の帰国を祝い、夜を徹した宴で賑わっていた。 黄金の髪に深い海のような青い瞳の美しい姫君が、逞しくも麗しい王子の横に侍っている。 王子は姫君が可愛くて愛しくて仕方がないらしく、片時も傍を離そうとしない。 また姫君も、容姿・人間性・その才、どれをとっても非の打ち所もない恋人を誇らしげに、しかし恥ずかしそうに頬を染めながら見つめ返すのだった。 寄り添うように着座する王子と姫君は、絵に描かれたかのような完璧な一対であった。 誰もが麗しい将来の王と王妃に祝福を贈った。 「姫・・・どうしたのだ?顔が赤い」 王子はキャロルの火照った頬に手を沿え、瞳を覗き込んだ。 青い瞳はトロンとして物憂げに王子を見つめ返す。 「なんだか体が熱いの・・・」 いつもの清純で潔癖なキャロルではなく、どこか妖しく奔放な雰囲気が見受けられる。 「熱いわ」 キャロルの指先が胸元を少し広げた。 真っ白な胸元の肌を凝視していた王子は、血が騒ぎだすのを何とか鎮めようとしていた。 しかしキャロルは体を王子の胸に預けるように寄りかかって来る。 (まさか・・・私を誘っておるのか?) 上気した肌と苦しげな呼吸が少女をひときわなまめかしく見せている。 「珍しい事もあるものだ。 そなたの方から私に触れて来る事もあるのだな。・・・ふっ、嬉しい限りだが」 「王子、もう眠たいの・・・横になりたい」 甘える仕草で王子の首に抱きつくキャロル。 恥ずかしがりやで内気な姫がこのような振る舞いをするとは信じがたく、王子は目を疑った。 王子は何気にキャロルが先ほど飲んでいた杯に目をやって、すぐにその訳を悟った。 (ふ・・・どうやら間違えて私の杯の酒を口にしてしまったらしいな。 なるほど、姫は酔うとこのようになるのか・・・何とも愛いらし事よ) 柔らかな胸の膨らみが、王子の厚い胸板に押し付けられる。 抗い難い衝動を覚えて、王子は思わず喉を鳴らして溜飲を下した。 「姫、この場が辛いのなら寝室へ連れて行こうぞ。 賑やかすぎる宴がそなたを疲れさせたのかも知れぬな。さぁ・・・参ろう」 王子はキャロルを揚々と抱き上げると、自分の物だと言わんばかりに愛しげに抱きしめた。 (さて、どうしたものか。 初夜まで待ってやろうと決めていたと言うに・・・このようにしな垂れかかって来られては決心が鈍るではないか。しかしそなたが私を欲しがるのなら、いつでもこの私を惜しみなく与えてやろう。) 酒のせいで乱れているとはいえ、キャロルのほうから王子を欲するなどこれまでに考えられなかった事だ。 王子はキャロルに怖がられたり、嫌われたりするのを恐れ、キャロルにはせいぜい舌を使った深い接吻をするぐらいに留めていた。 時間をかけて、恐れさせぬようにゆっくりと快楽を教えてやらねばならないと思っていた。 下手に色事を仕掛けては潔癖なこの姫の事、男女の睦を汚らわしいものと捉えられてしまっては不本意ならない。 これまでも愛しさ余って激しく求愛しようとしたが、恥ずかしがって腕から逃げ出されてしまった。 だからただ腕の中で壊れ物のように扱う事しかできなかったこの少女が、酒の仕業とはいえ王子を求める仕草を見せている。 ついに彼女を自分のものにする時が来たのかと思うと、嬉しさと興奮で気が遠くなりそうだった。 王子はキャロルの為に用意された部屋ではなく、自室の寝台に彼女を横たわらせた。 「ここは・・・?」 「私の部屋だ。今宵はここで過ごすのだ」 キャロルは王子に甘えて身体をすり寄せる。驚くほどに彼女の体が熱い。 「どうした? 今宵は私を誘うような可愛い仕草ばかりを見せるのだな」 眩しそうに琥珀色の瞳を細めてキャロルを優しく胸に抱く。 「そなたを私のものに・・・もう待てぬ」 キャロルはゆっくりと目を閉じた。 「そのような色めいたそなたに触れれば、私の我慢にも限界がある・・・」 少しかすれた声で言いながら、キャロルの唇に唇を重ねる王子。 いつもとは全く違う刺激的な接吻であるというのに、キャロルからは何も反応が返ってこない。 それもそのはず。キャロルは王子の体の下で気持ちよさそうに寝息を立て始めていた。 「・・・・・・!!」 今日こそは、と昂ぶりに昂ぶった体を持て余した王子は声にならない唸りを喉の奥から発した。 (・・・その気になっていたというに!これをどうしてくれるのだ!!) 股間を熱くする痛いほどの強張りに王子は顔を歪めて、恨めしそうにキャロルを睨んだ。 その時。薔薇色の唇が僅かに開いた。 「ん・・・王子・・・大好き」 王子は寝言で我が名を呼ぶ可憐な唇を自分の唇で覆うように塞いだ。 (ああ・・・愛しい) 激しい興奮が波が引くように収まるまで、抱きしめていた。 眠れそうにはなかったが王子は目を瞑り、幸せそうに眠るキャロルの添い寝をしてやるのだった。 ♪おしまい♪ |