『 月 』

エジプトを巡る周辺諸国の動きはあわただしく、大臣達との協議を終らせたメンフィスは
疲れを感じながらも足早に、キャロルの眠る寝室へと向かった。
「まだ起きておったのか?先に休めとナフテラから聞いたであろう?」
窓辺で煌々と輝く月を眺めていたキャロルにメンフィスは声を掛けた。
「ナフテラからはちゃんと聞いたけど、メンフィスと一緒に眠りたかったから・・・。」
少し照れくさそうに話すキャロルが愛らしく、メンフィスの顔にも笑みが浮かぶ。
華奢な身体を抱き寄せると、柔らかで暖かい身体を擦り付ける幼い媚態。
「ねえ、メンフィス、あなたは私を愛してるでしょ?そうよね?」
突然のキャロルの質問に何事かと目を見張るが、メンフィスは「私を疑うのか?」と
まさに王者の風格で笑ってみせる。
「じゃあ、私のどこが好き?金髪をしてるから?瞳が青いから?肌が白いから?
 ほんの少しばかり歴史に詳しいから?だからなの?」
今まさに泣きそうな青い瞳で訴えるその様子に、キャロルの身体に回した腕にも力が入る。
「・・そうだな、泣き虫のくせにはねっかえりで、好奇心旺盛で・・・。」
そう言いながらキャロルの白い手に口付け、細い肩に、首筋にと指を這わせていく。
「皆に分け隔てなく優しいそなたの全てがいとおしい。私を愛してるそなたをだ。」
胸のなかで小刻みに揺れる細い肩は、この上なく儚げで手放したらもう二度と戻ってこないようなものすら感じさせる。
「泣くな、私の側にずっといる約束だろう?」
寝台がきしみ、メンフィスの黒い髪と月明かりにも煌いているキャロルの金髪がもつれ合う。
慈しみあう恋人達の姿を月の光が照らし出す・・・・。

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