『 老王の独白 』

また・・・夢か。
年老いた王は深い吐息をついて独り寝の臥所に起きあがる。
浅い空虚な眠りの中に訪れる・・・夢。
つかの間の幸せ。刹那の至福。心地よく甘美な夢想。
そして・・・目覚めた時の深い深い絶望。暗黒の空漠。

キャロル、キャロル。私を置いて逝ってしまった不実なそなた。
ずっと側にいると幾度も幾度も誓ったそなた。
繰り返される約束は私の宝。
重ねられる誓いの言葉は私だけのもの。

愛しているわ、愛しているわ・・・。

それなのに。
そなたは逝ってしまった。世継ぎの王子の命と引き替えに。
まだ18の若さ。幼く頼りない体で、母とならねばならなかったそなた。
子をそなたに萌(きざ)させたのは私。
私がそなたに与えた新たな命。私の世継ぎの王子。
許してくれ、許してくれ。
そなたの体の成熟を何故、待ってやれなかったのか。

それでも。
そなたは王子の未来を祝福して・・・私に微笑んで逝った。
私の幸福を祈って。私に会えて良かったと言って。
側に居られないことを詫びて。愛していると言って。
その日から私は一人だ。たった一人だ。

老王の哀しみをただ夜空の月だけが見ていた。

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