『 魅惑の宵 』


満月の明かりが深く差し込む寝室。ファラオ夫妻のために特に豪華に設えられたその部屋でキャロルは深い吐息をついた。
カーフラ王女のせいだ。これ見よがしにメンフィスに媚態を振りまく王女。キャロルを蔑ろにし、メンフィスを独占する態度に穏和なキャロルも煮えくり返っていた。
王女が国賓であるせいだろうか?メンフィスも王女の好きにさせているように思える。今夜だって、王女をもてなす内宴からまだ戻らないではないか。普通ならファラオ夫妻は一緒に退出するのに、王女の我が儘でその典礼も破られてしまった。
キャロルを先に下がらせたのはメンフィスの思いやりなのだけれども。
(メンフィスを・・・・・誰にも渡したくない。メンフィスが私以外の人を見つめるのはイヤ。メンフィスに・・・・私だけを焼き付けたい。今まで以上に、私だけを!)
キャロルは部屋中の灯火を明るく大きくした。真夜中過ぎの満月の冷たい冴えた光と、灯火の暖かい光は、寝室に不思議な陰影に満ちた明るさを与えた。
寝所に飾られた花が高く薫る。
(メンフィスが私しか見えなくなるようにしたい)
先ほどの宴で少し嗜んだ酒のせいだろうか。嫉妬に悶えるキャロルは、いつもの慎みをかなぐり捨て、紗を脱ぎ捨てると寝台に横たわった。


メンフィスの足音が聞こえた。キャロルは背筋がぞくぞくするのを覚えた。
(今夜は・・・私がメンフィスを欲しい・・・!)
寝室に入ってきたメンフィスはまず室内の明るさに驚いた。そして視線が寝台の上に来た途端、若者は驚きで目を丸くて息を呑んだ。
メンフィスの方を向いて身体を横たえたキャロルは恥ずかしそうに、腰を捻り下腹部を隠すようにしていた。金色の髪は滝のように白い身体を覆い、その下に隠された美しい隆起を予感させた。
「・・・・・待っていたの・・・・・」
「そのような・・・。身体が冷えたのではないか?」
かすれた声でメンフィスは言うと、夜着を脱ぎ捨て大股で近づいてきた。メンフィスはいきなりキャロルに覆い被さると、貪るような接吻を与えた。
「髪の毛が邪魔で・・・そなたが見えぬ」
「あ・・・・待って。その前に・・・・・あなたが見たいの」
メンフィスはうめき声を上げて寝台に引き倒されるままにされた。
キャロルはメンフィスに覆い被さるようにして、明るい光に照らされた夫の彫刻のような体にじっくりと視線を這わせた。優雅な力強さを秘めた首筋、力強い腕、広く逞しい胸。筋肉の陰影も美しい腹部、均整のとれた脚の線。
わざと視線を外していた場所にも、やがてキャロルは容赦なく視線を浴びせた。黒々とした茂み、そこから隆々と立ち上がる力強い欲望。キャロルが視線を動かしただけで、それはいきり立った。
「キ、キャロル・・・」
「まだ・・・・まだよ。もっと見たい」


キャロルはメンフィスの形の良い唇に接吻した。
「あなたが・・・・好き」
唇をつけたままキャロルが囁くとメンフィスはびくっと体を震わせた。
キャロルは足元に移動すると、ゆっくりと熱い吐息を吹きかけながら、琥珀色のメンフィスの肌に口づけていった。足指、体毛の薄い脚、腰。
メンフィスのうめき声がキャロルの身体をも熱くした。触れられても居ない乳嘴が痛いほどに強ばり、身体の芯は熱く疼いた。
キャロルの唇はメンフィスの脇腹を通り、一瞬の戯れのように勃ちあがった欲望に息だけを吹きかけ、鍛え上げられた腹筋をなぞった。小さな小さな胸の突起に口づければ、メンフィスの体は思わずといったように痙攣した。指先でそこに触れながら、うなじに耳朶に唇を這わせる。
「キャロル・・・・・ああ・・・・ああ・・・・」
メンフィスの悩ましい声はキャロルの唇に吸い込まれた。
「そなたが欲しい、すぐにだ」
でもキャロルはまだまだ満ち足りなかった。いつもメンフィスがそうしてくれるように、彼女がメンフィスに愛の極限を与え、悦びで我を忘れさせたかった。
「だめよ。もっとあなたを確かめたいの」
「・・・・・・好きにいたせ」
メンフィスはかすれた声で言った。
キャロルは再び、メンフィスに覆い被さり接吻の雨を降らせた。耳朶を甘く噛めばメンフィスの熱い吐息がキャロルにかかった。
それからあらゆる場所に舌を這わせる。喉元に。鎖骨の窪みに。乳嘴に。メンフィスはキャロルの臀部を揉みしだこうとしたが、彼女はそれには構わず移動していった。
荒々しく勃ちあがったそれに一瞬ためらった。でもメンフィスの手が促すように彼女の頭を掴んだので自分からそっと口に含んだ。不器用に舌を動かせば、メンフィスが彼女の喉を衝く。キャロルが初めて耳にする男の苦しげな喘ぎ声。キャロルはメンフィスに合わせて動いた。
やがてメンフィスは情熱のたぎりをキャロルの中に解き放った。キャロルは極上の美酒ででもあるかのようにそれを飲み干したのだった。


苦しげに眉根を寄せ、荒く息をするメンフィスを見てキャロルはかつてない高揚感に包まれた。
やがて目を開けたメンフィスはキャロルの頬に触れながら言った。
「キャロル・・・・・。今のことは全て・・・現(うつつ)であったのか?それとも・・・・」
「夢などではありませんとも」
キャロルはそう言うとメンフィスの首筋に舌を這わせた。指は胸の突起を弄ぶ。
「もっともっと・・・・あなたを知りたいわ」
たまらずにメンフィスがうつ伏せるとキャロルは背筋に唇を這わせた。腰の窪み、固い双丘の
谷間、膝の後ろの窪み・・・・・。キャロルがちらちらと舌で味わう度にメンフィスはびくっと
体を震わせた。
キャロルが促してメンフィスを再び仰向けにすると、メンフィスは再び完全に力を取り戻していた。
キャロルはわざと焦らすように滑らかな琥珀色の肌に頬ずりした。ぎゅっと身体をすり寄せ、固く
なった乳嘴のうずきを宥めてみる。脚の間をとろりとしたものが流れ落ちるのを感じた。
メンフィスは肘をついて上体を起こすと、期待を込めた目でキャロルを見つめた。
キャロルはさも愛おしげにメンフィスを口に含み、先ほどとは比べものにならない丁寧さで慰めた。
(メンフィスは私だけのもの。私だけの愛しい人。こんなことができるのは私だけ)
メンフィスの恍惚の極みを飲み干した後もなお、愛しげにキャロルはそれを味わい、やがて名残惜し
げに離れた。
「・・・・キャロ・・・ル・・・・」
メンフィスはかすれ声で囁いた。妻を抱き寄せようとする腕はすっかり力を失い、やがてメンフィスは
目をしばたく努力も捨て、瞼を閉じた。
(私は、私の愛とメンフィスが私に教えてくれたことで作り出せる限りの快楽をメンフィスに与えることが
できたんだわ。こんなことができるのは私だけ。メンフィス、私だけの愛しい人)


メンフィスの傍らでキャロルがうつらうつらしだした時、唐突にメンフィスが体を起こした。
「眠ることは許さぬぞ。散々、私を翻弄しおって。もう否とは言わせぬ」
眠りの淵から急に引き上げられたキャロルは喜んでメンフィスに従った。
先ほどの例に従って、メンフィスの手指と舌は、白い身体のあらゆる場所を探り、味わった。
胸の双丘の頂の突起を舐め、甘く囓りながらメンフィスの手はキャロルの脚の間の小さな突起をなぶった。キャロルは身体を弓なりに反らし、甘く呻いた。
唐突にメンフィスの唇がキャロルの熱い亀裂に移動した。舌は馴れ馴れしく亀裂を割り開き、悦びの突起に優しく押し当てられた。
キャロルを強い力で押さえつけ、メンフィスはその身体を弄んだ。突起は倍以上に膨らんで震えた。メンフィスの舌は蜜壷にまで入り込んで中身を啜った。
キャロルはすすり泣いて身を捩ったがメンフィスは復讐でもするかのように執拗だった。
やがて夜空が白々と明るくなる頃、メンフィスはキャロルに押し入ってきた。キャロルは我を忘れてメンフィスの動きに合わせた。
やがてメンフィスは獣じみたうめき声と共にキャロルの中に自分を解放した。
それと殆ど同時にキャロルは意識を手放した。

次の日。
メンフィスは片時もキャロルを側から離さなかった。威厳あるファラオの顔を保ちながらもメンフィスの脳裏からは昨夜の光景が片時も離れなかった。
無垢な少女のような顔をしたキャロルの中にあんな一面があったとは!
慎ましく優雅な身のこなしで朝食の席に現れたキャロルに、メンフィスはそれとなく昨夜のことに触れた。だがキャロルは真っ赤になって恥じらった。
その可憐な様子がどれほどメンフィスを喜ばせたか。キャロルの目論みにまんまとはまったことにも気付かずに、メンフィスはひたすら夜を待ちわびるのだった。


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