『 真夜中  』

真夜中に目が覚めた。
こんなことは初めてだ。いつも目が覚めれば辺りは明るい朝なのに。
夜は暗い。常夜灯の明かりが余計に部屋を暗くしているみたいだ。風の音、僕が身動きするたびに寝台の掛け布が擦れる音、僕の鼓動、息づかい。
心細い。夜はこんなに静かで心細いものだったんだ。
僕はそっと寝台を降りて、自分の影から目をそらすようにして父上と母上のお休みになっておいでの部屋との境の扉を開けようとした。

常夜灯に照らされた部屋が扉の隙間から見える。
父上、母上と呼ぼうとして僕は不意に声を呑み込んだ。
何かが、大きな何かの影が父上達の寝台の上にいて動いている!黒いその影は刻一刻と姿形を変え、僕が聞いたこともない声すらたてているではないか。
夜の化け物・・・?父上と母上はどこにいる?!

暗闇に目が慣れてくるのと、化け物は父上と母上の影だと分かったのはほとんど同時だった。
良かった、お二人は化け物に喰われたわけじゃないんだ・・・僕は少し安心したが・・・・・。

父上も母上も何も着ていなかった。お風呂に入るときのように何も着ていないのだ。
父上は小さな子供のように母上の胸に顔を埋め、母上は父上の背中に手を回して吐息のような不思議な甘い声をたてていた。
愛しい・・・・愛しい私の姫・・・。
・・愛しているわ、イズミル・・・・。
睦まじい父上と母上。でもいつもの、昼間の父上達の仲の良さとは違う。

見てはいけないものを見てしまったことが本能的に分かった。僕は黙って寝室に戻り、目を瞑った。
そして起きた後も夜のことは誰にも言わなかった。誰にも、だ。
でも時々は思い出す。あの睦まじく、でもどこか甘美な毒気のような妖しいものを含んだ夜の光景を。

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