『 看病される王子 』



「王子・・・王子・・・」
どこかで悲しげな声がする。寄せては返す波のように繰り返し、繰り返し。
「王子・・・お願い、目を開けて・・・」

(誰だ?私に呼びかけるのは。私は疲れているのだ。眠くて・・・もう・・・)
それでも王子は意志の力でようやく目を開けた。
長いこと疲労と苦痛の昏睡の闇に慣れていた身に、外の明かりはあまりに目映い。
「王子!気づいたのね!」
甘く薫る光り輝く金色のかたまりが王子の視界を閉ざした。
「良かった・・・良かった。王子・・・!婚儀の後、敵の奇襲が始まって王子と離ればなれになってしまって。もし王子に何かあったら私は生きていけないと思った・・・。お願い、もうこんな思いはさせないで」
「姫・・・!」
はっとしたように王子は叫んだ。
「姫!そなたか!無事であったのだな。あの戦の中でもしそなたを失うようなことがあったらと・・・つっ!」
「王子、起きてはだめ。怪我をしているの。あ、お医者様を呼んでくるわ」
キャロルはそう言って部屋の外に駆けていった。



(そうだ、私は・・・)
王子は思いだした。待ちかねた婚儀の夜、ヒッタイトに遺恨を抱くトロイとエジプトの連合軍が奇襲をかけてきたこと。すさまじい戦の中、王子とキャロルは離ればなれになり、自身はアマゾネスに囚われていたこと。
そしてようやく助け出され、キャロルの安否を将軍に問いつつ、意識を失ったこと・・・。
長い悪夢の中で王子は怪我の痛みと戦い、キャロルの面影を狂おしく追った。
絶望的な状況の中で幾度となく死を覚悟した。それが・・・。
(私は・・・生きている。姫も・・・我が妃もまた・・・!)

医師による手当も済み、王子の意識回復を祝うお付きの人々の興奮の嵐も収まった今、夕暮れの優しい光に包まれた寝室には王子とキャロルの二人きりだった。
キャロルは優しく王子を見つめ、愛しい人の僅かな動きも、望みも見逃すまいというようだった。
(姫がこんなにもまっすぐ私を見つめるのは初めてだな)
いつもいつも自分のほうがキャロルを見つめていた。視線で恋人を絡め取り、どこにも行かせないようにしようとでもいうように。
幼い少女と臈長けた女性が不思議に混じり合った金髪の娘を見つめるのは王子の喜び。
狂おしいほど愛しい娘の青い瞳に自分以外の者が映らぬように、その優しい心に一点の曇りも憂いも生じぬように、真綿でくるむように守り育てるのは王子の楽しみ。
キャロルに見つめられて、いつの間にか王子の頬が赤く染まった。
「王子?熱があるのかしら?大丈夫?誰か呼ばなくては」
「姫、落ち着け。大丈夫だからそこに座っていよ。そなたがあまり見つめるから何とはなしに、な」
王子はそう言って白い小さな手に唇を押し当てた。今度はキャロルが真っ赤になった。



キャロルの熱心な手当のおかげで王子の傷は順調に回復した。
「さぁ、王子。お薬よ。起きあがれるかしら」
「うーん。目眩がする」
王子はふと悪戯心を起こして眉をひそめてみせた。
「起きあがれぬような気がする。・・・そなたが飲ませてくれぬか」
「え・・・?あ・・・でも、でもどうやって?」
「口移し」
王子はさも当然というように杯を顎でさした。
「早く」
キャロルは真っ赤になったがやがて意を決したように杯の中身を口に含んだ。その苦みに顔をしかめる様子の愛らしさ。
キャロルは大まじめに王子の首を支えて頭を起こさせて、自分の唇を王子のそれに押し当てた。キャロルが王子の唇をそっと舌で確かめると、王子もまた唇を開いて薬を受け入れた。
苦いはずの薬は不思議に甘く、王子は心地よさにうっとりとした。

「・・・!・・・」
薬を飲ませ終わったキャロルの身体を王子は、自分の身体の上に抱きあげた。唇を塞がれたままのキャロルは驚いて藻掻くが、王子の力はあまりに強く身を離すことも叶わない。王子はそのまま舌を差し入れ、柔らかなキャロルを思うさま貪った。



「王子・・・!やっ!」
肌に感じられる王子の身体の変化がキャロルを狼狽えさせた。
「ふふ・・・男とはこういう生き物なのだ。そなたの看病で何やら一気に高ぶってしまった・・・な。・・・静かにいたせ。誰かが来てはきまりが悪い。私にそなたを・・・与えてくれぬか・・・?」
王子は薄く笑い、横になったまま器用にキャロルの肩から素早く衣装を抜き取った。白と薄紅色の双丘が露わになり、王子の目と指先を愉しませる。
キャロルは王子の動きに惑乱し、声をたてることもできない。王子のするがまま、王子にまたがったような形で切なく喘ぐキャロル。
やがて王子はキャロルの裾をまくり上げ、淡い草むらをも露わにした。
「いやっ・・・!」
「静かに・・・静かに・・・そなたが見たいのだ。誰も来ない。私たちだけだから・・・恥ずかしくないから」
王子は片手でキャロルの肩を支え、上体を倒せないようにして、空いた片手で草むらの奥をくつろげた。



「もう・・・!」
王子は呻くように低く言うと、キャロルを軽々と持ち上げ、再び自身の上に落とした。
「ひっ!」
唐突に深く穿たれたキャロルは高い声をあげた。
王子はキャロルの上体を支えながら、激しく動いた。キャロルはただ王子の動きに合わせて揺れるだけだ。
秘やかな音と喘ぎ声が寝所を満たす。

「王子・・・姫君。よろしゅうございますか?」
唐突に寝台の紗の外からムーラが声をかけてきた。
羞恥のあまりとっさに身を固くしたキャロルを胸の上に伏せさせると王子は落ち着いて応えた。
「いかがいたしたか?」
言いながら王子は素早くキャロルの上半身の着衣を整え、二人の下半身に毛布をかけ、つながったままの腰を隠した。ちょっと見にはキャロルを王子が抱きかかえているだけにも見える。
「あの、お身体をお拭きになるお支度が整いましたので・・・あ!姫君はいかがなさいましたか?」
紗を透かして寝台を見たムーラは王子の上に身をもたせて顔を伏せるキャロルに気づき驚いたように言った。
「少し疲れたようだ。私の看病で無理をさせたのだ。・・・ああ、少し様子を見てから部屋に戻そう。貧血かな、少し汗ばんで・・・呼んだら湯をもって参れ」
「は、はい」
ムーラも少しは察するところがあったのかそそくさと下がっていった。



やがて王子はキャロルを許した。
自分の傍らにキャロルを横たえ、そっと抱きしめ優しく触れる。
キャロルはあまりのことに呆然としてか、じっと目を瞑ったままだった。
(激しすぎたかな。堪えきれずについ・・・好きにしてしまったが・・・もっと優しく労って愛してやるべきであったか。でも・・・我慢できなかったのだ)
これまで戯れに抱いた女達がさせたこと、女達に王子が為したことをキャロルにもした。
それは身勝手で、王子がキャロルに抱いている想いを冒涜するような行為に思え、王子は自己嫌悪すら感じた。
「姫・・・怒ったのか?目を開けてくれ。姫、男とはこのようなもの・・・許せよ。そなたが愛しくて欲しくて・・・そなたの心を無視するようなことをした」
「王子・・・」
キャロルはそっと王子の肌に触れた。
この初な姫は自分を翻弄する夫をただただ受け入れてくれたと思うと王子は不思議な感動すら覚えるのだった。

王子は侍女達を遠ざけ、優しく汗に濡れたキャロルの身体を拭いてやった。白い肌は紅潮し、王子が愛の残り香も高い場所に触れると軽く粟だった。
「愛しくてたまらぬ・・・」
王子は囁いた。
「これからはそなたが私の手当をしてくれる。そなたが私の側にいてくれる。私もまた・・・そなたに様々なことを教えようぞ」

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