『 看病 』 キャロルとの婚儀を終えた直後、傷を負いアマゾネスの虜となった王子がヒッタイトに帰還を果たしたのはじき冬が来ようかという頃だった。 「王子っ・・・王子・・・!しっかりして。ああ、ひどい傷。どうして・・・こんな・・・。やっと会えたのに・・・」 嘆き悲しむキャロルを将軍が気丈に叱りとばした。 「お落ち着きくだされ、姫君。今は王子の看護をいたさねばなりませぬ。王子は大丈夫でございます。我がヒッタイトのお世継ぎ、姫君の夫君。 姫君、しっかりとご看病を。あなた様のお仕事は王子にご健康を取り戻して差し上げることです」 「ああ・・・そうだわ。ごめんなさい。取り乱したりして」 王子は意識もはっきりせぬままにハットウシャに戻った。道中のキャロルの看護が功を奏したのか、傷は快復に向かっていたが熱が高く、譫言でキャロルを呼ぶばかりだった。 キャロルは侍医やムーラ、他の侍女達に助けられて王子を必死に看病した。 冬の冷え切った空気の中、キャロルは冷水に浸した布で王子の熱い額を拭く。 (王子、王子・・・。どうかどうか目を開けて。あなたに何かあれば私は・・・!) キャロルは回想する。エジプトからさらわれるように王子の許に来た日。 最初は心許せず、王子を手ひどく拒絶した。でも王子は包み込むようにキャロルを見守っていてくれた。 ヒッタイト各地を王子に伴われ旅した日。いつか通じ合った心。 そして・・・トロイの都への婚儀のための巡幸。あの夜・・・ヒッタイトに怨みを抱くアマゾネスが奇襲を敢行した。キャロルと王子は離ればなれに。 (生きていて欲しいと・・・無事でいて欲しいと気が狂いそうだった日々。やっと私はあなたに会えたの。どうか・・・元気になって) キャロルは苦い涙を流した。 看病の日々は幾日になっただろう。雪が降り、ハットウシャの都も白く染まった。 キャロルは連日の疲労と心労ですっかり窶れ、周囲の人々を心配させた。 (でも・・・弱音は吐けない。王子が元気になって私に・・・もう一度微笑んでくれるその日まで。いえ、王子を次の君主と仰ぐ全ての人々のために、私は命に替えても王子を治してみせるわ・・・!) キャロルは口移しで薬を飲ませ、体を拭った。日々だけが過ぎていく。キャロルの手はあかぎれの血に濡れ、痛んだ。 そしてやがてキャロルの祈りが天に通じる日が来た。 いつものように口移しで王子に薬を飲ませたキャロルは、口を離そうとして、いきなり強い力に押さえ込まれた。 「!」 「ひ・・・め・・・。本当にそなた・・・か?」 王子のはしばみ色の瞳が、弱々しい、でも確実に生命の輝きを宿した王子の瞳がキャロルを見つめていた。 「ああ・・・そなたなのか?答えて・・・くれ。私は夢を、また夢を見ているのか?」 「王子・・・っ!」 キャロルはそれだけしか言えなかった。愛しい人の胸に縋ってひたすら泣いた。とりとめなく王子に愛の言葉を、今までどんなに辛く心配だったかをかき口説きながら。 王子はこの上ない幸せを味わいながら窶れ果てた小さな身体を抱き寄せてやるのだった。 「もう・・・傷はふさがったわ。良かった、化膿したりしたらどうしようかと思ったの。お医者様も、そろそろ普通の生活に戻ってもいいとおっしゃたわ。 さぁ、お薬を飲んで。」 キャロルは器用にイズミル王子の体を起こしてやりながら言った。王子に杯を持たせると手早く寝台に散らかった書類を片づける。王子はキャロルや侍医に嫌がられながら、自室で政務を見るようにしていたので。 「姫、何やら楽しそうだな」 「あら、だって王子が元気になってきてくれているんですもの。嬉しいわ」 「可愛いことをいってくれるな・・・」 王子はほうっと溜め息をついて嬉しそうに微笑んだ。 (普通の生活に戻ってよい・・・か。ふむ、普通・・・ね) 婚儀を挙行したのが夏の終わり。今は真冬。王子の禁欲生活はずいぶん長かった。 その夜。王子に付き添っていたキャロルはいつの間にか寝台の脇の狭い長椅子で眠り込んでいた。 王子や他の人々に気を使わせまいと自室に引き取って休むようにはしていたが、ついつい王子の側でうたた寝をすることが多かった。 夜中にふと目覚めた王子は常夜灯に照らされて眠る妻の姿に体を熱くした。 そっと寝台に抱き上げ、衣装をくつろげ取り去ってしまう。そして自らも生まれたままの姿に・・・。 「う・・・ん・・・?なぁに?」 眠りの中の優しい声音。 「そなたが・・・欲しい・・・今すぐに!」 「え・・・?」 キャロルは王子が何を言っているのか分からなかった。だが直後の情熱的な男の動作が、キャロルに王子の言葉の意味を悟らせた。 「だめよ、嫌よ、王子・・・!恥ずかしいわ、傷に障るからっ・・・! あ・・・ああ・・・・っ・・・・ひ・・・!」 「もう我慢できぬ。そなたを側近くに見ながら触れられぬのはもう嫌だ」 王子は真綿のように柔らかに、しかし断固とした力でもってキャロルを押さえつけ、征服者の傲慢さと恋人の優しさの混ざった口調でキャロルに愛を囁く。 怖がらないで。恐ろしくはないゆえ。そなたが欲しいのだ。そなたを私に与えてくれ。そなただってずっと私を待っていてくれたのではないか・・・? 固くならないで・・・恐ろしくはないから・・・脚を開いて・・・ただ私に従え。 王子はキャロルの乳嘴をねぶりながら、馴れ馴れしく脚の間を探った。指先に触れる小さな凝(しこ)りを押しつぶすように弄ればキャロルは悲鳴をあげて震えた。溢れる蜜が王子の指を濡らし、さらに奥へと、内へと誘う。 ああ・・・っ!王子、やめて。私、何だか・・・ 駄目だ。こればかりはそなたの望み通りにはできぬ。 王子の指が胎内に忍び込む。一本、二本、三本・・・。苦痛に耐えかねたキャロルの悲鳴に今度は王子の舌が痛みを和らげようとでもいうように、器官をなぶった。 キャロルはもう王子をはねのけようとすることもできず・・・ただ初めての快感に溺れるばかりだった。 やがて。王子がキャロルに押し入ってきた。 痛みと灼焼感を伴う強い違和感は、やがて切ない快感になった。キャロルは涙に濡れて王子の肌にひしと縋るのだった。 その後、王子は幾度もキャロルに挑んだ。キャロルは譫言のように王子の体を気遣う言葉を口にしながら、果てしなく堕ちてゆくのだった。 次の日の朝。 キャロルは王子の腕の中で目覚めた。真っ赤になって王子を正視できないキャロル。 「姫・・・どうした?私を見てくれ。私のことなど嫌いになったか?あのようなことをしたから」 心配そうに王子は問うた。もっと大切にその時を迎えたかったのは王子の方もやまやまだったが、昨夜はもう我慢できない衝動に従ってしまったのだ。 「いいえ・・・。でも驚いたの、とても。それに恥ずかしかった。・・・あんな格好を・・・」 涙ぐんで訴えるキャロルのあえかな様子に王子は燃えた。 「我らは夫婦だ。何を恥じらうことがあろうか。私はそなたの全てが知りたいのだ。教えてくれ、そなたを。そなたの暖かい身体を、甘い匂いを、可愛らしい声を、私に与えてくれ」 王子は素早くキャロルを組み敷いた。夜明けの光で徐々に明るくなっていく寝室でキャロルは王子の視線で深く改められ、その身体には荒々しすぎる王子を受け止めるのだった。 「姫君は少しお疲れのようでございます。長きのご看病のお疲れが出たのでしょう。暖かくして汗をおかきになってしばし御安静に」 王子と初めて結ばれた日。微熱を出して寝込んでしまったキャロルを侍医はそう診断した。 キャロルを自分の膝の中に抱きかかえた王子は鹿爪らしく侍医に頷いて見せた。 やがて侍医は下がり、再び寝室で王子とキャロルは二人きりになった。 キャロルの寝間着を取り去ろうとするのに抗うキャロルに王子は言った。 「さぁ、怪我人の私を困らせるな。侍医はもうしたであろう?安静にして汗をかけと。そなたは私に全てを任せておればいいのだ。身体を暖め、汗をたっぷりとかかせてやろう・・・」 |