『 侍女キャロル 』 「やめい!まだ子供ではないか、許してやれ!!」 「は、メ、メンフィス様・・・」 砂漠の石切り場に響き渡った声に、工事現場の監督官はふりあげた鞭をぴたと静止させた。 傷ついたセフォラを腕に抱えて身を固くしていたキャロルが、その声におそるおそる顔をあげる。 「あ、あなたは・・・」 自分を見下ろす少年の秀麗な口元がにやりと歪んだ。 「そなた異国の者だな。珍しい金の髪に青い瞳、面白い!!」 溌剌とした声でそう言うと、絢爛豪華な黄金細工で身を飾った少年は、よく日に焼けた腕を伸ばし、ぐっとキャロルの肩を掴みあげた。 「ふーん、近くで見るとなかなかに愛らしい顔をしているではないか。気に入ったぞ!」 「は、はなして・・・」 「なに?」 「セフォラ・・・私のことより、セフォラを助けてください。怪我をしているのよ。車の下敷きになって、足を痛めて・・・お願いです、はやく手当てを・・・」 青い瞳を潤ませて懇願するキャロルに、メンフィスはちらりと倒れた奴隷女に鋭い視線を走らせた。 泥にまみれた布を身にまとい、血の流れる足を押さえて、少女の母親ほどの年の女が苦しそうにうめいている。 「その女を助けたいのか?」 「ええ。お願い、セフォラを医師にみせて、休ませてあげてください」 「奴隷女のために、医師を遣わすことはできぬ」 「そんなっ!!」 「だが、苦役を免除してやることはできるぞ。怪我が治るまでゆっくりと家で休ませてやろう。・・・そなた次第だ」 「え・・・それはどういう・・・」 「そなたが私のものになるのなら、その女を助けてやろうと申しているのだ」 「え、えええっ?!」 メンフィスの申し出に、キャロルは驚愕したように目を見開き、まじまじと相手の美麗な顔を眺め上げた。 揶揄するような光を含んで、甘く煌めく黒曜石の瞳。 口元に刻んだ面白そうな微笑。 おのれに対するなみなみならぬ興味と好奇を宿したその無礼な眼差しに、キャロルはほとんど反射的にメンフィスの腕を払いのけた。 「ふ、ふざけないで!!私は物ではありません!!」 「違うな。おまえは私の所有物だ」 「なんですって?!」 「おまえだけではない。このエジプトにあるものは、すべてファラオである私のものだ。人も、物も、大地もすべて・・・例外はない!!」 「そ、そんな・・・」 傲然として嘯くメンフィスに、キャロルは困惑もあらわに赤い唇をかみ締めた。 この少年がエジプトの王!! 現代で考古学を学んでいたキャロルは、古代エジプトのファラオの権力のすさまじさをよく承知していた。この相手の言うとおり、古代ではナイルのほとりに存在する全ては王に帰するものと考えられていたのだ。 当然、その地にすまう人々もしかり。 まして今は奴隷身分にすぎないキャロルに、王の言葉を拒否する権利など、かけらも与えられていようはずはない。 「だけど・・・私は・・・」 「その女を助けたくはないのか?」 それでもはかない抵抗を試みようとしたキャロルをなぶるように、メンフィスがちらりと視線だけで倒れたセフォラを指し示した。 「ああ、セフォラ・・・」 「すべてはそなた次第・・・私はそなたが気に入った。そなたが大人しく私に従うというのなら、その女を助けてやろう。医師にもみせて、手当てをしてやる。だが、逆らうというのなら――」 「逆らえば・・・どうするというの・・・?!」 「その女を殺す」 当然のような口調で言い放ったメンフィスに、キャロルは息を飲んでその場に凍りついた。 「そんな・・・そんな・・・ひどいわ・・・」 あえぐような呼吸であたりを見回しても、キャロルを助けてくれそうな相手はひとりもいない。 「そのような顔をするな。なにもそなたを苛めようというのではない。申したであろう? 私はそなたを気に入った、と。素直に従えばうんと可愛がってやろう。最高の贅沢もあたえてやる」 「・・・・・・」 「私と共に王宮へくるのだ。よいな?」 絶対的な響きを帯びた命令に、キャロルは震える拳を握り締めながら、なす術もなく頷いた。 見れば、いつのまにか手に手に武器を構えた屈強な男達がずらりと周りをとり囲んでいる。ここでキャロルが逆らえば、メンフィスは間違いなく即座にセフォラを殺させるだろう。 そんなことはできない。絶対に――!! 悄然としてうつむくキャロルの身体を、軽々とメンフィスが愛馬の上に抱えあげた。 戦利品を腕にご満悦のファラオに付き従って、兵士達も砂塵をあげて工事現場を後にする。 「キャロル・・・」 悲痛な表情で見送るしかないセチとセフォラの目の前で、キャロルの姿は見る見るうちに遠ざかり、砂塵の彼方に消えて行った。 「キャロル! 何をしている?!」 熱い湯気のたちこめる湯殿のなか、介添え役の侍女として王の側に侍っていたキャロルは、凛とした声に物思いを破られ、はっとして顔をあげた。 「い、いいえ・・・なんでもないの、いえ、ありません・・・」 慌ててそう答えると、手にした薄布を王に向けて差しあげる。 だがメンフィスは、それを目線だけで払いのけると、そばに置かれた葡萄酒の杯を無言のうちに所望した。 「何を考えていた?」 「・・・いいえ、何も・・・」 「私に隠し事はゆるさぬぞ」 黄金の杯を口元に運びながら黒曜石の瞳を光らせるメンフィスに、キャロルは白い頬を赤く染めてうつむいた。 白く視界を霞ませる湯気に揺れる王の肢体。 よく引き締まったなめらかな褐色の肌の上を、透明な水滴が幾筋もこぼれ落ちていく。 砂漠の工事現場からキャロルを連れ帰った後、意外にもメンフィスはキャロルとの約束を守り、傷ついたセフォラとセチに十分な手当てを施してくれた。 無論その代償として、キャロルを己の側に置くことは忘れなかったが、強引な激しさのなかに、時折り思いもかけない優しさをのぞかせるメンフィスに、キャロルはいつしか無意識のうちにも心ひかれるようになっていた。 Ψ(`▼´)Ψ 若く美しい砂漠の王。 昼は侍女としてその傍らに侍り、夜は寵姫としてその腕に抱かれて過ごす豪奢な宮殿での生活は、決してキャロルが心から望んだものではないにせよ、必要以上に彼女を苦しめるものではすでになくなっていた。 「そなたは私のものなのだ。・・・この身も、心も、美しい金の髪の一筋までも全て・・・・わかっていよう?」 「あっ、メンフィス・・・」 不意に、メンフィスは顔をあげると、戸惑うキャロルに向けて透明な滴に濡れた腕を伸ばした。 力に満ちた言葉とともに、ゆっくりとメンフィスの指先が腰にかかり、あっと思う間もなく、キャロルの身体は湯船のなかに引き摺りこまれる。 思いのほか小さな水音が上がり、身にまとっていた上等の衣が花弁のように水の面に浮かび上る。 濡れた衣はたちまちのうちに透き通り、ぴたりと身体にはりついて、なやましい曲線を、恥ずかしいほどあらわに男の目の前にさらしていく。 「あっ、メンフィス・・・いやっ・・・」 「拒むことは許さぬと申したはずだ。それに・・・そなたは嫌がってなどおらぬ・・・」 「ああっ・・・だって、こんな所で・・・誰かに見られたら・・・」 「人払いをしてある。誰も私の許し無しにここへ近づくことはできぬ」 「でもっ・・・!」 Ψ(`▼´)Ψ ゆらゆらと水面に浮かぶ衣を手早く外し、何度見ても溜息が出るほど美しい白絹の肌を指先と唇であらためていく。 手馴れた愛撫が肌をすべり、柔らかな二つのふくらみを押し包むようにもみしだくと、キャロルは思わずといったように身を捩り、紅く染まった唇から甘い嬌声を迸らせた。 「やっ・・・はぁっ・・・あぁんっ・・・・・・!!」 そここに幼さを残した少女の顔が、男の愛撫で妖艶な女の貌に変化する。 白魚のような腕が水をかいて跳ね上がり、男の指先の動きにあわせるように、輝く肢体をしならせる。 そんなキャロルの様子を満足そうに観察しながら、メンフィスはいっそう熱をこめて柔らかな肌をまさぐり、つんと誘うように立ち上がったキャロルの乳嘴を吸い上げた。 「あああっ!」 疼くような快感が背筋を走り、キャロルはたまらず長く乱れるメンフィスの黒髪を抱え込んだ。 追い討ちをかけるようにしなやかな指先が背筋を撫で上げ、キャロルの反応する箇所を見つけては、これでもかとばかりに官能の炎を煽り立てる。 「嫌・・・いやぁ・・・メンフィスぅ・・・・・・」 「嫌ではなかろう。そら、もうこんなに・・・・・・」 「あ、ああっ、嫌、いやぁっ・・・!」 ともすれば湯船に沈みそうになるキャロルの身体をメンフィスは両腕に抱え上げ、あらわに揺れる肢体が自身の目の前にくるよう湯船の縁に腰掛けさせた。 「まだ触れてもおらぬに、こんなに蜜を滴らせて・・・欲しいのだろう・・・?」 「嫌、イヤッ・・そんな、違う・・違うわ、私は・・・っ」 「何が違うと申すのだ?」 今にも泣き出しそうなキャロルの顔が、ますますメンフィスの内に潜む獣の性を燃え上がらせる。 細い足の片方を肩に担ぐようにして、キャロルのそこを大きく押し開くと、メンフィスは銀色の蜜の中であえぐ花弁を好色な視線で眺め回した。 Ψ(`▼´)Ψ 「はぁっ・・・んっ・・あぁっ・・・」 そのままあえて秘所には触れぬまま、濡れた水滴を纏わらせる大腿を円を描くように撫で回し、誘うような吐息を繰り返す紅い唇を啄むように口付ける。 ふっくらとした下唇を甘噛みし、ちろりとのぞく舌先に己のそれを絡めると、キャロルは反射的にメンフィスの首に腕を回し、扇情的な口付けにこたえてきた。 「あぁ、メンフィス・・・メンフィスぅ・・・」 耳元でこぼれる、ねだるようなキャロルの声。 白い腰が無意識のうちに動いて、男の愛撫を誘っている。 それを十分に意識しながら、メンフィスはもどかしいほどゆっくりと指先を滑らせ、震える花弁を避けるように、ほっそりとくびれた腰やそこから続く曲線を楽しむように撫で回した。 「あ、ああんっ、メンフィスぅっ!」 火照った身体を焦らすように、近づいては離れる指先の動きに、キャロルはたまりかねたように首をふり、痺れるような熱に疼く腰を無意識のうちに突き出した。 いまだ一指も触れられていないそこは、すでに恥ずかしいほど濡れそぼり、薄紅色の花弁から立ち上がった小さな真珠が快楽を求めて喘いでいる。 「ふふ、よい顔だ・・・キャロル、どうして欲しい・・・?」 「いやッ・・・意地悪・・そんなこと・・・・!」 「そなたが嫌なら・・・ここで止めてもよいのだぞ?」 美しい黒曜石の瞳に、甘く残酷な光がきらめいている。 ここで止めることなどできようはずはない。熱く火照った身体は高ぶりきって、メンフィス自身に宥めてもらわなければ、どうにもならないところまで追いつめられている。 それをようく分かっていながらそんなことを言うメンフィスに、キャロルは涙を零して真っ赤に染まった頬をうつむけた。 Ψ(`▼´)Ψ 「泣くな。これではまるで、私がそなたを苛めているようではないか」 「・・・苛められて、いるもの・・・」 「馬鹿なことを。これほどに愛しんでいるというに、なにが不満だ?」 そう言いながら指先を伸ばし、紅く凝った固い蕾をメンフィスが摘み上げると、キャロルは濡れたような悲鳴をあげてしなやかな背中を仰け反らせた。 「うっ・・ん・・・ふあぁぁっ」 「そなたはここがよいのだな・・・こうして弄ってやるだけで、艶やかな声で身を捩る。・・・これはどうだ?」 「あっ、ああっ、あぁんっっ・・・・」 こりこりとした感触の乳嘴を、親指と人差し指で捻るようにさらに擦りあげると、その動きにあわせるようにキャロルの紅い唇から甘い悲鳴が漏れ落ちた。 指先一本の愛撫でも、すでに煽りに煽られた身体は、驚くほど敏感に反応してしまう。 「んっ、ああぁ・・・メンフィス、私もう・・・!」 「もう・・・?」 「ぁ、ああっ、お願い、焦らさないで・・・もっと、もっとちゃんと私に触れて・・・っ!!」 「・・・こうか?」 「あっ、あぁっ、あああぁぁぁっーーーーっ!!!」 指先の愛撫にかわって唇に乳嘴の先を含み、胸元を離れた指先を下肢の間にくぐらせ、濡れた花芯を撫であげる。 歓びの真珠にメンフィスの指先が触れた瞬間、キャロルは激しく身体を痙攣させ、高らかな嬌声を上げてのぼりつめた。 Ψ(`▼´)Ψ 「ふふ、なんと他愛もない・・・まだ、これからが本番だと申すに・・・」 息も絶え絶えに、あえぐような呼吸を繰り返すキャロルのやわらかな肢体をメンフィスは両腕に抱きかかえ、湯船からあがると一隅に設えられた寝椅子の上に横たえさせた。 すっかり脱力した身体にまつわる透明な滴を薄い布でふき取り、あらためて上気した頬をのぞきこむ。 「可愛いキャロル。そなたは私の最高の寵姫だ。そなた以上の女は後にも先にも現れぬ」 「あ・・・メンフィス・・・」 熱い口付けがキャロルをおおい、やがて再び熱を帯びて、甘く熟したキャロルの身体に、メンフィスはゆっくりと己自身を埋没させた。 性急な男の動作が、身も世もあらぬほどの快楽をキャロルの身体に呼び起こし、やがて少女の若い身体は、我を忘れて官能の海に溺れていく。 「ああっ、メンフィス、メンフィス、もっとしっかり私を抱いて。離さないで・・・もっと強く・・・!!」 「・・・キャロルッ・・・!」 薄れゆく意識の中。キャロルは目の前で揺らぐメンフィスの身体に縋りつき、その行為の最後に、言葉にならない思いを甘い悲鳴と共に迸らせた。 (ああ・・メンフィス、私は・・・・) あなたが好き。 侍女としてではなく、寵姫としてでもなく、一人の女として私はあなたを愛してしまった。 こんなに粗野で乱暴なあなたを。 私を珍しい玩具のようにしか扱わないあなたを。 けれど誰よりも頼もしく、あらがいがたい熱と力で私を包んでくれたあなたを、私は本気で愛してしまった。 どこまでも私を寵姫としてしか扱ってくれないあなたを、私は愚かにも本心から・・・・・・。 「・・・キャロル?」 熱い身体を夢と現の狭間にたゆたせながら、澄んだ透明な滴を一筋こぼれさせたキャロルの頬を、メンフィスが不思議そうにそっと指先で撫であげた。 キャロルは眠ったように目を閉じたまま、何の答えも返さない。 静かに横たわるキャロルの瞼に、メンフィスはひとつ口付けを落とすと、そのままキャロルを残して一人湯殿を出て行った。 表の宮殿から聞こえる華やかな声。 ルクソールの神殿に、祈願を捧げにでていた女王アイシスが、宮殿に戻ってきたのだろう。 メンフィスの姉であるアイシスは、同時に王の婚約者でもあり、二人の婚儀は日取りもすでに決定している。 (メンフィス・・・・・・・) 宮殿の侍女として王に仕えるキャロルは、未来の王妃を出迎える女たちの列に加わらねばならない。 メンフィスは、侍女の役目など辞して後宮に入れと言ってくるが、どうしてもその申し出だけは受け入れる気になれなかった。 実質、王の寵姫とかわらぬ暮らしをしているのだとしても、自分は侍女なのだと思いこまねば、今のこの苦しい物思いには耐えられない。 のろのろと身体を起こし、身支度を整えたキャロルの上を、艶やかな女たちの笑い声を乗せた風が吹き過ぎていく。 晴れやかな女王の喜びも、想いに沈む少女の心の葛藤もまるで知らぬげに、白い雲が真っ青な天の高くを音もなくただ流れていった・・・。 終 |