『 陰謀−エレニーの独白− 』 −わたしの務めはこの麗しくも美しい男を殺めること− 静かなる夜のとばりの中・・・ わたしは軽やかに身を翻し物影に身をひそめ、目の前にある美しき獲物を見つめる。 滝のごとく流れる漆黒の髪に凛々しい顔立ちはまこと女と見まごうばかりであると言うのに、夜目にも爛々と輝く黒曜石の瞳はなんと雄々しく強い輝きを放つのだろう。 なめらかな褐色の肌に包まれた逞しいしなやかな肢体は、野生に生ける獣のごとく猛々しく美しい。 完璧な美を纏う私の獲物・・・メンフィス王。 闇の狭間でわたしは人知れずおののき身震いするのだ。 この手で、このわたしの手で美しく輝やかしいファラオの息の根を止める・・・その至福の悦びに。 毎日毎夜、ファラオは愛してやまぬ姫君をその腕に抱き夜の閨へと消える。 ファラオにも引けを取らぬ美しい姫君。 腰より長い髪は黄金よりも艶やかに輝き、姫君が歩けばベールのように軽やかに舞いながら纏いつく。 ナイルよりも青いと謳われる瞳はまこと宝玉のような煌きを宿す。 すべらかな白い肌に暖かみをそえる愛らしい薔薇色の唇。 殿方に愛されんがために、いや、この美麗なるファラオにこそ愛されんがため生まれて来たような可憐な姫君。 待てぬとばかりにファラオは荒々しく姫君の衣を引き裂き帳の外へ投げ捨てる。 重なり合う褐色の肌と白い肌。 ファラオの唇が触れれば、透きとおるような白い肌にほのかな紅色の小さな花が咲く。 柔らかに波うつ黄金の髪のうねりの中に黒絹の髪が音もなく流れ落ちる。 わたしは息をひそめる。 姫君の蜜のしとどに溢れる泉をファラオはその指で、その唇で、優しく蹂躙する。 わたしは耳をすます。 姫君の花びらのような唇から慎ましくも甘美な呻きが漏れる。 ほの暗い床に照らし出された愛し合う二人の影がゆらめく。 ゆっくりと女の中に身を沈める男の影。 その影は深々と交わり、切なく甘美な喘ぎに駆り立てられ激しさを増してゆく・・・狂おしいほどに。 色濃く漂う甘く熱い空気がわたしの身をも焦がす。 刃を握り締めるわたしの指がじっとりと汗ばむ。 この世の何よりも美しいわたしの獲物に至高の死を。 愛しい姫君の中へ熱情を迸らせるその瞬間、その美貌は深い恍惚に満ちて妖しいほどの艶かしさを見せる。 わたしはその儚い刹那の美しさを永遠に留めるのだ。 今、ファラオと姫君は共に官能の極みに登りつつ・・・ −THE END− |