『 変身 』 「禁断の恋をしよう」とゆーまんがが元ネタです。読んでいただけると嬉しいです。 0 いつもこの庭には私とあなただけだったのに。 書物を読むあなたのために日差しを遮り、あなたのために甘い果実を実らせ、あなたのために美しく在る。 あなたが好きで、あなたも私が好きで、それだけで幸せだったのに。 あなたは成長し、私は老いた。 あなたは残酷にも他の女を伴って私のところにやって来た。 金色と白と碧の女。いえ、女と呼ぶにはまだ幼い。性の匂いすらしないそんな子供。愛らしいけれど幼くて、あなたが好む複雑な陰影のある美しさはない。 なのにあなたはその女を愛する。 口づけ、淫らに触れ、優しく慈しみ、くまなく改めて味わって、子供を女にしようとする。 私とあなただけのこの美しい奥庭で。あなただけを見てきたこの私の目の前で。 私が散らせる花びらは私の涙。 なのにあなたは昔と変わらぬ微笑を浮かべ、美しい、と言ってくれる。 あの女の白い頬に口づけながら。 ある昼下がり、薄紅の花びらの彩る草のしとねであの人は娘を女にした。 私はあの人の心を奪った憎たらしい子供が、声をあげ涙を流して女になる瞬間を見ていなくてはならなかった。 1 「きれい・・・・」 王子の肩越しに見える杏の木を見上げてキャロルは呟いた。 「私が子供の頃、はるか東方の国より献上されてきたのだ。甘い果実、涼しい木陰、私の気に入りの場所だ」 王子は一糸纏わないキャロルを膝の中に抱き寄せながら言った。 王子の庭は許しがなければ誰も入れない。その庭でお気に入りの恋人キャロルを抱くのが王子の密かな愉しみだった。 肉付きの薄い子供っぽい身体は未だ王子を受け入れるのに少し苦痛を覚えるらしかった。接吻の仕方から始めて、男を迎え入れるときの身体の開き方まで入念に教え込むほどに王子はキャロルに入れ込んでいた。 「いつもここで一人、書物を読んだり、考え事をしたりするのが好きだった。 そなたが初めてなのだ、ここに来ることを許されたのは」 王子はそう言って花びらを、少女の肌にのせてみた。接吻の跡に、乳嘴に、未だ火照る茂みの上に。 「いやだ、恥ずかしい・・・」 男の戯れにキャロルは真っ赤になって身をよじった。しかし好色な男の目から見れば、それは何とも積極的な誘いの仕草・・・。 「私がこんなに好色になるのは、そなたの誘いがあまりに甘美で抗いがたいゆえ・・・」 王子は指で脚の間を探り、泉を湧き出させながら耳朶に囁きかけた。 不意に。 ごうっと風が吹いた。強い風は杏の花を吹き散らせ、一瞬視界を奪った。 そして風が止めば。 王子の腕の中には10歳になるかならぬかの幼姿に変じたキャロルが居た。 2 「一体、どうしたことかな・・・・」 王子は途方に暮れたようにキャロルを見つめた。 キャロルは幼女の姿になったままだ。幼い姿はさらに幼く頼りなげになり、王子を途方に暮れさせた。 キャロルもまた訳が分からず、固い表情で王子に縋った。 王子妃はにわかの不例ということで居室に籠もりきりとなった。王子と限られた侍女しか目通り出来ない。 「姫君のお加減は変わりませぬ・・・」 困り切った表情のムーラが王子を出迎えた。ムーラ達に大切に守られているキャロルは王子を見て嬉しそうに微笑んだ。 背丈は王子の腰くらいまでしかなく、それはそれで愛らしく心惹かれる容姿であるのだが、キャロルと肌を重ねる喜びに夢中の王子には何とも物足りない。 そしてそのことはキャロルにも分かっていた。添い寝の折り、王子の欲望には気付かざるをえなかったから。 兄妹のように戯れる昼間、睦まじく清らかな添い寝。そんな日々が幾度重なったか。 「・・・・王子は私のこと、好きでいてくれる?」 「当たり前ではないか。何故にそのようなことを聞く?そなたがどのような姿であっても私はそなたが愛しい。ことさら聞かねば信じられぬか?」 「いいえ、ただ・・・」 キャロルは言葉を呑み込んだ。 「おやすみなさい、王子」 3 「呪術師に聞いても、占星術師に聞いても埒があかぬ。薬師、医師などもっと役に立たぬ。もう半月近くなるというに!」 奥庭の杏の木の下で王子は言った。側には子供姿のキャロル。 「・・・ごめんなさい、王子」 「そなたが謝ることではない。しかし何なのかな、魔術、呪術の類なら大概は破れるはずなのにな。まして、そなたは誰か人の強い恨みを買うような人間ではないはずだし」 王子は幼い唇に接吻した。でもそれは恋人同士のそれではない軽く触れるような接吻。 (そなたに触れたくてたまらないが、しかし子供を抱くのは倒錯じみているし・・・第一、壊してしまいそうで。姫とて嫌がるであろうし) (王子はこんな姿の私からいつか離れていってしまうかもしれない) 一度、王子の手で火照りの甘美さを教え込まれた身体。キャロルは思い切って尋ねた。 「・・・・王子は私のこと好き?好きでいてくれる?あの・・・あの・・・身体の結びつきなんてなくても?」 幼い姿をしていても心は人を愛し求めることを知った女のそれ。 「当たり・・・・当たり前ではないか、そんなこと」 王子は思わず子供を強く引き寄せた。幼女は引き寄せられるまま、大柄な青年に接吻する。 「本当に?どんな姿形でも、私が私だから好きでいてくれる?たとえ・・・できなくても?私を抱きしめてくれる?」 「証拠が・・・欲しいか?私はそなたの心をこそ愛しく得難いものと思うておるに!」 王子はキャロルにのしかかった。キャロルは抗うどころか王子に縋った。 4 Ψ(`▼´)Ψ 「怖いの、心細いの、王子、王子・・・」 「そのようにされては・・・・私は・・・・男は・・・」 「お願い、私を離さないで。しっかり抱いて。怖いの、怖いの・・・」 「良いのか?まこと・・・良いのか?私はそなたを傷つけ毀すや・・・も・・・」 王子に与えられた返事は強い強い抱擁。 「お願い、王子・・・お願い・・・!」 杏の花の下、誰も知らぬ秘密の倒錯の宴。 オリーブ色の肌をした大柄強固な体躯の若者が幼い白い身体を組み敷き貪る。 未だ膨らみを持たぬ細い頼りない身体。それでも慈しまれれば折れそうな身体は撓り、異性を誘う蜜を滴らせる。 男は舌を固く尖らせて、幼子の深い亀裂を入念に味わった。幼い形でありながら女の反応を見せる身体にいつしか王子も溺れて狂態はエスカレートする。 「そなたが愛しい。そなたがそなたであるからこそ、私はそなたが愛しい」 自身の情熱を未熟な花芯に浴びせかけ、王子は腕の中で達してしまった幼女に譫言のように囁いた。 そして・・・・・・・・・・・・・。 魔法はとける・・・・・・・・・。 狂ったように咲き、咲いたさきから散る杏の花の下・・・・・・。 5 私は天に還ります。 天に還れば沢山の姉妹達が私を迎えてくれるでしょう。東の果ての国でそうであったように。 さようなら、私の愛したあなた。 幼子であったあなたがいつしか美丈夫となり、私はあなたに恋をした。 あなたが愛した女の姿を変えて、あなたから遠ざけようとしたのにあなたは術に惑わされなかった。 あなたが幼姿の女を愛して見せたとき、私の中で何かが壊れました。 さようなら、あなた。 愛しいあなた。今となっては浅ましい私の心根をあなたに知られずに済んだのがせめてもの救いです。 王子の奥庭の杏が枯れたのはその年の夏のこと・・・・・。 |