『 月光 』

「キャロル・・・?」
メンフィスがそっと声をかけた。ファラオ夫妻の寝室。先に部屋に下がったキャロルは待ちくたびれて寝入ってしまったらしい。珍しいことだ。
灯火に照らされた白い顔。細い鼻梁、甘く微笑んでいるようにも見える唇。細い肩、小さな手。
(こんなにも華奢であったか・・・)
今更ながらメンフィスは作り物めいた繊細さを漂わせるキャロルに驚いた。その小柄な身体は日毎夜毎確かめているはずなのに。
寝台の脇に置かれた小さな卓にもたれ掛かるようにして眠るキャロル。金色の長い髪の毛が豊かに流れている。メンフィスが一度も切ることを許さない髪の長さが、二人で過ごした年月の長さを物語る。
(愛しい愛しい愛しいそなた。切ないほどに哀しいほどにそなたが愛しい。このような気持ちになるとは・・・?)
メンフィスはそっとキャロルを抱き上げ、優しく寝台に横たえた。額にかかる髪を掻き上げ、起こさぬように腕の中に抱きしめる。
「・・・・メン・・・フィス・・・?ごめん・・・なさい。うたた寝・・・」
キャロルがうっすらと目を開けて呟いた。
「お・・・すまぬ。起こしたか?そのままで良い。今宵はゆっくりと休め。疲れておるのだ、きっと」
「ん・・・」
キャロルは昏々と眠ってしまう。
(本当に疲れ切っているようだ。珍しいな。あるいはこの乾期の暑さゆえだろうか?滋養を取らせねば。離宮に休養に行くのも良いな。黙って頑張るばかりゆえ、私もつい気遣いを忘れてしまう。いかんな)
月の光の青白さが不吉なまでの美しさをキャロルの頬に添える。メンフィスは無意識に魔除けの呪文を唱えながら、キャロルの額に口づけるのだった。

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