『 王子とキャロルの朝 』



蒸し暑いよどんだ部屋の空気の中で、キャロルは寝苦しい浅い眠りの中から目覚めた。
夏の嵐がハットウシャを翻弄した一夜。狂ったように吹きすさぶ風もやや静かになり、天地を揺るがすほどの雷鳴も今はもう遠い。
強い風を避けて室内の窓は全て分厚い鎧戸に閉ざされていた。外では強風が吹き荒れているのに、室内はその風で涼を取ることもできずに蒸し暑いのだ。

雷の音に怯えるキャロルを守るように抱いた王子はまだ眠っている。
キャロルはそっと王子の腕の中から抜け出すと冷たい床に降り立った。汗ばんだ薄衣が気持ち悪い。
「・・・姫?どうした」
王子は無断で寝台から抜け出し、細く開けた窓から風を浴びるキャロルを見て少し不機嫌そうに言った。
「王子。起こしちゃったのね。ごめんなさい。少し風に当たりたかったの。暑くて・・・」
王子はしなやかに起き直り、キャロルの横に立ち、大きく窓を開けた。夜明け前の空は暗灰色で湿った風が二人の髪を弄んだ。
「嵐は去ったか・・・。蒸し暑いな。すっかり汗をかいてしまった。・・・そうだ。参れ、姫!」
王子はキャロルの腕を掴んで夜明け前の暗い庭に降り立った。



王子の庭には小さな泉があった。杏の木が陰を落とすその泉は、激しい嵐の後にもかかわらず清らかに澄んでいた。
「おお・・・冷たい水だ」
王子は水を掬ってそっとキャロルの白い手にもかけてやった。
「本当に・・・。何てさわやかなんでしょう。気持ちいいわ」
王子は片手で水を掬って口に運んだ。こぼれた水が王子の胸元を濡らす。
「あ、王子。濡れてしまって」
「・・・かまわぬ。ああ、汗をかいてしまったな。本当に寝苦しき夜であった」
王子はいたずらっぽく笑うと、夜衣を無造作に脱ぎ捨て・・・泉に身を浸した。
「お、王子っ・・・!」
薄暗い夜明け前の光の中でも、王子の鍛え上げられた体はよく見える。広い肩、たくましい胸、力強い腕。水の中で無造作に組まれたしなやかな脚、そしてそして・・・。
顔を赤らめ、思わず逃げ出そうとしたキャロルだが、王子はいとも簡単にキャロルを捕まえてしまった。
「暑いのであろう?ふふ、何をそのように恥じらう?水を浴びれば良いではないか?」
「やだっ・・・!だってここは外じゃない。誰か来たら・・・そ、それにっ・・・あのっ・・・!」
「ここは私の庭だ。許しなく入る者もおらぬ。私は水を浴びたいのだ」
「あのっ、だったら私、向こうで待ってるから。ね?」
「そなたも汗をかいているではないか。夫と水を浴びるのに何を嫌がる?今更、恥ずかしがるような間柄でもあるまいに!」
王子はさも面白そうに笑うと、素早くキャロルの薄衣をはぎ取り、泉に引き入れてしまった。恥じらって身を捩る白く柔らかなキャロルの身体を愉しみながら王子は囁く。
「ふふ、じっといたしておれ。そなたが声をあげれば誰かが不審に思って見に来るぞ。・・・さぁ、おとなしくしてくれねば・・・私も困る」
自分の腰あたりに当たる王子の体の一部分の感触がキャロルの全身を桜色に染める。
王子の大きな手がキャロルの汗ばんだ体の上を滑り、巧みに清涼な水で清めてゆく。その慣れた手つきは愛しい人の感触を愉しみつつ、巧みに緊張を解してゆくのだ。



「あ・・・王子。恥ずかしい・・・!こんなの嫌。こんな・・・」
いつのまにやら王子の手は、キャロルを夜毎に翻弄する、あの手つきをしていた。キャロルの身体は急速に熱くなっていった。王子はキャロルの懊悩を見透かしたように言った。
「ふ、嫌、か。夜明け前だからか?外だからか?でも、そなたの本当の心は・・・」
王子のは無遠慮にキャロルを開いてゆく。薄紅色の真珠の女神はうち震え、見る見る大きくなっていった。王子は恭しく女神に接吻し、その賜物である蜜を啜った。
キャロルは唇をかみしめ、うっすらと涙を浮かべさえして王子に縋った。その仕草が王子を余計に高ぶらせる。
清らかな水の中、絡み合う二つの体はやがて一つに合わさった。王子の低い吐息とキャロルの押し殺した嗚咽が朝の大気の中に溶けてゆく。
東の空はようやく白くなりかけ、どこかで早起きの小鳥が鳴いた。
「愛しい・・・」
王子は優しくキャロルに接吻し、そっと寝室に戻っていった。心地よい疲労の中でキャロルは王子の胸に顔を埋めた。
寝室に戻っても王子はキャロルが何かを着ることを許さなかった。
「せっかく汗を流したのだ。しばらくこのままでも良いではないか?ふふ、動物のように・・・何も着ぬというのもなかなか新鮮だな。少なくとも目を喜ばせるものではある」

しばらくしてムーラが王子達を起こしに来た。
「昨夜は暑苦しく寝苦しゅうございましたでしょう。朝のお湯をお召し遊ばせ」
王子とキャロルは秘密を持った子供のように仲良く浴室に消えた。王子は妃の体を丁寧に清めてやった。それは王子の秘やかな楽しみであったから。幼げなキャロルの身体の変化を探り、そこここに残る愛の名残を見るのは王子の男の心を喜ばせる。

ムーラはその日、王子の庭の泉の所で2着の夜衣を見つけた。いつも冷静なムーラは少し顔を赤らめながらそれを回収した。
(まぁ・・・お二方は何をなさったのやら。私以外の者が見つけたのではなくて良かった)
・・・ヒッタイトは平和である。

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