『 808さん其の1 』 四方に置かれた明かりが寝台の上に座したままの二人を淡く照らしている。 「……白い…小さな手だ……」 その小さな手を、壊れやすい宝物を扱うようにイズミルは大きな手でそっと包む…細い指の一本一本を優しく撫でるその手の暖かさが張りつめていたキャロルの心を解きほぐす。恥じらいがちに微笑みを見せるキャロル…それに微笑み返すと、イズミルは彼女の指に口づけた。 彼女の全身をあますところなく味わうこれが手はじめだというようにキャロルの指から掌へ…折れそうに細い手首へ…そして白く柔らかい腕へと唇を這わせるイズミル。キャロルの身体に再び緊張が走り、頬に朱が差す。 「…ふっ……固くならずともよいであろうに…」 からかうように言うとイズミルは、愛おしげにキャロルの指を弄び、その指の間には大きすぎる自分の指を絡ませた。 慈しむように、しかし有無を言わせぬ力で押し広げられる指の感触がこれから行われることを予感させ、どこか甘い怯えがキャロルを襲った。 思わず目を閉じ小さな吐息を漏らすキャロルの様子に堪えきれなくなったイズミルは、彼女を抱えるようにして寝台に横たえるとその口を自らの唇で塞いだ。 長い口づけから漸くキャロルを解放したイズミルが指先で薄衣の胸元をはだけると、小振りだが形の良い二つのふくらみが露わになった。 「美しい……」 その瑞々しい弾力を楽しむイズミルの手を、キャロルは羞恥から無意識にはねのけようとしたが、逆にその手首は強い力で押さえつけられた。 「なぜ抗う…私に抗ってはならぬ……私のものになると誓ったであろう…?」 「そなたはもう私のものだ…そなたの全てが…私のものだ……二度と離さぬ」 イズミルの口づけがキャロルから抗う力を奪う。 そして彼は、彼女の滑らかさの全てを唇で確かめるかのように、白い肌に紅い印を一つまた一つと刻みつけてゆく…。さざ波のように繰り返される優しい愛撫に白く輝く双丘のそれぞれの頂きを飾る薄桃色の宝石は次第に硬さを増し、ふくらみを包んでいたイズミルの掌を刺激した。鮮やかに色づいた宝石の一方を指先で、一方を舌先で愛でるイズミル…唇を噛んで耐えていたキャロルはついに背を反らせ、甘美な疼きを訴える声を漏らした。 イズミルの身体の下で、キャロルのしなやかな足が震える…まだ触れられてもいない秘めた場所が、愛されることを望んで切なく火照りはじめたのだ。 イズミルはそんなキャロルが愛おしくてならないというように見つめ、彼女が纏っていた最後の薄衣を寝台の脇に投げ捨てた。 明かりに照らされたキャロルの裸身はそれだけでもたとえようがないほど美しかったが、イズミルの賛嘆のため息が与えた羞恥に泣きそうな表情でわななくその姿は、いっそう狂おしい愛おしさで彼の身体を熱くした。 「あっ……嫌…っ」 イズミルはいきなりキャロルの白い足を開かせた。 「…ふ…嫌、か?……だが、そなたの体はそうは言っておらぬようだぞ…」 悩ましげにイズミルが見つめるその場所には、薄紅の真珠が目覚めたばかりの女神のように露に濡れて、湧き出る泉の中で震えていた。 「なんと……愛らしいことぞ…」 舌の先でそっと小さな女神を祝福するイズミル…もはやキャロルは閉じようとする足に力を込めることも、声を抑えることもできなかった。 「…あ…っ………あ…んっ……あっっ…」 イズミルは思うがままにキャロルを奏で続けた。 甘く優しく…気が遠くなるほど執拗に……。 「あっ……王子…王子お願い………もう……」 やめて…と言いかけてキャロルは言葉を途切らせた。 自分が何を望んでいるのかわからなかった…いや、本当はわかっていた。 泣くように訴える声に、イズミルはキャロルの両足の間に埋めていた顔を上げた。 「もう…?……どうして欲しいのだ?…」 イズミルの声は優しいからかいの色を帯びる。 切なげにひそめた細い眉の下の潤んだ青い瞳が、一瞬何かを訴えるようにイズミルを見つめたが、すぐにその瞳は閉じられた。 紅潮した頬を隠すように顔をそむけ、イズミルの肩を押し返そうとするキャロル。 「……よし…そなたの望む通りにしようぞ……」 再びキャロルを覆うようにして俯せに自分の身体を支えたイズミルは 彼女の柔らかな唇を貪りながら、愛を与えるべき場所へと片手をすべらせた。 そして暖かく濡れたその場所を探り当てると、猛り立つ自らで彼女を押し開こうとした。 「ぁあっっ…っ」 キャロルが鋭い悲鳴をあげた。 「…!………姫!…そなたは……なんと…!」 彼を迎え入れるための蜜をあふれるように滴らせながらもキャロルの華奢な身体は驚くほどの窮屈さでイズミルを拒んだ。 痛みと怖れに震えながら彼の腕に縋りつくように指を立てる彼女の姿は、イズミルの中に自らの掌の中のこの何よりも大切な柔らかな生き物を滅茶苦茶にしていまいたいという残酷な欲望をかき立てた。 普段の彼なら女の体が彼に馴染むまで待つだけの余裕があったはずだが、今はもう自分を抑えることができなかった。 イズミルは彼の両手におさまってしまうほど細いキャロルのくびれた腰を押さえつけると、一気に彼女を貫いた。 「……!!…………」 イズミルは思わず目を閉じ、目も眩むような快感と戦った。 低い長い吐息を漏らしながら、閉じた瞳を開くと、想像していた以上にきつく吸いつくように彼を締めつけるキャロルが声も立てられぬほどの苦痛に細い身体を仰け反らせ、白い喉を震わせていた。 冥い悦楽がイズミルを捕らえ、彼は自らの口の中に血の味が広がるような錯覚さえおぼえた。 だが、きつく閉じられた瞼からこぼれ落ちたキャロルの涙がイズミルを我に返らせた。 「姫……すまぬ………」 「……苦しいか?…………」 「…だが、そなたが…そなたのせいだぞ……そなたを…愛しているのだ………」 イズミルは自分の身体を動かさぬよう気遣いながら、金色の髪の間に流れてゆく涙に唇をつけて囁く。 二つの影はもはや動かないように見えた。 わずかな刺激も避けるかのように息をつめて、細く呼吸するキャロル…しかし裂けんばかりに押し広げられた身体の奥深くから響くイズミルの鼓動は波紋のように彼女の全身に広がり、まだキャロルを支配し続けていた。 「…あ……あっ………は…っ……あ……」 抑えきれぬイズミルの戦きに正確に応えるキャロルの声。 イズミルもまた息をつめ、突き上げる衝動と戦い、己を制していた。 だがいつしか、途切れなく続くその小さな声に甘さが混じりはじめた。 「………姫……」 イズミルはわずかに身を起こし、確かめるように更に奥深く自らを彼女に押しつけた。 「あっ…!」 途端にキャロルの声が大きく、鋭いものになったが、それはもう苦痛を訴えてはいなかった。 「…姫!」 次第にイズミルの動きが激しくなってゆく。 「…あっ……ああ…王子……王子!…」 キャロルはもはや何も考えられなかった。火のように熱いのは王子の体なのか、それを受け入れている自分の体なのか…。 かつて知らないほどの快美な刺激に流されそうになる自分を繋ぎ止めようとして彼女は、自分を翻弄しているその相手の鍛えられた背中にしがみついた。 そしてそんな彼女のしぐさが気が狂うほどの愛おしさで彼を支配する…。 甘く切ないキャロルの喘ぎがイズミルの動きに拍車をかけ、彼の動きが彼女の声を高めてゆく。 ついに高い喘ぎと低い吐息が一つに溶け合い、イズミルはその激情の全てをキャロルの中にほとばしらせた。 …………… もう何も感じられないほど甘く痺れた身体を優しく撫でるイズミルの手をキャロルはぼんやりと受け止めていた。 羞恥も忘れるほどの疲労が心地よく彼女を包む。 夢見るような微笑みを彼に返すとイズミルの腕の中でキャロルは安らかな深い眠りに落ちていった………。 明かり取りの小窓から差し込む朝日を避けようと、キャロルはまどろんだまま姿勢を変えた。 途端に夜具の隙間から明け方の冷たい空気が入り込んで、無意識に彼女は傍らの暖かみに身をすり寄せた。 するとその暖かさは、なおいっそうしっかりとキャロルを包み込み、低くくすぐるような柔らかい笑い声を漏らした。 ハッとしてキャロルが目を開けると、はしばみ色の瞳が間近に彼女の顔をのぞき込んでいる。 「…起こしてしまったか……?」 「王子!………」 どぎまぎしてキャロルは細い腕でイズミルの胸を押し返そうとしたがびくともしない。やすやすとキャロルの額に口づけるイズミル。 「ふ……私は何もしていないぞ。そなたが潜り込んできたのだ」 「わ、わたしは……っ」 「そなたは…よく眠っていたぞ……そなたの寝顔は子供のようだな…」 もつれてキャロルの額にかかっている金色の髪を、イズミルは長い指でそっとかき上げる… (我が腕の中で…そなたがこれほどまでに安心しきった寝顔を見せる日が 来ようとは……私がどれほど幸せか…そなたにはわかるまい………) 黙ってしまったまま見つめ続けるイズミルの眼差しがキャロルの頬を赤く染める…その頬を優しくなぞっていたイズミルの指が彼女の唇から首筋へと下りてゆき、さらにその下へとすべり込んでゆく…… 「きゃっ」慌てて夜具を引き寄せ、胸元に抱え込むキャロル。 「…ふっ…何を今さら隠すのだ……もはや私はそなたの全てを知っている…」 脳裏に昨夜の自分達の姿が鮮やかによみがえり、キャロルは目を伏せ耳まで赤くして身体を震わせた。 腕に伝わる彼女の羞恥が彼を再び昂ぶらせる。 「……いや…存分に知り尽くしたとは言えぬな…!」 包むように彼女の肩を支えていた腕に急に力を込めると、イズミルは敏捷に自らの上半身を起こし、キャロルの細い身体をその下に引き込んだ。 |