日没







空を真っ赤に染めた太陽がゆっくりと水平線の下に沈んでいく。
スタジアムを背景にした海の下に沈んでいく。
アーロンはその景色を眺めるのが好きだった。
かつて3人で旅をしていた頃眺めた日没と変わらないから。




ザナルカンドへ渡って、もう10年が経った。
親友の息子は父と同じ道を歩み、父の所属していたチームへ入団し、すでに
エースとして名をはせていた。
17となった金髪の少年は今、青年期への扉を開きつつある。
幼い頃から見守っていたアーロンにとっては少し複雑な気持ちだったが。




太陽が全部沈む前にと、アーロンはきびすを返し、2階の寝室へと向かった。
布団に包まってすやすやと寝ているティーダを一瞥し、その布団を奪い取った。
「んー・・・」
ティーダは布団を剥ぎ取られてもなお夢の中にいた。
「起きろ」
「う・・・ん・・・・」
頬を軽く叩くと、いやいやをし、その手を払いのける。
今度は頬をつねるとバシッと叩かれた。
ピキッとアーロンに青筋が走る。
遠慮なく耳をひっぱり、ベッドから転げ落とす。
「いっっってえ!!何すんだよ!!」
耳と頭を押さえながらティーダは立ち上がり、涙目で睨んだ。
「お前が日没になったら起こせと言ったんだろう?」
そんな事言ったっけ?とでもいいそうな顔をするティーダの頭をコツンと拳で軽く叩いて、
家の外へと出ようとする。
「で、でも、もうちょっと優しく起こしてくれてもいいじゃん・・・」
「やっても起きんからそうなるんだ」
さっさとこい。
そう付け加えてアーロンはどんどん先に行ってしまった。
ティーダも仕方なくひょこひょこと付いていった。


「わあ・・・すっげぇ・・・」
ティーダは毎回同じ言葉を吐く。
真っ赤に燃える太陽をみつめ、深く息を飲む。
そんなティーダを見つめながら、アーロンもあの紅い夕日を見つめていた。
紅い太陽で思いつくのは・・・・




ジェクト




彼の瞳もまた、あの太陽のように燃える様な色をしていた。
そして時折その瞳を海の向こうへと向けていた。
ザナルカンドの事を考えていたんだろう。
彼が一番心配していた息子は自分が立派に育てた。




安心しろ、ジェクト




だから早く




迎えに来い































「あの夕日見てるとさ・・・・」
「・・・・・?」
「なんかむしょーにオヤジの事思い出すんだ」
ハッとしてティーダを見つめる。
「ガキの頃さ、オヤジもよくこうやって船の上から夕日を見つめてた。
なんでか、なんて知らないけど。すんごい真面目な瞳でさ。
なにいい歳こいて青春ごっこしてんだ、とか思ったけど・・・・
なんだか、嫌になるくらいカッコ良かった」
そういって海をみつめるティーダの顔つきが、いつかのジェクトにそっくりで。













あの日






あの時






ジェクトは何を思い






海を見つめていたのだろう?






自分の故郷を思い・・・その紅い瞳を一度だけ濡らした事があった。
そう―――――
聖地ザナルカンドを前に、野宿した時だ。
ブラスカとアーロンが寝静まった後、一人テントを抜け出し、瓦礫となった
スタジアムを登って。
気配に気付いたアーロンが探しに行って、見つけた。
瓦礫のてっぺんを見つめ、涙を流すジェクトを。
瓦礫を握り締め、その手を血で紅く染めながら・・・・
『本当に・・・・・・遺跡なんだな、ここ・・・。俺のスタジアムだぜ・・・』
そしてまた泣く。
紅い瞳から。
あの男が。









虚しいと思った。可哀想だと思った。
そして
絶対にジェクトのザナルカンドにかえしてやる。
そう思った。
なのに






『さあ。選ぶのです。希望のために捧げる犠牲を』






こんな事があっていいのか!
ガードと共に寺院をめぐるのは、絆を作る為だったとでもいうのか!!!

『決めた。祈り子には俺がなる』
やけになるな!生きていれば・・・生きていれば無限の可能性があんたを待っているんだ!!
そう叫んでも、ジェクトを止められなかった。
『それによぉ・・・無限の可能性なんて、信じるトシでもねぇんだ俺は・・・』
ジェクトを殺すために旅に参加させた気がして。
ずっと俺は罪悪感に苛まれていた。
だからユウナレスカのところへ向かった。
許せなかったから。
だけど返り討ちに遭った。








ザナルカンドに渡り、ティーダを見た。
絶望感に包まれた顔。
7歳の子供にこんな顔をさせた女はすぐに逝った。
ジェクトとの約束。
それを守るためにティーダの世話を始めたが。
いつしかその全てに心奪われていた。










「またオヤジの事考えてたんスか?」
「・・・・・・」
「・・・もういいッスよ。アーロンはオヤジの事忘れられないんだろ?
でも、俺と一緒にいる時は、俺の事考えてて欲しいな・・・」
そう言って、アーロンに掠るだけのキスをする。
「ティーダ・・・」
「・・・えへへ。いいじゃん、折角こんな綺麗な夕焼けなんだからさ。
キスくらい・・・いいでしょ?」
精一杯の背伸びに苦笑して、そのキスを受け止める。
「・・・アーロン。ずっと・・・俺のそばにいろよな」
「・・・いてくださいじゃないのか?」
「どっちでもいい」











ジェクト



早く迎えに来い





お前の息子は







こんなにも立派に育ったんだぞ











太陽は静かに海に沈む






It is time










時は来たれし






運命の日はすぐここへ




















『始まるよ。泣かないで』










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