形勢逆転?!








「・・・・・」
ジェクトがゆっくりと瞳を開けると、目の前にアーロンの顔があった。
「・・・あ?」
ジェクトは思わず起き上がった。頭がクラクラした。
「・・・ああ?昨日は・・・確かアーロンと飲み明かして・・・」
二日酔い?頭がガンガンして痛い。
体も重いし・・・・・・?なんで裸なんだ・・・?
・・・げ・・・もしかして・・・
「・・・うるさいヤツだな、朝っぱらから・・・」
体を起こしたアーロンがうるさそうに顔をしかめていた。
「なあ・・・俺・・・また無理矢理お前の事・・・やっちゃった?」
互いの合意の上でしかセックスしない間柄な為、無理矢理だったのならば・・・
アーロンは一瞬ギョッとした顔を浮かべたがすぐいつもの表情に戻った。
「・・・覚えてないのか?」
「・・・なぁんにも」
ハァ・・・とため息をついて、アーロンはベッドから降り、床にちらばっていた自分の服をとっとと
着て、出て行ってしまった。
「・・・やってないのかな・・・でも・・・なんで裸・・・?」
自分もベッドからおりようとして、腰ににぶい痛み。
「ぐっ・・・・」
その痛みにジェクトの顔から血の気が引いた。
「げ・・・やられたのは・・・俺かい・・・??」








その日は・・・ジェクトにとって一日中つらいものとなった。
リビングにいってみれば、すでに昼近く、ティーダはもちろん、ブラスカまでどこかに出掛けている
らしくて、アーロンと2人きり。
キマズイったらありゃしない。
その上、いつもはジェクトにきつく当たるアーロンに
「大丈夫か?」
なんて言われて。歩けば腰は痛いしダルイし。
「・・・大丈夫じゃない・・・」
なんていえる訳なくて。
「・・・これっくらい平気だ・・・」
なんて強がってしまうわけ。
もちろん、こんな経験初めてなわけで・・・。なんとなくいつものアーロンの気持ちを少し理解できた。
「平気なものか。俺は初めての時は腰が上がらなかったぞ」
覗き込まれて言われ、思わず口に含んだコーヒーをアーロンの顔面めがけて噴出した。
「・・・・ワリィ・・・」
「・・・・・」
アーロンは無言でタオルで顔を拭いた。
「なんだ。思い出したのか。せっかくブラスカに言ってやろうと思ったのに」
「な、なんて事言うんでぇ、おめぇは!!」
人の弱みにつけこんで・・・なんて奴だい!・・・と思ったジェクトだったが、自分が過去に何回
アーロンに同じ思いをさせたかは何にも覚えてはいないらしい。
「安心しろ。誰が言うものか。俺までヘンな目で見られてしまうではないか」
なにか悪口を言われたらしい、とジェクトの頭が判断するが、ジェクトはいささかパニックに陥っていた。
男相手に・・・しかもアーロンにカマ掘られた・・・なんてあの2人にばれたらどうなるんだ、と。
どんないじわるをいわれるかたまったのんじゃない。
「いいかアーロン!このことは絶対、誰にも、金輪際言うんじゃねーぞ!!わかってんのかコラ!!」
アーロンもアーロンで、目の前の男が心底慌てているのが新鮮で。
何しろ自分だって、言ったところで2人にからかわれるだけくらいは判っている。
「だから誰にも言わないって言っただろう」
「・・・信じるからなっ!!!」
そういってジェクトは腰をかばいながら2階へ上がり、アーロンはその姿に笑ってしまった。
その後ろ姿を見送りながら、アーロンはふと考えた。
昨日のジェクトはやけに色っぽかったな、と。
ジェクトは元々顔の作りは良いのだ。
だけれども、やはり男。色っぽいだのと思った事は一度もなかった。
・・・あのひげを剃ったら、さぞ美人になるだろうに・・・
そこまで考えて、アーロンはひげのないジェクトの顔を想像し、一人で大爆笑していた。
一方、ジェクトは2階へあがっている途中でアーロンの大爆笑をきいて、ムッとしていた。
「チ、あの野郎・・・あとで覚えていやがれ・・・」
バタン、と扉を思いっきり閉めて、はあとため息をつく。
もう何十回目になるため息だったが、ジェクトはまたため息をつき、ベッドに倒れこむ。
「・・・やべえよ、俺」
頭が覚醒していく度に、ジェクトは昨日の夜のことを少しずつ思い出していった。
・・・酔った2人がベッドの場所の取り合いをして、じゃんけんのすえアーロンが勝った。
だけどジェクトはしつこくベッドをねだり、アーロンが抱かせてくれたら寝かせてやる・・・と
いい、話に乗ったジェクト。そのまま抱かれ、朝に至る・・・・と。
「・・・やべえって、俺」
頭をかかえ、ジェクトは唸った。唸るしか出来ない。
「あああ!!!ヤバイって俺マジで!!!」
まさか酔っていたとはいえ、男に抱かれるなど。この自分が。
はあ。
ジェクトはただただため息をついた。













ブラスカ達は意外にも早く帰ってきた。遅くなる・・・と聞いていたから、夕飯はまだ作っていなかった。
「早くなるなら連絡くらいくれればいいのに。まだ夕飯はまだだからな」
なにやらニヤニヤしているブラスカにアーロンは不審感を募らせながらもとりあえず告げた。
「いや、いいんだよ。夕飯は。今夜は買ってきたから。それよりアーロン、ジェクトは?」
「そーッス!メシよりもっと面白いこと!!ねブラスカさん!」
「ねえv」
「・・・は?」
ニコニコの2人の理解できない会話に、アーロンは首を傾げるしか出来なかったが、ティーダの次の
言葉にアーロンは悶絶してしまう。
「ね、アーロン!オヤジ、どうだった??血ぃ出てなかった??」
「・・・な、なにがかな・・・?」
「とぼけなくたっていいよアーロン。昨日まる聞こえだったんだよ、お風呂場から」
ブラスカのセリフに、アーロンはしまった、というよりも、冷や汗をだらだら流していた。
最近非常に中の良いティーダとブラスカはお風呂もよく一緒に入る。
そしてお風呂場は、ジェクトとアーロンの寝室の真下にある。酒に酔っていたため、暑いという
ジェクトに従い窓を開けていたせいで、下のお風呂場には丸聞こえだったんだ、と
ブラスカはさも嬉しそうに語った。
「2人の会話、最初から最後まで聞き逃す事なく聞いてしまいましたってわけ」
ティーダが先に嬉しそうに階段を駆け上がる。
「オヤジ―オヤジー!!」
「ま、待てティーダ!!」
「あ、置いていくなんてひどいよティーダ君!私も!!」
「ブ、ブラスカ!!」
アーロンの必死の抵抗もむなしく、2人はおみやげをさっさとキッチンにおいて2階へと上がって
いってしまった。






「オヤジったらオーヤ―ジv」
2人でジェクトの部屋を開けると、そこにはうつぶせになったまま寝入るジェクトがうつる。
「・・・ジェクトサマはお休みのようですねぇ・・・」
ティーダは意地悪く蒼い瞳を輝かせ、同じく蒼い瞳のブラスカもそうですねぇと返す。
ブラスカはうつぶせのジェクトに覆い被さるように上に乗っかって、その耳元に優しく息を吹きかけた。
「ん・・・」
とみじろぐジェクトの耳元で、ブラスカは意地悪そうにジェクトの名を呼ぶ。
「・・・ジェクト・・・」
アーロンのような、低い声で。もちろんブラスカはアーロンのまねをしているつもりなのだが、
ティーダには全然似てないように聞こえ、プッと吹き出した。
「・・・アーロン・・・もう身体が持たねえよ・・・」
寝言・・・なのだろうが、聞いた事もない、ひどく掠れた声に、2人は驚いた。
「・・・あと1回だけなら・・・いいから・・・来いよ・・・」
そのままブラスカの首に腕を巻きつけ、引き寄せられて。
ブラスカが声をあげるまえに、ジェクトはその唇を奪った。
「!!!」
「ブ、ブラスカさん!!」
だがジェクトが舌を差し込む前に、ブラスカは頭をだれかに思い切り殴られた。
「いっっったい!!」
ブラスカが頭をさすって振り返ると、鬼の形相のアーロン。
ティーダはドアの近くで真っ青になっている。
「ブラスカ・・・・からかってないで、さっさと下にいって夕飯の準備をしろ・・・!」
「アーロン・・・いつから君は私にそんな態度を取るようになったのかな?」
「いいから下にいけ・・・。ティーダもだ」
「ジェクト、君にヤられる夢見てるよ?なんとかしてあげなよ?」
「・・・・・・明日からはお前らがメシの支度をするのか?」
ブラスカの反抗はここまで。
あまりにアーロンが怒っていたから。
今日の事より明日からの食事を作ってもらえなくなるのは困るので、渋々ブラスカはベッドを降りた。
「・・・お前も見てないでブラスカを手伝え!!」
「は、はい・・・・」
ティーダもお得意のおどすで1階へ行かせ、アーロンは深く息をついてから、あんなに騒がれても
まだ寝入っているジェクトの頬に手を添えた。
そのままぺちぺち叩いていると、ジェクトはやっと起き出した。
「んー・・・・。やべ、俺寝ちまったのか」
「・・・ジェクト・・・」
しばらく寝ぼけ眼だったジェクトだったが、アーロンの声で覚醒したらしい。
バッと振り向いて、おっかない顔を向ける。
「ア、アーロン!なんか変なことしてないだろうな!!」
「変なこととは聞き捨てらならいな。せっかく救ってやったのに」
「・・・なにがだよ」
「ブラスカと、ティーダにバレた」
ジェクトがどんな顔を浮かべるか、アーロンには容易に想像が出来た。
そして想像の通りの顔を浮かべたジェクトに含み笑いをする。
「いっとくが、俺がばらしたんじゃない。昨日から知ってるらしい。お前がちゃんと窓を閉めなかった
せいだからな」
真っ青なジェクトにさらに追い討ちをかけるようにアーロンは告げる。
「・・・・お前、俺に犯される夢でも見てたのか?ブラスカが言ってたぞ」
真っ青な顔が真っ赤になるのを見届けて、アーロンはモノが飛んでくる前にドアを閉めた。

「この大馬鹿野郎―!!!!」
閉じたドアに、枕やら目覚まし時計やらを投げつけたジェクトだった。
がしかし、ふて寝をしようとし、枕を投げた事に気付き、渋々拾いに行った。
いまだに真っ赤であろう顔を枕に埋めて、アーロンの言われた言葉が頭をぐるぐる回った。
『・・・・お前、俺に犯される夢でも見てたのか?』
「ああ見てましたよ。悪いですかー?」
あの時の、アーロンの顔。勝ち誇ったような瞳。笑った口元。
「思い出すだけでムカツク!!」
そう叫んで立ち上がった。
今日の俺様は俺様じゃねえ。そう言い、ジェクトは備え付けの洗面所で顔を洗う。
鏡には、瞳と同じくらい紅くなった自分の顔があった。
「ちっくしょー!!今日はどうなってんだぁ!!」
そしてまた、倒れこむようにベッドに横になる。
・・・確かに、昨日の夢を見ていた。
アーロンの腕、手、指。どこに触れたのか、完璧に思い出した。
しかも・・・結構よかった・・・。そして一人で紅くなる。
「くっそう・・・アーロンの野郎・・・!今夜は覚えておけよぉ・・・」
もう今夜は下に下りるのは諦めよう・・・。
ジェクトはそう思い、また眠りにつこうとしたが・・・・・・。
まあ、こんな状態では、寝るどころではなかった。








今夜はきっと降りてこない。
そんな事わかっている。だからこうしてジェクトの分をとっておいてやっているのだ。
でも、アーロンは少しだけ・・・いや、かなりうんざりしていた。
「すっごいよね、アーロン!すごくない?」
「ねえ?いつもアーロンが受け役だったのに、昨日は2人で驚いたんだよね」
「・・・・・・・」
「そういえば・・・アーロンって童貞捨てたのいつなんスか?俺昨日から気になって気になって」
「ああみえてね、アーロンは結構早かったんだよ」
「・・・・・・・」
耳打ちしなくたって聞こえています。全部。
いい加減アーロンには青筋が2,3個でき初めていた。
「やった!俺14だから俺の方が早いや」
「ティーダ君は案外早いんだねえ!ザナルカンドは早いものなのかい?」
「うん。皆それくらいだよ。オヤジも相当早いと思うけど・・・」
もう我慢出来なかった。静かに立ち上がり、トレーにジェクトの分を乗せ、静かに2階へとあがる。
2人はアーロンがいなくてもくだらない話に華を咲かせている。
「・・・ジェクト?」
とりあえずノックをしたが、返事がない。
仕方ないので勝手にドアを開けてみたが。
「・・・よく寝れるな」
今度は仰向けで布団もかけずに転がっていた。
「いや、こんな状況だからこそ寝るしか出来ないのか」
相変わらず不器用な男だ、だがそれがこいつの売りか・・・と自己完結をしたアーロンの下で、
ジェクトは静かに寝返りを打った。
トレーをテーブルの上に置き、しばしジェクト観察を始めた。
いびきはかいていないが、寝返りの数が多い。熟睡できていない証拠か。
そして時折、昔の自分のように眉間に皺を寄せている。
嫌な夢でも見ているのだろうか。
いや、きっとまた昨日の夢を見ているんだろう。
思い出したくない、と思う事は思い出したいと思う事と同じで。
それが夢に出てきてしまっても仕方ない、ということ。
だが、アーロンによるジェクト観察も、閉じた瞳から涙がこぼれた時点で中止になった。
「・・・ジェクト・・・?」
話し掛けてもジェクトは起きそうもない。
夢の中で・・・ジェクトは泣いている。
どんな夢をみているのがとても気になってしまった。
もし自分の出てる夢で泣いているのなら、それこそ後味が悪い。
めったに見れない、ジェクトの涙。
だけど、そんなの見たくなくて、アーロンはついついジェクトを揺さぶり起こした。
「ジェクト、ジェクト」
「ん・・・・あ??なんだぁ?」
パチッと紅い瞳をのぞかせたジェクトはやはり泣いていて、目の奥が充血していた。
「泣いてたぞお前」
「え?・・・あ、ああ・・・」
ごしごしと腕で顔を拭き、ジェクトはなんでもねえよ、とアーロンをおいやろうとする。
「メシだ。食え。あの2人はうるさくてかなわん」
はぁ・・・とため息付きで渡せば、ジェクトにもなんとなく伝わるようで。
もちろん、ジェクトもアーロンがあの2人になんてからかわれたかくらいわかる。
「悪いな」
「まったくだ・・・。まあ、お前が降りてきたくない事くらい、十分に承知の上だったがな・・・」
「・・・・・・」
「そんなに俺に抱かれたのが嫌か?」
「・・・・・・」
ジェクトはプライドの高い人間だ。
それはわかっていた。
だが、こうして深く考えていると、アーロンはなんだかやりきれない思いにかられる。
自分は―――――
ジェクトに抱かれるのは最初は抵抗があった。自分にだって男のプライドぐらいは
持ち合わせているから。
だけど、それもだんだんとなくなっていった。
自分たちの間柄は恋人、ではない事は十分理解している。
でもいつしか、ジェクトに抱かれるのが普通になっていたから。
男の自分が男に抱かれる。
その相手がジェクトならば、全然構わないと思えるようになった。
なのにジェクトは。
男の自分に抱かれたのがこんなに嫌なのだ。
自分は何度も抱かれているのに。
そんなに自分に抱かれるのが嫌なのか。
「・・・あのよ」
そんなアーロンを見透かしたようにジェクトはアーロンの顔を見た。
「・・・俺・・・お前に抱かれるの、そんなに嫌じゃなかったぜ?」
「・・・じゃあ何故そんなに気にしてるんだ?」
「・・・っ!何言ってんだ!恥ずかしいからに決まってんじゃねぇか!」
顔を真っ赤にしてばつが悪そうに飯をかきこむジェクトをアーロンはポカンと見つめていたが、
次第に笑みをこぼし、やがて大笑いになった。
「何笑ってやがる!!ムカツク野郎だな」
「・・・お前でも恥ずかしい事なんかあるんだな・・・」
一頻り笑った後、アーロンはジェクトの口元に腕を伸ばす。
「・・・こんなところも、ガキみたいだ」
口元についた米粒を指先で拾い、自分の口に持っていく。
その様子をジェクトはあんぐりを口を開けたまま見るしかなくて。
「・・・・頼むからからかわないでくれよ・・・」
真っ赤な顔を隠すように顔を手で覆ったジェクトに、アーロンはクスリと笑うと、再び彼に手を伸ばした。
「・・・からかってなんかいない・・・本気さ」
身体を寄せ、その口に触れるだけのキス。
「・・・何すんだよ・・・」
呆然とするジェクトに、アーロンはもう一度触れるだけのキスを降らす。
「今日・・・もう一度したい」
「何をだよ」
わかりきっているジェクトだったが、それでも聞かざるを得ない。
「お前を抱きたい」
「・・・まあ、俺も男だ。お前の気持ちはよくわかるしな・・・」
特別だからな、と付け加えて、ジェクトは両手を広げる。
「おめぇになら、抱かれてもいいぜ?」
アーロンは笑みを零し、その身体に倒れこんでいった。



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