命あるもの―生命の鼓動






コドモの頃ってさ、柔らかいものや暖かいモノが好きだったよな?
例えば毛布。
母さんにあなたは大きくなっても毛布に包んであげるとすぐに眠るのよ、と
言われた事、あるだろ??
俺も、そんなコドモだったよ。
それから、コドモって、生き物も好きだったりするよな。
犬の口の前に手出して、バクッてやられた事ない??
あれ、びっくりするよねぇ。
俺もやられた事あるんだよな〜。
勿論、犬は本気で噛んでないから痛くはないんだけどびっくりしちゃうよね。
でも・・・俺、今でも犬とか好きだよ。
・・・オヤジの影響・・・かな・・・??








それは、ティーダの6歳の誕生日だった。
学校から帰って来たティーダを待っていたのはたくさんの大きなプレゼント。
「・・・お母さん、何コレ・・・??」
あまりの量にびっくりしたティーダは台所で家事をする母親の袖を引っ張る。
「ふふ。お父さんがブリッツの人達にあなたの誕生日プレゼントにって貰ったんですって」
「お父さんが??」
きょろきょろと辺りを見渡すが、父親の姿が見えない。
「お父さんは?」
「お買い物に行ってるわよ」
意外だった。
いつもこの時間は家でごろごろしてるのに。
「ふうん・・・お母さん、この箱開けてもいいの??」
「いいわよ」
「わあいv」
ごそごそと次々と箱を開けていく。
「わあ・・・エイブス専用のブリッツボールだぁ・・・」
赤に黒のブリッツボール。ご丁寧にリボンがつけられていた。
「すごい・・・」
箱の中にはブリッツ関係のものばかり。
最後の箱を開けると、またティーダから歓喜の声が上がった。
「わあ!!エイブスのエースユニフォームだ!!」
それは子供用のエースユニフォームだった。
黄色い、丈と袖の短い、ビニールカバーのかけられたパーカーにズボン。
左腕の付属品までが揃っていた。
キャーキャー騒ぐティーダに、家事を終えた母親も微笑みながらソファに座って
一喜一憂する息子を見つめていた。
「お母さん見て!」
さっそく着替えてポーズを取る息子に笑う。
「似合ってるわよ」
「えへへ。遊んでくるね!」
貰ったばかりのブリッツボールを両手で持ち、母親の返事も聞かずに家を飛び出す。








友人に自慢したあと家へ帰ると既にジェクトは帰宅していた。
「ようやく帰ってきたか」
「・・・ただいま」
ニヤニヤと笑う父親を尻目に二階へと上がり、普段着に着替え夕食をとろうと下へ戻る。
「ティーダ。もうすぐご飯よ。手洗ってきなさいよ」
「はぁい」
手を洗い、ついでにうがいをして居間へ戻ると、ジェクトがさらにニヤニヤしながら
大きなプレゼントを持っていた。
「これは俺からのプレゼントだ」
長方形のプレゼントの中では、何かがガサガサしている。
「・・・?何が入ってるの??」
「見てからのお楽しみだな」
ガサガサと袋を開ける。次第に姿をあらわすそれは籠のようなもの。
完全に袋を取った中から出てきたのは鳥篭。
そこには白い羽毛に赤いくちばしの小さな鳥が2羽。
「・・・可愛い」
「文鳥っていうんだ。つがいで買った。うまくいけば卵産むぞ」
「卵?!すごい・・・ありがと、お父さん!!」
初めて貰った生き物に、ティーダの視線は釘付けだ。
「名前も決めてあるんだぜ。ティにジェーだ。こっちの目の周りが薄いのがティで・・・
目の周りが濃いのがジェーだ!!」
「・・・何そのネーミングセンスの悪さ・・・」
偉そうに言うジェクトに6歳にしては冷めた反応を返すティーダを、母親は複雑な表情で
見つめていることに、2人は気づかなかった。

ティーダは父親から貰った2羽を事の他大事にした。
手乗りの2羽に毎日1時間は話しかけ、手に乗せて遊ぶ。
ピッ、ピッと返事を返すティとジェー(結局この名前に決まった)に、ティーダは一生懸命に
世話をした。籠に戻した後も2羽仲良くくっついている姿は微笑ましかった。
ジェクトから教えてもらった事には、ティが女の子でジェーが男の子。
2羽はティーダにすっかり懐き、両肩に乗って下に下りても外に出ても逃げる事はなかった。
今日もティとジェーはティーダと一緒。
「ご飯の時くらい籠に戻してきなさいよ」
「いいじゃねぇか。こんなに懐いてんだ」
「でも・・・」
ピッ、ピッと鳴きながらティーダの肩を移動する文鳥達に母親は良い気がしないらしい。
それでもジェクトがいいと言ったらそれ以上は言えない母親だった。
ティーダはまだ気が付かない。
ティーダの7歳の誕生日まであと2ヶ月。







文鳥を貰ってから1年がたった。
今日はティーダの7歳の誕生日。
今日も元気に学校から帰ってきていつも通りに文鳥に声をかけようと籠を覗く。
「ジェー・・・?ジェー!!」
心配そうにティの見つめる先には、地面に落ちたジェーの姿。
「お母さん!ジェーが!」
急いで籠から出してタオルで包み下へ駆け下りる。
「どうしたのティーダ」
「ジェーが、枝に止まれなくて落ちてたよ!!」
時折顔を動かす様子から、まだ生きている。
ティーダは半泣きになりながら母親にすがった。
「あら・・・。病院へ行かなくちゃ!」
急いで準備をしているうちに、ジェクトが帰ってくる。
「どうしたんだ?」
「お父さん!ジェーが死にそうなの!!」
「そうか・・・」
この頃、すでに2人の関係は最悪なものになっていたが、今は父親にすがるしか術を
知らなかった。母親はもたもたしていてまだ準備をしている。
「見せてみろ」
タオルに包まれたジェーを見つめ、ジェクトは小さくため息をついた。
「・・・病院には行かなくていい。今夜はそばにいてやんな」
ティーダにはなぜ父親がそんな事を言ったのかわからなかった。
「なんで?!お医者さんに見てもらえば治るかも知れないのにッ!!」
「ティーダ」
息子の肩に手を置き、ジェクトはかがんで口を開いた。
「生き物は寿命には逆らえないんだ。病院にいって苦痛を与えるよりも、お前のそばに
いるほうがジェーは幸せなんだよ」
死、という言葉をジェクトはあえて言わなかった。
まさか、こんなに早く別れが訪れるとは思わなかった。
「・・・ジェー・・・」
ティーダは涙を零しながらジェーの首を指の先でくすぐる。
ピッ、と鳴くジェーの頭を撫でてタオルで再びくるむ。
「いいか。温めるんだ。でもこすったりするなよ。タオルで包んで優しくにぎってろ」
「うん・・・」





ティーダは夕食も食べずにひたすらジェーを温めつづけた。
ティも籠から出し、肩に乗せる。
やがて、ジェーのフンが、少し硬かったのが液体状態になる。
それから数時間後、ジェーはもぞもぞと動き出し、自分の足で立てるまでになった。
「ジェー、もう大丈夫なの?!」
ピッ、と返事をし、肩に乗せてやる。ティが心配そうに寄り添う。
「よかった・・・」
急いで階段を駆け下り、ジェクトのもとへ駆け寄る。
「見て!ジェーが元気になったよ!」
うれしそうなティーダとは裏腹に、ジェクトは渋い顔をしていた。
ジェクトは知っているから。
それがジェーのティーダに対する最大限の感謝の気持ちだと知っているから。
「・・・よかったな。でも今夜は一緒に寝てやりな」
「うん!!」






次の日。
ティーダが目を覚ますと、傍らにはすでに硬くなったジェーと、それに寄り添うティの姿。
ティーダはその日学校を休んだ。
昼頃、母親から連絡を受けたジェクトが帰宅し、ティーダの元へ行く。
「ティーダ・・・」
「お父さん・・・ジェー・・・死んじゃったよぅ・・・」
「・・・」
「昨日・・・あんなに元気になったのに・・・」
「ティーダ・・・」
「お父さん・・・なんで・・・なんでジェーは死んじゃったの・・・?」
涙でぐちゃぐちゃのティーダに、ジェクトは静かに寄り添い、両手の中のジェーを撫でる。
「ジェーはお前にお礼をしたんだよ。今までありがとうって。お前が悲しまないように
最後の力を振り絞ってお前に元気な姿を見せたかったんだ」
「・・・」
「お前はそれに応えた。一晩一緒にいてやって。きっとジェーも幸せだっただろうな」
「ジェー・・・」
涙が次から次へと流れて落ちる。
悲しくて仕方がなかった。

それから1週間。
ジェーの後を追うように、ティも息を引き取った。
ティーダに精一杯の感謝を残して。
『つがいの鳥は片割れが死ぬと、残された1羽も後を追うように死ぬんだ。』
ジェクトの言葉を思い出し、ジェーと同じ土の下に埋めてやった。
もうこんな思いはしたくない。
そう思って。
だけど悲劇はさらにティーダを襲う。
突然の父親の葬式。
そしてその後を追うように母親も息を引き取った。










薄暗い部屋の中、わずかにみじろぐジェクトを見つめた。
俺の目には10年前と同じ姿。
自信家ではちゃめちゃで自分勝手で・・・・そして誰よりも愛しい存在。
「・・・文鳥に俺の名前付けるんだもんな。アンタ、俺のことすっげえ好きなんだな」
「・・・んん・・・?」
ぼんやりと瞳を開けるジェクトに微笑んで頬にキスをした。
「・・・ティも幸せだったよ。アンタと会えて・・・」
「・・・?」
「おやすみ・・・ジェクト」
再び布団の中に潜り込んだ。
今度、また文鳥買おうかな・・・
つがいでまた、ジェーとティって名付けて。
今度は子鳥から。
そう思いながら。











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