今日も残っているのは自分だけだろうと思い、部室のドアを開けた神は、
       以外な人物がそこにいて、思わず驚いてしまった。
       「あ〜びっくりした。ノブ、まだ残ってたの?」
       「あ、神サン。ちょっとコレにはまっちゃって・・・?」
       携帯を神に見せて、清田はまた携帯と向き合った。
       「なに、ゲーム?」
       覗き込んでみると、どうやらそうらしい。
       「お前さあ、そんな事部室でしてる時間があったらとっとと帰って勉強なり
       睡眠なり取ったらどうなの?中間だって近いんだから」
       赤点常習犯の清田はどうしても一人で勉強できないらしく、ずっと神と牧
       とで勉強を見てやないと、ひどいと全て赤点だったりする。
       ガチャっとロッカーを開けてタオルを取り出す。
       まだ濡れている髪をガシガシと拭いていると、何やら変な視線を感じる。
       清田が眉間にしわをよせていじけそうな顔で神を見ていた。
       「神サン・・・・忘れてます・・・??」
       「あ?何が??」
       清田の言った事が理解できない神が首を傾げると、清田の顔はみるみる赤くなっていった。
       「もう!約束したじゃないですか!!今日牧サンと一緒に神サン家で泊まり込みで
       勉強見てくれるって!」
       「え・・・」
       そんな約束、したっけ・・・?
       「牧サンも忘れてたんスよ〜!帰ろうとしてたから慌てて聞いたら、ああ、そうだったな
       とか言ってて!もう超ひどいッスよ!」
       ・・・ああ、思い出した。
       夏休み明けの数学の復習テストでとんでもない点を取り、補習を受けて部活に何回も
       遅れて出てきたのを牧さんが捕まえて中間前に勉強合宿をしてやる・・・とか言ってたん
       だっけ。んで、俺もつい見てあげる・・・とか言っちゃったんだよな〜。
       「ごめん、すっかり忘れてたよ。ごめんね」
       「まあ、いいですけど・・・ッ。それより、早くしてくださいよお、牧サン下足室で待ってますから」
       「はいはい」
       まだ乾ききっていない髪はそのままに、さっさと上着を着る。
       「ノブ、先に下足室行ってて。俺も部室閉めたらすぐ行くからさ」
       「わかりましたッ!じゃあ、お先に」
       丁寧にも部室から出る前に頭を下げて、そのあと、廊下にバタバタと清田の足音が響く。
       神も急いで制服に着替えると、部室にしっかり鍵を閉めて、下足室に向かって走り出した。














        神の部屋に大きい机を置いて、勉強会はスタートした。
        清田が一番苦手としている教科は数学。
        「ここの公式は、ほら、教科書に書いてあるだろ?これに代入してみればいいんだよ」
        教科書の公式を指してやると、清田はいとも簡単にその問題を解いてみせた。
        「なんだ。できるじゃないか」
        「ま、これくらいは」
        調子に乗っている清田に、神は公式を隠して問題集の似たような問題を指差す。
        「じゃあこれやってみな」
        「まかせてください!」
        そうして清田が問題に取り組んでいる間、何か飲み物でも・・・と席を立つ。
        なんにもなかったような冷蔵庫には、牛乳しか入っていなくて。
        数学は俺より牧さんの方が得意だから、任せても大丈夫だよね・・・。
        と、仕方なしに神は財布を持って近くのコンビニに向かった。


        「あれ?」
        りんごジュースと軽い食事を持ってきた神は、ベッドの前で布団に包まっている牧を見た。
        「あ、神サン」
        机に置いて、ひとまず勉強を中断する。
        時計はすでに11時を廻っていた。
        「牧サンどうしたの?」
        「ん・・・、なんか、最近寝不足だったみたいで、地学教えてくれたあといきなりのしかかって
        きて寝ちゃった」
        確かに良く眠っている。やはり受験前のこの時期が追いこみ時なんだろうか。
        「せっかくだから起こさないであげようね」
        清田がジュースを飲んでいる間、問題の答えを見てみた。
        「なにノブ、だいたいあってるじゃん」
        数学なんか、いくら基礎確認の問題だからって、ほとんど満点に近い。
        「牧サンが、ここらへんは公式丸暗記すれば大丈夫だって」
        数学だけじゃない。世界史、化学、地学・・・
        暗記物も間違いは少ない。
        「やればできるじゃないノブ。いつもこんなに勉強してれば赤点も追試も補習だって
        ないのに」
        「俺だって、やろうと思えばこれくらいできるんですよ!カッカッカッ!!」
        じゃあなんで今までやらなかったんだ・・・と言いたいのを押さえて、神は清田の頭を撫ぜた。
        「じゃあ次の教科行こうか!」
        「はい!」

        2時になって、ようやく一通り基本をやり終えると、清田は大きく伸びをした。
        「やったあ・・・」
        「お疲れサマ。これだけやれば明後日までには覚えてるんじゃない?」
        「いえいえ、神サンこそつき合わせてすいませんでした。明日もう一度、見なおして
        おきます」
        「次こそ赤点取らないようにね」
        「はぁい」
        ポンポンと頭を叩いてやると、思わず目を閉じそうになる清田が、可愛い。
        「じゃあ、俺先にお風呂入っちゃうね。上がったら次入って」
        「はぁい」
        ・・・なんだか俺が風呂入ってるときに寝てそう・・・

        案の定、風呂から上がると、清田はベッドに頭を預けて眠っていた。
        「まったく・・・この2人は・・・」
        ゆっくり牧と清田の二人を横にして、枕を頭の下に置いてやる。
        ふと、清田の額に手が触れた。
        ゆっくりと前髪をかきあげると、随分と大人っぽい顔にになったな・・・と感じた。
        春・・・初めて会った時、あんなに子供っぽかった清田。
        夏・・・インハイ決勝で僅差で敗れた瞬間、一瞬にして崩れ落ちて、大声で泣いた清田。
        もうすぐ冬が来て年が明けると、清田はまた今よりもっと大人っぽい顔つきになってる
        のだろう。
        口元が緩んでいたけれど、どうせ誰も見てないし・・・とその額に軽く唇を寄せる。
        ちょっと身じろいだけれど、これくらいでは清田は起きない。
        「おやすみ、ノブ」
        小さなあくびを一つすると、神も布団に潜りこんだ。




        11月。
        「よう清田。お前、中間返ってきだたろう?」
        「武藤サン」
        部室に入るなり、ニタニタ笑ってる武藤に行く手を塞がれてしまった清田。
        「神と牧に扱かれたんだから、赤点なんてなかったよなあ?」
        「む、武藤サン、離してくださいよお!」
        武藤は遠慮なく清田の首に腕を巻きつけて遊んでいる。
        「清田、まさか赤点あったのか?」
        まだなにも言っていない清田に、牧は嫌そうな顔を浮かべる。
        「違いますよ!ちょっと見てくださいよ!!」
        そう言って清田はカバンからテストの山を取り出した。
        「おおお!!」
        清田のテストはなんと、赤点どころか50点以下が一つもなかったのだ。
        「凄いじゃん!良く頑張ったね!」
        まさかここまで取れるなんて思ってなかった神と牧は、お互いに顔を見合わせた。
        清田は今回初めて学年49番目という、奇跡としか言い様のない点を取ったのだ。
        「いつもこうだと俺達も楽なんだけどな」
        横で牧が深く溜め息をついたのに思わず笑ってしまった。
        「やっぱ良い点取るのって楽しいッスね〜」
        これでノブも、少しは勉強するようになるだろうな・・・と神は思った。



        だけども、その考えが甘かったな・・・と思ったのは、そう遠い日ではなかった。
        中間の出来の良さに油断して勉強しなかった清田は、期末で物凄い点を取って。
        牧のげんこつを食らった上に、結局赤点が一つついてしまい、冬休みに補習を
        受けるハメになった。
        油断大敵。
        常勝・海南の未来の4番は、まだまだ努力が必要のようだった。

Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!