〜最後の日には番外〜


             輝く時の中でも







           7月7日、朝6時30分。
           上がったばかりの太陽が、海に反射してキラキラと輝いている。
           まじかな海を尻目に、清田信長はこっくりこっくりと船を漕いでいた。
           中1の頃からずっと夢見ていた海南大附属高校に入学して、もうすぐ4ヶ月。
           中学時代は遅刻の大王だった彼が、こんな時間に電車に乗っているなんて
           何かの間違いではないだろうか。中学時代の友人に奇跡だと罵られ、
           それでも念願の海南生として清田はまだ眠ったままの頭で毎日電車に乗る。
           海南高校は江ノ電の終点・藤沢駅から歩いてほどないところにある。
           大学と合併している高校の敷地面積は思わず絶句するほどで、大学の附属の
           牧場・研究室・病院なども充実している。

           
           朝も早いからだろう、乗ってくる人も少なく、車内は静か。
           それがますます清田の眠気を誘ってしまう。
           こっくりこっくり・・・・・
           そしてムクッと起きて、再びこっくりこっくりと眠りについてしまう。
           『陵南高校前〜陵南高校前〜〜』
           ライバル校の駅で、いつも乗ってくる海南生がいる。
           清田の目標であり、憧れであり、そして片思いの相手。
           「よう清田。お前また寝てんのか?」
           小麦色の大きな手で、清田の頭を撫ぜる。
           「あ・・・・・牧サン・・・・」
           横に座って、かばんから本を取り出す。
           「ホラ、お前が欲しがってた今月の月バスだ」
           「あ、ありがとうございますっ」
           ご丁寧にもレシートが貼っているその本をパラパラとめくってみる。
           「あ・・・・」
           インハイのページで、牧の名が大きく載っていた。
           『インハイ常連校・海南大附属のキャプテン・牧紳一君!
           高校最後の夏、彼の優勝に向ける意気込みは半端じゃない!
           ついに海南、初の全国制覇実現なるか?!』
           優勝・・・・・
           「あ、そのページは海南特集になってるぞ?ほら、ここにお前もいる」
           身を乗り出して牧は右下にうつる清田を指す。
           フワ・・・・と太陽のにおいが清田の鼻をくすぐった。
           ボボッと、顔が真っ赤になってしまった。
           は、鼻血が・・・・・ッ
           「今年の海南は強いってよ。まあ、当然だけど、なにしろお前が・・・っておい、」
           不覚にも牧の前で鼻血を出してしまった。
           「ああああああ!!暑い!!」
           クーラーのつかない体育館。
           ただでさえ熱気に溢れているというのに何十人という部員が入って、熱気はさらに増している。
           清田の声が体育館にこだますると、大きなげんこつが彼の頭に落ちる。
           「暑い暑いっていうな!!よけい暑くなるッ!!!」
           部員一暑がりな武藤が、ビショビショなTシャツで自分を仰いでコートに入っていく。
           「・・・なんだよ、自分の方が暑いって言ってんじゃねえかよ。3回も・・・・」
           「こら、先輩のコトそんな風に言っちゃあダメだよ」
           神がコートから出てきた。汗をうっすらとかいている。
           「皆暑くてイライラしてるんだよ。ほら、あの牧サンだってさ」
           神の指さす方向を見やる。
           レイアップを外した牧が、クソッとか言ってボールをコートに叩きつけていた。
           ・・・ちょっと怖い。
           「・・・・・ところでノブ、お前また牧サンで鼻血出したって?」
           「な、なんで知ってるんですか?!」
           神は唯一清田が牧の事を好きなのを知っている男だった。
           鈍感というか、天然ボケというか、まったく清田の気持ちに気付いていない牧を一緒に
           振り向かせてあげる・・・と言われてそれ以降ずっと頼りにしている先輩だった。
           「牧さんが朝練の時、喋りまくってたぞ。俺だけじゃなく、みんな知ってるって」
           「そ、そんなああ・・・・・」
           神に話しただけならまだしも、部員に喋りまくっちゃうなんて、清田からは想像も出来なかった。
           「まあ、そんなに他人に気を配るようなヒトじゃないからさ、仕方ないよ。ワザとやってるわけじゃないからさ」
           「うううう・・・」
           牧が天然なのは入学してすぐに知った。
           明らかに下級生とは話がかみ合ってなくて、武藤や宮益達がすかさずフォローするのを見れば一目瞭然。
           元々持っていたイメージは見事にこなごなに粉砕してしまったが、そんな彼をみているうちに、どんどん好き
           になっていった。
           彼の横にいたい。いつでも、彼の横に立っていたい。
           日に日に想いは強くなるばかりだ。
           「ほら、休憩だよ、ノブ」










           テスト中だというのに午後8時まで練習は続いた。
           県予選も見事に勝ち抜いて、苦戦はしたが17年連続優勝を成し遂げたばかりだ。
           常に部活に時間が費やされるため、バスケ部には赤点保持者が山の様にいる。
           なるべく一軍から赤点者を出さないようにするため、今日は月曜まで2泊3日の
           勉強合宿が行われる。
           といっても、一軍メンバーの中で赤点の心配があるのは清田ただ一人。
           一人のためにたくさんつけるわけにはいかないな・・・ということで、
           急遽牧と神の2人に決定した。


           「え?!牧サンと神サンの2人だけ?!」
           家への帰り道、突然2人に言われて悲鳴に近い声をあげる清田。
           牧サン家にお泊まり。それだけで慌てふためいていたというのにさらに小人数になってしまうのか?!
           「なんだよ。2人じゃ不服だっていうのかヨ」
           少し不機嫌そうに顔を歪める牧。
           「い、いえ、全然不服なんかじゃないッすよ」
           「違いますよ、牧さん。ノブは俺達が勉強できないんじゃないかって心配してくれてるんですよ」
           「別に清田に心配されるほど俺は勉強してないわけじゃないさ」
           「・・・そうですよね・・・。牧サン学年10位から落ちたことありませんもんね」
           「ノブもそれくらいになれば楽なのにねえ」
           なんて事を言っていると、もうすぐ牧の家が見えてきた。
           ふと空を見上げると、晴れきった星空に河が流れている。
           「あ・・・今日七夕だあ・・・」
           「ああ・・・そうだったな。すっかり忘れてたよ」
           ふと思う。
           七夕の日が晴れたのは久しぶりな気がする。
           織姫と彦星も、久しぶりに出逢えたんだろう。
           俺も早く幸せになりたいなあ・・・・
           早く牧サンと仲良くならないとなぁ。
           とか言っているが、牧が横にいるだけで舞いあがっちゃいそうに嬉しい清田。
           この後、とんでもない事が自分の身に起こるなんて、考えもしていなかった清田であった。

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