闇月








暗闇が支配する部屋。
無造作に置かれたような簡易な寝具に乗りレオは先程扉をあけた男を見遣った。
「よ。久しぶり」
「………」
微笑を浮かべて手まで振られた本人は驚いた表情を隠せずノブに手をかけたままだ。
「全部終わってからアンタに会ってなかったなって」
ロザリーが通してくれたんだよ。やっぱり優しいねあの子。
ピサロは静かに扉を閉めた。だが驚いた表情は相変わらずで。
「…何しに来た」
「何って…元気かどうか確認しに来たんだけど」
レオは意地悪く笑う。
「こんな夜中に…お前を狙う魔物はいるだろう」
勇者である彼を恨む者は後を立たない。ただでさえピサロを裏切った者が多いというのに。
「そこいらの魔物には負けないね。アンタクラスじゃないと俺の首は取れないぜ」
密かに憤りを感じるピサロに気付く事なくレオは再び笑う。
ラフな旅人の服しか身に着けていないレオの髪が開けっ放しの窓から吹く風に吹かれて舞い
スライムピアスがかちかちと音をたてる。
「相変わらず元気そうだなあ〜。それが判ればいいや」
レオはベッドから飛び起きてピサロが閉めた扉へ向かう。
「じゃ俺帰るから。昼からずっと待ってたから腹減ったし眠くてね」
ちゃんと連絡取れよ?皆心配するから。
ポンポンとピサロの肩を叩いてノブを握ったレオの腕を引っ張る。
「待て。お前を待たせた挙げ句なにもしないで帰したらロザリーに叱られる」








夜も深くなる頃、レオは満足そうに皿にフォークを投げた。
「あ〜旨かった!イイもん食ってんだね」
ワインを嗜むピサロとは対照的に皿を音立てながら重ねているレオ。
…そう言えば旅に加わってから宿屋に泊まる度レオは自分で食器を片したりシーツをたたんで
いたりしていた気がする。
「良く躾られているな」
「そう?自分の事くらい自分でしなきゃ。常識だろう?」
ピサロの分も片してレオは得意げに腰に手を置く。
「さて…じゃあ帰るかな…ピサロ…俺帰る…」
レオが最後まで言わずにあけられる扉。
「レオさん、帰ってしまうんですか?お久しぶりなんですから今日は泊まっていってください」
「あ、ロザリー…、」
「ピサロ様も!せっかく来てくださっているのに…お泊まりになるように言ってください」
ロザリーの言葉に二人は顔を見合わせる。
(どうしよう…)
(…逆らわない方が良いぞ)

視線で交わされた言葉にレオは仕方なく頷いた。







強引に泊まる事になってしまったレオはピサロの部屋に布団を敷いて早々と被った。
だが先程までロザリーとずっと会話していたせいで眠気が覚めてしまい、全く眠れない。
「すまないな。人間に怯えるなと教えたらすっかり気が強くなってしまった」
「いいって。彼女にとっては良い事だからさ」
彼は相変わらず誰にでも優しい。旅中自分に積極的に話し掛けてきたのもレオだった。
「でも寝れないなぁ…」
布団を被るのは諦めて、レオはごろごろと転がり始める。
尻の割れ目が服にくっちりとうつって、ピサロは思わず目を反らした。
旅中、なんとなく身体を繋いだ事が一度だけあったが、レオは全く気にしていない様だった。
「…お前は今なにしているんだ」
「んー…世界中回って困ってる人助けてる」
「お前らしいな」
「どうも。でもあんまり魔物が悪さしてないよ。アンタ、しっかりやってんだな」

褒められているのか貶されているのか。
ピサロは口端をあげて笑みをつくる。
「付いてこない輩もいるがな」
「そいつは俺が倒す。人間も魔物も一緒に暮らしていけるようにはまだまだだけど俺が
生きてるうちは諦めないぜ」
ピサロを見遣り笑うレオにピサロも苦笑した。

「…もう消すぞ」
ろうそくの火を吹き消してピサロも布団に入る。
明日もデスパレスに行って指揮をとらなければならない。






それから何時間が経っただろうか。
ふと背後に忍びよる気配にピサロは目を覚ました。
殺気ではない。だが酷く揺れた気。仄かに感じるそれに意を決して振り返った。
「わ…、悪い…」
びくりと震えた髪でレオだと判り、ピサロは安堵を覚える。だが異様に熱を帯びた視線に疑問を抱き。
「……どうした……」
「悪い…なんでもない…」
だがレオは立ったまま動かず、意図を察したピサロはレオの腕を思い切り引っ張った。
「ちょ…ッ…」
熱を帯びた身体。仄かに香る欲情の気。
「どうした…?いつからだ」
「わかんね…飯食って暫くしてから…急に…」
「今まで我慢してたのか」
「だってアンタ、あんまり気持ち良さそうに寝てたから…っ」
苦しそうに息を吐くレオの腕をめくり、歯を立てる。流れ出た血に毒の要素はない。
ならば。
「……ロザリーめ」
「ピサロ…っ」
助けを縋るレオの視線に理性をとばしそうになる。
「寝ろ…」
「…も…、1時間も我慢したんだよ…」
「……ッ」
熱視線に負けたピサロはその唇に吸い付いた。
「ぅ……んぅ…」
自分が下になってレオの頭を深く抱え、もう一方の手で尻の割れ目を撫でる。
びくりと身体が震え、押しつけられた雄がさらに質量を増した。
「あッ…、ピサロ…」
濡れた瞳が絡み合う。
「…慰めるだけだからな」


それは自分に対する言い訳か。
ピサロはレオの頭を飾るサークレットをはずし、サイドテーブルにことり、と置いた。





















そこは闇が支配する部屋。
その部屋に、淫らに浮かび上がるのはこの部屋の主と、伝説の勇者。
緑色の美しい髪は乱れ、ベッドによつんばいになっている。
その彼を、背後から攻め立てる男には余裕は感じられない。
「いっあっあッ…ッ」
腰が打ち付けられるリズムに合わせて発せられる声は随分と枯れ、だがその声はそれでいて
ピサロのさらなる欲情に火をつける。
「…ッ、腕を、折れ…楽になるぞ……」
レオが言われたとおりに両腕を折ると、自然と尻を突き出す格好になる。
彼の腰を掴んで、ピサロは一息いれてさらに強く突き出した。
「あぅ…ッは、…ッ!!おく、まで…当たる…ッよぉ…!!」
「当たり前だ…ッ奥まで入れてる」
顔を見ない体位を取っているのは、快感に緩んだ彼の顔を見たくないから。
だが男同士の場合、背後位では最高の快感を与えてやれないのは知っている。

はじめは身体中を愛撫ながらレオの雄を擦るだけだった。
だが、快感に振るえ涙を流し、ぴくんと跳ねる肢体に自分の方が我慢できなくなった。
首筋を舐めて上がる嬌声は、以前身体を繋いだ時よりさらに敏感になっているように感じ。
背後に男の気配を感じ、ついカッとなってしまった。
自覚、するのが嫌だ。
だがそれは自覚しているという何よりの証拠。
自分の何分の一しか生きていないこの少年に、自分が心踊らされるのなどごめんだ。
だから、顔を見ない。
その顔を見てしまえば、嫌でも愛しいと思う自分がいる。
魔族の王である己が、最大の敵である天に選ばれた者に惚れるなどと。
「……ッ、くそ…ッ」
既に精を放ちぐちゃぐちゃと卑猥な音を立てるそこは、赤くはれ上がる一歩手前といったところか。
レオ自身は何回果てたかわからない。もう薬は抜けているかもしれない。
それでも彼は快感に咽び泣き涙を流している。
ぽたぽたと、汗がレオの背中に垂れる。
「ピサロ…ッ、こっち、向いて…ッ」
懸命に後ろを振り返ろうとするレオをタイミングよく突く。
「ふぅっあぁ…ッ、ピサロ…ッ」
「……なんだ…」
「バック…ッやだ…」
その言葉にしばし動きが止まると、レオが顔だけ後ろに向ける。
「……っ…」
視線が、合う。
「くそ……貴様…っ」
脚を掴み、回転させる。そのまま両足を肩にかけ、腰を掴む。
レオの曇った表情は段々と嬉々たるものに変わっていった。
「後悔させてやる……」
そこからピサロの言葉はなかった。
ただがむしゃらに背後位ではつけなかったレオの前立腺めがけて強く、狂ったように腰を振った。
先程よりも高く上がる声も、自身をきつく締め付けてくる其処も、全てを飲み込む勢いで。
自分の腹を彼の精が汚す時まで、ピサロは一言も喋らず、ただ腰を進め続けた。














「……痛い……」
甘い溜息を付きながらレオはぼそり、と呟く。
ピサロが強く握った跡の残る腰は、彼の爪が食い込んだせいもあり所々血が垂れていて。
それを無言で手当てしていくピサロ。
「…黙っていろ……」
案の定赤く腫れ上がっている其処を、どうしようかと暫し考える。
時刻は寅の刻をとっくに過ぎている。
「…ピサロ…?」
動かないピサロを不審に思い、レオはうつぶせにしていた身体を反転させた。
「どした…?」
「いや……」
お互い一糸纏わぬ状態で見詰め合うこと数秒。
ピサロはもごもごと小さい言葉を呟いている。
「何……?なんか怪しいんだけど…」
「失礼な奴だ…。少し待っていろ」
そういうとピサロは急に立ち上がり、ローブをまとって部屋を出て行ってしまう。
「…なに…この展開…俺置いてけぼりかよ」
レオはあぐらをかこうと足を組む。
が。
「いってぇ…」
腫れ上がった箇所がシーツに擦るだけで激痛が走る。
しかも、中に放たれたピサロの精が衝撃でだらだらと漏れてきて。
「…気持ち悪」
仕方なく仰向けになって、なんとか楽な体勢を確保し、自らの指をおずおずと其処に差し込んだ。
「いっつ…」
じんじんする箇所は痛いけれども、ずっとこのまま中に精を置いておくわけにもいかない。
指をかき回しながら零れていく精に、レオは段々と恥ずかしくなってきた。
「やべぇな俺……んッ」
自身で前立腺を引っかいてしまって、身体がひくりと跳ねる。
途端に戻ってくる、先程までの激しい行為での快感。
「あっ……」
思い出しただけで身体中がじんじんと痺れてきてしまう。
「俺、アイツのこと好きなのかな……」
勃ちあがってしまった雄を見つめながら溜息まじりに言葉を吐き出す。
精を出すのをとりあえずやめて、レオは窓の外を眺めた。
月はまだ闇の夜に、綺麗に浮かび上がっている。
「…待たせたな」
がたん、と扉が開いて、タオルを手にしたピサロが戻ってくる。
「うつぶせに寝れ」
「痛いから嫌だ。動きたくない」
「……。ではこうするまでだ」
強引に両足をとられ、大きく開かれる。
「うあ、バッカ、やめろよ!!」
「黙れ。減るわけではあるまいし」
僅かに痛みが走って、ピサロがレオの其処にタオルを当てているのがわかった。
暖かく濡れた布の感触はさほど悪くなく、レオは瞳を閉じた。
「………」
瞼の裏に焼きついているのは、過去の様々な記憶。
村での生活や、その後の色々な出来事。
最後に思い出したのは、山の絶壁に座を構えて恐ろしい姿に変化しつつあったこの男。
あんな怪物になってでも、人類を滅ぼしたかったのだろう。
「……なぁピサロ……」
「なんだ」
「…俺……」
言ってもいいんだろうか。この続きを。
「言いかけてやめるな」
「うん……」
決心が付かない。
こんなこと、あって良いのだろうか。
「俺……アンタの事、好きだよ」
「…………」
「まだ、人間滅ぼしたい…?」
「………ああ」
「そっか……なら」
レオは起き上がり、ピサロの手を取る。
それをそのまま、自分の首へ持って行き、しっかりと握らせた。
「俺を、殺せ」

「アンタが人間を殺すところ、俺は見たくない。他の人間を殺すなら俺を殺せ」
「まず先に俺を殺せ。そしたら誰も邪魔しなくなる。その後好きなだけ殺せばいい」
「俺を殺したらそれで気がまぎれるかも知れないだろ?だから…殺せよ」
一方的にいい殴り、レオはピサロの手の上から自らの手を置き、徐々に力を入れ始める。
「やめろ……」
「いいから殺れって。簡単だろ。人間はアンタらと違って心臓とめちまえばそれまでだ」
「やめろ」
「…ほら…ッ…」
ぐっと、手にこめられた力が強くなる。ピサロの指が、レオの指に巻きついてゆく。
「やめろッ!!!」
バシン、と激しい音がして、ピサロはレオを思い切り叩いていた。
「気でも狂ったか」
「…そうかも知んねぇ」
自分の首に残る締めた跡を擦りながら、少ない酸素で喋った喉からげぼげほと咳がもれる。
「アンタが人間殺すとこ、見たくないんだよ」
切なげに吐いた言葉に、深くにもレオは涙が溢れてくる。
「本当、人間って、傲慢で自分勝手な生き物だよなぁ…」
「ああそうだ。そうやって自分の意見を無理やり人に押し付ける」
立ち上がって、ピサロは半開きだったカーテンを思い切り広げる。
そのまま窓を開けると、生暖かい風が部屋の空気と入れ替わって入り、カーテンを揺らす。
「だがなレオ」
はっとレオは顔を上げた。彼は旅中、その後も含め、一回しか自分の名前を呼んだ事がない。
「私は抵抗しない人間を殺す趣味はない。殺すのは自分の行く手を阻む者だけだ。
そしてそれには人間や魔物といった区別などない」
かつかつと、ピサロは再びベッドに戻ってくる。
銀色の長い髪が、月の光に称えられて、美しいと思った。
「それに……誰がお前を殺すか」
「ピサロ……」
「お前だけは絶対に殺さない。お前は私の恩人だ。それだけは決して忘れるな」
ピサロは半ば怒りを露にどすんとベッドに座った。
柔らかいベッドが僅かにゆれ、軋むその衝撃すら、心地良い。
「処理は済ませた。乱暴に抱いて悪かった。さっさと寝ろ」
枕を頭の下に、身体に布団を掛けられる。
その動作ひとつひとつがガサツで、とてもピサロの動きとは思えなかったが。
ふわり、と自分の頭に触れるものがあった。
「……?」
頭をあげてそれを確認すると、それはピサロの手で。
柔らかく、撫でられる。
すごく、気持ち良い。
「……俺も悪かったよ。もう二度と言わない」
返事はなかった。
段々と眠気に襲われて、レオはやがて深い眠りへついた。











伝説の勇者は寝相が悪い。
全てが終わってから何週間か経つが、未だその癖は治ることがない。
「…………」
その頭を撫でながら、時折動くレオの身体に布団を掛けなおす。
「これでは私が寝れんではないか」
時刻は辰の刻。闇に包まれた空は段々とだが明るくなってくる。
それにつれて、薄くなっていく月。
「闇月ももう終わりだ」
その月が完全に消えれば、新しい朝が始まる。
高い塔からはその風景はあるがままに見て取れる。
ピサロは暫く、その光景に見入っていた。
寝相の悪い勇者が瞳を静かに開けたのも知らずに。
ピサロの瞳には、新しく訪れた朝のみが映っていた。
その表情に笑みが零れていたのを彼が知るのは起き上がった勇者に指摘されてからなのだが。
それはまた別の話。










end





何かと問題作。
手の施しようがないと感じ、そのままアプに至る。
ただ単にちょっと様子のおかしいピサロが書きたかっただけなのか。
街の空の続編っぽい話になってしまったのは続き物しか書けない作者のせいである。








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