だんだんと空が橙に変わっていく。資金集めのため古びた島でモンスターと戦っていた一行は、 空を仰ぎながらぼそりと呟いた。 「もう夕方だよ。どうするレオ」 緑色の特徴のある髪が揺れ、レオと呼ばれた少年はゆっくりとマーニャを見遣った。 歳は17。天空人と地上人のハーフで、邪悪と戦う事を定められた勇者である。 何ヶ月も前、魔物の王であるデスピサロに村を滅ぼされて旅に出た彼を探し 導かれし7人が集まった。 「もう帰ろう。早く宿に行かないとまた前みたいに泊まれなくなっちまう」 「えー!もっと戦おうよ」 「野宿はやめましょう姫」 「クリフトの言う通りじゃ姫様。今日だってずっとレギュラーだったではないですかい」 アリーナを宥める二人を後目にレオは各に了解を得ようとする。 「………………」 最後に黙ったままの銀髪の男に了解を得ようとレオは近づいた。 「今日は宿に戻るけど…別に異存はない…だろ…?」 遠慮がちな口調でレオは告げた。 当たり前だ。 彼が育った村を滅ぼしたのはこの男――ピサロなのだから。 「いちいち私に聞くな。この一行のリーダーはお前だろう。私はそれに従うだけだ。 事あるごとに話しかけるな」 仲間になりたての頃と同じ言葉を吐かれてレオは少し眉間に皺を寄せたが、判った、と 告げ馬車にしがみつくように皆に言う。 移動呪文ルーラ。 彼らの姿は一瞬で消えた。 到着したのは移民の町。 「わぁ!!暫く来ないうちにもの凄く大きくなってるわね」 アリーナの声の通り、移民の町は日々成長を続けている。住む人々も個性溢れる者達ばかりだ。 「あー!!!カジノがある!!」 「ちょっと姉さん…!」 「いいよミネア。どうせ宿に泊まるんだ。後で来るだろ?」 「姉さんは限度を知らないから…」 「大丈夫。金は俺が持ってるから」 レオはゴールドの入った袋を持ち上げて笑った。 男と女に別れて部屋に入る。 男は数が多いのでクリフト・ブライ・トルネコとレオ・ライアン・ピサロで別れた。 「レオ殿。私は先にひとっ風呂浴びてくる」 「うん。行ってらっしゃい」 ライアンが出てしまえば気まずい二人が残された。 レオは装備を外しベッドに転がり、ピサロは窓の外を眺めている。 彼はいつでも空を見ていると、レオは思った。 稟とした、強い意志に見え隠れしている悲しさをレオは知っている。 絶望の中独り村をおりたあの日。 絶対に死ぬもんか。 生きて生きて、必ず仇をとってやる…!! あの頃の自分と似たような瞳をしていると思う。 「…不躾に見るもんじゃない」 ふいに声がかけられ、レオははっとする。瞳は相変わらず機嫌が悪そうだ。 「悪い…」 それだけ言って、レオは再びベッドに転がる。 ロザリーの話を聞いてから、レオは彼に対する憎しみが薄れてきたのを感じていた。 彼が人間を恨む気持ちは判らなくはない。 そして、レオ自身に自分が勇者である事を自覚し始めた事もある。 彼が悪の化身とはどうしても思えなくなっていた。 (親の仇…の筈なんだがな) そんな事を考えているうちに段々眠気に襲われて、やがてレオは静かに寝息をたて始めた。 その規則正しい寝息に、ピサロは振り返った。 「…………」 訝しげに見つめていると、どうやら本当に眠ってしまったらしい。 今日は経験値と金を稼ぐ為にひどく剣を振っていたのを思い出す。 はぐれメタルの剣でメタルキング相手に改心の一撃が出ると無邪気に喜んでいた。 人間とは単純な生き物だ。 そう思いながら寝相の悪い勇者に布団を掛けてやる。 「ん〜……」 僅かに呻くレオの横のベッドに寝そべる。 人間のベッドは寝心地が良い。魔族みたいに堅い石ではない、柔らかいベッド。 ロザリーにもこんなベッドを提供してやったな…、とピサロはふいにレオを見た。 人間を滅ぼすのに邪魔な勇者の誕生。絶対に排除しなければと思い何年もかけて 世界中を飛び回り見つけた名もない村。そこで見つけた、忌々しい光を放つ少年レオ。 殺したはずだった。 なのに彼は生きていた。 独り過ごした数日はきっと地獄だったのに違いない。 自分を恨みに恨んだに違いない。 なのに何故。 「お前は私と同行する」 答えはない。 ピサロはため息をついて瞳を閉じた。 夕食を取り、それぞれがつかの間の休息を取る。 最終決戦は近い。 倒すべきものは既に判っている。判っているからこそ心身共に休息が必要だ。 それにもっと強くなりたい。悪を完全に討ち滅ぼせる力を手にするまで。 レオはひとり、町の北西にある大きな建物の屋上にいた。 暗い空に浮かぶ星を無心で見つめながら。 それを遠くから見つめるピサロには気付かない。 クシュン、と音がして、装備を外したままのレオが両手で体を抱きしめるのをみて ピサロは足を進めた。 「なにをしている」 レオはびっくりして後ろを振り向いた。 「風邪を引くぞ」 「ピサロ…」 てっきり宿で寝ていると思っていた。 「これでも掛けろ」 ファサ…と舞い上がったのは彼のマント。 「……悪いな」 レオはそれを素直に受け取ってくるまる。 薄いマントでも先程までピサロが着ていたのだろう。熱がこもっていてレオの体を優しく 包んでくれた。ピサロの初めての優しさに触れた気がして、なんだか頬が熱くなるのを感じた。 「…お前に聞きたい事がある」 ピサロはレオと少し距離を空けて横に立つ。 「何故お前は私を仲間にした?」 「何故って…、アンタ結構無理矢理…強引になったじゃないか…」 「それをを断る権利はお前にはある」 「…アンタが俺の村を滅ぼしたからか?」 「ああ」 私はお前に恨まれているはずだ。何故仲間に出来る。 ピサロは続けて告げた。 視線は遙か先を見つめ。 「…うまく言えないけど」 マントをぎゅっと握ってレオは言葉を探しながらぼそぼそと呟きだした。 「判りやすく言えば、アンタが敵に思えなくなったって感じ」 「全然判りやすくないな」 そう言うと思った。 「俺達が魔族を憎むように魔族も人間を憎んでる。魔族を利用する人間もいれば 人間を利用する魔族もいる」 だからピサロは進化の秘法でもって人間を滅ぼそうとした。人間を利用した魔族によって殺された 彼の最愛の者。彼女は世界樹の花で蘇ったが。 「初めはアンタを憎んでたけど…最近はそう思わない…。なんだか…俺と似てる気がして…」 顔をあげてピサロを見る。 彼の瞳はいつでも哀しみを帯びている。 「私はお前に同情されているという事か」 「同情とは少し違うけど…。俺は、今までの旅で人間の醜さは沢山見てきたから… アンタの気持ち、判らなくはないんだよ…」 あー、ダメだ。何言ってんのか判んないや。 レオは頭を掻きながら立ち上がった。自分より背の高いピサロを見上げながらレオは笑う。 「理由なんかどうでもいいだろ?今は共通の敵がいる。今は仲間なんだ」 自分で言いながら自分に言い聞かせているようにも聞こえた。 「もう戻ろう。ずっとここにいたら風邪引いちまう」 マント、ありがとう。 レオはまた笑った。 その表情にピサロは固まり、レオは首を傾げる。 「どうしたピサロ…?」 「いや……」 ピサロの反応に疑問を持ちながらも、レオは敢えて言わなかった言葉を沈黙の後紡いだ。 「…もしアンタがあいつを倒した後も人間を許せないなら…俺を殺せよ。 その代わり他の人間は殺すな」 再び流れた沈黙に、ピサロの足が動く。強引にレオからマントを奪うとくるりと後ろを向く。 「…そんな事はせん…。言っただろう。お前は私の恩人だ」 「…そっか…」 装飾品が僅かにぶつかる音がして、レオが首を傾げて笑みを作っているのを背後に感じ、 ピサロはつかつかと歩き始めた。 「…誰がお前を殺すか」 小さく呟かれた声はレオには届かず。 聞くは星の流れる 町の夜空のみ |
かなーり昔のゲーム。ドラクエ4。ストーリーも音楽も好きなんです。 そして最近ピサロ萌が進む今日この頃。 携帯サイトから移してみました。対した変化はなし。 |