ちょっと、あの2人に仕返しをしようとしてただけなのに。
どうしてこんなに、自分の感情が揺れ動いてしまうのだろう。
全て、自分の蒔いた、悲劇の種。






どんな時の中でも 3







その日、2人は家を出た。
太陽が空の真上に位置する、まだ日の高い時刻だった。
「……いいのアーロン…本当に…?」
ティーダは自分と共に家を出た男を、遠慮がちに見た。
「………」
彼は無言のまま、その赤い服を風になびかせている。
足取りは重い。
「…ブラスカさんと、何かあった…?」
言う前から、その表情を見ていれば一目瞭然であった。
今の彼はあの日…春風の吹く船の上でいじけていた時以上深刻になっている。
そしてそれは……自分も同じ事なのだろう。
あんなにジェクトに抱かれるのが嫌だと思った自分。
このベクトルの先はきっと、横の男に向かっているのだろう。
(俺とアーロンとオヤジとブラスカさん……こんがらがった4角関係…か。
笑えねぇ……でも、今日で終わる…)
そらを、大きな白い鳥が羽ばたいた。
やがてそれは空の彼方へ消えていった。
「ねぇアーロン……俺が今なに考えてるかわかる…?」
蒼い瞳には、いっぱいの空色。
アーロンは静かに、静かに息を吐いた。
「…わかるさ……」









「ブラスカッ!!!」
どたどたとジェクトが二階から降りてくる音が耳障りで、ブラスカはゆっくりと
後ろを振り返った。
「どうしました?」
「ティーダとアーロンが……ッ!!!」

綴られた、たった一行の文字。





さようなら














大きな丘の上。
家から少し離れた、鳥になるための場所。
下には日に照らされた、きらきらと光る美しい海の飛沫。
ティーダはそこの端に立って、海を見下ろしていた。
本当に実行してよいのだろうか…。
ここから飛び降りれば、新しい生を受けるべく、鳥となって空を舞える。
新しい人生が待っている。
だけれども、本当にそれでいいのだろうか。
ジェクトは嘆くかな?ブラスカは後悔するかな?
そんな想いがぐるぐると舞う。
「ティーダ……未練があるなら残れ」
後ろで、アーロンの低い声がする。
「………」
本当は飛び降りたくない。
ジェクトのそばにいたい。
ジェクトを好きになりたい。
前みたいに、前以上に抱き合って、己をぶつけながら暮らしていきたい。
だけど。
「アーロン……俺の事好き?」
そう聞いてしまうのは何故。
彼と一緒ならば転生してもかまわないと?
「好きだ」
アーロンはゆっくりと歩み寄った。ティーダの肩を抱いて、ゆっくりと、力を込める。
「だからこそ、お前には幸せになってもらいたい」
「ん……ありがと」
アーロンの優しさがつらくて、涙がこぼれた。
蒼い瞳から、海へとぽたぽた落ちていく涙の雫。
この人は連れて行ってはいけない。
そう瞬時に思った。
「アーロン。お願い。俺は転生するけど、アーロンはついてこないで。
あの人たち、アーロンがいなくなったら何にも出来なくなっちゃうから」
「わかった」
やけに早い返答に、ティーダは涙に濡れた瞳で笑みを作った。
「ありがとアーロン。それからさ…あの馬鹿オヤジに伝えてくれる…??」












ティーダが飛び降りた後、一羽の白い鳥が、空へ羽ばたいていった。
白い羽に、金色の風切羽。
鳥は丘の上をしばらく旋回し、遠い空へ向かって消えていった。
その様子を、アーロンはいつまでも見守っていた。
「……ッ!!アーロン!!!」
騒がしい声が後ろから響く。
ゆっくりと後ろを振り返って、アーロンは走ってくる2人を認めた。
息を切らして。懸命に走ってくる。
太陽はもう、空に溶けていったというのに。
「アーロン、ティーダ君は?!」
「ティーダは?!」
困憊状態の2人を笑うようにアーロンは笑みをつくり、再び空へ視線を戻す。
「まさか……」
「…ッ、くそったれ……」
がつん、と地面をたたくジェクトに、原因を作ったのはお前だと罵りたい気持ちを
懸命に握りつぶした。いわなくとも本人にはわかっていることだろうし、なにより
ティーダはそれを望んでいなかった。
かわりに、しゃがみこんで、ジェクトの耳元で先ほどの言葉をゆっくりと繰り返した。
「ティーダからの伝言だ。…………………………」












「アーロン」
しゃがみこんだまま動かないジェクトの片隅に居たブラスカは、無言で彼に頭を下げた。
「やめろブラスカ。今更そんな事をしてもティーダが戻ってくる事はないし、俺もあいつも、
そんなのを望んでいるわけじゃない」
望んでいるのは。
「俺もあいつを追いかける。お前達はどうする」
「そんな事聞かないでくれ」
ほら、ジェクト、とブラスカはいまだしゃがんだままのジェクトを立ち上がらせる。
「ジェクト」
「…わってるよ…ずっと追いかけてやる」
紅い瞳が少しばかり潤んでいるのが見えて、含み笑いが浮かぶ。
馬鹿だな。
「お前もブラスカもティーダも俺も…馬鹿ばっかりだ」
「そうだね」
ぼそりと告げられた言葉が、3人の最後の会話となった。
地を蹴り、海へと身を投げる。
どんな時の中でも、ずっと…きっと一緒だと信じて。














大きな壁のような大人の背中に囲まれて、その子は泣きそうになっていた。
お祭りなのだろうか?
たくさんの屋台が道の両側を占領し、まだ日は高いというのに花火が上がっている。
「お兄ちゃん…どこ…?」
蒼い瞳には涙がいっぱいにたまっていて、頭につけられた大昔の召喚獣のお面は
取れかかっていた。
どうやら一緒に来ていた兄弟とはぐれてしまったらしい。
必死に声をこらえているが、すぐにでも大声で泣きそうだ。
「ティーダ!こっちこっち!!」
その子が声のした方を振り返ると、大きな大人たちの向こうから、必死にこちらへ来よう
としている、同じく召喚獣のお面を被っている、黒髪の少し背の高い少年。
「お兄ちゃん!」
「今からいくから動くなよ!!」
必死に大人の波をかき分けて、少年はなんとか弟の手を取ることに成功した。
「まったく、ちゃんと兄ちゃんの後ついて来いっていっただろ?」
怒ったような声に、ティーダと呼ばれた幼子はついに大声で泣き始めてしまった。
「ほらほら、もう大丈夫だから、泣きやみな?」
「ジェク兄は言い方がきついんだよ。もっと優しく言ってあげればいいのに」
「なんだよアーロン!!!俺ちゃんと見つけたのに」
「あーはいはい。ティー、良かったね」
黒い髪を短めに切った、アーロンと呼ばれた、少年より年下そうな少年がティーダの頭を
優しく撫でて、お面を元に戻してやる。
「…ありがと」
すぐに泣き止み、笑顔を作る幼子。
「何道草くってるわけ?置いてくよ」
遠くの道で、銀髪の、この中では最年長と思われる少年が腕を組んでいた。
「待ってよブラ兄!」
「ほら、ティーダ。今度ははぐれんなよ」
その手をぎゅっと握って、少年は走り出した。
「ジェク兄」
「なに?」
その手を握り返して、ティーダはさらに笑った。
「僕、ジェク兄大好きだよ」
「……ッ、わかってるって。ほら」




今日はシンがこの世から消えてから100年を祝うお祭り。
4人兄弟は仲良く、大人達の波から幼い弟を守るように円を囲って、その中心部へと
走っていった。













































ありがとアーロン。それからさ…あの馬鹿オヤジに伝えてくれる…??』










































オヤジ、大好き。愛してるよって





















END





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