電話の呼び出し音で、目が覚めた。
      ・・・・いやな夢だ・・・・・。
      「・・・もしもし・・・・」
      誰だ、人がせっかく寝てるってのに・・・・。ったく・・・。
      『ノブくん?まだいたのね』
      その声の主は歩香サンからだった。
      「歩香サン、どうしたんです?」
      何か約束してたっけ?と思いながら、清田は首を傾げた。
      『あのね、家を整理してたら、あなた宛てに手紙があったのよ』
      「手紙・・・ですか?誰から」
      『あの人から』
      「・・・え・・・?」
      手紙?牧さんから・・・?なんで、今まで・・・
      思っている事は口にしないで、清田は歩香サンの言うことを聞いた。
      『ノブ君宛てだったから、読まないでいたんだけど、ちょうど向こうの両親さんがお見えになってね、
      どうしても中身を読みたいって言ってるんだけど、それはプライベートの侵害だって言ってなんとかくい止めて
      るのよ。取りに来てくれないかしら?』
      牧さんから・・・俺宛てに・・・?
      『ノブくん?』
      「あ、はいはい、今すぐに行きます」
      電話を切って、時計を見る。
      午後6時。クリスマスだから、道は混んでいると見る。
      神の家まで、車で30分。
      仕方ない。多少込んでいても構わない。
      清田は車のキイを握りしめて、ドアに鍵を閉めた。








      神の家に付いたのは、6時45分だった。
      「歩香サン!!!」
      「ノブ君!!」
      清田の声を聞きつけて、歩香サンが顔を出す。
      「良かったわね、あと数分遅かったら手紙見られていたわよ」
      ひそひそと清田の耳で喋る。
      「ありがとう、歩香サン、止めててくれてて」
      玄関をくぐり抜けて、居間へむかう。
      牧の両親と、久しぶりに会う事になる。
      交通事故の時に、自分と牧との関係がばれてしまい、大喧嘩をして以来・・・である。
      「お久しぶりね。信長さん」
      なんて目つきだ。
      高校時代のころ遊びに行って見た時とは比べものにならない。
      「お久しぶりです。牧さん」
      俺だって負けないさ。
      牧家とは何の関係もないのだから。
      「この手紙はなんなんだ!!」
      バンと牧の父が手紙をテーブルに叩きつける。
      きっと歩香サンの時とは態度が違うんだろうな。
      「まあまあ、お父さん。ノブ君だってさっき初めて聞いたんですからね」
      歩香サンがなだめても、きっと意味はないだろう。
      「ったく、あの馬鹿息子は・・・・こんなのを残して・・・っ!!」
      破りそうな勢いの手紙を、清田は奪い取るように自分の手中に取った。
      「勝手に破らないでください。俺宛てなんですから」
      清田も負けずに冷たい視線を送る。
      自分も良く変わったな・・・とふと思った。
      人にこんな目が出来るなんて・・・。高校時代は思っても見なかったな。
      清田は身長もあって、最近の親には不良にしか見えないらしい、トレードマークのロン毛もある。
      それだけで、彼には結構な威圧感があった。
      「う・・・・。ど、どうでも良いから早く読みなさい!!」
      「嫌です」
      「な・・・なんだと・・・っ!!!」
      清田の返事に青筋を立てて父親が怒る。
      「言ったでしょう、俺宛てだって。俺にだけ読む権利があるんですよ」
      「何を言っているの、あなた!!!私たちの息子よ!!」
      「牧さんを跡継ぎにしないで追い出して、なにが息子だ!!」
      あまりの母親の無理な態度に、清田もそれなりの態度で返す。
      その時だった。
      「いい加減にしてくださいっ!!!」
      神家の長男が、中断の一声をあげた。
      「神さん・・・・・」
      「迷惑です。やめてください。あなた達も、いい歳して大人げないですよ」
      神はブリザード並の顔で当たりを見回す。
      「そ、それはだね、こいつが・・・」
      「いい訳は聞きません」
      一声で父親を黙らせ、神は清田に近づいてゆく。
      「ノブもだよ。人の家で騒ぐんじゃない。お前も悪いんだからな」
      「・・・はい。すんません、神サン」
      「まったく・・・・なんでこんな事になってるんだい??」
      「私が、紳一さんの部屋を掃除してたら、財布から手紙が出てきたのよ。ノブ君宛てに」
      一番事をしっている歩香サンが、口を開いた。
      「ノブ宛てに・・・?」
      「それを、お父さん達がノブ君に無断で読もうとしたから、止めてたのよ」
      まったくその通りだ。
      「ふむ・・・。それはお父さん達が悪いですね。ノブ宛てなんだから、ノブに読む権利がある」
      まったくだ。神さんが言うと、説得力あるなー。
      「だがっ・・・!!紳一は私達の息子だぞ?!こいつが独占するのはおかしいじゃないか!」
      「そうですわ!!第一、紳一は結婚しているのよ!歩香サンをさしおいて・・・こんな男と・・・!
      なんて汚らわしい!世間の目が辛いわ!!」
      ピキッと、清田の中で、何かが切れた。
      「テメーら、ふざけんじゃねーぞ・・・!!」
      「ノブ」
      理性が吹き飛ぶ寸前に、神が連れ戻してくれた。
      「神サ・・・」
      神の目を見て、清田は驚いた。
      今まで見た事もない、冷酷な、瞳。  
      「なんでノブがそんな言われ方しなきゃいけないんです?」
      「宗一郎・・・・」
      「あなた達は、自分が一番辛いと思っているんですか?」
      「じ、・・・神君・・・」
      「一番辛かったのは、牧さんなんですよ?!夢を叶えるためにわざわざ10校以上の推薦断って、
      事業団に入ったのに、条件で結婚しろと言われるは子供作れだとか・・・・!!一生好きでいるって誓った
      相手がいる牧さんに、そんな交換条件出した挙げ句、子供が産まれたらその子を跡継ぎにするから
      出て行けって言ったんでしょう?どれだけ牧さんが辛かったか、あなた達知っているんですか?」
      「神さん、もういいよ・・・」
      「ノブは黙ってて・・・・そのために牧さんはずっと体調悪くてっ・・・!!知ってました?
      牧さん、亡くなる前、病気だったんですよ。知ってます?バスケ選手にとっては致命的なね。
      始めに歩行がふらつくんです。その次に身体中の筋肉が痙攣し始める。ずっとバスケをし続けていればね。
      そんな身体で牧さんはバスケを2年も続けていた。あの牧さんが、最後の年の記録、
      17試合でわずか27点ですよ?判ります?この数字が!一試合平均30点は取る牧さんが、17試合で
      平均にも満たない27点ですよ?どれだけあの人が辛かったか・・・・、知らないくせに、都合良い時だけ
      息子息子って・・・今まで聞いてきても我慢してましたけど、ノブに当たるなんて、絶対に許さない!!」
      神の瞳から、涙がぽろぽろ流れる。
      「ちょ、・・・ちょっと神さん・・・!」
      ポケットを探すがハンカチが入っているわけもない。
      それより、手が震えていた。
      唯一、牧さんとの事を高校時代から知っていた神は、すごく二人に好意的であった。
      たまには意地悪なんかもされたけど、神ほど二人の中を応援してくれた人はいなかった。
      「・・・・ノブ・・・手紙、読んでみ・・・」
      「手紙・・・?」
      震える手で、ふちを破る。











きみといるとき ぼくはぼくになれる そういう気がする


言葉よりはやく わかりあえる 輝く瞬間 あざやかに













         『清田へ



           あー・・・・最初に言っておくが、俺はこういうのを書くのは苦手なんだ。
           知ってるだろうが、言いたい事が伝われば良いと思っている。


           昨日は・・・・悪かった。
           いきなり着いてから言うんじゃ清田もあせったよな。悪かった。
           でも、あれは俺なりのけじめのつもりなんだ。
           俺達は、身体だけの関係じゃないってね。ずっと思ってた。
           俺がいきなり結婚するって言った時お前、泣き出しそうな顔して、おめでとうって言ったよな?
           俺、お前にそんな顔させたくなかった。ずっと。
           なのに、お前は無理して笑って、おめでとうって言ったんだ。
           正直、ショックだったよ。俺には好きな人間一人も幸せにできない男なんだなーって思った。
           隼人と綾花が生まれたときも、ひどく悲しそうな顔して、隼人等抱いてたよな・・・・。
           そういうの見て、思ったんだ。
           俺はまだお前が好きだって。
           結婚しろっていうのは親に言われたし、どうしても、事業団に入りたかったから・・・・。
           今となっては、言い訳にしかならないけどな。
           俺の夢だったんだ。
           自分の力で金稼いで、お前と暮らすの。お前も大学卒業したら事業団入りするだろう?
           でも、その夢も幻になっちまったな。
           俺は歩香さんと結婚して、子供まで作っちまった。
           お前に愛される資格なんて、どこにもない。
           それでもお前は、俺を好きでいてくれた。
           つい口を滑らすたびに膨れるお前見てて焦りながら正直安心してた。
           良かった・・・まだ愛されている・・・・って。
           その時、わかったんだ。
           俺とお前は、例えどんなに離れていても、決して忘れたりはしないんだって。
           確かに、何度も身体重ねたけど、それだけが俺達の絆って訳じゃないだろう?
           恋人の絆ってのは、お互い嫌いになったら切れちまうだろう?
           でも俺達のは違う。どんな事があっても、決して切れる事のない・・・・・
           一生涯を共にするかも知れない結婚相手のとは違う、一番の存在・・・・・みたいな・・・
           ・・・そう。パートナーだ。
           俺は、お前とそんな関係になりたい。そうでありたい。
           どんな時も、何があっても、決して揺るがない、そんな関係だ。
           昨日、お前を抱いたのは、それを思い出す為でもある。
           ・・・・・正直に言うと、お前の暖かさを覚えておこうとしたんだ。
           いつか、絶対またお前を抱きたくなる時が来ると思う。
           その時のために、自分に言い聞かせるために、お前の温もりを、絶対忘れないように・・・
           無理をしてすまなかった。
           最近体調も悪くてな、せっかく入った事業団を移される事になった。
           今度は友人として、慰めてくれるか・・・・??

           手紙で書くのは、なんか面と向かって言うと恥ずかしいからだ。
           ・・・・俺だって恥ずかしがったりするんだぞ?
           まあ、また後で会う事にでもなるだろうが、とりあえず、俺の気持ちだ。
                           じゃあな


                                          牧』












       「牧・・・・さん・・・・」
       清田の目から、涙があふれる。
       彼の死から1年、清田は初めて牧の事で涙した。
       「ノブ・・・やっと泣いたね・・・・」
       思わず膝を着いた清田の肩を、神が抱く。
       「神さ・・・・ッ」
       「ノブ・・・牧さんが死んでから、ノブ、心を閉ざしちゃったんだよ・・・?」
       「う・・・・・神・・さん・・・ッ」
       「ノブは気付かないようにしてたらしいけど、俺達には判ってたよ」
       清田を優しく包みながら、神はさっきまでの形相を捨てて優しい表情になっている。
       「どんどん心を閉ざしていくノブが。すごく辛かったよ。姉さんも辛かったんだよ?自分と牧さんが
       結婚したせいで、ノブが心を凍らせていくのずっと見てるの。俺だって・・・すごく辛かった・・・」
       「神さん・・・・俺・・・俺・・・」
       「・・・・可哀想に・・・ノブ・・・」
       神の優しい言葉が、清田の涙をさらに煽る。
       「ま・・・牧さんの、馬鹿・・野郎・・っ!なんで・・・俺に、言ってくれなかったんだよ・・・・」
       そうか。
       そうだったのか。
       俺は、牧さんの死を認めてなかっただけなのか。
       だから泣けなかった。
       ずっと苦しかったのは、これだったのか・・・・・
       「俺っ・・・牧さんと・・・・暮らすんだったら、何でも良かったのに・・・・」
       涙が止まらない。
       でも、いいや。
       初めて、牧さんの事で泣けたんだ。
       涙が嗄れたって、体中の水が出ちゃっても構うもんか。
       「紳一・・・・」
       父親は立ち上がる。
       「私達は、間違っていたのか・・・?」
       事業団に入った牧を、結婚を前提に認めてやり、子供が産まれて、牧と同じになっては欲しくないから
       親元を離して育てようと思った、この父親のした事は、間違っているのだろうか?
       「牧さん・・・・・あんた、馬鹿だよな・・・」
       清田はそう、呟いた。
       牧の本音が一杯詰まったその手紙を握りしめて。











いままでもこれからも 約束など することはないだろう


だれにも真似できない 同じ夢を見よう

Can you hear the calling?



                        

  













       「神さん・・・・・」
       「何、ノブ?」
       「神さん、知ってたんスね・・・手紙の事・・・・」
       清田が落ち着くまでずっと傍にいた神は、少しばつが悪そうに笑った。
       「・・・うん。ごめんね。見てはいないけど、牧さんが・・・あの日、少し前に唸ってたんだよね」
       牧さんは手紙とか、自分の気持ち相手に言うの、苦手だからね、と呟く。
       「牧さんに・・・逢いたいな・・・」
       そう叶いもしない事を思い、さらに涙が溢れる。
       「・・・いつか会えるさ・・・。ノブと牧さんは、生涯のパートナーなんだろ?」
       タオルを渡されて、それに顔を埋める。
       涙が枯れるほど泣いた。目が重くて上がらない。
       けれど、涙は一行に止まらない。
       ふと、聞き覚えのある曲が耳に届く。
       「あ・・・この曲・・・・」
       「牧さんが好きだった曲だね・・・・・」
       共感の出来るその詩を聞いていると、また心がじんときて、涙が流れる。
       「この曲、ノブと牧さんのためみたいな詩だよね・・・」
       「そうッスね・・・・」
       「ノブ」
       「なんスか・・・・」
       「牧さんの分まで、幸せになってね」
       そう言って微笑む神は、まさに神様みたいで。
       「・・はい・・・!!」






       外はクリスマス
       神の子キリストが生まれた日。
       神が世界に奇跡を振りまく日 
       今ここに、一つの小さな奇跡が舞い降りた・・・・









この声が聞こえるかい 


wow wow wow wow


今なら聞こえるかい


どうか苦しまないで・・・・・







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