「こっちだ清田!」
「遅いぞ清田!!」
「先輩待たせてどーすんだ!!」
「ノブったら・・・」
「すみませーん!!」
約束の時間を20分たってようやく現れた清田に、バスケ部員が安堵の表情を浮かべながら言う。
走ってきたせいか息があがりながら清田は先輩達に謝罪する。
皆本当は怒っていないのだけれども。
「ほら、行こう」
「置いてくぞ!」
神に背中を押され、牧に声をかけられ、清田も走ってバスケ部の群れに追いつく。
1軍だけでの初詣。
除夜の鐘はまだなっていない。
あと・・・数分で今年は終わる。
「10・・・9・・・8・・・」
カウントダウンが始まり、声を張り上げる清田を微笑ましく見つめる牧と神。
「俺達の時代が・・・終わるな」
武藤に言われ、牧も僅かに頷く。
「ああ・・・もうすぐ・・・お前の時代だ、神」
「そうですね・・・」
5を切り、飛び跳ね始めた清田に視線を泳がせ、笑顔の中に寂しさが見える神の呟きに、
3年は苦笑した。
「3!2!1!」
ゴーン、と、神社の鐘が鳴り響き、新しい年を祝う。
「明けましておめでとうございますッ!!」
飛び跳ねながら清田は牧に抱きついた。
「やめんか!」
そう言いながらも牧の顔には笑みが浮かぶ。
「おめでとうございます」
「おめでとう」
抱き合いながら、握手をしながら、皆が笑みで新しい年を祝う。
「あとは受験だけだな」
「あー!!それを言わないで・・・」
頭を抱える武藤に全員が笑う。
「・・・・・」
悩みながらも500円玉を賽銭箱に放り投げる清田。
もちろんバスケ部全員の苦笑を買う。
「な、なんですか、みんなまで笑って!」
「500円くらいケチってんじゃねぇよ、清田」
「そうだよ。今年は全国制覇するんだからもっと奮発しなきゃ」
「うう・・・・」
皆にからかわれる清田を尻目に牧は同じく500円玉を投げ入れる。
海南が今年こそ全国制覇しますように。
武藤が大学に受かりますように。
武藤以外の3年はすでに海南大への推薦が決まっているから。
あとは・・・
「清田が今年は赤点を取りませんように」
「あー!!なんですか牧サンまで!!ひどいッスよ〜!」
「事実だろ?」
牧の一言に清田は真っ赤になって牧の腕を引っ張る。
「あはははは!ノブ、今年は赤点ないといいね」
「神サンまで・・・・」
笑いの渦が包み込んだ。
おみくじで大吉だ凶だのと騒ぐ1年を見つめる牧の横に神が寄る。
「元気ですね、1年は」
「そうだな。来年は2年になって、新入生が入ればもうすこし大人になるかな」
「他の1年はともかく、ノブはずっとあんな感じでしょうね」
一番高いところに結ぼうと必死に腕を伸ばしている清田を指差しながら神は言う。
「・・・・・今年は絶対に全国制覇してみせます。牧さんの分まで」
「・・・・そうだな。もうお前達の時代だからな。今年のインハイは決勝だけ見に行くよ」
「あはは、そうですね。牧さんの目の前で優勝杯を持ちたいです」
準優勝の杯でなくね、と言う神を、牧は頼もしく見つめる。
「お前達ならできるさ。俺達を越えることが出来るしな」
「牧さんを越えることは難しいですけどね」
「俺も大学で頑張るさ。インカレにはご招待するぜ?」
「なーに言ってるんですか、当たり前でしょう??」
顔を見合わせて、笑う。
こんなこと出来るのもあと少し、だと思うと、少し寂しくなる。
だけど時代はそんな風に流れていくんだな、とも思う。
ひとつの時代の終わりは、もうひとつの時代の始まり。
海南の怪物と呼ばれた牧の時代は沈み、新しい王の時代が始まる。
その時代もいつかは沈み、そして清田の時代が幕をあける。
そんな風に、時代は巡るんだな。
「あ・・・・」
暗い空を見上げる神に合わせて牧も空を見上げる。
「雪だ・・・」
「縁起がいいねぇ、正月に雪なんて」
「そうだな・・・・」
「牧さん」
「なんだ?」
「・・・見守っていてくださいね」
「・・・当たり前・・・だろ?」
「んじゃあ、そろそろ解散にするか」
皆を集め、旧キャプテンは口を開いた。
「・・・お前等、来年こそは必ず全国制覇だからな!!」
「はい!!」
「んじゃあ、各自、家に帰れ。正月はゆっくり身体を休めろよ」
「はい!!!」
ばらばらに散っていく部員を見つめながら、逆に集まる1軍メンバー。
「なんだ。お前等帰らないのか??」
「帰るわけないですよ。これから牧さんちで騒ぐんですよ」
「・・・・・お前等・・・・・人の家をなんだと・・・」
「牧ん家が一番広いんだよ」
「一緒に正月番組見ながら酒でも・・・」
「バカモン」
「何言ってんだよ、牧。俺達もそろそろ酒になれておかないと新歓コンパで死ぬぞ?」
「牧さんなんか、特にお酒に弱いんだから」
「うるさいな」
終わりは始まり
新しい時代の幕開け――――
end