『ボールを放つ時は、ただゴールだけを見ています。何も考えずに、心を無にして。
そしたら自然と入るんです。まるで、吸い込まれていくように。』
神奈川予選のすべての試合が終わり、表彰式の際決まった得点王に選ばれた神宗一郎は、
表彰式が終わったあとのインタビューでそう答えた。
俺に好きだと告げた、その口で。
10月某日。
学校に行く途中、道端に落ちている缶に目がいって、それをかんかん蹴りながら
歩いていたら、突然、そいつに出くわした。
「・・・あれ?三井さん?」
「・・・あ・・・?」
缶の代わりに俺の目に飛び込んできたのは、私服姿の神だった。
そいつは、缶を拾い上げると、ご丁寧にも近くのごみ箱に捨ててきてから俺を全身くまなく
見まわして、口を開いた。
「三井さん、もう、こんな時間なのに学校行くの?
こんな時間・・・というのは、午前10時を指す。
朝、どうしても起きたくなくてごろごろしていたら、いつのまにかこんな時間になっていた。
これでも急いで家を出たのだが、途中でどうでも良くなってしまったというわけだ。
「とりあえず、行かねーと単位が取れないからな」
本当は行きたくないのだが、単位が取れないと留年してしまう。
留年しちまうとバスケが出来なくなる。それだけはなんとしてでも避けなければならなかった。
「そうですか・・・それは残念・・・」
神はクスっと笑う。
その笑顔が、三井を揺さぶる。
「何か用なのか?その前に、おまえも学校はどうしたんだ?」
逸る気持ちを押さえつけて、必死に声を出す。
「今日は創立記念日で、大学も高校もお休みなんです。もちろん、部活もね」
にこにこと神は嬉しそうに笑う。
あきらかにこいつは学校サボって俺と遊ぼうといっている。(顔が)
ああ・・・・気持ちに負けそう・・・。
この笑顔を見ていると、学校に行こうという気がさらに失せてしまう。
見ないようにしようと思うんだけど、どうも出来そうにない・・・・。
ああ、もう駄目だ・・・俺の負け・・・。
「で、どこ行く?」
「そうこなくっちゃvv」
最近ハマリだしたUFOキャッチャーの前に立ってから、もう10分がたつ。
「ああ!もう少しだったのにぃ!」
本当にあと1秒でも持っていれば・・・と思うくらい近くで落ちた人形を見ながら神はじたんだ踏んだ。
「お前さー、下手なんだってば。俺が取ってやるからどれ欲しいんだ?」
俺の発言に少し機嫌を悪くした様だが、すぐにもとの笑顔に戻って、なんとも微妙な位置に落ちている人形
を指差した。
「結構難しい位置に落としやがったな〜おまえ〜」
文句を言いつつも、100円えお入れて動かす。
UFOキャッチャーにおいての俺の腕は無敵そのもので、こつさえ掴んでしまえばこんな位置であろうが
簡単に取ることが出きる。
神が変な位置に落とした人形を上手く機械で掴んで、俺は見事そいつをゲットした。
「さっすが三井!」
出口から出てきた人形を手に取って、俺より少し目線の高い神が子供のように喜ぶ。
ああ、可愛い・・・vvv
「次は、あれしようよ、三井!!」
放課後はバスケしかしてなかった神にとって、三井と過ごす時間は何もかもがはじめてで、すごく新鮮さがあった。
もちろん、三井が気に入ってるからというのも十分楽しい理由にはなっているのだが。
3年間グレていた三井にとってはゲーセンなど毎日来ていたので別に新鮮さも何も感じなかったが、やはり神と来ている
と言うことだけで楽しくなってしまう。
連続でぼこぼこ叩くようなゲームは得意な神だが、UFOキャッチャーのように器用さを必要とするゲームは苦手で、
三井はその逆である。レーシングゲームにおいては互角の争い。
そして、楽しいひとときは、すぐに去っていくのである。
「あ、いけね!もうこんな時間だ」
すでに昼なんて通過して、もうすぐ3時になろうとしていた。
いくら学校をサボっても部活までサボるわけには行かない。
「部活か・・・・」
神はさも寂しそうな表情を浮かべる。
「ああ。お前に負けないように、日々特訓なんだぜ。3Pしか能がねーんだ。負けてられっかよ」
今度こそその笑顔に負けないように、バスケを出す。
今度は絶対に負けない。
次に海南と戦うのはウィンターカップの神奈川予選だ。
その時に神に負けないように、俺は猛特訓をするんだ。
そして、次こえお俺が神奈川の得点王になるのだ!!!
「俺だって負けませんよ」
にこっと笑って神は俺に近づいてくる。
「ん?」
「またね」
そう言った彼の唇か、俺のと重なる。
「?!!」
思わず驚いて後ずさりする俺を見てからからと笑うと、神は背を向けて人ごみの中に消えてしまった。
そのあまりの速さに呆然としながらも、神からキスしてきたのは初めてだと気づき、ふいに口が緩んでしまった。
「ママーあの人へんだよーにこにこしてるー」
「見るんじゃありません!!」
「・・・・・・・v」
なんだかんだ言っても、今日は良い日だったな・・・と思いながら、三井は学校への道のりを歩き出す。
三井はその日の部活で、3ポイントシュートを1本も外さなかったんだとさ。
end