Miracle Night





ふわふわと漂う粉雪の中、金の髪がゆれる。
白い視界の中できらきらと輝くそれは大事な息子。
いや、もう自分にとってはただの息子ではない。
一番愛している人間。
昔は悲しませる事しか出来なかった、ただ一人の肉親。
もう二度と会えないと思っていた息子に、異界で出会う事が出来た。
それは・・・年若い息子がもう二度と生きた大地を踏む事のないという事実。
それでも・・・幸せだった。
再び共に歩んでいけるから。
失った10年。原罪-シン-となり殺戮を続けた10年を取り戻すために。








ジェクト達は異界に来て初めてクリスマスを迎えようとしていた。
生きていた頃のザナルカンドのように飾り付けられたイルミネーションを見つめながら
ジェクトとティーダは二人で街まで買い物に来ていた。
クリスマスの準備をするために。
「なんか、オヤジと買い物に来ると酒ばっか買ってる気がするよ」
雪の降りしきる中、ティーダは金の髪を揺らしながらジェクトを見上げ、両手一杯の
荷物の中にたくさんある瓶をカンカン言わせながら呟いた。
明日はクリスマス。
もっといろいろなものを買いたかったのに、ジェクトのせいで酒ばっかり・・・とさらに
呟いた。
「いいじゃねえか、酒くらい。おめぇにも飲ませてやるからよ」
そういうジェクトの両手にも七面鳥やら野菜やらが大量に入った袋。
もちろん、料理するのはアーロンとティーダである。
「あったりまえ!こんだけ持たせといて飲ませてくれなかったら許さないッスよ」
マフラーに落ちた雪を払いたくても払えず、息をかけて溶かすようにティーダは深く
溜息をつく。
「ま、アーロンが許せばだけど?」
「あー!それひどいッス!アーロンが許してくれるわけないじゃん!」
ティーダの悲鳴を心地良く聞きながらジェクトはたどり着いた車のドアを器用に開け、
後部座席に荷物を置く。
「おら、さっさと乗れよ。アーロンがまちくたびれてるぜ」
「たまにはオヤジも作るの手伝えよなぁ・・・」
「火事起こしてもいいならな」
「・・・・・やっぱいいッス」
バタンとドアを閉めるのを確認すると、ティーダがシートベルトをつけ終わる前に
ジェクトはアクセルを踏んだ。











猛スピードを出したジェクトの車はしばらくしてジェクト達の暮らす家へと着いた。
大雪の中チェーンもつけずに暴走したおかげでティーダはげっそりしていた。
そんなの知ったことかと自分の分の荷物を抱え、エンジンをかけたまま玄関のドア
に手をかける。そしてふと家の前においてあるへんなモノに目が行った。
小さいまるい雪の塊が2こ・・・つらなっている。
「・・・・・・・もしかしてこれは・・・・・・雪だるまってやつですか・・・?」
しかし、えらい小さい。ジェクトの膝にも届かない大きさだった。
「オヤジ・・・エンジンくらいちゃんと切れよな・・・」
顔を青くして荷物を抱えてキーを抜いてきたティーダが後を追いかけ、ジェクトと同じく
足元の雪だるまのようなものに目が行く。
「なに、この塊・・・・」
「・・・雪だるまじゃねぇ?」
二人して呆然としていると庭のほうでなにやらわいわい聞こえる。
とりあえず嫌な予感がしたのでシカトして家に入った。
テーブルに荷物をおくと、ティーダはさっそく料理に取り掛かった。
ジェクトはクリスマスツリーの飾りつけだ。
その間もなにやら庭で叫び声が聞こえる。
ティーダはそれを無視するようにフンフンと鼻歌を歌いながら七面鳥になにやら粉を
まきはじめていた。
「ブラスカッ!それは嫌だ!!」
「いいじゃない。たまにはさぁー」
「・・・・・なーにやってんだか」
ジェクトはだんだんと大きくなってくる叫び声に段々とイライラしてきてしまう。
「ッ!冷たい!!やったなアーロンッ!!」
「あんたが悪いんだッ!!逃げるなブラスカッ!」
そしてドタドタと庭の前までブラスカが走ってきた。ジェクトの真正面の縁側の庭で、
どうやら二人は追いかけっこらしきものをしていた。
ジェクトの目の前を走るブラスカの頭に大きな雪の塊があたる。
「ヒャッ!!つっめたーい・・・」
着込んでいるコートの中に雪が入ってしまったらしく、ブラスカは背中へと伝う雪を
落とそうと必死でコートをまさぐる。
「この・・・ッ!!」
そこへ走って追いついたアーロンがブラスカの背中めがけて飛び掛った。
「うわぁ―!!」
重なって雪に埋もれる2人。
ジェクトは呆れた表情を浮かべ、どかどかと縁側まで歩く。
「いい歳こいてなーにやってんだおめぇら!!」
「あ、ジェクト。おかえりー」
雪に埋まってた顔を上げてブラスカはひらひらと手を振る。アーロンは気まずそうだ。
「見ててわからない??雪合戦してたんだよ♪」
「・・・・あのなぁブラスカ・・・俺たち買い物に・・・」
「違うぞブラスカ。あんたが雪だるまを作りたいと言ったからやってるのにいつのまにか
雪合戦になったんだ!!」
「だってアーロンのつくる雪だるまって小さいし上下の大きさがかわらないんだよ?!」
「だから買い物に・・・・・」
「中々可愛くていいだろうが!第一人の作ったものに一々けちをつけるのはやめろ!
一緒に旅をしていた時からずっと思っていたぞ!」
「なんだい、私のことをブラスカ様と慕っていた頃からそんな事を思っていたんですか
あなたは!!」
「いや、だからね・・・買い物してきたから・・・」
ジェクトのことなどお構いなしに、二人はお決まりの痴話げんかを始める。
「大体ね!雪だるまってのは雪の上を転がしてつくるもんで、アーロンみたいにちまちま
盛り上げていくようなのは誰もやらないの!!これから屋根の雪だって下ろさないと
いけないんだからね!!雪だるま作ったほうが少ないスペースで雪を一杯置けるんだ!」
「そういいながら単に雪で遊びたいだけだろうが!!だから俺が雪だるま作ってるときに
雪の塊投げてきたんだろ!!」
「何が雪だるまだよ!あんなのただの雪の塊だ!ジェクトも見たでしょう?!あの玄関の
横に置いてある小さいまるいの!あれアーロンは雪だるまって言い張るんだ!!」
「どこから見たって雪だるまだろうが!!!!」
「・・・・どっちでもいいからさっさと上がれ」
イライラが募るジェクトはブラスカの首根っこを掴んで家に引きずり込んだ。
その間も永延と二人は口論を続ける。
「雪だるまが・・・・」
「遊びたいだけ・・・」
ティーダはすでにシカト状態。フンフンと祈りの歌を歌いながらのりのりであった。
ジェクトもシカトをした方が懸命だと今更気付き、二人を放っておいてツリーの飾りつけ
に集中する。
数十分ほど立てば二人はすっかり意気投合してジェクトのツリー装飾を手伝いはじめる。
ブラスカをジェクトに預け、アーロンはティーダのいるキッチンへと足を運ぶ。
「何か手伝う事はないか?」
「あるに決まってんじゃん。今までずっと痴話喧嘩聞かされたんだからあと全部やって欲しい
くらいッスよ」
「・・・・・すまん・・・」
「・・・ったくさ、いい年して大人気ないッスよ。・・・・・そんなにブラスカさんのこと好き?」
「・・・・・・・大人をからかうな」
ティーダの頭に拳骨を降らしてキッチンから追いやり、涙目で睨むティーダをふんと一瞥
して料理に取り掛かる。



下準備がある程度完了していたのでアーロンは楽に調理を進める事が出来る。
我ながらよく仕込んだものだと少し嬉しくなりながらティーダを見遣るとジェクトを引っ張って
庭へ出ようとしていた。
「ねえ、やろってばさー!!」
「・・・・たく、しゃーねーな」
準備よろしく手袋をはめているあたり、ティーダは外でずっと遊びたかったんだな・・・と
アーロンは微笑む。
簡単なサラダを作り、アーロンはツリーの前にしゃがみこんで次はどれをつけようかと
真剣に悩んでいるブラスカの方を見遣る。
「おい、ブラスカ!屋根の雪落とすぞ。手袋してこい」
「うん」
「急げよ。それ弄ってないで」
「うん」
「・・・・早くしろ」
「うん」
ブラスカはツリーの飾りつけで必死らしい。返事だけはするが意識はこっちを向いていない。
はぁ・・・と溜息をつくと一人で玄関に置いてあるスコップを取る。
軽く地面を蹴り屋根に飛び乗る。
「・・・ブラスカの魔法があればすぐなのに・・・・」
とぶつぶつ言いながら一人もくもくと屋根の雪を落とし始める。
下ではティーダとジェクトのじゃれあう声。
本当に仲のよい親子だ。あれほど似て、あれほど仲のよい親子は見たことがない。
ほほえましく思いながら雪掻きをしていると・・・・・
「ティーダ君こっちこっち!!」
「・・・・プヘッ!!やったなぁブラスカさんッ!!」
「・・・・・・・」
下をのぞくと楽しそうにはじゃくブラスカとティーダの姿が。
一瞬にして青筋を立てたアーロンはブラスカが走ってくる真下に上手く雪を落とす。
「わあ・・・・・・」
大量の雪が上手くブラスカの頭上に落ちることとなる。
しかもブラスカの姿が見えなくなるほど大量に。
地面に飛び降りたアーロンは、ふん、とそれを一瞥する。
「アーロンなにすんだよ!ブラスカさん死んじゃうじゃんか!」
「ここは異界だ。だれも死にゃせん」
「おめぇよぉ、やりすぎだぜそりゃ・・・」
「俺が呼んでも反応しないくせにこいつらと遊ぶなんて許さん」
「・・・ったく、おめぇそれじゃあブラスカのこと好きなんだか嫌いなんだかわかんねぇよ」
「フン・・・・」
ぷいと顔を背けてアーロンは渋々雪を掻き分ける。
やっと顔の出たブラスカはアーロンをキッと睨むといつもの顔に戻る。
「もう、アーロンのせいで寒くなっちゃったよ。私お風呂入ってくる」
雪から這い上がったブラスカはアーロンの肩をポンッと叩いたあとなにやらぼそぼそ言った。
「・・・?」
首をかしげるジェクトとティーダの前で囁かれたアーロンは真っ赤になっていた。
「ブラスカ・・・・・」
「ふふふ・・・じゃあね」
ブラスカは楽しかった、と告げて家の中へ入っていった。













ジェクトとティーダはアーロンが落とした雪を使って大きな雪だるまを作っていた。
小さな雪を地面でころがしながらやがておおきな丸にする。
その上にジェクトの作った小さい雪の塊を乗せる。
ティーダが持ってきた木の枝をさして腕をつくり、石で顔を形取り、巻いていたマフラーを接合
部分に巻いて出来上がり。
「ひゃあ・・・・、きもちいい・・・」
ずっと動いていたティーダはマフラーをはずして首元が涼しくなり頭を振る。
ジェクトは既に飽きて縁側にすわり大きなあくびをする。
アーロンはブラスカのあとをついて一緒に風呂に入ってしまった。
ティーダは満足してジェクトの横に座る。
「俺、こんなに雪積もってるの見たのガガゼト以来ッス!」
「だな。俺もガガゼト以来だな。ザナルはあんま雪ふんなかったしな」
まだ降り続ける雪を見上げる。
こうしているとガガゼトを思い出す。
ジェクトはブラスカの覚悟を知りながら、悲しみに浸るアーロンと共に。
ティーダはユウナの覚悟を知りながら、なんとかしようと必死に考えながら。
今ではすべてがなつかしい・・・・日々。儚くとも輝く日々。
「ティーダ・・・」
急に抱き締めたくなり、肩に手を回す。
「なんスか?」
触れるだけのキスを降らす。
「・・・・・クリスマスは明日ッスよ?」
「・・・わかってる」
ティーダは優しく笑うともう一度、とキスをねだる。
その様子を後ろで見ている男がひとり。
「・・・・・ラブラブになってるよ、あの二人」
「・・・・・・・」
風呂からあがったブラスカはやけにすっきり顔。
そしてあとから出てきたアーロンは真っ赤になっている。











「かんぱーいv」
4人でグラスをあわせながら、この日だけ許された酒をティーダは嬉しそうに喉に流し込んだ。
庭には雪だるまが2つ。
ジェクト&ティーダ作とブラスカ&アーロン作だ。
テーブルには豪華な料理がいっぱいに並べられている。
「ところでジェクトのザナルカンドのクリスマスはどういう意味があるんだい?」
料理を取り分けながらブラスカは前から気になってたんだ、と告げる。
「俺様のザナルじゃ神の子が生まれた日って事になってるぜ。2000年前くれーに生まれたって
されてるな。一年で一番神聖な日だ」
「へぇ・・・やっぱりスピラとは違うんだなぁ・・・」
「スピラはどうなの?」
「スピラではユウナレスカがはじめてシンを倒した日・・・・というのが表向きだ。実際のところは
エボンが夢のザナルカンドを召喚した日・・・・だな」
シンが生まれた日だよ・・・とブラスカが告げる。
「そっかぁ・・・・なんか正反対なんだな、ほとんどの事が。スピラで悪い事はザナルじゃ大概
いい日だよな」
「まあね。ベベルは自分達の立場が良くなるように不利になる事は闇に葬り去っていたからね」
ブラスカの言葉にアーロンは静かに頷く。
今、こうして4人でこの日を迎えるなんて、旅のはじめは誰も予想しなかっただろう。
深深と降り続ける雪を窓から眺めながら、目の前で繰り広げられる鶏肉の争いを2人は
ただただ幸せそうに見つめていた。










後片付けも終わり、アーロンはティーダを風呂へ追いやるとのんびりとソファに腰掛ける。
年甲斐もなく昼間雪遊びをしたせいで体中が痛い。
アーロンは肘掛に肘をつきながらスフィアTVを見つめていた。
もう時計は12時近くになっている。
クリスマス特集の番組を適当に目に入れながらアーロンはただぼーっとしていた。
「アーロン。コーヒー」
コップをふたつ持ったブラスカが横に座る。
「ああ・・・すまんな」
ブラスカはそんなアーロンの膝に手をかけ、嬉しそうに笑っていた。
「・・・・・なんだ」
「昼間はホントに酷いことしてくれたね?」
「・・・・・・・・そのあときっちりし返ししただろうが」
「あれは愛情表現じゃないか」
あれのどこが愛情表現だ・・・と喉まででかかったが辛うじてそれを飲み込む。
あとが怖いから。
「それにしても、スピラとザナルカンドのクリスマスの意味が全然違うのには驚いたね」
「・・・・そうだな」
ブラスカはアーロンの手を取り口付ける。
「アーロン・・・・・好きだよ」
「ブラスカ・・・・」
ブラスカに誘われるがままに、アーロンはその唇に口付けた。
アーロンの首に腕を巻きつけて、ブラスカはそれをさらに激しくする。
「ブラスカ・・・ッ」
息の上がったアーロンに、ブラスカは嬉しそうにその身を翻した。











その様子を風呂からあがったティーダはばっちり見てしまって。
薄暗い部屋の中で口付ける二人に慌てながらもみつからないようにこっそりと2階へ
あがる。心臓がまだバクバクいっている。
「よぉ。随分と長風呂だな」
「んな事どうでもいいし」
ベッドの上であぐらを掻いてニヤニヤしているジェクトをキッと睨みつける。
「んじゃ俺も入ってこようかな・・・と」
タオルと寝具を持って立ち上がるジェクトに慌てるのはティーダ。
「だ、だめ!だめだめ!絶対ダメ!」
ドアの前でとうせんぼするティーダをジェクトは不審に思い首を傾げた。
「なんでだよ。俺がなんで風呂にはいっちゃいけないんだ」
「ちっ違う!その・・・・ブラスカさんとアーロンが・・・・」
ごにょごにょと言うティーダにジェクトは思わずにやりとしてしまった。
「ふーん。スピラでもクリスマスにゃそーいう事をする日だってことだな」
「・・・・・・・なにニヤニヤしてんだ変態」
「なにが変態だ。ジェクト様に向かって。・・・・・・・・じゃあ風呂は諦めるか。ブラスカの機嫌
損ねる方が怖ぇからな」
旅の最中、何度バハムートを召喚されたか。(ジェクトが悪いのだが・・・・・・・)
ジェクトはベッドに座りなおしてくすねてきた酒をグラスに注ぐ。
「おら、飲めよ」
「おう・・・」
ジェクトに促されてベッドに座りグラスを受け取り一口飲む。
「うまい・・・」
「だろ?俺様の一番好きな酒なんだ」
「・・・・・・もっときついのが好きなくせに」
「あ、わかるか。これはおめぇにあわせてやったんだ」
「・・・・へっ。いつまでもガキ扱いしやがって」
もう一口飲んでサイドテーブルに戻す。
窓のそとでは、まだ雪が降り続けている。
「ティーダ・・・・」
「うわっ」
いきなりアップでせまってきたジェクトに驚き思わず両手でおしのけようとしてしまう。
だけど力で敵うわけもなく、簡単に抱えられてしまった。
「へへ・・・あったけぇな・・・」
「や、やめろよッ」
頭のあたりにキスを降らされる。
くすぐったいような感触に頭を振って嫌がると今度は仰向けにされて服越しに背中に
口付けられる。
「なんなんだよ、オヤジ・・・」
「んー・・なんか、キスしたくなった」
「・・・・理由になってないッスよ・・・」
そう言いながら起き上がるティーダの顔はもう嫌がってない。
「ちゃんとするべき場所にしろよな?」
「・・・・・・・・だな」
ティーダの暖かい体を抱き寄せる。
「・・・メリークリスマス、ティーダ」
「・・・メリークリスマス・・・ジェクト」






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