ひとつの大きな戦争は終わった。
ホムンクルスは封印され、彼らを裏切りエド達に味方したブラッドレイはそのまま大総統の地位に就き続けた。
アルは生身の身体を取り戻し、兄であるエドと軍人となった。
エドはその地位をほぼ確約され、未来の大総統と噂される事となる。



【第1話 夢心地】



「大佐、それが済みましたらこちらを宜しくお願い致します」
「置いといて」
ある昼下がり。
昼食を数分ですませ机に向かう金髪の青年に、彼より明るい金髪の女性が書類を机に置いた。
左手でクルクルとペンを指先で器用に回す。
「出来た!よし次!」
書類の束を掴む右手は機械鎧。
左足は元に戻ったが、弟の魂の代価となった右手だけは直らなかった。
「エルリック大佐、精が出ますね」
司令官室まで書類を届けに来た男性に、彼は振り返った。
「おう!中将がサボリ魔だからね」


エドワード・エルリック。
ホムンクルスとの死闘から4年。成人を迎えた彼は背も伸び、その風格は全軍の女性の注目の的だった。
僅か4年で彼の上司以上のスピードで出世街道を駆け登った彼は今や大佐。
「あれ?兄さんまだいたの?」
「もうとっくに食った」
彼の弟は現在中佐。こちらも異例の出世スピードである。
「中将の仕事も引き受けてくださってるのよ」
そういうはホークアイ。大尉である。
「いい加減にしなよ兄さん。中将の仕事は中将にやらせればいいの」
「いいんだよ。半分は俺のせいだから」
「…もう。甘いんだから」
そう溜息をつく弟に、兄は頭の裏で両手を組んで笑みをこぼした。
「へへ、言ってくれるな」
蒼い軍服はやけに彼に似合う。満面の笑みにまた自慢話が始まりそうで、アルは何も言わずに自分の席に座った。
「中佐、中将はまだ?」
「ええ。食堂ですよ」
暢気な将軍で困るわ…と呟くホークアイに、アルも苦笑してそうですね、と告げた。


仕事熱心。
エドの仕事振りを例えるならばこの言葉はまさに的確だ。サボリ魔上司の分まで引き受けせっせと書類に目を通す。
誰かさんに見習ってほしいくらいだ。
カリカリとペンの走る音が響いて、ふたりは顔を見合わせて微笑を浮かべた。
ジリリリと電話が鳴り、アルが取る。
「……兄さん、中将から電話」
「なんだ、わざわざ食堂から電話かい。迎えに来いとかだったら殴るんだけど」
とか言いつつ嬉しそうに笑うエドは電話を受け取る。
「俺今アンタの仕事やってるんだけど」
『悪いな。ついでに少し休憩入れないかい?』
テノールの声が笑っている。
「そんな時間ないよ。後何枚あると思ってんだよ。アンタため込み過ぎなんだよ毎回毎回」
『いいじゃないか。昼休みはあと1時間もあるのだぞ?後で私も手伝うから』
…………
これは何かを企んでいる声だ。
「仕方ねぇな。何処いきゃいいんだ」
『食堂だ』
「OK」
電話を切るとエドは少しはにかんだ。
「今から中将の暇つぶしの手伝いに行ってきます」
「……大変だな兄さんも」




「マスタング中将」
ロイが振り返った先には金色の青年が立っていた。
「出来れば早く司令官室に来て欲しいんスけどねぇ」
「いいだろ少しくらい」
ロイは含み笑いを浮かべて横の椅子を引いた。
「天下の将軍様が聞いて呆れるぜ」
椅子に座るエドは少しばかりロイより高い。
「よく育ったモンだ」
「またその話かよ。もう耳にタコが」
「もう豆には反応しないか」
わざわざエドの言葉を遮ってフォークに差した豆をエドに見せた。
「あのなあロイ、俺もうガキじゃないぜ」
「私から見ればガキだ。それに仕事場では中将だよエルリック大佐」
「んじゃマスタング中将。お仕事してくださいな」
エドはロイのトレイに乗る茶を飲みながら未だネチネチと豆を見ているロイをじと…と見た。



この男は4年前と何も変わらない。童顔なのも相変わらずだし女好きだし仕事はサボるし。
でも色っぽくなったかも…と思った。
「これから大総統に呼ばれてるんだ」
「……なんで」
「北と本格的に戦争になりそうだからな。指揮官拝命…かな?」
「……賢者の石を作る為の戦争じゃねぇよな」
「さすがにもう考えてないだろう。大体向こうがふっかけて来たんだ」
「アメストリスの何に惹かれるんだ」
「強大な軍事力…そして有能な錬金術師だろ」
ロイは豆をやっと口に入れて大量に残ってる皿を片づけに入る。
「エルリック大佐!」
何やら入口から誰かがエドを呼んでいる。
「なんだ?」
「エルリック大佐!大総統がお呼びであります」





昼休みはとっくに過ぎ、司令官室に戻ったエドははぁと溜息をついてロイの机まで歩み寄る。
見上げるロイに敬礼をする。
「大総統よりマスタング中将と俺で北方司令部でドラクマの情勢を探れとの事ッスよ」
「…かったるい」
ロイも溜息をついた。
「しかも明日だと。まだアンタの仕事の残り大量にあるってのに。いつでも俺はアンタとセットだぜ」
エドはアルに書類を渡して帰り支度をする。
「つうわけで今日は終わり。帰って準備だ」
ロイも仕方なしに準備をし始める。
今回はなんだか面倒な事になりそうだと、エドは窓の外を見ながらまた溜息をついた。



エドは現在ロイと同居している。
いや、同棲している。
エドとロイの関係は軍でも有名な話だ。
「北は寒いからなぁ、やだなぁ」
「さっさと荷物入れろよ」
「君がやってくれるんだろ?」
「自分の荷物くらい自分でやれ!」
「つれないなぁ」
「普通だ!」
叫びながら防寒具をトランクに詰めるエドの解かれた長く伸びる髪をロイは引っ張った。
「いったたた!!」
「こっちに来い」
「ってぇんだよ!髪引っ張るな!!」
「いいから来い」
渋々エドはロイね寝そべるベッドに乗りあがる。が、ロイに引き寄せられてベッドに転がり、ロイに上に乗っかられた。
「何なんだよまったく…」
微笑む黒曜石の瞳が怪しく光っているのを見て、エドは溜息をついた。
「何でもないさ…」
「何でもないなら退いてよ」
「なんだ…?誘ってるのに」
やっぱりそれかよ…と、エドは近づいてくる顔に盛大な溜息をついた。
「明日からはあまりベタベタ出来ないだろ、エルリック大佐?」
「…わかりましたよ、マスタング中将」

「…夢心地だ」
「何が?」
情事の後、ベッドでロイを抱き締め後戯をゆっとりと過ごすエドはその声に首を傾げた。
「4年前はこうなるなんて思わなかった」
「よく言う。俺の事犯す気だったくせに」
「逆に犯されるなんてな」
「はははは、いいじゃん。今は愛し合ってるんだから」
「…そういう事にしておいてやるよ」
ロイは起き上がって大きく伸びをした。
細くはないが決してガタイが良いとは言えない、わずかに隆起した筋肉の筋を見つめながら、エドも起き上がる。
「最近身体がきついな」
連続はきつい、と呟くロイに意地の悪い笑みを浮かべた。
「何〜?天下のロイ・マスタングもオヤジの領域に突入?」
「……ウルサイ」
「ははは、悪ぃ……もちっとこうしてよ…?」
「…明日の準備はいいのか」
「俺が全部やるから。も少しこうしてよ?」

いつもこうしてエドはロイの計算通りに動かされていた。



「ロイ・マスタング並びにエドワード・エルリック、これより北方司令部へ出発致します」
「うむ。くれぐれも気をつけてな」
「はっ!」


「兄さん、気をつけてね」
アルはわざわざ駅まで見送りに来た。
「ああ。1週間で帰ると思うから中将の残りの書類よろしくな」
「今大尉がやってくれてるよ」
エドとロイはそういって、列車に乗り込んだ。
「では行ってくる。後は頼んだ」
敬礼するロイにあわせエドもアルに敬礼する。アルも同じように右手を顔の前に運ぶ。
「気をつけて」



「はは、なんか旅行みたいだな」
エドは窓を開けて嬉しそうにはしゃいでいた。世が平和なだけに普段デスクワークが主体になっている二人にしてみれば
列車に乗るのも久しぶりである。
「ガキみたいにはしゃぐな」
ロイはエドの肩越しから空を見遣る。雲行きは怪しい。
「向こうは雪かな。イヤだなぁ…」
セントラルから北方へと進路を向かう列車の中、はしゃぐエドとは対照的にロイは大きなため息をついた。




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