「君の師匠はどんな方かね?」
ふいに振られた話にエドは首を傾げた。












Good old days


















「いきなりなんだよ」
司令官室のソファで本を読んでいたエドは顔を上げた。
「大した事じゃないがな。ふと気になってね」
ロイを見れば既に手は止まり、微笑を浮かべてエドを見ていた。
今日中に片付けないとまた中尉に殺されかけるというのに、今のロイはすっかり頭から抜けているようだ。
「俺の師匠は……おっそろしい程強いぜ。アルを子供扱い」
「ほぉ。君も敵わないのかな」
「ああ。大佐も絶対敵わないぜ」
「……ほぉ。何故かな」
「だって師匠女だもん」
エドはそう言って視線を本に戻した。
「……美人なのかね?」
「美人。でもダンナいるぜ」
「……惜しいな」
何がだよ、と思いながら文を追っていたエドだったが、何故ロイがそんな話を振ってきたのか気になってきた。
「なんでそんな事を?」
「…大した事じゃないさ」
ロイは一瞬身体を強張らせたがすぐにいつもの彼に戻る。
そしてペンを握る。


なんだ?触れられたくない話なのかな?じゃあ人に振るなよ。
エドは再び視線を本に戻した。


「…私には師匠がふたりいてね…」
ふいにボソリ、とロイは語り出した。
「ふたり?」
「ああ。錬金術の基本を教えてくれた師匠と、焔の錬金術を教えてくれた師匠がな……」
ロイは遠くを見るように視線を彷徨わせていた。
「…私は孤児でね」
いきなりの告白に、エドは完全に顔をロイに向けた。
「大佐が?!」
「ああ…生まれてすぐに北との戦争で親を亡くしてね」
ロイは立ち上がって窓の前に立った。
「拾ってくれたのが基本を教えてくれた師匠なんだ」
人事のようにロイは微笑を浮かべてエドを振り返る。
大佐はなんでこの話を俺に聞かせるんだ?
つうか、俺が聞いて良い話なんだろうか…?
そんな心境のエドに、なおもロイは言葉を紡いだ。
「物心ついた頃から錬金術の本を読んでいたよ。師匠は私が本を理解出来ると知ると、私に基本を教えてくれるようになった。
師匠の教えてくれる基本が理解出来るのが幼心に嬉しくてね、夢中で覚えていったよ」
「大佐……」
「15になって私は師匠に新しい師匠を紹介された。焔の錬金術を教えてくれた師匠さ。自分の身体から焔を作り出す…
私はのめり込んでいったよ。その殆どを覚えて、私は師匠の教えを破った」
発火布で包まれた拳をぎゅっと握って、ロイは視線を落とす。
「戦争で死んだと聞かされていた両親は軍と敵対していた勢力に殺されたと知ってな。俺は士官学校に入学した。
絶対になるなと言われていた、軍人と、国家錬金術師になるために」
「………」
「師弟の縁を切られると判っていてもな…許せなかったんだよ。そして俺は17の時に国家錬金術師になった。
当時は最年少記録だったんだからな?」
「大佐……」
笑うロイの心境を、なんとなく察した。
この人がこんな話を自分にする理由が。
ただサボりたいからこんな話をしているんじゃない。
「大佐…もういいよ…」
「……」
「…そんな顔しやがって。全然笑ってねぇんだよあんた…」
大佐の机の前に立つ。
開かれた手紙。
強く握った痕。
「…泣きたい時くらい泣きなよ。我慢してそんな話聞かせやがって」
エドはロイを抱き締めた。
ただ子供が父親にくっついているようにしか見えなくても、今のロイの涙腺を刺激するのには充分だったようで。





「親が亡くなるのってこんな感じなんだな」
「ああ」
「…大好きだったんだ」
「ああ」
「本当の親だと思えるくらい好きだったんだ」
「ああ」
「…勉強も遊びも、女性の口説き方まで教えてもらったんだ」
「ああ」
「こんなに早く逝くなんて思わなかったんだ」
泪が金髪にぽたぽたと落ちる。
「…ああ」





「珍しいモンみちまったな」
「そんなに私が泣くのは珍しいかい」
ソファに寝そべってタオルで目を押さえながらロイは口を尖らせている。
「いっつも自信満々でキザなヤロウだからな」
「フン。師匠がそうだったからだろ」
いつもとは口調が違う気がして、エドはにやにやしていた。
ロイの本当の一面を見ている気がして。
「大佐の一人称は”俺”なんだな」
「……?」
「さっき自分の事俺って言った。なんで普段は”私”なんだ?」
「…知らない。癖かなんかだろ」
「きちんと使い分けてるって言えばいいのに」
「うるさいなお前は」
ロイは起き上がってエドを睨んだ。
だけれどもエドを睨むその瞳には棘がない。
「何故お前にこんな話をしたのか……」
「…人徳…だろ?」
「良く言う」
立ち上がって机に向かった。
「鋼の」
「あん?」
「今日は暇かね?」
「暇だけど……」
「夕食でもどうかね?気分が良いから”俺”の奢りだ」
にやりと笑うロイの先で、エドは目を見開いた。
きっとこの人が俺、という相手は限られているんだろう。もしかして自分はその限られた人間になれたのだろうか?
「早く返事しろ。”俺”の気が変わらんうちにな」
「…大佐の机に大量にある書類は今日中に終わるわけ?」
「ぐっ……」





もし自分が死んだらこの人は泪を流してくれるのだろうか?
そんな事を思いながら、エドはあたふたと書類を手に取るロイを見ながら笑っていた。









end

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