栄養剤








「…ックション!!」
盛大なくしゃみが司令官室に響き渡る。
「…大佐…」
「なんだ」
鼻をすすりながら書類に目を通すロイをホークアイ中尉は見つめながら口を開く。
「…風邪を引いているのならあまり無理をしないでください」
紅い顔。だるそうに時折眉を寄せ、声は多少枯れている。
「…書類にサインするだけだ」
いつもはサボりに徹するはずのこの変わり様。中尉は溜息をつく。
「無理をしすぎてエドワード君達に風邪を移さないように」
いつもこうだったらいいのに。

「こんちは〜」
扉が開かれて元気な声が響く。ひょこりと金色の髪が揺れればロイが変に
緊張するのを中尉は僅かに感じ取った。
「やあ鋼の。随分と早かったな」
「こんちは中尉!うん。電車の乗り換えが案外スムーズに行ったんだ。にしても大佐」
そう言いながらエドは報告書を取り出しながら机に近づく。
「ひでえ声。一昨日電話した時思ったけど、やっぱ風邪引いてんだ」
「…薬はちゃんと飲んでる」
「薬飲んでたって身体を休めなきゃ意味ないぜ?」
眉をしかめながら自分を心配するエドに、ロイは顔を綻ばせた。
「わかっているさ」
「ホントにわかってんだか…」
その笑顔に照れたのか、エドは頭を掻きながらはにかんだ笑顔を浮かべる。
「……」
「……」
ホークアイとアルはただただ溜息が出るばかり。
「…ゴホッゴホッ」
苦しそうな咳が吐き出されれば大丈夫か?という声。
「大丈夫だ」
既に東方司令部に務める者ならば誰もが知っている二人の仲。
自分より一回りも年上の大人にタメ口は聞くわ、口は悪いわの彼がこんなにも
ロイに懐くとは。
「…今日は早めに切り上げて早く治しなよ?」
「そうしたいのは山々だがな、まだ沢山残ってるのだよ」
ロイを囲むように机にそびえ立つ大量の書類の山。
「…ため込み過ぎなんだよ…」
エドはちらり、とホークアイを見た。
…仕方ないわね。今夜無理をされて明日休まれたらそれこそ大変…。
ホークアイは僅かに溜息をついた。
「…大佐。今日は定時までで結構です。身体を早く治してください」
「いいのかい?」
「治ったらきっちりやっていただきます」
「……(治るの嫌だな)」


「なんで風邪なんか引いたんだよ」
ハボックの運転する車に乗り込んで、エドは咳をするロイに言った。
「4日前に酔って窓開けっ放しにして寝たのは覚えてるのだが」
「何歳だよあんた…」
「……」
「いつも言ってんだろ?体調管理はきちっとしろって」
「うむ……」
「……」
見せつけんなよ…と心で溜息をつくハボックであった。







明日また迎えに来ます。そういって帰ったハボックを見送って、
ロイはいそいそと布団に潜り込んだ。
「冷蔵庫何にもねえじゃんかよ!」
ぴくり、と肩を振るわせ頭から布団を被ったのをエドは見逃さなかった。
「ローイー」
「な、何かな」
「メシくらいしっかり喰いやがれ!」
その後小一時間程小言を食らったロイであった。




「じゃあ、俺材料買ってくるから。ちゃんと寝てろよ」
ロイの熱は37度前半だった。だが平熱の低いロイにとっては十分高熱である。
薬を飲み、冷却シートを額に貼って、エドは買い物に出掛けた。
「……」
何枚も服を着せられだんごと化したロイは汗をぐっちょりかきながら襲ってきた
頭痛と格闘していた。
「暑い…痛い…」
頭はガンガンクラクラするし、大体着せすぎだ。でも脱いだらきっと怒られる。
イライラするような暑さの中ロイの意識は朦朧としてくる。
そしてそのまま、静かに瞳を閉じた。



次に目を覚ました時には部屋中に良い匂いが立ちこめていた。
エドが何か作ってるのだろう。そういえばまともに食事をとるのは何日振りだろうか?
本当に、自分はあの小さな恋人がいないと飯もろくに食えないのだろうか。
「…情けない…」
小声で一人ごちる。
「エドワード・エルリックお手製リゾット完成っと!!」
独り言にしてはやけに大きい声にロイの口端が無意識に上がる。
「…起きてるかな……あ、起きてるじゃん」
エドは静かに部屋に入ってきて起き上がってるロイを見遣った。
「リゾットか。懐かしいな」
「俺のリゾットは旨いぜ?これなら風邪引きのあんたでも楽に食べれるだろ?」
にかっと笑ってエドはベッド横のサイドテーブルに皿を置いた。
「その前に…」
「なんだ?」
「服替えないとな。汗かいたままじゃ身体に悪いし気持ち悪いだろ?」
ほら脱いで、て急かされてロイは仕方なく服を脱いでいく。こういう時相手が
性的興奮を押さえる事は経験済みだ。
ほら、今もエドはなるべくロイを見ないようにタンスを漁っている。
「これ着な」
汚れた服を掴むエドの黄金色の瞳には欲情の色が見受けられる。
それを見て見ぬ振りをするロイ。
「それ食ってろよ」
足早にエドは部屋から出ていく。
適当に洗濯機につっこんで慣れた手つきで洗剤をまいていく。
「…病人相手に欲情してどぅすんだ…」







「…全然食ってないんですけど」
再び寝室に戻ったら、二口程しか口をつけられてない皿を睨んで言った。
「…食えないんだ」
ひどく辛そうな顔をしているロイに溜息をつく。
「……ちょっと待ってろ」
一緒に買った果物を適当に切りミキサーにかけた。
「これなら飲めるだろ」
コップを渡せばそれにおずおずと口をつける。
「…いつからちゃんと飯食ってないんだ?」
「……」
「…ローイ」
「…1週間位前」
「………」
「でも受付の子に貰ったゼリーとかケーキは食ってたぞ?」
ピキンと青筋が立つ。
「…それは飯って言わねえぜ?」
その気になれば何日も食事を採らないような感じがして。
「ったく、手のかかる大佐だな…」
29にもなって飯もろくに食えないなんて。
「今回は暫くイーストシティにいるつもりだから、その間は俺が飯作ってやるから、
少しずつでいいから食ってくれよ?」
エドは皿を取り、ぱくぱくとスプーンを動かして中身を減らしていく。
ロイはその様子を何か考えながらずっと見つめていたが、エドが口に運ぼうと
スプーンをあげた時。
「あ」
「は…?」
口を開けたロイに、エドは口元に運びかけた手を止めた。
「何…ロイ…?」
意味が分からないエドが問いかけると、口早に言葉を紡いだ。
「食わせろ」
「……は?」
見る見るうちにロイの顔に朱が走る。
「…お前が食わしてくれるんなら食える気がする」
「…ロイ…」
何か言い返そうかと息を吸い込んだが良い言葉が見つからない。
何て恥ずかしい事を言ったのだろうとロイもさらに顔を紅くしていく。
「…はい」
エドが少し紅くなった顔でスプーンをロイの口元に近づける。
「……」
それをロイがくわえ込んだ後、エドは微笑んだ。
「…もっと食えるだろ?」
「……ああ」
それだ。
俺にはお前が足りない。
お前がそうやって俺の側で笑っていてくれれば。それだけで俺には十分なのに。
「…子供か俺は…」
「なんだ?」
「ああ、なんでもない」
訝しげな視線を投げるエドに再びなんでもないんだ、と告げてロイは口を開く。



少し熱が上がった気がする。
でも暫く治らなくてもいいかも、と思う。
治れば大量の仕事が待ってるし、中尉達がなんとかしてくれるだろう。
今はもう少し、エドと一緒に居たい。
そう思うロイだった。






fin




メルマガから引っ張ってきました。
特になんの変更もなしに(ヲイ)


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