黄色は幸せな色。 かつて誰かが言っていた。太陽の恵みを受けて、美しく瑞々しい色。 私の知っている黄色は少し橙がかった黄色だけれども。 それは私のすぐ横にいる。 彼を花に例えるならば私はそれをたんぽぽだと思う。 ひまわり…というのが正しいのかも知れないが、私は敢えてたんぽぽだと思う。 根無し草、と自らが言うように彼はすぐに飛んでいってしまう。 ふわふわと空をさまよい、やがて地に着きそこで花を咲かせる。 地にいる時は目一杯私の傍にいてくれるのだ。 「なぁ大佐、また風邪なんか引いてないよな?」 「君は一体いつの話をしているのかな」 「うんと、一ヶ月前」 不覚にも風邪を引いて一週間傍にいてくれた事を思い出す。 帰路に着く私の横にぴったりとくっついて既に覚えているであろう私の部屋までの 道のりを歩いている。 角を曲がり、裏路地に入れば私の部屋はすぐそこ。 「大佐、鍵開けといて」 「なんでだ?」 「どーせ冷蔵庫ん中、空っぽなんだろ」 「………」 正論に私は無言で微笑んで、明かりの着いている店に走り出す少年に片手を上げた。 何やら色々と買い込んできては、次々にテーブルの上が料理で彩られていく。 それを手伝いもせずに見つめるのが私の仕事。 …だがそれも些か飽きた。 「今度は何を作っているのかね?」 こじまんりしたキッチンに立つ少年の腰に両手を絡ませながら聞くと、 彼は何事もないように顔だけ私に向ける。 「ポテトサラダ。味付けはロイがしろよ」 綺麗にほぐされたそれをエドはテーブルへと運んでいく。 「ほらマヨネーズ。塩に胡椒。適当にやって」 再びキッチンに消えていく彼の後ろ姿を見つめながら仕方なくマヨネーズを手にとる。 …腰触ったのに何も言わない…のか…? エドは私には決して料理を作らせてくれない。 勿論、自分でも凄い事になるのは百も承知なのだが。 そしてそれに反比例するように彼は料理が上手い。 母親が亡くなっては幼馴染の家で世話になっていたようだが自分でも料理を 覚えていったのだろう。全ては弟の為………少し妬けるな。 だが今は私のために此処にいる。それが素直に嬉しいと感じる。 なんて思っている事は彼には内緒。 「エドワード・エルリックお手製リゾット完成っと」 いつぞやの言葉をそっくりそのまま繰り返すエドに苦笑を漏らす。 どうやら彼の得意料理のひとつらしい。 彼曰く、隠し味はチーズ、らしいが。 牛乳はどんな事があっても決して飲まないというのに、彼は牛乳を使った 料理は結構好物だった。 リゾット然り、シチュー然り。 「ちゃんと食ってたんだろうな」 「ほどほどにはな」 食わないとお前が怒るからこの一ヶ月、独りでも食事はしてたんだ。 カチャカチャと食器を音立ててリゾットをよそるエドの背中を見つめる。 前よりも少し逞しく、背も伸びたみたいだ。髪も少しばかり伸びている。 偽の陽でも美しく光る、太陽の象徴の黄金の髪。 ベッドの上でそれは本当に太陽のように私に降りかかる。 その瞬間がとても好きで。 だがその至福の時を、私はもう2ヶ月も体験していない。 2ヶ月。 エドは一度も私を抱いていない。 食事が終わればエドは片づけをしてちゃっちゃと文献を広げてる。 構って欲しい…とは思うが、彼らが体を取り戻すのが最優先だ。 …と、大人振ってみても所詮無駄な足掻きだ。 多少いじけてさっさと風呂に入り、バスローブを体に羽織り彼に声をかけて 先にベッドに入る。 …本当は一緒に寝たいのだが……。 「腹出して寝るなよ」 それはお前だろ…と思いながらサイドに置いてある本を取る。 海を隔てた大陸の大国が、王政だった頃に書かれた悲恋小説。 ふと本に影が出来て、振り返ると怒ったような表情を浮かべたエドが 私を見下ろしていた。 「…何かな」 「…布団かけろ」 「は?」 「布団をかけろ!」 そして強引に体に布団をかけたのだ。 「暑いからいいんだ!」 「全然良くねぇ!アンタの身体気になって集中出来ねぇんだよ!!」 「……は?」 みるみるうちにエドの顔が赤くなって、私はそれをぽかんと見つめた。 「…ッ、いいから布団かけてて。俺明日までにこの文献調べておきたいから」 エドはまた椅子に座りなおす。 ……イイ事を聞いた。 布団を剥いでその上に今度は仰向けに寝そべる。足を少し広げて組み 時折組み替える。 バスローブ一枚だけだから、仰向けになって足を組むだけで太股辺りまではだける。 勿論、私もそれを判っている。 若い身体がどこまで我慢が出来るかどうか、試してやろうじゃないか。 こうなればもうヤケクソだった。 エドを一度も見ず足を組み替える。 わずかに視線の隅に入るエドが顔を真っ赤にして私の足に釘付けになっている。 痛い程の視線も無視。 それでいて、左足を上にもう一度足を組み替えた。 「…ッ、このやろ…ッ!」 勝ち誇った笑みを浮かべて私はエドを見たのだが…。 「エド…?」 立ち上がったエドは私の上に強引に乗って、手から本を奪った。 「イイ度胸してんじゃん…ちらちら腿見せやがって…2ヶ月分…ヤッてやる」 突如姿を現した猛獣のような気配に、身の危険を感じた。 いや、自分で煽らせておいて何を言ってるんだとも思うが…。 「ヤッて欲しかったんだろ?前はアンタが風邪引いてたから我慢してやったけど」 欲情の色を露わにする金色の瞳に、悪寒が走る。 「こっちが必死に我慢してやってるってのに…」 パン、と両手を合わせたエドはあっと言う間に私の両腕を前で拘束し 満足気に見下ろしてきた。 「エド…ッ外せ!」 「やだね。アンタ、自分で誘ってきたくせにすぐ逃げるじゃん。今更逃げられたら たまんないからね」 そういって、拘束された手を自分の股間に合わせる。 固く主張するそれに、私は自分の顔が赤くなるのを感じた。 「…Let′s makelove…?」 そう笑い、私の下肢に腕を伸ばした。 「やめろ…やめろって」 器用に私の下肢を露わにしていくエドに本気で抵抗してみた。 だが腹の上に乗られ、腕が動かせないので大した抵抗ができなかった。 自分の部屋でパチンとする訳にもいかない。 「抵抗しない方がいいよ。ますます燃えちゃうから」 「エド!やるなら普通にやれ!」 そう言うのがやっとだった。 「やだね。今日はちょっと鬼畜バージョン」 完全に服を剥がされ、エドが腕を伸ばす。 「あっ…」 暖かいエドの左手につい声が出てしまう。 自分で自身が張り詰めてくるのが判って恥ずかしくなった。 「動くなよ」 エドは腹から降りて、私の足の間に顔を埋めた。 「あっ…」 生暖かい感触に思わず声が漏れて、足の間のエドが笑う。 そこで笑うな…ッ! 「相変わらずイイ感度。久しぶりだなこの感じ」 「しゃべるなぁ…ッ!」 起きあがろうとして腹筋をフルに使って顔をあげた。 「…ッ!」 金色が、足を埋め尽くしていて。 思わず息を飲んだ。 ずっと見たかった光景。 金の波が私に降りかかる。 …………?? なんでエドは髪を? 「へへ、意地悪するって言ったよな」 バシン、と身体に痛みが走った。 「あっ…お前!」 「へっへ〜ん!今日はイカせねぇ」 「〜〜ッ!」 エドは私の自身に…髪留めのゴムを填めたのだ。 「俺がイくまで外さね」 そう言って、エドは大した愛撫も施さないで先走りを指に絡めてその奥をつつき始めた。 「エド…ふっ…ざけるな!」 「ふざけてないよ」 つついてた指が中に入ってくる。久しぶりの感覚に身体が震え、背を伸ばして それを耐えた。だが指が一点を掠めた時、伸ばした背が一瞬で仰け反る。 「ぅあ…ッ!」 一瞬嬉しそうな視線と合う。 「此処…いじるとアンタすっげぇイイ声出すよなぁ」 そう笑って、遠慮なく私の中をかき回した。 悔しいかな。 こんな状況だと言うのに、久しぶりの快感に身体が喜んでいるのが自分でも判った。 「…最高、アンタ…」 嬉しそうに笑うエドの声が……。 「やっ、エドぉ…ッ!!」 やけに耳に残って。 中の圧迫感が大きくなって、指が増やされたのを感じたが、的確に私の弱い箇所を 押し上げるその動きにまともな思考が出来なくて。 おまけに高鳴る射精感に取り付かれても。 「エドッ、取って…ッ!」 「何度も言わせんな。い・や・だ」 そう言って私の中で指を折り曲げる。 「や…あぁッ!エド、やっ…」 「指だけでイキそうになってる訳?久しぶりだってのに本当感度いいな。 さっきも言ったけどさ……ッ」 指が引き抜かれて顔を上げれば、先程とはうって変わって、切羽詰まった表情を浮かべ エドは自身を取り出していた。 だが私もそれ所ではなく、自由の効かない両腕と、塞がれた熱の吐き場を解こうと 必死になって身体を動かした。 「…ッ、なんだそれ。誘ってんのかよ」 「んな訳、ぁるか…外せ…!」 「人にお願いするのにんな態度でいいと思ってんのかよ…?」 ぐっ…と入り口が押し広げられ、エドが入ってくる。 同時に自分に近づく、金糸の波。 痛みと快感の入り交じった声を上げながら、私は必死でその金の波を見つめた。 ああ。 この時をどれだけ待ちわびていたか。 胸が急に熱くなって、エドに抱きつきたくなる。 だがそれも叶わず、押し寄せる快感の波に溺れていく。 塞がれた熱の吐き場所が悲鳴を上げるように密をこぼし、頭が真っ白になる。 こみ上げる感情と共に涙がこぼれる。 「…全部入った…。縛ってるとすっげ、キツイ…」 「エドッ、エド…」 名を呼ぶ。必死で。 「好きだ…ッエド…」 エドの表情が見る見る変わっていく。 顔色を一変させたエドが、私の腕を拘束する錬成物とゴムを取り払う。 自由になった腕でエドを抱きしめた。 「ロイ…」 ほら、そうすれば降ってくる金色の波。 なんて至福な時。 「動くよ…」 「ひっあ!!ぁあッ、はっ…」 揺さぶられる度に波が私の胸に揺れる。 身長差から揺さぶられる時には顔にはかからないけれど。 「ェ…あっあッ――ッ!」 一点を一際強く押されて、背を反らせて精を放った。 入り口が締まってエドが低い声を絞り出した。 「うっ…ぁ、やべっ…!」 途端、中に暖かいエドの精が放たれた気がした……。 エドの身体から吹き出た汗が私の身体に落ちて。 「悪ィ…」 ぽたぽたと落ちる汗を拭いながら二人で快楽の余韻に浸る。 「…中に出しちまった」 「いいさ…」 エドの命を注ぐ種が、自分の命を授かる器のない胎内に放たれる。 もし自分が命を授かれる存在で、私の中で命が生まれたら、 エドは旅をやめて私の傍にいてくれるだろうか…。 もう…根無し草なんかに… たんぽぽのように遠くに行かないで。 ひまわりのようになってくれるだろうか…―― 「ロイ…」 駄目だ…。 そんな優しい声を出さないでくれ…。 「ロイ…どうした」 駄目だ…言ってはいけない事を言ってしまうから。 「泣くなよロイ…」 「…ッ、どこにも…行かないでくれ…」 「ロ…」 一度口からこぼれてしまった言葉はもう止めどなく溢れてしまう。 「嫌だ…も、どこにも…」 ああ。 彼にそんな事言っても駄目なのに。 「Please…don't be like a dantelion…」 目を開けたら既に太陽は上がっていた。 もぞもぞと起きあがってゆっくりと辺りを見回す。 「…行った…か」 彼がいないのは当たり前だ。また弟と旅に出た。 …今日は休みか。独りで過ごすのは嫌だな……。 洗面所に向かう。久しぶりの行為だったからだろう、鈍痛が腰に響いたが…。 とりあえず顔を見る。 「……酷い顔だ…」 泣いたからだろう。瞼は赤く腫れ、顔全体も少し腫れてる気がした。 「…情けない…30になるってのに」 14も歳下のエドに泣いて縋るなどと…。 「俺は馬鹿か」 「馬鹿なんだろーね」 背筋が凍り付いた気がした。幻聴かと振り返った先には、紙袋を抱えた―――エドが。 「アンタらしくもない。天上天下唯我独尊のアンタが」 「そ……れは、言い過ぎ…だろう……」 辛うじて出た言葉にエドがにやにやしていて、また自分が情けない顔をしているのに気づいた。 「朝飯作ってやるから…少し寝てな」 何故まだいるんだ?そんな言葉が出そうになった。 「…明日旅立つ。今日はずっと一緒にいよ…」 ふいに掛けられた言葉を疑った。 「エド…?」 背中がわずかに震えて、エドは紙袋を持ったままキッチンへ消えていく。 「今日は有休取れよ!!」 そう叫ばれた言葉に、私は笑みが隠せなかった。 キッチンへ足早に駆け込み、紙袋から食材を取り出しているエドの背にぴったりくっついて 昨晩同様腰に手を回す。 「な、何だよ?!」 「私にも手伝わせてくれないかい」 せっかく一緒にいられるのにもう見ているだけなんて嫌だ。 「判ったから腰から手ェ離してくれ」 言われた通りに手を外す。エドの耳が真っ赤になってる。昨日もきっと我慢してたんだな。 「いつまでくっついてるんだよ」 明らかに照れ隠しの言葉にさらに微笑んだ。 「んじゃ行くから」 「あぁ。行っておいで」 太陽の日差しでさらに輝きを増す金を見つめながら私は玄関まで彼を見送る。 「…俺、たんぽぽじゃないから」 「え…?」 「必ずアンタのトコに帰ってくるから」 私の胸元をぐいっと引っ張って耳元で囁かれた。 「じゃあな!!」 走り去っていく背に、私は笑みをこぼした。 「Me too …Edward」 |
| 『I love you…!!』 |
| end 栄養剤の後のお話。 故にこれもマガからの回しもの。 回しものしかアップしないってどうなんだろ…。 そしてこれもまた続くみたいだし…。 戻る |