粉雪の降る夜
















空に満つ天の光のように、白い雪がふわふわと舞い降りてきた。

エドがそれに気付いたのは、中央駅を出てすぐだった。
「わ、アル、雪だ」
「ホントだ!雪だね!」
降り始めたばかりと思われるそれは、コンクリートの上に落ちた途端、消えてなくなる。
エドは偶然目の前に落ちてきた雪を、左手で受け止める。
「つめてッ」
「なにやってんの兄さん。早く司令部行こう。風引いちゃうよ」












二人が司令部に着く頃にはふわふわと降っていた雪はだんだんと吹雪に姿を変え始めていた。
「ったく、この移り気の天気はやめてほしいぜ」
門をくぐった途端、びゅうびゅうと本格的に吹雪き始めた空を睨んでエドはぼそりと呟いた。
「あ〜あ、結構濡れちゃったね兄さん」
赤いコートは水気を吸い、色も濃く、少し重くなっていて。
「脱ぎなよ。風邪引いちゃうよ?」
弟にいわれた通りにコートを脱ぐ。
幸い司令部の中は暖かく、エドとアルは目的の部屋まで大股で進んでいく。
エドはトランクを大事そうに抱えて。
「大佐、いるかな」
「いるだろ。サボり魔だし」
今日はクリスマスイヴ。
この国にも大勢の信者のいる、救世主の誕生日の前日。
勿論、神様なんてものは信じていないエド達にとってはそれはただのイベントと化していたが。
きっと恋人は司令官室で書類と格闘しているに違いないと踏んで来てるのだ。
「デートとか言って早く帰ってるかもね」
「…………」
だからそんな事はないと思う…。
時刻は定時を少し回った頃。普段の彼ならば、まず帰っていることはありえない。
付き合いはじめて始めてのクリスマス。
エドはトランクを大事そうに抱えた。










「失礼しま〜す」
相変わらずノックなしに扉を開く。
「は、鋼の?!」
案の定、ロイは机に書類の山を作って…
「あれ?ないし」
目を見開いているロイの机には書類の山どころか紙切れ一つない。
そしてコートを掴もうとしている白い手。
「鋼の……来るなら前もって連絡しろ」
「…………」
大佐は…どこに行こうとしているんだろ。
さっきアルが言ったみたいに女とデートしに行くんだろうか。
眉をしかめて顎を引くエドの後ろで再度扉が開いた。
「大佐。まだですか?」
「もう出来たが…」
ロイはじとりとエドを見つめた。
「どこ…行くの?」
辛うじて出た言葉が、自分が酷く傷ついているようで内心エドはかっと赤くなった。
「…ホークアイ中尉」
その様子を見たロイは視線はそのままに中尉に言葉を掛けた。
「私は急用が出来たのでそっちには出れん」
「判りました。では代わりにアル君を」
「ええ!?」
アルを引っ張っていく中尉は扉を閉める際再びこちらを向いて一言。
「良いクリスマスを」













唖然としているエドを後目にロイはコートを脱いで椅子に座り直す。
「知ってるかい。本来クリスマスというのは日が変わった瞬間を祝うものなんだよ」
「…知っ…」
「私が君が来るより早く出てしまっていたらどうするつもりだったんだ」
エドが口を開いた瞬間、すかさずロイは少し強めにエドに言葉をぶつけた。
叱られた子供は気まずそうに唇を噛んだ。
「だから連絡は大事なんだ…それに」
ロイは僅かに溜息をつく。
「君から連絡がなかったから小尉が企画したのに出ようとしたんだ」
普段、あまり言わない言葉にエドはハッと顔を上げて、眉間に皺を寄せた。
「……悪かったよ」
投げやりに出された言葉にロイは満足そうに頷いた。
「これからは?」
「…ちゃんと連絡します」
「良し」
優しく笑みを作ったロイに、エドはほぅっと溜息を漏らした。
「大佐」
トランクを開いてエドは奥に仕舞ってた小さな箱を取り出した。
「少し早いけどプレゼント」
「ほぉ…随分と小さなサンタ…」
「なんか言った」
「何も」
言葉を濁らせてロイはその箱を受け取った。
「開けても…?」
「いいよ」
シュルと、赤と緑であしらわれたリボンをとく。


「……鋼の」
「大佐に似合いそうだったから」
ロイの手中にはシルバーネックレス。先には綺麗に彫られたトカゲ。
「サラマンダーじゃないか…」
「うん。錬成陣と一緒」
「ありがとう…エド」
手に取ったまま、ロイはさらに柔らかい笑みをこぼした。
「…うん」
その笑顔があまりに綺麗で、エドはなんだかむず痒くなる。
「…困ったな。君は来ないと思って何も買ってない」
「これから行こうよ外。綺麗だし」
エドの言葉に、ロイはまた笑みを作ってコートを手に取った。
「そうだな…その後は家においで」
「…ハボック達の方には出なくていいの?」
「かまわん。どうせハボックの方は、彼女に振られて一人でクリスマスは嫌だから
皆で騒ぎたい人の集まる会みたいなもんだ」
ロイの言葉に首をかしげながらエドは笑った。
「ただの忘年会だろ?」
「似たようなものだ」
「まぁ確かに…」
じゃあ、行こうか。
ロイの笑みに、エドも笑みで返した。
「あ!!忘れてた、外すげぇ吹雪いてるぜ?!」
と、エドは窓に視線をやったが。
「どこがだい?」

外は、綺麗な雪景色。
激しく吹雪いていた空も、今は穏やかに深々と雪を降り続けていた。
「いつの間に……」
「ほらエド。置いて行くぞ」
「あ、待てよ」















外はクリスマス・イヴ
神の子キリストの誕生を祈る前夜祭。










end

今年は全てこれの使いまわし。
時間がなくてすいません…。






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