背中合わせに座ってるけど、言葉はないけど。
お互いのことは分かるから、平気。
その時間が大事。



:::::たまにはこんな休日。




あるオフの日の昼下がり。
オーランドがヴィゴの家を訪れると、「久しぶりに絵を描いているから、出かけられない。」とのこと。
「別に構わないよ、放っておいていいから入ってもいい?」と尋ねてみれば「…おかしなやつだな」と苦笑された。
勝手知ったるなんとやら、上がりこんでソファに寝そべって(もちろん、積みあがっていた荷物は床に投げ出した)早、数時間。
同じ部屋に居るのに、会話もせず。今に至っている訳だった。








大判の画用紙に、木炭を描き付ける音が定期的に部屋になる。
この音が好きだとオーランドは思う。
周りがぎょっとするような行動をとる、彼が普段は全面に出さない(あるいは他人が気がつかない)繊細な面が、剥き出しに出てくるようだから。
ザッっと大きく輪郭をなぞるような音。その後に断続的に続く小さな音。
とんとん…とキャンバスの脇を指先で叩く音も。

あ、考えてる。
きっと目を細めて光を見てるんだ。

しばらくして、また描きだす音が再開する。
あの人の描き出す、光の絵が好きだと思う。
彼の目に映りこむ光、鋭さと甘さが映しこまれてると思うから。

そう思うと、なんとなく恥ずかしくなって、また本に目を戻す。




ぱらり…と本をめくる音がする。
この映画に関する記事の載った雑誌は、どの役者にも送られているはずだったが。おそらく彼も開けてないのだろう。
自分も封を切ったか切らなかったか。適当に放っておいたから、それを読んでいるのだろう。
興味がない部分になると、はたはたとページを流す音がする。

ぴたりと音がやむ。誰が載ってるページを見てるんだ?
床に本を投げる気配も。その手の雑誌には飽きっぽい彼らしいが。

おい、興味がないといっても私に送られてきた本だぞ?なんて扱いだ。
それでも、自分の居場所を私の家に見出してくれていることが嬉しいと感じてしまう。

気分がよくなって。またキャンパスに向かう。







長いこと、お互いの本をめくる音と絵を描く音だけが聞こえていた。







あ。音が止まりがち。
そろそろ絵が終わるのかな。集中できなくなってきた?


衣擦れの音が大きくなってきた。
椅子の上で転がっているのか。飽きてきた?





そろそろいいタイミングかもしれない。





「「なぁ」」





思いもかけず、ユニゾンする声にしばし双方とっくりとお互いを見つめてしまう。
どちらからともなく、苦笑いが漏れるタイミングまで一緒だったから、それでまた笑ってしまった。


「なにさ」
「そっちこそ」
「言いなってば」
「お前から言えばいい」
「…ここまで一緒なんだから、せーので言おうよ」
「また妙なことを」


そんな事を言うけれど、ヴィゴだってそのつもりだったんだ、絶対。
だって笑っているもの。

「「せーの」」






「「お腹すかない?」」



「ああもう、ヤになるね!」
「余計な事を言ってないで。篭りっぱなしも不健康だ。外へ行くか?」
「あんたが篭りっぱなしを不健康って言うなんて。自覚があったんだね」
「うるさいな…ほら、上着をとってこい」
「はいはい」



くたびれた上着の袖に腕を通しながら、もう玄関へ向かっているヴィゴの後姿を追う。
ばたばたと走れば、すっと止まって少しだけ顔をこちらへ傾けて、「ほら、慌てなくていいから。来い」
そう言ってゆったり待ってる。そんな些細なことなのに、僕はもうダメだと自覚する。
たった一言、それがこんなに嬉しいなんて。


慌てて本に埋もれてしまった上着を探しているのがわかる。
ちょっと先に行ってやると、これだ。
我ながら意地が悪いなと思うけれど、この距離感が心地よくて。
ああ、これだから、目を離せない。




「何が食べたい?」
「おいしいもの」
「…あのな」




建て付けの悪い扉を閉めて、さあどこへ行こうか。




めずらしくオフの、何てことない日。
こういう日が、こんなにも大切だ。


甘ったるい話を目指して、いつもと違う感じで書いたら、見事に失敗した気配が満々な例。 でも、自分としては好きみたいだから、載せてみる!

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