冬って嫌い。
寒いから嫌い。
唇がかさかさになるから嫌い。隼人とキス出来ないから嫌い。
『冬なんて来なければいい』
「痛いよぅ…」黒銀の3Dの教室に入って言った。
理由はいたって簡単。
私の大事な体のパーツの一つである、『唇』が冬の所為で荒れているから。
冬と言っても完全に寒いわけではない。
簡単に言うと、冬になりかけの秋みたいな感じの季節だ。「唇が…荒れてる…」
手鏡を見て一人でブツブツ言っていると、隣で浩介が大丈夫かニャン?なんて言っている。
大丈夫なはずがない。
鏡で見るからに、いつもより荒れている。「…痛い」
荒れているとわかったら触りたくなる。
そして、綺麗になるまで唇の皮を剥く。
しかしそれは、してはいけない。と隼人からの禁止命令が出てる。
理由は、やりすぎると血が出るかららしい。「気持ち悪い!痛い!ヤダヤダヤダぁ!!」
自分の席に座り足をバタバタさせて駄々をこねてみる。
でも叫ぶと余計に唇が裂けて、ついに血が出てきだした。
隼人、隼人〜!!と泣き叫んでいると、教室の扉が開いた。「呼んだ?」
はいおはよう。と不思議そうな顔をして隼人は教室に入ってくる。
遅い、痛い。と言うと、隼人はフッって笑って、見せてみ?と言った。「ありゃりゃ、今日はまた一段と酷いな…」
「…痛い」隼人が私の唇に触れる。
不思議なんだけど、隼人が触れると痛くない。
自分で触っても痛いのに、隼人だと平気。
指のタッチが優しいんだ。「はい、塗るよ」
「…ヤダぁ」
「ダ〜メ!塗んだよ」
「だって、ベタベタする…」そう言ってリップの拒否が今日も始まる。
痛い。確かに痛い。
だから、リップを塗ってマシになりたい。
でも、ベタベタするのは嫌い。
ベタベタだと、気持ち悪いし、何より隼人とキスが出来ない。
でも、荒れてる状態で隼人とキスしたくない。「が痛いだろ、塗らないと」
「平気だもん」
「平気じゃなかったじゃん、その証拠に俺の名前連呼してたし」
「隼人の顔見たら平気になった」これだからこの季節は嫌い。
何にしたって隼人とキス出来ないもの。
どっちをとっても隼人とキスは出来ないの。
リップを塗るの方を選んでも、ベタベタするし、ベタベタするからキスできない。
リップを塗らないほうを選んでも、痛いし、かさかさだからキスできない。「痛いよぉ!!」
「だから塗ろうっつってんじゃん」
「塗ったらベタベタするんだよ?」
「仕方なくね?」これだから男って…って思いながら隼人の顔を見て溜息を吐いた。
失礼なヤツ!と隼人は怒ってるけど、私にすれば全然怖くなんてない。「何で嫌なんだよ…」
「キス出来ないもん」
「…は、キス?」
「…キス」唇が荒れていたり、リップを塗っていたりすると、隼人はキスをしてくれない。
理由なんて知らないけどね。
でも、それを私が悲しく思っているのを隼人は気づいていないと思う。
夏はいっぱいしてくれる。
春も暖かくなればしてくれる。
秋でもまだ暖かければしてくれる。
そう全て、唇が荒れていないときしかしてくれない。「隼人は、唇が荒れてないときしかキスしてくれないじゃんか」
だから、嫌。と言うと、隼人は呆れた様に笑って、キスする?って言った。
「しない、荒れてるもん」
「うん、だから…俺もの唇が荒れてるときは我慢してる」
「…え?」
「ホントは俺だってキスしたいんだよ」しゃがんだ隼人は、下から私を見た。
「したら痛いかな?って思うから…。
一方的にやるキスって俺嫌いなんだよ。
どっちかが、不快に思うのなんて大嫌いなわけ。」
「…うん」
「俺、のこと大事だから、そういうので悲しませたくないっていうのもあった」スカートの上に置いてある私の手を軽く握って、隼人は言った。
わかる?って聞かれて頷くと、安心したように笑ってよかったと隼人が呟く。「だから、の唇がかさかさだからキスしないとか、
リップでベタベタだからキスしたくないとか、
ホントそういうんじゃないから」そこら辺はわかってて…ね?と隼人は優しく言う。
頷くと、よし!と言って隼人は立ち上がった。「塗る?」
「…」
「どうする?」
「…塗る」やっぱり痛いのに変わりなかったし、隼人はちゃんと私のことを考えて、
私の為にしないでくれていたコトがわかったから、
これからは、隼人の為に早くこの荒れ荒れ唇をどうにかしようって思う。
目を閉じてリップを塗ってくれるのを待つ。
するといつもとは違う、暖かいものが私の唇に触れた。
懐かしいって程時は経ってないんだけど、やっぱり懐かしくて。「…んぅ」
息が辛くなってうっすら目を開けてみると、隼人が間近くにいた。
やっとの事で離れて、未だビックリしてる私に隼人が、サービス。と言って笑ってる。
そして彼は、何もなかったかのようにリップを塗りだした……ねぇ隼人?
大好きな貴方に一つだけ言ってもいい?ここは教室だよ…。
〜Fin〜〜あとがきっぽくないあとがき〜
このネタ面白かった。
書いてるこっちがすっごい楽しかったよ。
冬場って厄介ですよねぇ、痛いですよかなり。
リップは必需品です。
でもあっしもあんまり好きじゃないんですよね、リップ。
ベタベタ感がどうも好きになれないっつう感じ。ベタベタしないのないのかね…?では、読んで下さってありがとうございました。
2005・3・28・(Mon)