無我夢中で走るしか出来なかった。
頭では何も考えられなくて、
ただ、ただ、走り続けた。確認したかったからじゃない。
信じたかったから。
『夢って』
それは確か、深夜2時頃だったと思う。
外は雨。
そろそろ寝ようかな。と考え、ベッドの布団に潜り込んで目を閉じたとき、
突然、ドアを叩く音が聞こえた。
怖くなって、最初は彼である隼人の名を心の中で言っていた。
が、全然音は止まらない。「…誰?」
怖いながらも、恐る恐るその玄関のドアをゆっくり開けた。
「…は・・やと…?」
そこにはズブ濡れの隼人がいた。
「ど、どうしたの!?」
ズブ濡れの隼人を見て言うと、あたしの顔を見た隼人は安心したようなため息を漏らし、
よかった。と言った。「とりあえず入りなよ…」
ズブ濡れじゃんか…と言うと、隼人はまたよかったと言って、抱きついてきた。
何事かと思い、どしたの?問うが、返事はない。
こんな隼人は初めてだった。
何かに対して震えている。
今日の隼人の笑顔もいつもの優しい余裕の笑みではなく、
いっぱいいっぱいの笑みだった。「身体冷たい…。
シャワー浴びといで」その隼人の身体の冷たさは異常なほどだった。
震える隼人の頭を撫でると、彼は弱々しい笑みを見せて、うん。と頷いた。
あたしを離し、風呂場まで足を運ぶ隼人。
隼人が歩いた後の床には雨の雫が点々としている。
あたしの服にも雨がしみ込んでいた。
すぐに着替えて、風呂場に(前に隼人がおいていった)服を持っていく。
突然な出来事に眠気も覚めてしまった。
少しでも温まってくれればいいが…と思いながら、お湯を沸かし、ココアを作る。「…」
そこに隼人が来る。
「そこじゃ寒いでしょ…、はよおいで」
手招きしてあたしの前に座らせる。
「寒い?」
そう問って、隼人を後ろから抱きしめると、隼人が小さく縦に首を振った。
ココア飲んで、温まるから。と言って、目の前の机に置いたココアを隼人に渡す。「…で?」
「…で?って?」
「いや、突然来たのには理由があったんでしょ?」後ろから隼人の顔を覗き込む。
見なくてもわかる。
何かあったんだと。
すると隼人は、笑うなよ…?と言った。
笑うようなコトがあったとは思えない。「…夢で」
「夢?」隼人がゆっくり説明しだす。
その表情は、綺麗とは言いがたい、悲しいや痛いなどが隠れてる表情だった。「そう、夢。
が死ぬ夢を見たんだ。」
「…」
「そしたら、それが現実なのか、夢なのかマジでわかんなくなって、
怖くなって、もしかしたらなんて考えて」隼人を抱きしめるあたしの手を彼が握る。
その隼人の手は震えている。
そしたら急に胸が苦しくなって、締め付けられて、痛くなって、
隼人を抱きしめる腕に自然と力が入るのがわかった。「返事もしてくれない、笑ってくれもしない、俺の名前も呼んでくれない、
…そんなだった。」こんなとき、何て言ってあげれば隼人は楽になるだろうか。
いつもの隼人のキラキラした笑顔が見たいのに、その方法がわからない。「どうして欲しい?」
そう聞くので精一杯だった。
「どうすれば、不安じゃなくなる?」
あたしはここにいるってわかる?と問うと、隼人は少しも考えないで言った。
でも、即答ってわけじゃなくて、ゆっくりとした口調であたしの耳に入るように、
自分に言い聞かせるように言った。「何もしなくていいから、
今日だけでいいから、抱きしめて寝てほしい。」それだけでいいから。と言って隼人は立ち上がった。
その背中が、とてつもなく悲しげで、見てることすら痛々しい。「いいよ、それで隼人のそんな悲しそうな顔を見ないですむのなら
喜んで抱きしめて寝てあげる。」あたしも立ち上がってベッドに足を運ぶ。
いつもより大きく掛け布団を捲くり上げ、あたしは奥へとつめた。「…どうぞ?」
そう言ったが、隼人は布団の中に入ってこない。
どうしたの?と問うと、思いつめたような顔で言うんだ。
ごめん…と。
何故謝られたのかわからない。
どうして?と問うと、彼は首を横に振って、布団の中へと入ってきた。
電気を消すと、真っ暗になる。
それでもわかる。
すぐ隣に隼人がいるってこと。「よしよし、怖かったね」
そう言って抱きしめて頭を撫でてやると、隼人がこくりと頷いたのがわかった。
だから余計に胸が痛くなって、
その痛みを紛らわすために隼人の頭をたくさんたくさん撫でてやる。
すると今までほぼ無言だった隼人が口を開いた。「落ち着く…」
小さな声だったが隼人は確かにそう言った。
「ここまでの道のりをこんなに長く感じたのは初めてだった」
もしかしたら、一生実紅に逢えねぇかもって、すっげぇ怖かった。と隼人が今にも泣きそうな声で言う。
言葉にしなくても声だけでどれだけ辛かったのかが想像出来る。
隼人は続けて言った。「、俺がもし死んだら俺のために泣いてくれる?」
しんみりとした隼人の声。
でもあたしは。「…泣けないわ」
そう、泣けない。
泣かないのではなく、泣けない。「大切な、大事な、大好きな隼人を失ったとき、
あたしはきっといろんなことを考える力を失ってしまうわ。」
「…どういうことだよ」
「聞いたことない?
近くにいれば近くにいるだけ、失ったときの痛みは大きいの。
だから近くにいすぎて失ったなんて思えないくらい辛いって感じてしまう、そんな感情になると思う」
「…?」隼人はまだわからないという風な顔をしてあたしの顔を見ている。
「心の何処かで、きっとまだ生きてるって考えちゃうだろうから、
いつもの癖で隼人って呼んだり、隼人の好きなもの作って電話したり。
そんで、何年か経ったある日、ふと、隼人はもういないって気づくの」ヘンでしょ?と笑って見せるが、正直なところ笑う力がない。
それは、本気で隼人を失ったら?なんてバカみたいなことを考えてしまったから。「隼人」
「ん?」
「これだけは約束して」
「何?」あたしからの一生のお願いだから。
「死ぬときは、あたしも一緒に連れてって」
「…」
「隼人となら、何処まで落ちたって怖くなんかないから」だからお願い。と少し隼人を抱きしめる腕に力を加える。
すると隼人は、ため息混じりの声で言った。
わかった。と。「その代わり、俺ん時も一緒。
何があっても連れてって」
「了解した」そういうと、隼人はかすかに微笑んだ。
暗かったから、そう見えただけかもしれないけど、あたしには隼人が笑ってくれたように見えた。「ずっとずっと一緒な」
「約束するよ、隼人といつまでも一緒にいる」
「約束」そう言って、小指を絡ませながら唇を重ねた。
長いキスをしたら、少し眠くなって、
あたしたちは抱きしめあい、お互いの体温を感じながら、
心地よい眠りについた。
朝になると、隼人の笑顔が見れることを信じながら…〜Fin〜
〜あとがきっぽくないあとがき〜
寒ッッ!!今年の冬も冷えますねえ。嫌になってくるわ。
っつうことで(?)隼人君でした。
珍しいね、弱気な隼人。
これを考え付いたときには思わず、ニヤってなりました。
ってか、深夜の2時なんてほぼ近所迷惑ですから!!!
ヒロインさんもそんな時間まで起きてるとお肌に悪いっての。
でも、いいもん。
こんなしんみり感も好きやもん。
シリアスでもなく、甘いのでもない、少しあったかい感じのんがあっしは好きやもん。
でも、甘いのもかなり好きなんで、次は頑張りまッス!
それではまた逢う日まで☆2005.03.14.Mon (ホワイトデーかよッッ!!)