『高い高いして』
明け方になっても眠気はなかった。
イヤ、本当は心配で眠ることなんて出来ないだけ。
ただただ一刻一刻がすごく長くて、
息をすることさえもイヤに思えた。
「ちゃん!沖田先生達が帰って来た!!」
襖が急に開いて、男の知らせが耳に入る。
それを、嘘でしょう?と聞き返すだけの力は残っていなかった。
嘘であろうとなかろうと私がすべきことは変わらないから。
彼の帰りをずっと待っているというコト。
それでも今は、男の言葉を信じたかった。
私は半分の嬉しさと、半分の怖さを持ちながら外に駆け出した。
「あ、さん」
私の顔を見た総司は間抜けな声で私の名前を言う。
屯所の近くまで彼は帰ってきていた。
副長に肩を抱かれた、血まみれの彼。
「総司!!まさか、血を…!!」
「あはは、大丈夫ですよ。
これ全部、私の血じゃありませんから」
「…本当?」
「ごめんなさい、もっと早く帰ってこれれば
さんが心配する量も時間も少なくてすんだのですが…」
そう困ったように笑って総司は言う。
ゆっくりと総司の前まで歩いて行く。
彼の前まで行くと総司は何かに気づいた様に言った。
「…さん、裸足じゃないですか!」
もーあわてんぼさんですねーと言って少し屈んだ総司に抱きついた。
「…よかった」
血まみれだろうと知ったこっちゃなかった。
「汚れます、さん…!!」
「…別にいい」
「でも…」
「心配したのよ…」
そう、たくさんたくさん心配した。
呆れるくらい泣いた。
何度も何度も天に祈った。
どうか無事でありますようにと。
「すごくすごく…怖か…た」
呆れるくらい泣いたはずなのに再び涙が頬を伝う。
私はこんなに涙もろかったっけ?
昔は天に祈るなんていう乙女なコトだってしなかった。
それなのに、総司という男に出会ってからはこの様だ。
「泣かないで下さい…私はこの通りちゃんと帰ってきましたし」
ね?と優しく笑いかけられるだけで余計に涙がこぼれてくる。
土方さ〜ん…どうしましょ…と言う総司に知るかッ!!と半キレ気味の副長。
暖かい笑いが溢れる。
笑っていないのは私だけ?
「沖田さん沖田さん」
「…ん?何ですか鉄君」
「耳かして」
鉄之助が総司に話しかけ耳打ちで話をする2人。
話が終わったかと思うと総司と鉄之助はにんまりしている。
そして次瞬間、体が急に浮く。
あまりの驚きに声も出ない。
「高い高〜い!!」
「…ちょっ、総司…!降ろして!!」
体が急に浮いたのは、総司に抱き上げられたからだった。
しかし、如何して高い高いをされているのか、全くわからない。
「泣きやみました?」
「…へ?」
「鉄君が‘泣いている子を泣きやますのには高い高いがいい’って!」
下には、ニヤニヤ笑う鉄之助の姿。
「テメェ、チビ鉄!!」
「んーだとデカ!
降りてきやがれコンチキショー!!」
「テメェの所為で私が今ここにいるんでしょうが!!」
「うるせぇ!降りてきて勝負しろ!!」
鉄之助も何てコトを言ってくれたんだ。
18歳で高い高いして泣きやませてもらってしまった。
しかも本当に涙はひいた。
「さん」
「降ろして総司!私は鉄之助と勝負するわ!!」
「さん」
一度目よりも言い方が強くなった気がして、鉄之助に向いていた視線を総司に送ると、
突然総司からキスされた。
「鉄君との勝負はまた後でです。
今は私に貴方の時間を下さい。
ちゃんと帰ってきたんですから、ね?」
「うん」
「さん、寝てないでしょう?
目が真っ赤です」
「だって、心配で…」
真っ直ぐに総司に見つめられ、言葉が出なくなる。
ドキッとして、総司から視線をそらすと、彼は可愛いなぁ、もう。と呆れたように言った。
「正直言って、危なかったんです。
本気で死ぬかもしれないって思いました。
でもその瞬間に、貴方の泣く顔と、笑う顔が頭をよぎって
このままじゃ、いけないって思ったんです。」
「…そんな」
「貴方には笑っていて欲しいし、
その笑顔を私が隣でずっと見ていたくて」
死ぬに死にきれませんでした。とまた困ったように笑って言う総司。
そんな総司に抱きついて、お願いだから私を置いて死なないで。と言うと、
彼は、わかってますよ。と優しく言った。
「…お帰り、総司」
「…ただいま」
貴方がちゃんと帰ってきてくれてよかった。
だって、貴方がいないと、私も生きていく術を失くすことになるの。
自分の命よりも、貴方のことが大切だから…
〜Fin〜
〜あとがきっぽくないあとがき〜
この題名はすんなりと決まっちゃいました。
なんとなく、高い高いをやらせたくなっちゃって。
総司を書くのは久々なので、偽者っぽいですね。
大目に見てちょ!(キモいって)
これは、池田屋の後ですね。
ふと、書きたくなったんで書いてみました。
楽しかったですよぉ、マジで。
総司が増えていく気がします。
気にしないでね。
裏もそろそろ置きたいなぁなんて考え中なんで、
裏が大丈夫な方は読んでやって下さいね!
それでは、失礼します☆
2005.06.05(Sun)