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クラナド第二次創作小説 『友達』


チャプター1 <我慢できるかっ>



(視点・朋也)

手が痛い。
腕が痛い。
頬が痛い。
腹が痛い。
足が痛い。
つうか、
「全身痛えだろうがお前らぁ!!」

殴って殴って殴り返されて。
くそ、痛え。
でもな、こんな痛みなんかなぁ、芽衣ちゃんが受けた屈辱に比べりゃ、

「全然痛くねえんだよぉ!!」

相手の鼻っ柱を折るつもりでぶん殴った。
つうか折ってやった。
その感触が手に伝わってきた。

なあ、杏。
これで俺も、お前と同類になっちまった。
肉が軋み、骨が砕ける感触が解る人間に・・・・。

「って、イヤすぎだろ!」

そう言った俺の体が窓際にふき飛んだ。
そういや俺、三人相手にしてたんだった。
春原も頑張ってんなぁ。
アイツ結構強いんだな。
まあ、こっちは一人倒したぜ。
お前も頑張れよ。

「グッドエッチ!」

ビッ!と親指を立ててやる。
そんな俺の言葉を受け取って戦意が向上したのか

「まかせろ!ボンバ・・・ヘ!!」

ドゴ!

サッカー部部長の顔面に頭突きを食らわした。
その後すぐに、別の奴から殴られたけど。
こっちは相手が二人になったと思っていたら、血が垂れる鼻を押さえた奴がいつの間
に戦線復帰を果たしていた。
それでも俺は良く戦っている。
相手が三人だろうが六人だろうが、芽衣ちゃんの見ている前で倒れるわけにはいかなかった。


(視点・杏)

あたしは我慢ならなかった。
あの女の子を痛い目に遭わせて、酷い言葉を浴びせて。
サッカー部の奴ら・・・許せない!
―――でも、これはアイツらの問題みたい。
部外者のあたしが関わっていい事じゃない。
でも。

「こら〜〜〜〜!! あんたたち!!」

アイツらの問題だから、関わりたくて、駆け出した。
ついさっき、私の横を走り抜けた陽平と同じように。


(視点・陽平)

メキョッ!!

殴りあいの喧騒の中で、その音を聞いた。
僕を殴ろうと腕を振りかぶった部長のこめかみに、分厚い漢和辞典の角が突き刺さっていた。
こんな事をするのは、と言うか出来るのはあの女しかいない。

「藤林杏!」

その姿を確認した瞬間、僕は二人の部員から同時に蹴りを食らっていた。

「ぐぶっ」

やっば、もろ腹に入った。
てめえら、翼と岬もビックリするぐらいのツインシュートを放ちやがって!

「こちとらガラスの心臓なんだよぉぉぉ!!」


(視点・芽衣)

「大丈夫?」

とても優しい声でそう訊かれて、私は涙を流しそうになりました。
けど我慢します。
お兄ちゃんと岡崎さんが、わたしのために喧嘩してる。
だから、まだ泣けません。

「そう。強いね」

その女の人は、柔らかな笑顔で、わたしの頭を撫でてくれました。


(視点・朋也)

部室の入り口に杏の姿が見えた。
なんでここにいるんだ。
三人を相手にしながらなんとか声を出した。

「杏! 来るな!!」

俺の言葉が聞こえたのだろう。
杏は入り口から後ろに下がり、助走をつけて中に飛び込んできた。

「って、なにしてんだ!!」

飛び込んできた杏は、入り口傍で倒れている部長を踏みつけて跳び蹴りを放ってきた。
俺を相手にしていて、後ろに注意を払える筈もなかった部員の後頭部に直撃した。

ゴン!

鈍い音がした。
杏の奇襲をもろに食らったそいつは、頭を蹴られて前のめりになり、部室の壁に頭を
ぶつけた。
コンクリートの壁に。
取っ組み合いになっていた俺と部員二人が、頭をぶつけた奴を見る。
そいつはズルズルと力無く倒れ、ピクリとも動かなくなかった。


(視点・杏)

あ、やりすぎた。
全然動かなくなっちゃった。
・・・・・ま、いっか。

「てめっ、藤林! よくも!」

朋也と組み合ってた『鼻が折れてる奴』が、あたしに矛先を向けてきた。
両手で掴みかかってくる!
けど、遅い!
その手をさっと避わすと、右手で相手の頬をぶつ!

ビシビシビシビシビシビシビシビシ!!

「女の子を泣かせる奴は! 猪にどつかれてあの世に逝けぇ!」

垂直に跳び、右膝で相手の顎を蹴り上げ、頭を挟みこむ様に、頭上から振り下ろした
右肘を頭のてっぺんに叩き込んだ!
藤林流忍体術『はめ殺し』!!(なんちって)

ミシッ。

うわっ、聞こえた。
骨の軋む音が!
・・・・やばい。
これ、クセになりそう………。


(視点・陽平)

うおっ、杏の奴すげえっ。
こっちも負けてらんねえな!
こっからが本番だ。
いくぞ!翼!岬!

「って、誰だよ!」

バキッ!

ぐっ、また殴られた。
まあ、部長の奴起きないし、一人減って助かったぜ、杏!


(視点・芽衣)

女の人が部室に入っていってしまいました。
その跳び蹴りは素晴らしく、サッカー部の人を倒してしまいました。
そしてすぐにもう一人を倒してしまいました。
あの人は誰なんだろう。
すごく強くて、綺麗で、優しそう・・・。
あっ! サッカー部の部長さんが立ち上がって、女の人を後ろから殴ろうと腕を振りかぶって、

「あぶない!!」

私は叫んでいました。


(視点・朋也)

「杏!」
「え?」

杏が後ろの気配に気づいて振り向いた。
その杏の顔を、部長が振りかぶった拳で殴りつけた。
短い悲鳴が聞こえた。

「てめえぇ!!」

瞬間、俺は叫んでいた。

「汚ねえ手で杏に触るんじゃねえぇぇぇ!!」

目の前のクソッタレの横っ腹を抉るように蹴り上げた!
さらに鼻っ柱をアッパーで殴り上げた。
鼻の骨が折れた感触が伝わってくる。

「う〜む。いいねぇ、この感触」

俺は黒笠になっていた!!

チャプター2 <殴らずにはいられない>


(視点・朋也)

気がついたら、俺はグラウンドで寝そべっていた。
隣には、俺と同じく寝そべっている春原と、その傍に芽衣ちゃんが座りこんでいた。

「気がついた?」

女の声が聞こえる。
上を向くと、杏の顔と、広がる夜空があった。
腰を屈めて、心配そうな顔で俺の顔を覗きこんでいる。

「・・・・お前、何してんの」

なんで杏がいるんだ。
わかんねぇ・・・。

「大丈夫? 頭を強く殴られたりとかした?」

――――えっと、

「サッカー部の連中どうした」

とりあえず、それが知りたかった。

「もういないわよ」

そうか。

「あたしらの強さに恐れをなして逃げていったわ」

そうか。

「捨て台詞まで吐いて行ったわよ。『お前らイカれてる』って。そりゃこっちの台詞だっての」

そうか。
――――

「でさ」
「ん?」
「お前、何してんの」


(視点・杏)

あれからどうなったか。
朋也は憶えてないようだから説明してあげた。
サッカー部の連中が逃げ帰った事。
それを追いかけてグラウンドまで出たのはいいけど、疲れ果てた朋也と陽平が倒れた事。
学校には、もう私たちしか残っていない事を。

「よく教師に見つからなかったな」
「見つかったけど、話の分かってくれる先生だったから大丈夫よ。今日の事は誰にも
言わないって。」
「そうか・・・・。でさ、お前何してんの」
「またその台詞ぅ?」
「杏がなんでここにいるのかが分かんないんだけど。」
「あのねぇ。連中と喧嘩してるとこに、あたしが加わったでしょうがっ」

朋也は驚いた顔をすると

「そうだったな・・・悪かった。怪我させちまって」

なんて謝ってきた。
なんで謝るのよ。
あたしが勝手にやったことなんだから、朋也は悪くないのに。
だから、『朋也は悪くないわよ』って言葉が口から出ていた。

「けど、なんでお前あんな時間まで学校に残ってたんだよ。部活には入ってなかっただろ」
「帰りの途中で、教室に忘れ物してたの思い出して、取りに戻ってたの。それで、窓から
グラウンド見たら、朋也とあの子が走りまわってて・・・ 」
「・・・・ずっと見てたのかよ」
「うん・・・・」
「ほっといて帰れば良かったんだ。つか、お前の性格なら止めに入りそうだよな」

そうね。
自分で言うものじゃないけど、あたしって世話焼きたがる方だし。
でも。

「あの子がボールを当てられても、あんた、連中に手出さなかったし、何も言わな
かったじゃない。普段のあんたなら、即刻ぶち切れてるとこでしょ」
「でもさ、あそこで春原が来なかったら、もう少しで俺が先に手出ししてた」
「あたしだってそうよ。朋也がやらないんなら、あたしが先に手出ししてたかもしれない」
「そうか・・・・。前から思ってたんだけどさ」
「なに?」
「そういうお節介なところ、お前のいいとこだよな」
「・・・・・うんっ」

その言葉が嬉しくて、あたしは笑って頷いた。


(視点・陽平)

体中が痛え。
芽衣に支えられながらゆっくり立ち上がり、岡崎と杏の方を向いた。

「この馬鹿」
「あん?」
「あ?」

岡崎と杏が同時に睨んできた。
いつもの僕なら怯んでいるけど、今の僕にそんなことはない。

「お前以外に誰がいるんだよ」

岡崎の目を睨みながら言う。
岡崎はゆっくり立ち上がった。
杏もつられて腰を上げた。

「馬鹿はお前だよ」

僕に近づきながら岡崎は言ってくる。
謝れ。
芽衣に謝れって。

「なんで僕が謝るんだよ」
「・・・お前さ、兄貴失格な」
「なんだと!」

怒りの感情がこみ上げてくる。
お前も、他の奴らと同じことを言うのかよ。

「芽衣ちゃんも、こんな兄貴を持って難儀だよな」

僕と体がくっつくほどに近づいて、その言葉を吐いた。

「お前、本当にダメ兄貴だよ。」

手に力が入る。

「喧嘩売ってんのか」
「まあな」

さらりと言いやがった。
もう、殴らずにはいられなかった。

「岡崎ぃぃ!!」

その顔面に頭突きを叩きこんだ。
鼻を押さえて後ろによろめく、けど岡崎は足を踏ん張り、

「この馬鹿野郎ぉ!!」

その頭が僕の顔面を捉えていた。


(視点・芽衣)

「岡崎ぃぃ!!」
「春原ぁぁ!!」

殴って殴られて、腫れている頬をもっと腫らして、二人は喧嘩をしています。

「なんでお前が守ってやらないんだよぉ!! 兄貴だろうがぁ!」
「お前ならいいと思ったんだ! お前こそ、芽衣を守ってやれよぉぉ!!」

二人共、わたしのことで喧嘩をしています。
見たくないです。
大好きなお兄ちゃんと岡崎さんが喧嘩しているところなんか、見たくありませんっ。

「やめて・・・・ください・・・」

こんな声じゃ届かない。
もっと大きな声で、お兄ちゃんに助けてほしい時みたいに、大きな声で

「やめてくださぁい!!」

広いグラウンドに、わたしの声が響きました。


(視点・朋也)

芽衣ちゃんの声が響いた。
俺と春原は、お互いに振りかぶった拳を下ろした。

「喧嘩・・・しないでください・・・。芽衣のことで、喧嘩しないで下さぁい!!」

その声が、痛いくらい心に届いた。
ああ・・・この子の泣き顔は見たくない。
そんな顔にさせたのは、他ならぬ自分だというのに。
俺は・・・・馬鹿だ。

(視点・杏)

二人が殴りあって、血を吐いて、泥まみれになって、はたから見れば喧嘩だけど、
あたしにはそうは見えなかった。
だって二人は、この子のことを思って、互いを傷つけあってるんだから。
あの子・・・芽衣ちゃんが陽平に抱きついて泣きじゃくってる。
陽平も、芽衣ちゃんの頭を優しく撫でてあげている。
二人はとても、兄妹してた。
その二人を見つめていた朋也は、深く息を吐くと、ゆっくりと二人から離れていった。
あたしも慌ててその後を追う。

「朋也っ」

あたしの声に振り向いて足を止めた。

「杏・・・」

・・・ひどい顔。
でも、その顔は穏やかだった。

「帰ろっ」

言って、あたしは朋也の隣に並んだ。
あたしの顔をじっと見つめて

「ああ。一緒に帰ろう」

笑って答えた。

「・・うん・・・」

チャプター3  <変わらない関係>


次の日、三人は昼時に学校に来た。
もちろん遅刻である。

『ヘンな顔』
それが最初に交わした言葉。

朋也「腹減ったなぁ」
杏「あたしも〜」
陽平「学食にする?」
朋也「お前食ってこなかったのかよ」
杏「そう言うあんたもさっき来たばかりじゃないの」
陽平「そう言う杏も、今来たばかりだよね」

・・・・・・『や〜い、遅刻常習者っ』
三つの声が重なっていた。

杏「あ? あたしがいつ遅刻常習者になったってのよ」
朋也「結構してるだろ」
陽平「だよねっ」

バキィ!

杏の右フックが、陽平の左頬を捉えていた。

陽平「なんで僕だけ殴るんすか!」
杏「いや、近くにいたから」
朋也「だよねっ」
陽平「真似すんなよ!」

昨日、あんなことがあったのに、朋也と陽平は相変わらずだった。
本気で殴りあっても壊れない関係。
そんな二人の関係が、杏には羨ましかった。

杏「あんたたちってさ、馬鹿よね」
陽平「ああ。僕たちは大馬鹿だよ」
朋也「お前だけな」
陽平「あんたもね!」
杏・朋也「あははははははっ」
陽平「笑うなよ!」

変わらない関係。
馬鹿な二人に、時々杏が混ざって、陽平を苛める喉かな日常。

杏「そういうのもいいかもね」
陽平「そんな日常イヤっす!」

チャプター4  <またねっ>


朋也「もう帰っちゃうのか」
芽衣「はい。いろいろお世話になりました」
杏「ざんねん。芽衣ちゃんともっと話したかったんだけどなあ」

その日の放課後。
荷物をまとめた芽衣と朋也達は、寮の前で別れの言葉を交わしていた。

朋也「どうせなら週明けまでいればいいのにな」
杏「そうだよっ。あたしの妹も連れて、三人で買い物しよっ」
芽衣「えっ、杏さん、妹さんがしらっしゃるんですか?」
陽平「ああ。姉のこいつとは大違いの平和主義者だよ」

ボグッ!

陽平「ふぐっ!」

陽平の横腹に、杏の拳がめり込んでいた。

杏「あ? ふぐ? 食べたいの? なら氷浸けにして下関の漁業組合に送ってあげようか?」
朋也「やめろ杏!下関の人たちを毒殺する気か!」
陽平「毒なんかねえよ!つうか、俺が食べられるのかよ!」
芽衣「あ・・・はは・・はは」

芽衣は苦笑いを浮かべていた。

芽衣「できれば、まだここにいたいですけど、両親がどうしてもって」
杏「そう・・」
朋也「仕方ないな。ま、元気でやれよ」
芽衣「はぁい。わかってます」

会話が途切れる。
しばらく、みんな黙っていた。

芽衣「お兄ちゃんは、ここにいるべきだよ」
陽平「なんだよ、いきなり」
芽衣「お兄ちゃんがここにいるのは、岡崎さんや杏さんがいるからだよね」

陽平はしばらく口をつぐんで、ゆっくりと頷いていた。

陽平「そうだ。僕はここにいる。後一年、この学校にいるよ」
杏「小学生の頭で?」
朋也「そこまで頭悪くないっす!」
陽平「台詞とるなよ!」
芽衣「あ・・ははは」

ごほんっ、と、わざとらしく咳をすると

陽平「芽衣・・・。僕は今、一生のうち、一番大切な時間を過ごしているかもしれないんだぞ?」
芽衣「大切な時間・・・・」
陽平「馬鹿な時間だよ。二度とない馬鹿な時間だ。そんな時間を、一緒に馬鹿やって
くれる友達なんて・・・」

朋也と杏を交互に見て

陽平「今だけしか、手に入らないんだよっ」
朋也「わりぃ。お前のこと友達だと思ってねえや」
陽平「これからは思いましょうね!」
杏「笑えない冗談やめてくれる?」
陽平「ひどいこと言わないでよ!」
芽衣「まぁまぁお兄ちゃん。冗談を言い合うのも友達だよね?」
陽平「かなりきついギャグだけどね」

芽衣に杏がそっと近づいた。

杏「芽衣ちゃん」
芽衣「杏さん」

その小さな頭に、杏はそっと手を置いた。

杏「陽平のことは、あたしたちにまかせておきなさい。」
陽平「杏・・・」
杏「陽平も朋也も、この学校じゃ一番の問題児だけど、けどね」
芽衣「・・・はい」
杏「あたしの男友達の中じゃ、一番の二人だから」
芽衣「はいっ。ありがとうございますっ」
朋也「杏・・・それ、マジか?」
杏「こんな時に冗談言うわけないでしょ」
陽平「さっきはきついの言ってたじゃん」
杏「ギロリ!」
陽平「ひいっ」
朋也「お前、一言多いな」

芽衣は、そんな三人のやり取りを満足そうな面持ちで見つめていた。

芽衣「お兄ちゃん。わたし、友達見つけるね。杏さんや岡崎さんみたいな、素敵な友達」
朋也「おいおい」
杏「嬉しいこと言ってくれるじゃない」
芽衣「わたし忘れません。お二人のこと。ずっとずっと、憶えていますね」
杏「ありがとう。芽衣ちゃん」

そう言って、杏は芽衣を優しく抱きしめた。
朋也と陽平は、穏やかな眼差しで二人を見つめていた。

杏「また遊びにきてね。その時は、椋と一緒に買い物しよ」
芽衣「妹さん。椋さん、って言うんですか」
杏「うん」
芽衣「椋さんがちょっと羨ましいです」
杏「うん?」
芽衣「だって、こんなに素敵なお姉ちゃんがいるんですから」
杏「うん・・・・ありがと、芽衣ちゃん」

優しく、芽衣の髪を撫でていた。



芽衣「じゃあ、もう行きますね」

足元に置いた、大きなスポーツバッグを抱える。
ちょっと悲しそうにして、でも、それも一瞬のことだった。
顔を上げて、まばゆい笑顔を向けた。

芽衣「それじゃあ!」
陽平「うん。じゃあな」
朋也「またな」
杏「またねっ」

ぶんぶんと手を振って走って行く芽衣。
その姿が見えなくなるまで、三人はそこに佇んでいた。

チャプター5  <問題児>


芽衣と別れた後、朋也・陽平・杏の三人は陽平の部屋に向かった。
何を話すでもなく、こたつに入ってくつろいでいる。

杏「あの・・さ」

しばらくして、杏が口を開いた。

杏「あんたたちってさ、いつ知り合ったの?」

その言葉に、陽平は横になっていた体を起こすと

陽平「あのさ、僕、とんでもない学校に入っちまったって思った。」
杏「・・・うん」

杏は陽平の次の言葉を待った。

陽平「ガリ勉野郎ばっかりでよ、部活でも、みんな先の事しか考えてねえんだ」
杏「・・・・」
陽平「絶対友達なんか作らねぇって思った」
朋也「同じだよ、俺も」
杏「朋也・・・」
陽平「サッカー部の連中に苛立ってたのもあったけど、僕、きっと実家に帰りたかったんだ」

夢を諦めたからじゃない。
学校で問題を起こしたから、仕方なく退学したんだ。
そんなみっともない言い訳が欲しかったんだ。
そう、呟くように言った。

陽平「その時だったよな。お前と初めて会ったのは」

横になっている朋也の顔を覗いて言った。
その顔は笑っていた。

朋也「ああ。懐かしいな」
陽平「あん時、お前幸村のジジィと一緒だった。生活指導を受けて、
ジジィが担任だったから引き取りに来てたんだよな」
朋也「あの時のお前の顔すごかったよな」
杏「今と顔の骨格が違ったとか?」
陽平「んなわけないでしょ!」
朋也「あははははは!!」
杏「冗談も休み休み言ってほしいわよねぇ」
陽平「そりゃあんたらでしょ!」
杏「ま、どうせ顔中に絆創膏貼ってたんじゃないの?」
陽平「否定はしないよ」
朋也「それでさ、その時の春原の顔がおかしくってさ」
陽平「こいつ涙流しながら大笑いしやがったんだぜ。
不思議だったよ。なんでこいつ、こんなに笑ってるんだろう、ってな」
杏「新人類見つけて嬉しかったんじゃないの?」
陽平「骨格から離れてよ!」
朋也「あははははは!!」
陽平「笑うなよ!」

ふふっ、と、柔らかな笑みを浮かべる杏がいた。
普段見ることはない、女の子としての笑顔に、男二人はドギマギする。

朋也「・・・なんだよ・・・」
杏「きっと・・・・」

机の木目を見ながら、杏の言葉を待つ。

杏「全部、幸村先生の計画通りだったんじゃない?」
陽平「ああ。今ならなんとなく分かるよ。全部あのジジィが仕組んでたんだぜ」
朋也「そうだろうな・・・。きっと、一人じゃ辞めてしまうって気づいてたんだろう
な。だから俺と春原を引き合わせた」
杏「そうだよ、きっと」
朋也「まったく・・・。抜けてるようで抜け目ないよな、あのジジィ」
杏「いいのぉ?そんなこと言って。そのジジィに昨日も世話になったっていうのに」
朋也・陽平「え・・」

二人は同時に驚きの声をあげた。

朋也「そういやお前、『話の分かってくれる先生だったから』、とか言ってたよな。
もしかして、それって・・・」
陽平「・・・ジジィ?」
杏「正解〜。昨日の騒ぎの一部始終、全部見てたって」
朋也「マジかよ。どこから見てたんだよ」
杏「さあ?」
陽平「つうか、あんな時間にジジィが残ってるなんて珍しいよね」
朋也「そうだな・・・」

もしかしたら、サッカー部の監督が何か言ってたのを聞いて、昨日みたいな事になる
と思って、学校に残ってくれていたのかもしれない。
他の教師だって何人か残っていただろうし、騒ぎを見られたかもしれない。
そういう教師に、騒ぎの事は黙っておくように、とか頼んでいたかもしれない。
推測の域だけど、もしそうだとしたら

朋也「ははっ、敵わねえよ。あの先生には」
陽平「岡崎・・。ジジィのこと、初めて先生って呼ばなかったか?」
杏「ちょっとあんた達、今までずっとジジィ呼ばわりしてきたの!?」
朋也・陽平「うん」
杏「はぁ・・・・」

やれやれ、と息を吐いた。

杏「あんたたち、卒業する時ぐらいは礼ぐらいしなさいよ」
陽平「まあね」
朋也「わかったよ」
杏「そん時は、あたしも一緒にお礼するから」
朋也「おいおい。お前は別にジジィの世話になったわけじゃないだろ」
陽平「ありえるよ。杏って結構遅刻とかサボリしてそうじゃん。」
杏「まあ、否定はしないけど」
陽平「え゛え!マジ!?」
朋也「・・他に、何かあるのか?」
杏「うん」

杏はしばらく口をつぐむと、ゆっくりと口を開いた。

杏「こんな馬鹿二人を引き合わせてくれてありがとうございます。おかげで、こんな
いい馬鹿友達ができました。って」

恥ずかしいそうな顔をして、恥ずかしいことを言っていた。
しばらく、誰も口を開かなかった。




杏「さてっ、そろそろ帰ろうかな」

と言って立ち上がる。

陽平「そうか、また明日な」
朋也「んじゃ、俺も帰るかな」
杏「そう?じゃ、途中まで一緒に帰ろうか」
朋也「ああ、外も暗いからな。家まで送るよ」
杏「そうね。じゃ、ボディーガード頼むわ」
陽平「送り狼になるなよっ」
杏「こいつにそんな甲斐性があるとは思えないけど」
朋也「あのな・・・」




杏「じゃあね、陽平」
朋也「また明日な」
陽平「ああ・・・っと、杏!」

ドアを閉めようとした手を止めた。

杏「なに?」
陽平「あのさ・・えっと・・・」

言いよどんでいる。
告白でもするつもりだろうか。

陽平「さっきは、その・・・・ありがとな」

杏は何の事かと考えたが、すぐにその言葉の意味するところが分かったようだ。
にっこりと笑うと

杏「じゃあねっ。また明日っ」
陽平「ああ」

その言葉を聞いて、静かにドアを閉めた。

チャプター6  <星空>



寮を出て、長い坂を下っていく。
自覚しているのか無自覚なのか、二人は肩が触れるか触れないかぐらいに寄り添って
歩いていた。
坂を下り、交差点に出た。
ここから右に行けば、朋也の家がある。

朋也「そういや、杏の家ってあっちだっけ?」
杏「うん。ここから左に行けばいいの」
朋也「そうか。じゃ、行くか」
杏「えっと・・・・やっぱり一人で帰る」
朋也「・・・そっか、俺って信用ないのな」
杏「ちっ、ちがっ、そうじゃなくてっ」
朋也「・・・・・・」

杏「・・・・星、綺麗ね」
朋也「なんだよ急に」
杏「陽平の実家がある所の方が、もっと綺麗に見えるんだろうね」
朋也「だろうな。山の中とか言ってたし」
杏「・・・・・」
朋也「・・・・・」
杏「見にいこっか」
朋也「今からか?」
杏「バカ。陽平が実家に帰ってからよ」
朋也「そうだな。春原がどうしても来てくれって電話かけてきたら、行くことにするよ」
杏「素直じゃないんだから」
朋也「ああ」
杏「・・・・・」

朋也「・・・杏」
杏「なに?」
朋也「ありがとう」
杏「えっ」
朋也「さっきは春原に先を越されたからな。いつ言おうか考えてた」
杏「・・・うん」
朋也「お前も、俺の大切な友達だ。ありがとう」
杏「うんっ」

チャプター7  <あそびにきたよっ>


朋也「・・・・ど田舎だ・・・・」

寂れた駅を出て、最初に出たのはその言葉だった。

椋「だ、駄目だよ岡崎くん、そんなこと言っちゃ」
朋也「いいんだよ。実際田舎だし」
杏「それよりさぁ、陽平が迎えに来てくれてるんじゃなかったっけ?」

周囲を見渡すが、人っ子一人見当たらない。
まるでゴーストタウンである。

朋也「と言うより、ゴースト田舎だ」
?「さっきから田舎田舎言うんじゃねぇ!」
朋也「この声は!」
椋「二人とも、上です!」

その言葉に、朋也と杏も駅の上に目を向けた。
そこに、懐かしい人物が立っていた。
黒い髪を風になびかせながら。

朋也「えーと、どちら様?」
?「僕だよ!春原陽平だ!」

と言って、駅の屋根の上から飛び降りた。
シュタッ、という音が聞こえてきそうな、見事な着地だった。

杏「ちょっと見ない間に足首鍛えたの?」
陽平「ああ。何回もリハーサルをして、この日のために備えていたのさっ。
兎跳びで、足腰の鍛錬も欠かさずにねっ」
杏「暇な奴・・・・」
椋「わぁ、春原くんすごいですねっ」
陽平「椋ちゃんも来てくれたんだね。芽衣も喜ぶよ。会えるのを楽しみにしていたからさ」
椋「はいっ。私も楽しみです」
杏「んじゃ、さっそくあんたの家に案内して。そこで泊まることになってんだから」
陽平「ああ、わかった。ついてきて」
朋也「ところでさ、春原」
陽平「ん?なんだい?」
朋也「俺の記憶に狂いがなければ、お前、髪染めたのか?」
陽平「言うの遅いよ!それに!生まれた時から僕の髪は金髪だったと言いたいわけですか!」
杏「はははっ。懐かしいわね、あんたたちの漫才も」
椋「学校でも、岡崎くんと春原くんの会話は聞いていておもしろかったよね」
朋也「俺たちって、いつもこんな会話してたのか?」
涼「えっ、違ったんですか?」
朋也「ああ。あれは単なるヒマ潰しだ」
陽平「相変わらずきついギャグだな・・・」

そんな会話をしている間に、目的地に着いたようだ。

椋「うわぁ。大きい家ですねぇ」
朋也「めちゃくちゃ和風だな。何年物だ、この家」
杏「でも、いい味出してるじゃない。で、芽衣ちゃんは?」
陽平「おかしいなぁ。家の外で待ってるって言ってたのに」

その時、女の子の元気な声が聞こえた。

?「とりゃあ〜〜〜!!」

ゴス!

朋也「はぐおっ!」

誰かが朋也の背中にタックルをかましてきた。
振り向くと、そこには黒い髪を腰に届くぐらいに下ろしている女の子が立っていた。

朋也「もしかして・・・・」
陽平「芽衣、どこ行ってたんだよ」
芽衣「いっしっしっ。岡崎さんたちを驚かそうと思ったのっ」

この笑い方。
この声。

杏「久しぶり〜芽衣ちゃんっ。髪伸ばしたの?」
芽衣「は、はいっ。杏さんの長い髪に憧れて伸ばしてみたんですけど、おかしくありませんか?」
杏「そんなことないないっ。すっごく似合ってるっ」
芽衣「あ、ありがとうございます」
陽平「ほら、芽衣。こっちが前に話した、杏の妹の椋ちゃんだ」

陽平に促されて、芽衣の前に出る椋。
相手が年下ということもあってか、緊張した様子はない。

椋「藤林椋です。会えるのを楽しみにしてましたっ。あの、芽衣ちゃんっ、て呼んでいいかな?」
芽衣「春原芽衣ですっ。じゃあわたしは、椋さんっ、て呼ばせてもらいますねっ」
椋「うんっ。よろしくね、芽衣ちゃんっ」

自己紹介を済ませると、芽衣は朋也の正面に立った。
口を閉ざして、顔をじっと見つめている。


(視点・朋也)



芽衣ちゃんの姿を見たのは、二年前の別れの挨拶の時以来だ。
あの時は13歳だと聞いたが、二年の間にここまで変わるだろうか。
いや、変わる。
成長期なんだから当然だ。
この子は言った。
『今度会う時は、もっと大人っぽくなってますね』、と。
その言葉の通り、彼女は少女から大人になりかけていた。

彼女の成長ぶりが嬉しく思えた。
しかしその反面、時の流れは絶対だと思わされた。
今じゃ春原も会社務めで、染めていた髪だって当然戻している。
椋も看護学校に通って、看護士を目指して頑張っている。
杏は保母さんを目指して、福祉専門学校に通っている。
芽衣ちゃんも、中学を卒業すれば働くのかもしれない。
俺の周りの人間は、各々が自分の道を進んでいく。
その人間たちに混ざって、俺は未だアルバイトの生活。
親父とは今もって距離を置いている。
そんな壊れた関係でも、親父の稼ぎを当てにして生きている。
なんて都合のいい奴だ、俺は。

そんな考えが、芽衣ちゃんの姿を前にして、こんな時に一気に浮かんだ。

「岡崎さん、大丈夫ですか?」

芽衣ちゃんが口を開いた。
俺の考えが読まれた・・・・そんなわけはない。
だとしてもだ、こんな考えを浮かばせている奴の顔が笑っているはずはないだろう。
自分では今どんな顔をしているか分からないが、芽衣ちゃんが心配するような顔をし
ているのだろうか。

「岡崎さん」

なんだい?

「あれから二年が経ちました」

そうだね。

「時は流れていくものです。そして、周囲の環境は変わっていきます」

今の俺たちが、そうなんだろうな。

「でも、変わらないものだってあります」

変わらない・・・・もの。

「わたしたち皆は、友達じゃないですか」

あ・・・・。

「大人になって、結婚して、子供ができて、仕事に子供に大忙し。そんな日々を送るようになっても」

遠い日のどこかで、誰かが・・・・同じ台詞を言っていた気がする。

「休みの日を合わせて、久しぶりに逢いに行く」

その先の言葉は・・・・。

「それが、友達です」

そうだ。
俺の周りは変化していく。
それはどうしようもない事だ。
でも、俺たちの関係は、心を許せる友との絆は・・・・。

「変わらない。それが、友達だよな」
「はいっ。ですから、わざわざ遠い所からお越し頂いてありがとうございます。そして・・・」

笑った顔。
その顔は二年前と同じで、とても可愛いらしい。
変わらないものは、ここにもあった。

「お久しぶりです、岡崎さん。また逢えて嬉しいですっ」

そうだ。
俺はこの言葉を真っ先に言えば良かったんだ。
変わっていく周囲を不安に思うことは当然だ。
それをこんな再会の場で考えるのはいけない。
俺より4つ年下の芽衣ちゃんの方が、しっかりとした考えを持っている。
そう、恐れる事はない。
どんなに周りの環境が変わっても、俺たちの関係は、壊れはしない。
だから、そうだ。
俺はこの言葉を真っ先に言えば良かったんだ。

「久しぶり、芽衣ちゃん。あそびにきたよっ」



終幕


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鉄弥さま


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