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「さぁ、決めてくれ……朋也」
私は最後の一言を言う。
そして、出来るのは朋也の答えを待つだけ。ただ、それだけ。
「ああ……」
八ヶ月……その間も失わなかった朋也への想い。
それは―――
「……よろしく」
―――大切な人の抱擁で報われた。
「朋也……」
一瞬、夢かと思った……けど違う。これは八ヶ月間の間に見た夢なんかじゃない。
全身で感じる朋也の温もりが教えてくれる。これは夢じゃないと。
私は、また朋也の傍にいられるんだと。
「朋也っ……」
嬉しい、辛かった、また一緒にいられる、何もかも嫌になりそうになった、ずっとこの時を待っていた。
これまでの感情が全て入り混じってもう何を思っているのか自分でもよく分からない。
それでもたった一つだけ理解出来ていた。それだけで十分だった。
―――私は、朋也と生きていく。朋也と一緒にいられるんだ。
それが全てだった。
そして、私達が再び一緒にある事を望んだその翌日、新たしく始まる二人の日々。
それは―――
「クシュン!」
「…………お前、一体どんだけあそこにいたんだ?」
―――風邪をひいた私の看病から始まったのだった。
まぁ、あの寒い中ずっと外でじっと朋也を待っていた私は、当然と言うか自分的には予想外と言うか、私は風邪をひいてしまった。
それから学校には休みと伝えたのだが……どこでどう調べたのか、朋也は私の家まで見舞いに来てくれたのだ。
「しかし、俺が家に上がっても良かったのか?」
「うん、皆は居ないから」
「……娘が風邪で倒れてるってのにな」
「そう言うな。それほど酷くは無いんだ。それに両親ともそうそう休める仕事でもないしな。しょうがない」
実際、両親はどちらかが会社を休もうとまでしていたんだが、それを私が無理に送り出したのだ。
「んで、弟は学校か」
「そうだ。鷹文も学校を休んで看病するとか言っていたけど、あれは学校をサボりたい方が大きかったようだからさっさと行かせたぞ」
「……なかなかいい性格しているな」
朋也は苦笑する。うん、私もそう思う。
「……ところで、朋也もまだ学校があるはずだが?」
「さぼった」
「……私はこれでも現役の生徒会長なんだが」
「もうすぐ自主登校なんだからあまり変わらんさ」
笑いながら私の頬に手を添える。
「それに、風邪をひいた彼女をほっとくなんて出来るわけないだろ?」
……ずるいな。そんな事言われたら何にも言えないというのに。
「分かった、特別に大目に見よう」
「お前風邪ひいててもそういうの変わらないのな」
「これが性分だ、そうそう変わらないぞ」
「……全く、素直に嬉しいと言えばいいのに」
言いたいのは山々なんだけどな、明らかにその何か企んでいると言わんばかりの笑顔の前だと素直にはなかなかなれないものだぞ。
「でも、本当に大した事はないんだな」
「そうだ。これでも身体は頑丈に出来ている。風邪をひいたのなんて小学校の低学年の時以来だ」
「……全く、あんな寒い中よくそこまでじっとしていられたな」
……む、その言い方はないだろう。
「別に大した事じゃなかったからな」
「お前なぁ、風邪をひいた人間が言うことか?」
「それは多分……気が抜けたからだ」
「気が抜けたって……」
「朋也に受け入れてもらって……それまでの緊張とかが全て抜けてしまったんだ。だから、一気にこれまでの疲労も出たんだろう」
「……そうか」
「そうだ。それにな」
そう、それに……
「あんなの大した事じゃないんだ。朋也に会えなかった時間に比べれば、朋也を待つ時間なんて全然大した事じゃない。例え一時間だろうとも、二時間だろうとも、朋也に会えると分かっている時間ならいくらでも耐えられる」
朋也の存在がどれだけ私にとって大きかったのかを否応無く突き付けられ続ける時間。
その一日千秋の日々に比べれば、朋也を待っていた……朋也に会う為のあの時間がどれほど嬉しかったか……きっと私にしか分からないだろう。
「……お前、相変わらずストレートに言うんだな」
やや赤い顔で言う朋也。私も風邪の熱とは別に同じくらい赤くなっているんだろうな。
「これくらいは言うぞ。これまで言えなかった分も」
「やれやれ、それ言われたら反論は出来んか」
「うん」
けど、やっぱりこんなのは退屈なんじゃないだろうか。そう、不安になる。
「朋也」
「ん?」
「こうしててもつまらなくないか?」
「なんだよ、突然」
「……だって、一緒にいてくれると言ってくれたのは嬉しかったけど、その翌日にこんなで……」
朋也にとって迷惑じゃないか?
その一言を言うのが怖い。
しかし、
「ばーか」
朋也は私の額を軽く人差し指で突き、
「一緒にいるっていったのはお前だろうが。それに、お前風に言うなら、どんな事をしていても、どんな遊びをしていても、お前が居ない時間はつまらないんだ。それよりも、こうやってお前の傍に居る方が何倍も嬉しい」
なんて言ってくれた。
……うん、間違いない。私の熱は今ので絶対に上がってる。それを少しでも下げようと、私は朋也が用意してくれたコップの水を飲むが、一向に下がった気がしない。
「…………お前は看病をしに来たのか私の熱を上げに来たのかどっちなんだ?」
「一応看病だ」
「一応を付けるな」
「一番は智代に会う為に来たってのは不満か?」
「…………だから、熱が上がると言っているだろうが」
「悪い悪い」
悪びれた風も無く、朋也は私の額に置いてある温くなった濡れタオルを取ると、水に付けて絞り、冷たくなったタオルをまた私の額に置いてくれる。
「まぁ、まだまだ話をしたいのは俺も同じだけどな、そろそろ眠れよ」
「嫌だ」
私は即答する。
だって、ようやく朋也と話が出来る時間なのに、寝てなんていられない。
「ゆっくり寝らんと治るもんも治らないぞ」
「けど」
「気持ちは分かるって。けど、今は体調を治して、それから一緒に遊びに行こうぜ。今日はお前の家族が帰ってくるまではずっと傍にいてやるから」
……ああ、そうだな。どうやら私の気が急いていたらしい。
「……けどな、一つ問題がある」
「何だ?」
「眠れない」
そう、眠ろうとしても、なんか気が高ぶっているのか眠気と言うものが一向にこないのだ。
「……そりゃ参ったな」
「うん、参った。だから話を」
「駄目だって……しゃあない」
朋也は何かを決意したように私を見る。
私は何をしてくれるのかと期待を込めてその視線を受け止め―――
「子守唄を唄ってやろう」
「………………は?」
―――止まった。
「いや、そこまで驚いた顔をしなくても」
「驚きもする。そもそも、知っているのか?」
「一つとあるゲームで気に入ってな。ま、なんとなく唄えるって程度だけど」
「そっか」
「まー俺もガラじゃないとは思うけどさ」
予想外と言えば予想外だ。けれど、それもいい。
「……うん、聞きたい」
私は真っ直ぐに朋也を見て答える。
「……下手だからって笑うなよ」
「笑わない」
だって、朋也が私の為に唄ってくれるんだ。子守唄であっても嬉しい。
その私の言葉を受けて、朋也は自分のコップの水で喉を湿らした後、唄い始めた。
それは、私の為だけにある朋也の唄。