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〜1/3の純情な感情〜
「あー、いい湯だったな〜」
「まったくその通り。さすが有名な温泉はこう、なんつーか、マジで温泉してるってカンジだよな」
俺と雄二は温泉から上がった後、入り口の幅広いソファに腰を降ろしてだべっていた。

修学旅行3日目の夜。今まで退屈な社会見学などを主にさせられて来たが、明日は待望の自由行動だ。

「あーあ、お前はいいよなー」
雄二が手を頭の後ろで組んだままの姿勢で口を尖られて言う。

「何がだよ?」
「お前は明日の自由行動、さぞ楽しい思い出になっていいよな、って言ってんの」
「何でだよ? 明日は一緒にアキバの電気街を回る予定だろ? そんなに楽しい思い出になるのか?」
俺が訝しげにそう答えると、雄二は肩をすくめて大げさにうんざりするジェスチャーを取ってみせた。

「かーっ、オマエ正気か? 委員長はどうしたんだよ? 修学旅行の自由行動は男女が一緒に回るってこそ青春  
 ってモンだろ!?」
「あ……」
すっかり忘れていた。何が青春なのか分からないが、男同士で行動していつものバカ騒ぎを
するより、今は俺の彼女になってくれた愛佳と一緒のほうがずっと良い思い出になるだろう。


「異国の地で右も左も分からない男女が新たな発見を求めてひたすら彷徨い続ける…。
 だが、そんな二人に地元のヤンキーが牙を剥いて襲い掛かる!
『愛佳ッ! ここは俺が食い止めるから、お前は早く誰か呼んで来いッ!』
『で、でも、それだと貴明くんが…』
『ヘッヘッヘッ、兄ちゃんよ、そっちの可愛い彼女をちょっと俺たちに貸してくれたらお前は無傷で返し
 てやるぜ?』
『ふざけるな! 愛佳は俺の彼女だ! 例えこの身が砕けようともお前らには指一本触れさせやしない
 ッ!』
『た、貴明くん…(じーん)』

すると、ヤンキーたちは持っていたエモノを懐にしまい始める。
『ヘッ、今頃そんな恥ずかしいセリフを吐くヤツが居るとは思いもしなかったぜ。
 …兄ちゃん、カノジョを大切にしてやりなよ』

少年の心意気に打たれたヤンキーは、何もせずにその場を去っていくのだった。
『貴明くん、あたし、さっきの言葉、すごく嬉しかった…』
『愛佳…』

夕日を背景に、みつめあう二人。やがて二人は夜のホテル街に消えていくのだった…。

…ってな具合に、語ってるこっちの顔から日が吹き出てきそうなほど粋な青春がよぉ!」

「うざー」
さっきから雄二は自分の世界に入り込んでしまっている。他人の世界をそこまで構築できるなんて大したモンだよ、お前。
というか、そんな思い出嫌だし。

「でも…いいのか?」
雄二と秋葉原の電気街を回るってのは修学旅行の班が決まる前、愛佳と付き合い始めるずっと前から約束していた事だ。今更雄二を放っぽって愛佳と二人一緒に行動するというのは気が引ける。

だが、そんな俺の気持ちを見透かした雄二は、
「俺はアツアツカップルを邪魔をするほど野暮じゃないっての。まあ、俺は俺で適当な相手を探す事にするさ」
「悪いな」
『ごめんなさい』のポーズを手で作った俺に、雄二は「しっしっ」の仕草で答える。

「と、その矢先に、うひょー! 向こうにモッ○リ美少女発けーん!!」
「お前は冴羽遼かっ」
俺のツッコミもよそに、雄二は通路の向こうを歩いてくる同級生の女子に向かってダッシュしていった。

「おい! 貴明!」
と思いきや、向かう途中で雄二はこちらを振り返る。

「女の子は男の言葉をずっと待ってるんだぜ! お前の方から誘ってやれよ! 委員長もきっとそれを待っているだろうからな!」
それだけ言い残すと、雄二は先ほどの女子が曲がった角に消えていった。

(女の子は男の言葉をずっと待っている…か)
今でこそ、俺と愛佳はクラス公認のカップルという事になっているが、お互いの関係はあの書庫で過ごした『恋人ごっこ』のままで止まっているんだと思う。『好き』という言葉を相手に捧げた事もなかった。

(この修学旅行でもっと仲を深めないとな)
心なしか、ひざの上で小さくガッツポーズをする。そのためには、まず愛佳を探さないと。
風呂の時間も終わりに近づき、あとは就寝時間。明日の朝イチでいきなり申し込むのは気が引けるし、
ひょっとしたら愛佳のほうも、明日すでに友達と行動する予定を立てているのかも知れないから、俺のためにドタキャンさせてもらうのは彼女にも迷惑を掛ける事になる。

あと30分ほどで就寝時間。廊下に出ている生徒はほとんど皆無と言っていい。
今頃他のみんなは部屋で枕投げなどに興じているだろう。
よしっ、愛佳の部屋に言って直接誘おう。俺は椅子から立ち上がり、彼女の部屋に向かう事にした。



『302号室』
愛佳の班の部屋の前だ。さっき、ここに来る前に彼女の部屋番号をチェックしたから間違いない。
よし、いくぞ。
…………。

と、その気になってやっと俺は乗り越えなければいけない重大な事に気が付いた。

(愛佳の部屋に行って、『愛佳居る?』って言うのはいかにも彼氏っぽいじゃないか! 絶対その後クラスの奴らに冷やかされる!)
俺のクラスはほとんどと言っていいほどみんな委員長っ子(?)だから、愛佳と連れ添う俺は格好のネタとなっている。
無論、愛佳自体も。

(うう…どうしたらいいんだ…。ああっ、愛佳っ、俺の愛のテレパシーに気付いてくれ!)
ドアから離れ、階段の踊り場まで来たところでテレパシー(?)を飛ばす。
我ながらアホな行動だと思ったが、これで愛佳が気付いてくれれば…。

カチャッ。

と突然、まるで呪文で開けられたかのように部屋のドアが開いた。

「あっ!」
俺のテレパシーが届いたかのように、愛佳がひょっこりと顔を覗かせる。

「愛佳、愛佳っ!」
就寝前だから、周りに迷惑を掛けない様に大げさに手を振って小声で呼びかける。
すると、

「貴明くんっ!」
彼女もこちらに気付いたようだ。ぱあっと表情を明るくさせ、ブンブンと手を大きく振る。
傍からみてるとおかしな光景だったが、何にせよ就寝前にお目当ての愛佳と出会う事ができた。
愛の力はなんて偉大なんだろう、と思う。

「貴明くん、貴明くんっ」
やがて愛佳がこちらへ向けてぱたぱたとスリッパの音を廊下に響かせながら走ってくる。
彼女の小動物っぽいイメージから、エサの時間に主人の手のひらに駆け込んでくるハムスターを想像してしまい
ついつい心の中で笑ってしまう。

と、ふと、愛佳が駆けている廊下と、俺が居る踊り場には一段だけ段差があることを思いだす。
踊り場に降りる前の段上には歩行者がいきなりの段差に足を踏み外してしまわないように
『段差注意』というプレートがご丁寧に床に打ち付けられているが、今のまさに猫まっしぐら状態な愛佳には
それが見えていないようだった。

「ちょっ…愛佳、足元、足元っ!」
「えっ…あっ、あわわわわっ」

べちゃっ。

俺の制止も及ばず、愛佳は段差に気付かず、足を踏み外し、顔面から床に突っ伏す。
スポーンと彼女の履いているスリッパが宙に舞った。しかし、いくら段差があってもここまで豪快にコケる事はないだろう。
それが愛佳らしいといえば愛佳らしいのだが。

「はう…あいたたた…」
鼻をさすりながら愛佳が身を起こす。女の子の大事な顔から地面に突っ込むという、一見すると重大事故のように見えるが、なにぶん相手は愛佳。いつもやっているようなドジだから、俺は笑って彼女に向けて手を差し出す。が、起き上がる愛佳の姿を見て俺はかつてない衝撃に包まれた。


(ぐはっ…)
転んだ事により、浴衣が乱れ、胸元や太ももが露になっている。
その雪のような透き通る肌の白さに、俺は目を背けたくても背けずに居た。

「? 貴明くん、どうしたの? え? え? あたしの顔に何か付いちゃった?」
そう言ってあたふたしながら愛佳は自分の顔をぺたぺたと手で触り確かめる。
どうやら、自分が霰も無い姿に陥っている事にまったく気が付いていないようだ。

「あ、あたしのスリッパ、あんなトコまで飛んでる…うふふ、何かバナナの皮で滑るギャグ漫画みたい」
舌をぺろっと出して、愛佳は俺の後ろにまで飛んでいったスリッパを拾おうと立ち上がろうとする。
その動作の最中にも、肩からはだけ落ちた襟元はますますずり下がっていった。
や、やばい。元々は人一倍あったと自負している俺の理性がどんどん剥ぎ取られていく。

「志村、後ろ、後ろー! じゃなかった、愛佳、前、前ーっ!」
「え? え?」
俺の必死の呼びかけも空しく、愛佳は自分の足元をきょろきょろと見回す。
やがて、俺の顔を見上げて、

「あっ、貴明くん鼻血出てるっ! ひょっとしてあたしの飛ばしたスリッパ当たっちゃった?
ごめんなさいっ、ごめんなさいっ!」
俺の痴態を自分のせいだと勘違いしたのか、愛佳は急に勢いよく立ち上がる。
その瞬間、今まで糸一本でギリギリ繋がっていたロープが千切れるように見えそうで見えないラインをギリギリ保っていた
愛佳の羽織っている浴衣が上半身まるごとはらりと脱げ落ちた。
俺の視界に移るものはもはやピンク色の…。

ぶはーっ!!

ブラックアウト。というか、レッドアウト。よくあるテレビゲームのサウンドノベル物でバッドエンドを迎えて、主人公が死ぬというシーンをリアルに体験してみたら大体こんな感じだろうか。頭は愛佳の事以外何も考えられなくなる。
そして、だんだんと意識が遠のいていった…。

「きゃ、きゃあああああっ! たっ、貴明くんっ!? えっ? えっ? あっ…きゃ、きゃあああああああああっ!!」
俺が大量の鼻血を出して倒れるのを観て、愛佳が悲鳴をあげる。でも、きっと二つ目の悲鳴はきっと愛佳が自分の今の格好にようやく気付いた事によって発せられたものだと思う。

(グッジョブ…! 我が人生に悔いなし…!)
今の俺の死に顔を写真に収めておくとしたら、金色の額縁にかざりたくなるくらいの、とても爽やかな死に顔だった事だろう。



ぱたぱたぱた…。

暗闇の中で、自分の顔に涼しいそよ風が当てられるのを感じた。

「う…うーん…」
重い瞼を懸命にこじ開けると、刺すような蛍光灯の光が眼球に飛び込んできた。

「あっ、た、貴明くんっ! 大丈夫? 大丈夫?」
蛍光灯の光をさえぎる様に、眼前には愛佳の可愛らしい顔があった。

「え…うん。だ、大丈夫…かも」
まだ自由の利かない体を、無理矢理にでも起こす。
見慣れない畳の部屋。俺の部屋でも、愛佳の部屋でもないようだった。

「…ここは?」
「保健係の先生の部屋だよ。それより、たかあきくんっ、ごめんなさいっ、ごめんなさいっ!
 ヘンなもの見せちゃってホントにごめんなさいっ!」
剛速球の如く愛佳に謝られる。
それよりも、こちらが「グッジョブ!」と親指を立てて爽やかに微笑み返したい気分だったが、
さすがにそこんとこは俺のキャラではないので控えておくことにする。

先ほどの淫靡な光景が俺の脳裏で再生される。目の前の愛佳の顔をみると、ますます妄想が加速してしまう。

「………」
俺の視線の先がどこに向けられているか気付いた愛佳は慌てて胸元を手で覆い隠し、うつむいてしまう。
そんな彼女のしぐさがとても可愛いと思った。

「………………」
「………………」
お互い、暫くの、いや、気の遠くなるような沈黙が続く、時計を見ると、時刻はもう11時。
二人の沈黙をもどかしく思うように時計の針の音だけがこの空間を支配する。
何か無いか…、何か声を掛けるきっかけが…。そう頭を悩ませていると、ようやく脳みそが起動しはじめたか、
愛佳に真っ先に聞きたいことを思い出した。

「あのさ」「あのっ」
二人同時。決死の思いで切り開いた空間に沈黙が再び訪れる。

「どうぞ、そちらから」「どうぞ、どうぞ、そっちから」
またまた同時。

「ぷっ」「ぷっ」
お互いの行動に、吹き出してしまう。そのお陰で、場の雰囲気が和らいだのは確かだ。
今度こそ意を決して、俺は愛佳に切り出した。

「えっと…明日の自由行動なんだけどさ…。今更なんだけど、一緒に回れるかな…」
照れ隠しに頭をボリボリと掻きながら、独り言のように呟く。
ダメだろうな…きっと、愛佳は女子と一緒に回る予定になっているに違いない。
そんな気まずそうに俯いている俺に、愛佳が驚いたように答える。

「うんっ、いいよっ」
とても嬉しそうな声。そんな今が深夜である事を忘れさせるかのような明るい彼女の声に、俺はハッと顔を上げた。

「実は、あたしも貴明くんと明日、一緒に回りたかったんだ…」
うるうると目を輝かせ、俺をじっと見つめる。

…なんだ、愛佳も俺と同じ思いだったのか。
お互いの気持ちを上手くぶつけられない、純情な感情。
女の子が苦手、男の子が苦手。そういった苦手意識を克服するために形なりに付き合い始めた奇妙なふたり。
今まで『恋人ごっこ』と思い込んでいた俺たちの関係が熱湯を注いだ氷のように、緩やかに解けていく。
きっと、愛佳も俺と同じ思いだろう。それは、彼女の表情をみているととても良く、分かる。


「楽しい思い出、作ろうな」
「うんっ」
無意識に交わされる、あの時以来の口づけ。
きっと、彼女となら永遠にまで仲良くやっていける、そう思った。

おしまい


●はい、東鳩エロス第一弾はわたしがこのゲームで一番好きな(現段階では)愛佳たんでした〜♪
靴下ぬぎぬぎイベントや、高い高ーい、着替え中にバッタリなど、発売前ではエロ担当はタマ姉と由真たんかと思いきや、発売後フタを空けてみれば彼女もバッチリエロ担当でした♪ このゲームでもっとも『お約束』なキャラと言えよう…( ̄ー+ ̄)

●↓ちなみにボツ表情CG。

最近、当サイトの日エロでは『そこはかとなくヤっちゃってますっ!(>ヮ<)』なお話が多いので、
今回のエロスでも何故か偶然付近にあった給湯室に愛佳たんを連れ込んで、
『またまたヤらせていただきましたァン!(≧▽≦)丿』な展開になるはずだったんですが、
まあ、今回は東鳩初エロス。
始球式のボールをいきなり場外ホームランにするのも激しくアレなので(爆)
今回は微エロラヴコメにまで止めておきましたw

●あと、修学旅行の寝巻きは体操服にジャージとか言うなw

『浴衣は・・・浴衣はエロスなんだ。エロスは萌えを支えているものなんだ。
それを…それをこうも簡単にジャージ着用を強要していくのは…それは…それはひどい事なんだよ!

何が楽しくて微エロ絵を描くんだよ!』
『そんな校則! 修正してやるっ!(つД`)』
(カミーユ調)
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面白かったら押してね♪


戻ります〜♪