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〜two steps〜
文:予想屋 絵:柊トモカ
「わー、いい眺め。ほら朋也ぁ、こっち来て見なさいよ、せっかくの景色なのにもったいないじゃない」 そう言って杏−俺の彼女−は俺を窓際へと手招きする。 「待てっ、ずっとお前の荷物を持ってたのは誰だっ」 俺は皮肉っぽく言い放つ。 「あんただけど?」 こいつは…さも当たり前のような顔をして答えやがる。 「そうだろ、ようやく俺には休息の時間が訪れたんだ、少しは休ませろっ」 地元の駅についてからバスを乗り継ぎ、さらに歩くこと2時間以上、荷物を持たされていたのだ。荷物から介抱されたその腕は、まだ痺れている。 「だいたい一泊二日の旅行でこの量はありえないぞ。ボタンでも非常食用に入れてるんじゃないのか?」 「ちょっと、ボタンをなんですってぇ〜!?」 直後に空気を切り裂く音。反射的に伏せる。 俺の顔をかすめていったのは、黄色くて分厚い電話帳だった。 「って、待て杏、どこに隠していたんだよ、こんなもん…」 「そこよ」 指を差した先には、部屋に備え付けの電話機があった。 「まったく、旅行のムード台無しよ…」 いや、今回は間違いなくお前のせいだと思うぞ。 そう言おうと思ったが、これ以上からかうと俺の命とこの部屋が危ういのでやめておくことにした。 「それにしても、よく予約取れたよな…」 誰ともなくつぶやく。 それもそのはず、書き入れ時のこの時期、どこに電話しても軒並み予約がいっぱいで、苦労して苦労してこの旅館を確保する事にこぎつけたのだ。 まあ、『露天風呂(もちろん混浴だ)有り・交通費込み3万以下』という条件をつけたのが時間のかかった最大の理由だが。 「ま、いいんじゃない? それよりもさ、ちょっと外でも歩かない? ほら、二人っきりなのに部屋でぼーっとするのももったいないでしょ」 「別に外に出なくても、ここで充分楽しめると思うんだが」 「なっ…。そ、そんな、いきなりそれはないでしょ、そりゃあたしだって…でもさ、そういうのは夜できるでしょ、ね? まだ日が高いんだから、外行こうよ」 そう言っているうちに、みるみる顔が赤くなる杏。俺の意見はお構いなしに、ずるずると引っ張られる。 ……。 こいつ、一体何をするつもりだったんだ…。 「うーん、空気はおいしいし、雪景色は綺麗だし、静かでのんびりしてて、来てよかったぁ」 大きく伸びをする杏とは対照的に、俺は小さく縮こまる。 「お前、こんな寒いのによく平気だな…脚とか平気なのか?」 ミニスカートにニーソックス、しかもその間からチラリと素肌が見える姿は眼の保養になるとはいえ、見ているとこっちが寒くなりそうだ。 「なによ、そう言っておきながら、やらしい目で見てる癖に…しょうがないわねぇ」 わざとらしくため息をついて、俺の元に近づいてくる杏。そして、布のようなものを俺の首に巻きつける。 「……絞め殺す気か?」 「そうされたいの?」 「冗談だ」 俺に巻きつけたのは、マフラーだった。首元が保護されて、さっきより幾らかマシになる。 いや、確かに寒さはマシになったが…。 「お前、恥ずかしくないのか?」 「なぁに言ってんのよ。顔見知りがいない場所だからこうしてるんじゃない」 そう言われればそうだが…俺に巻かれたマフラーの先には、杏。要するに…1本のマフラーで俺たちは繋がっているのだ。 その上、俺の腕を杏の両手でしっかりとつかまれている光景は、嬉しいやら恥ずかしいやら複雑な気分。 「それじゃあ朋也、エスコートよろしくね」 ぐっと杏の身体が寄せられる感触が腕に掛かる。 こんな風に言われて、誰が断る事などできるだろう。 「…わかったよ。じゃあそのへん適当に歩いて回るか」 「うん」 「ふぅ…疲れた…」 陽も傾き始めた頃、ようやく俺たちは旅館に戻ってこれた。みっともないのは分かっているが、畳に大の字になって寝転がる。 本当はもっと早く戻りたかったが、杏が『あっち行こう』『もっと向こう行ってみようよ』と、俺の身体が悲鳴をあげているのも無視して回ったためだ。 (つーか俺、尻に敷かれてるのか…?) そんな疑問が浮かんでは消える。 「まったく…彼氏の癖にだらしないんだから」 杏が何か言っている。 「ああもう何でもいいから俺に話し掛けるな」 「…じゃあ、あたし一人でお風呂入ってこようかな〜」 がばっ!! という効果音が聞こえそうなほど勢いよく起き上がる。 「よし行こうさあ行こう今すぐ行こうとっとと行こう」 「ちょっ、朋也、あんた今絶対ヘンな事考えてるでしょ、もう!」 そんな事を言いつつもついてくる杏。可愛い奴め。 「…おかしい」 行けども行けども、肝心の露天風呂(混浴)が見当たらない。 「もう…あたし、フロントに聞いてくる」 そう言って杏はひとりで走っていった。 数分後、もの凄い形相と勢いでこちらに戻ってきた。 「と〜も〜や〜!!」 ばこーん! 「ぶへっ!」 戻ってくるなり、いきなり杏の着替えの入った袋でぶっ叩かれる。 やばい…あの顔はキレてる顔だ。 「と〜も〜や〜…」 「ま、待て杏、とりあえず何があったか話してくれ…」 「露天風呂が使用停止中ってどういう事よ!」 「…は?」 使用停止…? そんなはずはない。カタログを確認して、予約時にも混浴露天風呂ありと向こうは言っていたはずだ。 「温泉協会だか何だかが検査に入ってて使えないとか言ってんのよ!」 「待て、予約した時はそんな事言ってなかったぞ」 むしろ俺が被害者だ。というか、やけに静かで他の客を見かけなかったのはそういう事だったのか…。 「あーもう、はっこつ温泉なんて名前の時点でおかしいと思ってたのに!」 「お前もここでいいって言ってただろうが! 第一はっこつじゃねえ!」 「そんなのどうだっていいでしょ! 楽しみにしてたのにどうしてくれんのよ!」 「別に入らなくたっていいじゃないかよ! 食い物はちゃんと出るだろうが!」 「な…あたし汗かいたのよ、お風呂に入らないであんたとしたくない!」 「馬鹿、俺はそんなの気にしねえよ!」 「あたしは女の子だから気にするに…あっ」 突然杏はしおらしくなる。そういえばこいつ、今なんて言った…? 「あっ、そのぉ…ゴメン朋也。あんたが悪いわけじゃないのに、怒鳴ったりしてさ…」 「いや、別に…」 大事な事を言っていた気がするが…。『あんたと…』なんだっけか。 「あの…お客様」 後ろからの声に振り向くと、和装の女性が立っていた。 「男湯・女湯にもそれぞれ露天風呂がございますが、そちらでも構いませんでしょうか」 「あ、ああ、全然構わない。な、杏」 「そ、そうよね。うん、平気平気」 俺たちは平静を装って答える。今のを聞かれていたら、かなり恥ずかしいぞ…。 「左様でございますか。では、どうぞこちらへ。ご案内いたします」 …まあいいか。俺たち付き合ってるんだし。 ちゃぽーん。 結構な広さのある露天風呂に、俺以外誰もいない。 ひとつ息を吐いて、ふと空を見上げる。いつの間にか陽光は消え、徐々に暗く染められてゆく。 「これで横に杏がいれば、最高なんだけどな…」 ぽつりと呟く。 もしあいつがいたら…まず身体全体を眺めて…それから洗いたての髪の匂いを嗅いで…って、これじゃあ春原と同類じゃないか。いかんいかん。 いや、でも想像するぐらいなら…。 「ねえ、朋也ぁ…」 そう、こんな風に普段の凶暴なあいつからは想像つかないような甘い声で俺を誘って…。 「って、誰が凶暴よっ!」 どかっ! そうそう、こうやってどつかれて…って、今痛みが走った…? 「もう、あたしを暴力女扱いしないでよね…」 リアルな痛みに思わず後ろを振り向くと、そこには本当に杏が立っていた。 「きょ、杏!? どうやってここに…」 「んー、ちょっとそこから」 壁と生垣のほんのわずかな隙間。そこを差す。 「マジかよ…。俺の手の幅より狭いぞ、あそこ…」 「あははっ、あたしだから出来る裏技よ」 屈託のない笑顔をみせる杏。俺は視線をその身体へと向ける。 「確かにそうだ、もっと起伏があったら通れなかったな、スレンダーでよかったな杏」 「あはは、そうよね〜」 「そうだろ、ははは」 「ねえ朋也〜、その岩にガムテで何重にも縛りつけて沈めてあげよっか?」 「悪かった」 笑顔のまま言うな…怖ぇ。 「でも、前よりちょっとは大きくなってるんだけどね…あんたにいつもいつも揉まれてるから」 「ん? まだ何かあるのか?」 「なんでもないわよ」 ちゃぷ…。 想像が、現実になってしまった…。俺の横には大きめのタオル一枚だけの杏。 長い髪をまとめ、普段隠れていたうなじが覗いて妙に色っぽい。 視線を下へと向ければ何も着ていなくてもはっきりと分かる谷間。その下は…隠れていて見えない。 「朋也」 「ん、どうした?」 「そのぉ…さっきはゴメンね。つい八つ当たりなんかしちゃって…」 「そんなに俺と一緒に入りたかったのか」 「……うん」 あれ…てっきり『べ、別にそんな事無いわよ!』とか言うと思ったが…。 「だってさ…朋也と一緒にこうやって泊まり掛けで旅行なんて初めてでしょ。なのに、あたしだけはしゃいでたから、朋也は迷惑だったのかな、って思って。そんなわけないのにね。 ただ、お風呂の事になると楽しそうな顔になってくれたから、つい張り切っちゃって…。だけど、それもダメになったらどうすればいいのか分からなくなって…」 そうか…。 いつもより杏が興奮気味だったのは、俺と楽しさを共有したかったからか…。 くそっ…あれこれとやましい事ばかり考えていた自分を責める。こんなんじゃ、俺は杏の彼氏失格だ。 「悪い、杏…」 この場に居たたまれなくなって、杏に背を向けて少し距離を取る。 「待って朋也! あのさ…朋也がその、したいなら、あたしはいいんだけど」 「……」 「だいたい、あんたじゃなかったらこんなところまで来ないわよ、あたし…」 そうだ、ここは本来女人禁制の場所。そこまで危険を冒して俺の側にいる杏の勇気に応えるべきじゃないか…? 俺は杏の元に戻り、その顔をじっと見つめる。明かりが少なくても頬を染めているのが分かる。 可愛い…。 「杏…キスしたい」 俺は杏の肩に手を掛け、キスの体勢を取る。 「ま、待って。その…ちゃんと、はっきり言ってくれる?」 「キスしたい、じゃダメか?」 「だから…やっぱりこういう事ってさ、男の方から言うもんじゃない? ね?」 それは要するに…キスの先のことだろう。 「好きだ、杏。お前の全てが欲しい。身体も心も全部」 「うん。あたしも…あはは、面と向かって言われるのも案外悪くないわね」 「たまには、な」 やがて、どちらともなく唇を重ねる。 お互いの温もりを感じながら、強く強く杏の細い身体を抱きしめる。 髪を撫でる手に感じる冷たさが、ここが外であることを改めて思い知らされ、感情が昂ぶる。 タオル越しでも、触れるだけではっきりと隆起しているのを見て、剥いでしまう衝動を抑えられなくなる。 こうなる事を予想していたのだろうか、杏は抵抗する様子も見せず、ただ俺に全てを任せているようだった。 何もつけていなくても形が崩れず、しっかりと存在感を示す二つの膨らみをなぞるように、手を当てる。服の上から、というのは今までもあったが、直接肌と肌で触れ合うのは初めてだ。ほんのりと手のひらに伝わる温もり…これが人肌だろうか。 「はぁっ…ふう…」 まだ少ししか経っていないのに、杏はうわずったようなため息を吐く。 「お前って…すげぇ感じやすいんだな」 「ち、違うわよ、あんたの為に演じて…」 ちょん、と指で突起を弾く。 「あっ、ああぁんっ!」 「コレも演技か?」 「うぅ、その…もう、なによ、エッチな女の子で悪かったわね!」 「全然悪くないぞ。むしろもっと可愛がりたくなる」 「……」 俺の返答が意外だったのか、ぽかんとした表情で見つめる。 「それじゃあ、続けるぞ…」 俺はそっと右手を下へ差し出し、杏の内部への侵入を試みる。 「んんっ…んむ、ともやぁ…」 甘えるような声を上げて、身体をくねらせる姿に誘われ、より一層動きを早める。 そろそろだな…。そう思った瞬間だった。 ガラッ。 「ぬひょおおおおぉぉっ」 俺は思わず解読不能の奇声を上げながら、素早く杏を隠す。 「…」 まずい、絶対変な奴だと思われた…。いや、それは問題じゃない。こっちに来られたら杏が見つかっちまう。 何とかして追い払わないと…。 力でねじ伏せるか? いや、春原ならそうするが、相手は見ず知らずの男だ、余計な問題が起きる可能性も高い。 …そうだ、あの方法ならいけるかもしれない。俺もダメージがあるが…仕方あるまい。 隠していたタオルを剥ぎ取り、男に向かって仁王立ちで叫ぶ。 「そこのあんた! 俺と一緒に境界越えようぜ!」 ヤバイ、こんなの長時間やってたくねえ…頼むから逃げてくれ…。 その願いが通じたのか、男は震えるように逃げ去っていった。 「やれやれ…。あれっ、杏…しまった!」 慌てていたせいで、勢いあまって杏の身体全部を湯船に沈めていたことに気付く。まずい、お湯を飲んじまったかもしれない…! 杏を抱き上げ、頭を下にする。 「杏、すまない! 大丈夫だったか!?」 必死の呼びかけに、杏が反応を示してくれた。 「はあっ、あー、ごほっ……朋也の、大馬鹿ぁーーっ!!」 ごすっ! 頭からつま先へと走る、感じた事のない痛撃。 「この、超ヘタレ! 人殺しっ! 意気地なし! 全身スケベ男!」 あまりの痛みで動けない俺と鈍器を残し、思いつく限りの罵声を叫んで逃げ去っていく杏。 ……一人で浸かる風呂も、悪くない、な…。意識が…薄れていく。 不規則な冷たい刺激。それは機械では再現できない、そっと優しく、痛みを和らげてゆく感覚。 徐々に暗闇の世界から解かれ、月明かりに照らされた景色が俺の状況を教えてくれる。 「んっ、雪か…」 まだひりひりと痛む頭を抑え、ゆっくりと起き上がる。 寒い。 これが風呂場じゃなかったら今頃俺は凍死していたかもしれない。それぐらい寒い。 (とりあえず、部屋に戻るか…。杏のやつ、怒ってなきゃいいけど…怒ってるだろうなぁ) どれだけの時間が経ったのか分からないが、見上げた旅館の明かりからすると、まだ寝るには早いだろう。 一度頭から湯をかぶり、露天風呂を後にした。 「杏、居るか…?」 部屋に戻ってみたが、杏の姿は見えず、声を掛けても返事が無い。 テーブルには美味そうな料理があるが手をつけた跡もなく、奥には布団が敷かれているだけ。 …いや、違う。 2組敷かれているうちの一方が、小さな山になって盛り上がっている。 (子供か、杏は…まるでバレバレだぞ) 俺は平らな布団の上に腰をおろすと、小山に向かって語りかける。 「その…悪かったよ杏、誤解されても仕方ないよな、あんな事したらな…」 「……」 「あのさ、とりあえず飯にしようぜ。ほら、俺のデザートやるからさ」 「…一人で食べればいいじゃない」 「杏、お前と一緒に食事したいんだ。お前が食わないなら俺も食べない」 「…何よ、あたしに構わないでよ」 こりゃ思ったより結構深いな…方針転換するか。 「お前さ、俺のところに来てくれたよな、わざわざ垣根をすり抜けてまでさ。俺、すげえ嬉しかったんだぜ? そこまでする程に俺を好いてくれるなんてさ、俺は本当に恵まれてるんだと思う。 ただ…お前のことを心配しすぎてたんだな、俺。もっといい方法があっただろうに、別の奴が入ってきてパニクって、お前をあんな目に遭わせちまって…馬鹿な事をした」 「…別の奴?」 杏の声から刺々しさが取れる。 「お前、気付かなかったか? ほら、あの…しようとした時に他の客が入ってきただろ」 「知らないわよ。だって…」 もぞもぞと小山が動き、久しぶりに杏の顔を見ることが出来た。 「あんたに…その、あちこち触られて、周辺にまで気がまわるわけないじゃない…」 そういう事か…俺はてっきり、もっと他に方法があったのに、あんな事をされて怒ってるのかと思ったが…。お互いに勘違いして、それで…。 「ふーん…そっかそっか、へへぇ…」 「なんだよ、何か可笑しいか?」 「違うわよ。ちょっと、ね。朋也、ご飯食べよ」 「いきなりだな」 「女心は変わりやすいの。ほら、冷めないうちにさ。デザートくれるんでしょ?」 「そういう事はしっかり覚えてるんだな、お前…」 半ば呆れながらも、いつもの杏に戻ったのが一番のなによりだ。やっぱりこいつには、おとなしい雰囲気は似合わないよな。 「あ、そういえば」 2つ目のぜんざいに手をつけ始めた頃、杏が思い出したように話し掛けてきた。 「どうした、まだ食い足りないのか?」 「違うわよ。あたし髪を乾かすの忘れちゃって、濡れたまま布団にもぐってたのよ」 これは…もしかすると…。いや、ここは杏に言わせてみるか。 「…で?」 「だから〜、その、あの布団濡れちゃったから、寝るには大変よね?」 「頑張れば平気だろ」 「そうじゃなくって〜…」 とたんに言葉に詰まる杏。 「じゃあ、何だ?」 「…朋也と一緒の布団で寝ていい?」 いよおおおおおおおおおおっしゃあ!! 杏から見えないところでガッツポーズをする。でも、口調はあくまで冷静を装う。 「仕方ない奴だな…そんなに言うなら、別に構わないぞ」 「…すんごく顔がにやけてるんだけど」 バレバレだった。 「やっぱ取り消す」 「な、なんでよ! あたしが風邪ひいてもいいって言うの!?」 「いや、取り消すのは『寝ていい?』ってところ」 「…どういう事よ」 「布団は一緒でいい。でも寝かさない。風呂場の続きが終わってないからな」 俺も杏も、お互いに相手を求めている。すれ違いはあったけれど、それが埋められた今なら、もう迷わない。 「…今度は、途中でやめないでよ?」 そんな顔するな…今すぐに襲い掛かりたくなるじゃないか。 (…遅い。何してるんだ杏は) 夜の約束をした後『ちょっと髪乾かしてくる』と言って洗面台に篭もったきり、30分以上経っている。 覗こうと思ったが、内側から御丁寧にカギがかけられている上に、すりガラスになっていて中の様子がうかがえないので、諦めて部屋でこの後の事をぼんやりと考える。 「朋也、おまたせ」 「まったく、いくらなんでも待…」 待たせ過ぎだぞ、と言おうとしたところで言葉に詰まる。 寝巻きと呼ぶには失礼なほど、透き通るような淡いブルーに身を包み、胸元には紫色の光を放つアクセサリ。 一言で言うなら…綺麗。 今まで杏の事を可愛いと思った事はあったが…ちょっとおしゃれするだけで、見違えるくらい大人びた雰囲気を醸し出している。 「な、なんで急に黙るのよ……って朋也、なんなのその格好は」 「ん? いや、別に…おかしいか?」 試しに今着ている服の匂いを嗅いでみるが、特に刺激臭はしない。 「はぁ〜…こんなに張り切ったあたしがバカみたいじゃない」 わざとらしくため息をつく杏。 ああ…そうか、こいつがおしゃれしてるのに、俺は何をしてた…? 俺はまた、杏に過度の期待をかけさせておいて、それを裏切っちまったんだ。 「すまん、格好よりもおまえの事ばっかり考えてたせいで…」 「別にいいのよ。あんたがそういう性格だって事は知ってるし」 「はははっ、そうか…。じゃあ、俺が今何がしたいかも分かるか?」 「1.あたしにキス 2.あたしの胸を揉む 3.あたしの服を脱がせる…ってところかしら」 「お前、予知能力者と違うか」 「それだけあんたが単純って事」 「待て、彼女ならもうちょっとマシな言い方があるだろ」 「いいじゃない。こうやって気兼ねなく言える人なんて、他にいる?」 「まあな…お前がそういう性格だって事は付き合う前からわかってたしな」 ついでに…いや、やめておこう。 「…あははっ」 「何がおかしいんだよ」 「だって、お互いに相手の性格わかってるなんてさ、やっぱりあたし達、お似合いなのかなって」 「…そうだな。今こうやって二人で居るのも、気が合うからだろ」 「朋也」 「ん」 「いっぱい、愛してね」 その言葉が合図となって、杏を抱き寄せて唇を塞ぐ。 杏の薫りに包まれながら、そのしなやかな身体に気持ちを刻み込んでゆく。 そして…杏への愛しい思いの丈を、体内に注ぎ込む。 「ねぇ、朋也…」 ぴったりと寄り添うように寝ていた杏が声を掛ける。 「どうした」 「あたしの事、好きって言って」 「…そんな聞かなくてもわかる事を聞くのか?」 「むー。じゃあ…あたしの事、どれくらい好き?」 「そう来たか…」 少し考えた後、杏の顔をそっと包み込んで俺は答えた。 「お前が俺の事を好きなくらい、だな」 「ちょっと、ずるいわよそれ…んっ」 そして訪れる、わずかな無言の時間。 「それから、お前と家庭を築いていきたいぐらい好きだ」 「…ばかっ、最初からそう言ってよねっ」 涙目の杏をなだめ、そっと今夜最後のキスをした。 「おやすみ、杏…」 「ふぅ、やっと地元に着いたな」 「そうね、何だかあっという間だった気がする」 それは俺も同感だった。夢と思い違いそうになる程に凝縮した時間で…でも、腕に掛かる温かな重みが、現実だと教えてくれる。 「朋也、暖かくなったらさ、またどっか行こ」 「その時になったらな」 「うわ、嘘でもここは『まかせとけ』って約束する場面でしょ」 それはドラマの観過ぎだ。 「お前に嘘なんてつきたくないっての…しょうがねぇな、じゃあ卒業後だ。その頃にまた考えよう」 「…うんっ」 「よし、じゃあここで解散だな。また休み明けにな」 「そうね。ズル休みなんかするんじゃないわよ?」 杏…お前って奴は…。 「…おい、解散だぞ」 「分かってるわよ…」 どうして…。 「もしかしてコバンザメの仲間か?」 「そ、そんなわけないでしょ!」 最後の最後まで、俺の側を離れようとしないんだよ…。 「…朋也」 「な、何だ。あらたまって」 「この後、寮に行くんでしょ?」 「ああ。一応な」 春原には部屋を使わせてもらってる手前、俺たちで見繕った土産を渡すために、これから寮に行くことになっていた。 …まあ、代金は春原持ちだし。 「あたしも一緒に行く」 ガチャ。 「ほらな」 春原は実家に帰っていると美佐枝さんは話していたが、俺は確信していた。春原がわざわざ鍵をかけるはずが無いと。そして、その予想は当たった。 「ホントだ…無用心ね、これじゃ盗んでくれって言ってるようなもんね」 「まあ、盗むほどのものなんて置いてないけどな」 「あはは、それもそっか」 いつもの他愛も無い会話が流れる。やっぱり行き慣れた、いつもの場所だからだろうか。 「そうだ朋也、お茶飲む? あたし淹れてくるから」 「…いや、俺も一緒に淹れるよ」 ずずず…とお茶をすする音が部屋に響き渡る。ゆったりと流れる穏やかな時間。 しかし、若いカップルがコタツを囲んでお茶というのも良く考えるとかなりシュールな光景だ。お前らもう少し何とかならんのか、と自分にツッコミたくなる。 「何だかさ…俺らすんげえくつろいでるよな」 「そう? あたしはこんな雰囲気もいいと思うけど?」 こんな雰囲気、か。 なんと表現すれば良いんだろう。落ち着くというか、心地よいというか…。適当な言葉が思い当たらない。 でも、これだけは分かる。 杏との旅行で、俺達の関係が大きく変わった、ということ。 見えなかった、というより見せなかった部分。お互いに無意識のうちに遠慮していたところが、少しずつ薄れてゆく。 「確かに、悪くないな」 「でしょ。それに………」 そこまで言いかけて、急に言葉に詰まる杏を黙って見守る。頭の中で整理でもしているんだろうから。 「…それに、こうやって一緒にいるのが当たり前な気がしてね」 ああ…そうか、この心地良さは、杏と居る事が特別じゃなくて、当たり前になってきているからなんだ。 「当たり前…か。きっと俺もそうなるな」 「あたしはもうなってるんだから。早く追いついてよね」 「ああ。努力するよ」 この時だったかもしれない。本当に、杏の彼氏となれたのは。 こいつと、一緒に歩んでいこうと、決意できたのは。 ●はい、そういうわけで、今回のエロスは予想屋さんから頂いた杏たん小旅行編をお送りいたしました〜。 ヤッちゃう事を前提としたSSですから、微エロ部分に特に気合を入れられてますねぇ…(*´д`*) もうひとり、前回の『winter again』を送って下さったworldさんのSSもありますが、 今回は残念ながら落選してしまいましたw お二人ともご応募ありがとうございました〜。 ●というか、サブキャラでしかないよっちこと吉岡チエちゃんの人気が意外にも高い事を ネット徘徊してて気付く。きっと胸をわざと押し付けられるイベントで萌え狂った野郎様方が沢山いたんでしょうなぁ…。 どうでもいいけど、「〜ッス!」と言う女の子を見ると「ぴたテン」の美紗さんを思い出す。 |