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〜僕の彼女はウェイトレス〜
「岡崎、今日の事務処理は俺が片付けておくから、お前はもう上がってもいいぞ」 目の前の幾重にも重なった書類をトントンと机の表面で整えながら芳野さんは言った。 「え? いいんですか? …いや、やっぱ芳野さんは先輩ですから、そういう事は俺にやらせて下さい。 実際、今日の外回りの仕事は俺、あんまり役に立って無かったですし」 「いや、お前にはいつも遅くまで残業させているからな。たまには早く帰ってやれ。 確か今日はお前のところの娘さんの誕生日だろ?」 そう。今日は最愛の娘、汐の一歳になる誕生日。 渚があんなに苦しんでまで生んだ俺たちの幸せの結晶。 その誕生日のプレゼントを仕事終わりに渚と一緒に観て回る約束だった。 「それにしても、芳野さん、良く知ってましたね、汐の誕生日。 他人の娘の誕生日までも知っている人なんてそうは居ないですよ」 「はは、俺も子宝が待ち遠しいから、他人の出産が強く印象に残ってるのかもな」 そういって芳野さんは弟や妹の誕生を待つ少年のように笑う。 「芳野さんも…公子さんも早く元気な赤ちゃんが生まれてくると良いですね」 俺たちは一年前、汐を授かったが、芳野さんの奥さんの公子さんはつい先週身ごもったばかりだという。 年やこの仕事では芳野さんのほうが先輩だが、家族に関しては俺のほうが先輩だというわけだ。 そんな事を思っていると、俺の口から自然と笑みがこぼれた。 「それじゃあ、芳野さん、お言葉に甘えさせて頂きます。公子さんが出産された時には 両手で抱えきれないほどの紙おむつをお祝いさせていただきますので」 ジョーク交じりの別れの挨拶に吉野さんは苦笑しながら、「渚さんを大切にな」と励ましてくれた。 渚の働いているレストランまで自転車で漕ぎ着ける。 時刻は5時を丁度過ぎたあたり。あと30分足らずで渚も仕事から上がる時間になる。 外で待っているのも何だから、中でコーヒー一杯でも飲んで待つとしようか。 …渚のウェイトレス姿も久しぶりにみたくなったし…。 はっきり言って、ここのウェイトレスの制服はエロ可愛いと思う。 必要以上に胸元が強調されるデザインにここを訪れる男性客は増加中だそうだ。 もちろん、男性だけでなく女性からも可愛いデザインとして一目置かれているので アルバイトを申し込んだりする女性も多いらしい。 初めて渚がここで働いている姿を拝見した時、その可愛さに俺は心奪われたのだと思う。 その姿を観てから、俺は一層渚の事を好きになっていた。 「あ、すみませんー、こちらの席へどうぞー」 カウンターで少し物思いにふけていた俺を、慌ててやってきたウェイトレスが孫際の席へと案内する。 その際に渚の姿を確認しようと、厨房の方に目をやるとその通路の途中でちょっとした人だかりが出来ていた。 他の従業員の態度も慌しいように感じられる。 「あ、えっと、岡崎さんですよね? 渚さんの旦那さんの」 不意に名前を呼ばれて俺はウェイトレスの方を見た。良く観てみると、彼女は渚の友達の仁科だった。 「あ、ああ、仁科さんか。何か慌しいようだけど、何かあったのか?」 幸い時間帯はまだ夕食には少し早い時刻。客はまばらのようだった。 奥のテーブルに男性客が3人、談笑しているのが目に入った。 その内の一人がこちらの視線に気付き、ニヤニヤと笑みを浮かべたのが少し癇に障った。 「え、はい…その、渚さんが大変な事になってしまいまして…」 「渚が!? 何があったんだ!?」 俺はさっきの人だかりに目を遣る。まさか、渚の病気がまた再発して倒れたっていうんじゃ…! 「どいてくれ!」 「あっ、岡崎さんっ」 俺は仁科の横をすり抜け人だかりへと足を速める。 中心でひざを突いて倒れていたのは渚だった。 「ひっく…くすん…うええ…」 渚のすすり泣く声が聞こえる。 「渚っ!」 「朋也くん!?」 毎日聞いている声で名前を呼ばれ、渚がはっとこちらに顔を上げる。 その顔を見て、俺は愕然とした。 「ひっく、…朋也くん…ごめんなさい、ごめんなさい…」 渚は汚されていた。顔にどろりとした白濁液、そして床にはリノリウムの床に黄色く佇む液体。 渚は泣きながら俺の名前を呼び、謝るだけだった。 「渚、お前…!」 ふと、先ほどこちらを見て薄汚い笑みを浮かべていた三人組の男の事を思い出した。 「そうか、あいつらがやったんだな…! 俺の渚を汚しやがって…! 絶対にゆるさねぇ! ブッ殺してやるっ!」 生まれて初めてこの胸に抱いた殺意。俺は先ほどの三人組を見据えると、 踵を返してヤツラの居るテーブルへと向かった。 「えっ!? ちょっと岡崎さん!?」 「と、朋也くんっ?」 渚と仁科に呼び止められる。だが、そんな事で俺の復讐心は揺らぐ事は無い。 ヤツらを殴りつけるまで後数歩。その時- 「あー、岡崎さん、大丈夫? あとは私達が片付けておくから、 あなたは他のお客さんにご注文を運んであげて下さいな」 俺のどす黒く燃える怒りの炎を吹き飛ばすような間の抜けた声。 はっと我に返ると、この店の店長が箒と雑巾を持って渚のところまで来ていた。 「…はい?」 狐につままれたような感触。渚は店長にすみません、すみません、と何度もお辞儀をしながら 厨房のほうへと消えていった。 「えっと、これはどういう事だ?」 唖然としていた俺は仁科に問いかける。 「んー、岡崎さん、何か勘違いをされてませんでしたか?」 俺もそう思う。 「渚ちゃん、つまづいてお客様の注文をひっくり返してしまって。幸い怪我や制服が汚れちゃう事は無かったけど、 渚ちゃんの叫び声があまりにも真に迫っていたからみんな驚いちゃって…」 「…………………」 怒りの後の静寂。俺はいまいち今の現状を掴みきれないでいた。 「朋也くんに恥ずかしいところを見せちゃいましたっ」 顔を紅潮させて渚がカウンターから出てくる。先ほど顔に付いていた液体は綺麗に拭き取られていた。 「えーと、渚、お前何やってたんだ?」 「お仕事で失敗しちゃいましたっ。ようやく慣れてきたのにこのままじゃアルバイト失格ですっ」 「えーと、さっきお前の顔に付いてた白い液体は?」 「ヨーグルトです。健康食品ですよ。アイスクリームに載せて食べるメニューが美味しいんです」 「じゃあ、床を濡らしていた黄色い液体は?」 「お客様からご注文いただいたレモンティーです。レモンを多めに、とのご注文だったので ちょっと黄色くなりすぎちゃったみたいですね」 「つーか、さっきなんであんなに泣いてたんだ?」 「実はお皿を一枚割っちゃって…バイト代から引かれちゃいます…。 せっかく朋也くんが頑張っているのに足を引っ張って申し訳ないですっ」 ぺこぺこと頭を下げて謝る。 へぇ…そうだったんだ。俺はさっきの三人組のほうへ目をやる。 そのうちの一人とまた目があった。今度は申し訳ない気持ちで、お互い目を伏せてしまった。 ************************************************ 「コーヒーお持ちしましたー」 渚が俺の座っているテーブルにコーヒーを持ってくる。 先ほど抱いた激しい怒りの感情が嘘みたいだった。 「さっきはどうしたんですか? あんなに血相を変えて…」 聞かないでくれ。思い出すと後悔と羞恥の念で穴に入りたくなる。 「でも良く分からなかったけど嬉しかったです。えへへ」 「何がだよ」 もうその話はやめてくれ。そう思いながら運ばれてきたコーヒーを啜る。 「さっき、『俺の渚』って言ってくれましたっ。みんなの前で恥ずかしかったけど、 嬉しかったです。わたしは朋也くんだけのものですっ」 ブーッ! 思わず口に含んだコーヒーを吐き出しそうになる。 渚の方を観るとみるみるうちに顔が赤くなっていった。 そんな渚を見て、俺も気恥ずかしくなる。 ああ、岡崎朋也、一生の不覚なり…。やけになってコーヒーを一気に喉に流しこんだ。 渚の仕事が終わり、俺はレストランの裏口で彼女を待つ。 空はもう日が沈もうと橙色に染まっていた。 「お待たせしましたっ。さあ、しおちゃんのお誕生日プレゼントを買いにいきましょう」 そう言って渚は俺の腕に自分の腕を絡ませてくる。 渚にしては大胆な行動に俺はちょっと面食らってしまった。えへへ、と笑い、渚は俺の顔を見上げる。 「朋也くん、大好きですっ。これからもずっとわたし達と一緒に居て下さいね」 そういって渚は俺の頬に唇を触れさせた。幸せの絶頂、といった渚の笑顔がそこにある。 これから汐の誕生日が来るたびに今日の事を思い出してしまうのか…。 そう懸念した反面、渚のさっきの笑顔も思い浮かび、プラスマイナスゼロの気分になる。 いや、渚だけじゃない。これからは汐の笑顔も俺の心に深く刻んでいくのだから。 そういう意味では今日の汐の誕生日は俺にとって忘れられない一日になるのだった。 おしまい ●久しぶりのSSでしたが、何とか無事書き上げられました〜。いや、やっぱSSは疲れます。 絵のほうは夜の9時くらいに出来てたんですが、それからSS書いて二時間弱。 んー、やっぱSSのほうは投稿作品のみに留めようかなぁ。 ●ふー、今回も激しく健全な絵を描いてしまったぜ…( ̄ー+ ̄) あまりにも健全すぎて危うく文部省指定模範優秀絵画として学校の教科書に載るところだったYO!! あん? 上の絵の何処がエロいっていうのさ!!(°□°lll) あれがエロいっていうんなら、雪○乳業とか全商品にモザイク掛けて販売しないといけねえよ! 「エロっ」とかつい言葉に出ちゃったモニターの前のキミ! 今すぐ全国の酪農農家のおっちゃんに謝れーッ!!ΣG(+□+)(←お前がな(´Д`lll) ●ポニー渚初描き。やっぱ渚たんは可愛いと再認識。 つーか、こんな可愛い子持ちの主婦とかぶっちゃけありえない(爆) |
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