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〜水も滴る良いオンナ〜
ミーン、ミーン、ミーン…。
いつもは静かなこの並木道を蝉の鳴き声が埋め尽くす。

「あちぃ…」

岡崎朋也は木陰のベンチで暑をしのぎながら、呟いた。
今日は恋人の藤林 杏とデートの待ち合わせだった。

高校を卒業した後、杏は幼稚園教諭の免許状を取るために大学へ進み、
朋也はこの街の小さな電気工会社に就職した。
長い間疎遠になっていた父親とは別れ、今では近所のアパートを借りて一人暮らしをしている。
電気工は決して楽な仕事では無いけれど、仕事から帰ってくると、
杏がいつも夕食を作って待っていてくれた。そんな彼女に朋也は癒されていたのだった。

「にしても、遅いな、アイツ…」

時計に目をやると9時55分。待ち合わせの10時までにはまだ少しの余裕があった。
いつも一緒にいるような感覚があったから、少しでも彼女が居ない時間があると、
それが長く感じられる。杏の事が本当にいとおしいと想う自分に気付き、朋也は苦笑した。

ばっ!!

「!?」

突然目の前が真っ暗になる。瞼を通して伝わるひんやりとした手の感触。
手のひらで目を覆われてしまったようだ。

「だ〜れだ?」

背後から悪戯っぽい声。朋也はその声が誰のものであるかはもちろん分かっていた。

(まったくこいつは…)

軽くため息を付き、目を覆っていた手に自分の手を重ねる。

「お待たせしてしまってすみません、お姫様」

冗談交じりでそう答える。すると目を覆っていた手が離れた。

「あはは、お姫様だって。そうなると、あんたはあたしを護ってくれる騎士様ってカンジ?」

振り向くと薄紫の長い髪の女の子が、口に手を当ててクスクスと笑っていた。
杏だった。
「今日は何時からここに居たんだ?」

ベンチに座ったまま、朋也は尋ねた。杏は少し考えるような素振りをして、

「んー、9時20分ぐらいからかな…」

と答えた。朋也がここに来たのは40分程だった。となると、現在の時刻は57分。
15分以上も、朋也の周りに潜んで驚かす機会を狙って待っていたに違いない。

「お前、アホの子だろ」
「ひどぉい! 自分の彼女をアホ呼ばわり?」

杏が顔を真っ赤にして怒る。もちろん、本当に怒っているのではなく、
いつもの彼女の愛情表現みたいなものだ。
そんな杏を見て、朋也はいつもと違う雰囲気に気が付いた。

「あれ…お前髪型…」
後頭部で結んでいる白いリボンに目が行く。
いつも杏が左側の髪に付けているリボンと同じデザインのものだった。

「うん、夏だしね。ちょっとイメチェンしてみようと思ったんだけど…似合う…?」

そういって杏は後ろで結んだ自慢の長髪をかきあげた。髪の隙間から覗くうなじが妙に艶っぽい。
いつも料理を作ってくれる時は髪の毛が邪魔にならないように後ろで髪を纏めているのだが、
今日のようなデートの日にこんな髪型披露してくれるのは初めてだった。

「あ、ああ、似合っている、と思うぞ」

杏の新鮮な姿に戸惑いつつも、素直な意見を返しておく。

「へへぇ…」

まるで喉を撫でられる猫のような表情をして杏は照れ笑いを返してくれた。
その表情にドキッ、とする。

「そ、それよりも早く映画館に行こうぜ。のんびりしてたら上映時間を過ぎちまう」

動悸の高鳴りを悟られないようにあわてて話題を変える。時計を見てみると、
時刻は10時10分を回っていた。映画の上映時刻は10時30分開始。
本当に杏と過ごしている時間は些細な会話でも時の過ぎるのが早い。

「あっ、ちょっと待ってよ。喉渇いちゃったから水飲んでから行く。はい、これ持ってて」

朋也に鞄を預けて、杏は公園の水飲み場まで小走りで駆けていった。
後ろ姿のポニーテールがせわしなく揺れる。

(あいつの長い髪を見ると、いつもあの時の事を思い出すな…)

それは、朋也のはっきりしない態度から生まれた、杏の誰にも言えない横恋慕。
そして、自慢の長髪を切ってまで朋也に告白した彼女の覚悟。それも今となっては良い思い出だ。
今日は天気も良く、気温は高いが絶好のデート日和。
朋也は今日の彼女と作る楽しい風景を思い描き、空に馳せた。

「きゃあっ!」

と、突然、公園の中からか細い叫び声がした。杏だ。
「!?」
何が起こったのか。朋也は我を忘れたように公園の中へ駆け込んでいった。

「やーん、もう、何よこれ! びしょ濡れになっちゃったじゃない!」

水飲み場。そこに水浸しになった彼女がいた。

「何やってんだ、お前…」
「何って、見て分かんない? この水道、軽く捻っても水が全然出てこないから
強く捻ってみたら…欠陥品だわ、コレ! 公共物のクセに!」

そう悪態を付きながらも、キチンと水を飲むという目的は忘れない。
髪をかきあげ、丁度勢いの弱まった噴水に口を付ける。

「あ、朋也。あたしの鞄にハンカチが入っているから出してくれる?」

水を飲み終わったあと、こちらへ向き直る。
良くみると、濡れたシャツが肌に貼りつき、下着まで透けていた。
もちろん杏はその事に気付いていない。

「あ…コホン。分かった。それと…今日はお前、水色のストライプなんだな」

わざとらしく咳きを払い、気付かせるためにそれとなく言ってみる。

「…は? 何言ってんの、あんた? それよりハンカチ頂戴…って…〜〜!!」

朋也の視線に気付いた杏はみるみる内に顔を真っ赤にして胸を隠す。

「あ、あんたねぇ〜!!」
「待てっ! 今のは絶対俺は悪くないぞ!! いや、マジで!!」
「はやくハンカチ頂戴!!」

顔を真っ赤に膨らませ、杏は半ば強引にハンカチを朋也から奪い取った。

ミーン、ミーン、ミーン…蝉の鳴き声が相変わらずうるさい。
朋也と杏は木陰のベンチに佇んでいた。時計を見ると、時間はもう11時を過ぎていた。
見るはずだった映画はそろそろクライマックスへ突入した頃だろう。

「服、乾いたか?」
「んー、まだ。やっぱ体温だけじゃなかなか乾かないわねぇ」

そう言って杏は朋也の傍に身を寄せた。
「映画、もう始まっちゃってるけど、どうする? 少し遅らせて観にいく?」

朋也の顔を見つめて、杏が尋ねる。

「いや、今日はもうやめておこうか。良いものも見れたし…って痛ッ!!」

いきなり腕に痛みが走ったかと思い、見てみれば杏が朋也の腕を抓っていた。

「もうっ、ホントにスケベなんだからっ! まったく!」

頬を膨らませて朋也を睨みつける。だが、その表情もすぐに穏やかなものに変わる。

「ん、そうね。あたしも今日はこのままで居たい気分…」

そういって、杏は朋也の肩に自分の頭を乗せた。
風で杏のポニーテールが揺れる。朋也は杏の肩を掴み、抱き寄せる。
たまにはこういう日も良いんじゃないか、と杏と口付けを交わしながら思うのだった。


●はーい、やたら長い文章&御目汚しスミマセンでした〜w
絵のほうは夕方くらいに出来てたんですけど、文章のほうに手間どっちゃいまして…。
やっぱ普段SS書かないから、イザとなってやってみると時間が掛かりますなぁ…。

●というわけで、この長い文章を読んで下さった方、ありがとうございました!
一応、わたしはSS作家ではなくCG作家ですので、
何かお気に障る表現や至らないところもありましょうが、
海より広い心で許してやって下さいw

つーか、そこ! サービス絵ばっかかっさらっていって、
肝心のSS読みとばしてんじゃねーよ!!(+□+)
デザートだけ食べて、ご飯は残すなんてお行儀の悪い事、お母さんは許しませんよッ!!(`ε´)

●どうでも良いんですけど、どこのサイト様の絵を観ても、杏ちゃんはストライプ着用ですな…(≡▽≡)
きっと、わたしも知らないうちに大いなる意思からの電波を傍受したに違いない(笑)

●とりあえず、文章の推敲はあまりしてないんで、明日こっそりと修正しているかも知れません(爆)

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