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注意:この話は、椋シナリオ終了後の話です。 わずかながらにネタバレがありますので、ご注意ください。
「朋也くん、おはようございます。」
椋と付き合ってから2週間が過ぎた。
ゲームセンターでのキスのせいで、俺達の関係は学校中に知れ渡っていた。
椋はもう既に覚悟を決めたのか、学校でも変わらず話し掛けてくる。
「あぁ、おはよう……どうした、その手。 切ったのか?」
見ると、手にはいくつかの絆創膏が貼ってある。
「え、あ、そ、その……料理の……練習を……。」
成る程。
納得し、そのまま椋の頭に手を置く。
「ふぇ!?」
「じゃあ俺が採点役だな。 前回食った限り、もう最初のようなこともないしな。 彼女の料理が上手くなる様をじっくり見てやるよ。」
「あ、は、はいっ!」
真っ赤な顔でうなずく。
……ここ最近特にそうだが、俺の中で、椋がとても可愛く感じる。
いや、実際可愛いと思うが、今まではそれを客観的に見てただけ。
だが今は違う。
俺自身が、椋と彼氏彼女の関係だと強く意識してしまった今では、なんというか……。
簡単に言うと、俺は椋にまいっていた。
やることなすこと全てが可愛いのだ。
こんなことになるとは思ってなかったんだけどなぁ……。
「? 朋也くん、どうしたんですか?」
「ん……いや、なんでもない。」
そう言って、頭に乗せたままの手で撫でる。
「朋也くん……」
「……なんでもいいけど、教室のど真ん中でそんなことしてたら、見せ付けてるようにしか見えないわよ。」
「「えっ?」」
2人の声が重なる。
視線の先には杏。
そして……辺りには野次馬根性丸出しの連中。
「わ、わわ……」
「ぐぁ……ゲーセンに引き続き、やっちまったか……。」
どうやら俺は、本気で椋しか見えてないらしい。
と、そこに春原が声をかけてくる。
「岡崎……うらやましいよ。 僕にも彼女見つけてきてくれよ。」
「お前の彼女? ……ここには豚小屋はなかったよな。」
「僕の守備範囲、物凄く広いっすね!!」
俺の言葉に杏も続く。
「でも街外れに昆虫館があったわよね。」
「あぁ、そうだな。 春原、出会いの場所があってよかったな。」
「僕は虫と同レベルなんですかねぇ!!」
「「……何を今更。」」
「あんたら無茶苦茶ひどいっす!!」
「あはは……ま、まぁ、春原くんも、きっといい人が見つかりますよ。」
「ありがとう椋ちゃん……僕をわかってくれるのは君だけだ……。」
「椋は俺のだ、やらんぞ。」
「ラブラブになったわねぇ……。」
「と、朋也くん……。」
キ〜ンコ〜ン……
「あ、やばっ!」
チャイムが鳴り、杏が教室に戻っていく。
「昼休みに屋上な。」
「あ、はいっ。」
こんな、幸せな日常……。
CLANNAD 藤林椋シナリオアフターストーリー
A long long slope
「朋也くん、どうぞ。」
「ん、悪いな。」
昼休み、椋から弁当を受け取る。
ちなみになぜ屋上かというと、人がいないからだ。
というより、中庭は人が多すぎる。
あんな場所で飯を食ってたら、嫌でも目に付く。
ましてや不良の俺とクラス委員長の椋では話題性もバッチリ、余計に目立つ。
「今日はお姉ちゃんに聞いて、とんかつを作ってみました。」
「お、あれか。 あれは確かに上手かったな。 最近は椋の料理も楽しみだしな。 じゃ、いただきます。」
ひょい ぱく
「ぁ……どう、ですか……?」
もぐもぐ……
ふむ。
かりっと仕上がっているが、揚がりすぎてるわけでもない。
深みのあるうまみ……杏ほどではないが、まずまずの味だ。
ごくん
「えっと……朋也、くん……?」
「うまい。 ……すげぇよ。 まさかたった2週間でここまでになるとは思わなかった。」
すると……
「ほ……本当ですかっ!? さっき占ってみたら散々な結果で、かなり不安だったんですけど……」
(いや、それは喜ばしいことじゃないか?)
そう思っても本人には言えない。
とりあえず……
「あぁ、マジで。 これならいつでも嫁になれるな。」
ぼんっ
途端、顔が真っ赤になる。
「〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
「りょ、椋!? 落ち着け!」
「わ、私が、お嫁に……朋也くんの……」
慌てる椋を見て、素直に可愛いと思ってしまう。
とりあえず……
「落ち着け、椋。」
「ふぇ!? ぁ……」
出来るだけ優しく声をかけ、正面から抱きしめる。
頭を撫でながら、もう片方の手で背中をぽんぽん、と、軽く叩く。
ゆっくりと深呼吸をしているのがわかる。
やがて……
「……落ち着いたか?」
「ぁ……は、はい。 すみませんでした、慌ててしまって……。」
落ち着いたのか、声は普段どおりだ。
が……
ぎゅっ
「ん?」
「あ、あの……もう少しだけ……このまま、でも、いいですか……?」
今までの椋からは考えもつかないような、大胆発言。
が、俺は知っている。
こいつはかなり大胆で、かなり甘えん坊だ。
だから、俺は……
「あぁ。 もう少しなんて言わないで、休み時間が終わるまでこうしてていいぞ。」
「あ、は、は、はいっ!」
ぎゅっ
顔を赤くして、それを見られまいとしてか、俺の胸に顔を押し付けるようにしがみつく。
しかしこれはまぁ、なんと言うか……
「やわらかいな……」
「えっ?」
以前、杏のを腕に押し付けられたことがあるが、あの時以上だ。
あいつの、「意外とある」、「谷間も余裕」発言もあながち嘘じゃないんじゃないだろうか。
「朋也くん、何か?」
「え? あ、い、いや、別に……」
本人に言えるわけ無い。
「お前、胸大きいな。」なんて。
「朋也くん……顔、赤いですよ?」
「い、いや……」
しかし、流石に女の子だ。
鋭いというかなんと言うか。
これ以上黙っていると、蛇の生殺しの如く押し付けられる。
……俺は覚悟を決めた。
「ぅ……悪い。」
「?」
「……その……胸が、押し付けられるのが、気になって……」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
文字通り、顔から火が出たかと思うほどの赤さ。
前に口元についた米粒を食べたとき以上だ。
「は、はぅぅぅ〜〜〜〜〜!!」
「椋、落ち着け!」
さっきと同じことを言ってみるが全然ダメ。
俺に抱きつかれているので逃げることも出来ず、じたばたするばかりだ。
しかし、このままではやがて振り払われてしまうだろう。
……仕方ない。
「椋!」
ぐいっ
「!?」
抱えてた頭を引き寄せ、そのままキス。
強引に押し付けたままでいると、やがて椋はゆっくりと力を抜き……
ぎゅ
再びしがみついてくる。
それを確認すると、こっちもゆっくりと力を抜き、唇を離す。
「……落ち着け、な?」
「ぷぁ……はぁ、はぁ……はい……。」
落ち着いたのを見て、一息。
椋も落ち着いたようで、俺から離れて一息。
「その……びっくり、しました……。」
「悪いな……俺も男だからな。」
「い、いえ……その、意識してもらえるのは……嬉しい、です……。」
真っ赤になりながらも、こんな爆弾発言。
思わず理性にひびが入る。
「ぅ……悪い、嬉しいけど、あまりそういう風に言われると……」
「はい?」
椋はわかっていないらしい。
前から思っていたが、かなりの天然だ。
「いや……って、時間! とりあえず飯だ!」
「えっ……!! は、はいっ!」
残り時間がわずかなのを見て、大慌てで弁当を食べる。
弁当はうまかったが、出来ればゆっくり食いたかったな……。
放課後。
相変わらず椋の占いは人気だ。
俺はそれを窓際に腰掛けて見ているのだが……
「ねぇ、岡崎くんは藤林さんのどこが好き?」
「は?」
そのうちの1人が、こんなことを言い出した。
思わず間抜けな声が出る。
「気になるなぁ。 確かに可愛いけど、岡崎くん、外見だけで選ばないもんね。 回りに可愛い子多いみたいだし。」
「可愛い子が多い?」
「うん。 藤林さんのお姉さんとか、あと、中庭でよくパン食べてる女の子とか。」
「坂上さんだっけ、あの人も知り合いよね。 一緒にいるのをたまに見かけるけど。」
「あいつらか……杏はともかく、他の奴とはここしばらく会ってないぞ。 すれ違って声をかけるとか、そんな程度だ。」
事実を告げてやる。
古河も智代も知り合いだが、それほど深い付き合いでもない。
「じゃあ、やっぱり椋ちゃん一筋なんだ。 よかったね〜。」
「〜〜〜〜〜〜っ!!」
お決まりパターンというか、やはり真っ赤になる。
おろおろしている椋には、やっぱりこれがいい。
ぽん なでなで
「お前ら、あんまりいじめるなよな。」
「ぁ……朋也、くん……。」
みんなはというと……こっちを見てきょとんとしている。
「ん?」
「岡崎くん……本当に椋ちゃんが好きなんだ。」
「藤林さん、好かれてるね〜。」
その言葉に返す言葉はもう決まっている。
迷いも無く口に出した。
「好きだから一緒にいるに決まってるだろ。 ……占いが終わったんなら、帰るぞ、椋。」
「え……あ、はい、そ、それでは、また……」
唖然とするみんなをよそに、俺達は教室を飛び出した。
「あ、あの、朋也くん、その……」
「ん?」
学校を出て……椋はかなり真っ赤になっていた。
理由が浮かばない。
「朋也くん……初めて……好き、って、言ってくれました……。」
それを聞いた途端、頭を思い切りハンマーで殴られたような衝撃を受ける。
この2週間の間で、俺はすっかり椋にまいっていたって言うのに……。
椋は、最初の最初に、俺に好きって伝えてくれたのに……。
「あ……あぁ。 ……なぁ、最初俺、友達同士より恋人同士のほうが、お互いがよくわかるって言ったよな。」
「は、はい。」
「正直……これまでとは思ってなかった。 謝る。」
「え、え?」
椋が慌てだしたのを見て、俺は言葉を選び間違えたかと後悔する。
ここで言葉を止めたままでは、椋はきっと勘違いする。
だから、続けて口を開く。
「まさか……これほどお前にまいるとは思ってなかった。」
「えっ……?」
「最初は恋人同士とはいえ、デートの準備が面倒だとか、そんなのばかりだった。 でも、あの日……初めてキスした日。 そしてその次の日、名前の呼び方を変えた日から、俺の意識が変わった。」
そう、それまでの時間は全てあの日のための布石、といわんばかりに。
あの日から、俺は椋しか見えなくなっていた。
「あれから……本当に、お前しか見えないんだ。 何をやってる椋も可愛く感じる。 どうやら俺も……本気で、椋のこと、好きになったみたいだ。」
「朋也……くん……。」
そして俺達は……まるで、そうするのが当たり前だというように、唇を寄せる。
「椋……好きだ。」
「朋也くん……好きです……。」
同時に言い出し、一瞬目を合わせ……俺達は笑い出した。
素で話をしてみると息も合う。
なんだ、結局気付いてなかったのは俺だけか。
こんなにも……暖かい気持ちになれるなんて、想像も出来なかった。
「お前は俺の、最高の彼女だよ。」
「〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
再び真っ赤になる椋をなだめながら、ふと思う。
(古河じゃないけどな……1人じゃ、とても上りきれそうに無かったな。)
校舎へ向かう坂道。
回りが変わってしまう中、自分だけは変わらない。
置いていかれた者がこの坂を登るのは、とても辛い。
でも……
「ほら、行くぞ。 今日も星占いやってくんだろ?」
「あ、はい。 ……今日はいい結果だといいですね、朋也くん。」
手を繋いで……。
俺達は上りつづけるだろう。
この、長い、長い、坂道を……。
どうも、執筆者のSoUです。
いや〜、初めてのショートストーリーですよ。
私そもそも深く考えてしまうタイプで、長編も好きなんですが収拾がつかないという欠点が。
逆に短編は詰め込みたいものが増えて、気が付けば長編作品へと姿を変えているという始末。
できる限りのことをやってみましたが、どうでしょうか。
感想、お待ちしています。
では〜っ♪
感想をいただければ嬉しいです。
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